CEOとVCバリューアップ担当者が紐解く TA成功の鍵を握る”経営者のコミットメント”―HR Growth Engine Conferenceセッションレポート
作成日:
更新日:
「人事が、事業成長のエンジンになる」をコンセプトに、組織全体を成長させるべく採用に取り組む人事担当者を支援するビズリーチ株式会社(以下、ビズリーチ)主催のイベントシリーズ「HR Growth Engine」。
2025年11月18日に行われた特別カンファレンス「HR Growth Engine Conference」では、より戦略レベルでの話に重点を置き、経営層・人事責任者にとって意思決定のヒントとなるテーマを中心に、以下の3セッションを行いました。
1:経営者が創る”カルチャー”が、エンジニア採用の鍵になる
2:CEOとVCバリューアップ担当者が紐解くTA成功の鍵を握る”経営者のコミットメント”
3:従業員数400%増加!採用と経営の二人三脚で実現したV字回復の裏側とは
本レポートでは、セッション2「CEOとVCバリューアップ担当者が紐解くTA成功の鍵を握る”経営者のコミットメント” 」の様子をお届けします。
TAモデル導入で攻めの採用を行い、経営と採用を連動させて、事業スピードを加速させる
セッション2では、株式会社ヘンリー(以下、ヘンリー)代表取締役の逆瀬川光人氏とグロービズ・キャピタル・パートナーズ株式会社(以下、GCP)Value-up Professional GCPXの水野由貴氏に登壇いただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチにて人事本部採用部部長を務める山本寛明が担当しました。
ー ヘンリー社は、採用と組織開発に力を入れてきたと伺っています。近年の状況について、教えていただけますか。
逆瀬川氏: 私たちヘンリーは、電子カルテとレセプトコンピュータという医療系基幹システムを日本で唯一クラウドで提供し、病院の業務改善を包括的に支援するスタートアップです。GCPから出資を受けた2022年6月時点では従業員数が20名ほどでしたが、2025年11月時点には130名まで組織を拡大させてきました。

ー 積極的な採用活動を進めていく中で、ヘンリー社では2025年8月にタレント獲得室という部署を新設されたそうですね。どういった意図や狙いがあったのか、部署新設の背景をお聞かせください。
水野氏: TA施策を担うタレント獲得室の新設は、私から逆瀬川さんに提案しました。TAとは、Talent Acquisitionの略で、直訳すると「才能の獲得」を意味します。つまり、求人への応募を待つのではなく、経営・事業戦略とも密接に連動させながら、狙いを定め、自ら“狩り”に行く攻めの採用体制ですね。
逆瀬川氏: 元々、ヘンリーでは医療基幹システムの構築の要となる高度人材を必要な時に迅速に採用できないという課題を抱えていました。スピーディに事業を推進するためには、事業計画から逆算して人を採用していく必要があります。しかし、ソフトウェアエンジニアをはじめ、求める人材を採用できず、事業のスケールが思うように進まなかったのです。
水野さんには当時、採用の相談を都度していたのですが、「CEOの時間の7割は採用に割くべき」と何度も念押しされていました。「経営戦略=採用戦略」であり、社長が狩りにいかなければ、優秀な人材は採れない。ほぼ毎回、会う度に口癖のように言われていましたね(笑)
そうして採用関連の相談を色々させてもらった中で、TAモデルを教わり、実際に導入してから4ヶ月が経ちました。おかげさまで、採用も拡大し、タレント獲得室も軌道に乗ってきました。
ー TAモデルに馴染みがない方も多いのではないかと思いますが、実際に導入した企業とそうでない企業とでは、どのような違いが生まれるのでしょうか。
水野氏: TAモデルは、AmazonやGoogleなど他の会社でもすでに導入実績があるものです。経営と採用が連動することにより、 TAモデル導入企業は、傾向として人事担当者のモチベーションが高く、組織が崩れたとしても立て直しが早いように見受けられます。逆に、TAモデルを導入しておらず、受け身の採用を続けている企業だと、組織のインフラを固めきれず、成長が停滞してしまいやすいように思います。もっと早くに支援できていたら、と思う組織もしばしばあるので、TAモデルの有無の差は大きいと感じています。
逆瀬川氏: ヘンリーが提供するサービスを販路開拓していくために、以前、営業部長の獲得に悩んでいたことがあり、水野さんに相談したことがあります。水野さんからも支援いただき、1年半かけて営業部長を採用できたのですが、その効果は劇的でした。営業部長の採用からわずか半年で、それまで抱えていた営業課題が明確に改善し、「売れる」組織へと変わっていったからです。「足りない才能を外部から採ってくることも経営の重要な仕事」と水野さんから言われましたが、本当にその通りだなと思います。
ビジョンからマイルストーンを設計し、数年先を見据えて候補者に長期視点でアプローチ
ー わずか3年で従業員数を6倍に増やし、急成長を遂げてきたヘンリー社ですが、タレント獲得室を立ち上げる前から逆瀬川様ご自身も率先して採用活動に取り組んでおられたそうですね。
逆瀬川氏: 代表取締役の私が先んじて動くことで、組織が勢いづきます。何よりビジョンから逆算した人材に声をかけ、未来を語るのは経営者でないと難しい部分があると感じています。実際、今でもスカウトメールはすべて自分で書き、毎朝送信しています。日頃から、自社に今後どんな人材が必要になるかを考えながら、タレントリストを作っていますし、自分の時間の50%は採用活動に割くように意識しています。
採用はタイミングが極めて重要です。転職者のタイミングと事業フェーズが噛み合わなければ、どれだけ優秀な人材でも入社後、思うように能力を発揮してもらえません。だからこそ、タレントリストを常に用意しておきながら、声掛けのタイミングを見定めて、中長期でアプローチを続けていく必要があると考えています。

逆瀬川氏: 実際、2024年に参画が決まったヘンリーのCFOも、4年がかりでアプローチを続けた結果、ようやく入社してもらえたのです。元々、大手投資銀行で公共セクターを担当していた経歴を持つ方で、当社の領域にも関心を持ってもらえるだろうという見込みはありました。
ただ、「ぜひヘンリーに入ってほしい」とは思ったものの、当社の事業フェーズと声掛けのタイミングがなかなか合わなかったので、最初は資金調達や事業課題の壁打ち相談をお願いするところから始めることにしました。
そうして、年単位で壁打ちを重ねていくうちに、経営会議のアシストまでしてもらえるようになったので、「もしかしたら参画してもらえるのでは」という期待感が少しずつ高まってきたところで、彼がキャリアチェンジをすることになったのです。もともとは別企業への転職や独立を考えていたそうですが、そのタイミングを逃さず声掛けできたことで、当社への参画が決まりました。4年間、諦めなくて本当によかったと思います。
経営や事業戦略に沿った採用を行っていくためには、ビジョンからの逆算が必要です。ヘンリーでは、ビジョン達成に向けて3年後・5年後のマイルストーンを設定し、そのマイルストーンの達成に向けて「将来必要となる人材」をリストアップするようにしています。
関係づくりにはどうしても時間がかかるので、たとえば「この段階なら、ファイナンススキルが必須になる」「このタイミングでビジネスの責任者が必要」といったように、ある程度ゆるやかな基準のもと、長期視点でニーズを想定しながら、早めにアプローチを開始するようにしています。もちろん事業フェーズが近づいてくれば、より厳密なジョブディスクリプションに落とし込めるので、そこからは本格的に採用の声掛け開始ですね。
水野氏: 逆瀬川さんの話にもありましたが、数年先を見据えた採用視点は大切だと私も思います。短期視点だけで採用活動をしていると、最適な人材を逃してしまう可能性があるからです。実際、支援先の方にはよく「採用に対する思考や捉え方をまず変えていきましょう」というお話をしています。
数年後に必要となる人材像をある程度、脳内に思い描けている経営者は多いのではないかと思います。「3年後にCFOがほしい」「プロダクトが大きくなった段階で、エンタープライズの部長を採用したい」等、ぼんやりしたイメージはあるはずなので、それを言語化した上で、タレントリストをまず作成してはどうか、というのは、私も支援先にもよく提案していることです。
リストアップした方々に対しては、 経営者自身が軽い接点をつくるところから始めていくとよいのではないかと思います。 SNSを通じて繋がりを持っておいて、そこからランチに誘ったり、何かしらの相談を持ちかけたり。必ずしも採用を目的としなくていいので、接触を増やしながら、関係性を深めていくのがお勧めです。

ー そういった長期視点での採用活動に対して、経営者の動きが鈍い場合もあるかと思います。このような場合、人事担当者からはどのような働きかけが有効でしょうか。
水野氏: タレントリストをあらかじめ人事側で作成し、経営者に接点を持ってみるように促すのはありだと思います。経営者からしてみても、リストがあればイメージが湧きやすいでしょうし、リストアップされた方々と直接話してみると、より気づきがあるはずです。
「この人が入ってくれれば、こんな事業成長が成し遂げられるのではないか」といったことが明確にイメージできるようになれば、経営戦略自体のアップデートにも繋がるはずです。そうすれば、採用シナリオもより明確になるので、人事担当者も動きやすくなるだろうと思います。
AIを活用しながら、SFAの仕組みを採用にも取り入れ、組織として再現性をもたせる
ー次は「組織拡大の過程で、どのように採用に再現性をもたせるべきか」というテーマについて、意見を伺っていければと思います。
逆瀬川氏: ヘンリーでは、営業の仕組みを採用に取り入れることで、再現性の担保を図っています。採用で大切なことは、営業と共通しているというのが私の考えです。要は、ファネルをいかに管理し、施策を実施し、改善していくか。
そこで、ヘンリーではタレント獲得室のトップを、BtoBマーケティングの部長職を経験し、法人営業でもトップクラスの成績を出してきた人材に任せました。室長主導のもと、法人営業のSFAと同様の仕組みを採用システムとして構築し、候補者へのアプローチをAIで効率化するようにしています。
具体的には、競合状況や候補者の関心ポイント、「Why you?(なぜあなたに入ってほしいのか)」といったことを独自のアプローチブックとしてまとめており、それをもとに候補者に刺さる文言を設計したり、定期的なアプローチを自動化したりしています。

水野氏: ヘンリーさんのお取り組みは、当社もぜひ参考にしたいと思いました。スタートアップ支援をする中で、採用に再現性の仕組みがある会社とそうでない会社では、やはり差が出てくると感じます。有名な企業であっても、実は採用の仕組みを確立できておらず、内部崩壊しかけているようなケースも過去には経験しました。
その事例では、1年かけてTAモデルを導入し、仕組みをつくるところを支援させてもらいました。介入前は、候補者マーケットからの反応も鈍く、エージェントからも敬遠されがちな状態になっていたのですが、TAモデルの導入により、外部評価も上がり、社内メンバーのモチベーションも高まるという好循環が生まれました。バリューアップの観点からも、採用の再現性は重要だと思います。
ー ここで会場からの質問もいくつか取り上げたいと思います。最初は、タレント獲得室のメンバー構成や専任・兼任をどうしているかが知りたいという質問です。
逆瀬川氏: ヘンリーでは、タレント獲得室を4名のチーム体制にしています。全員が専任です。
水野氏: 年間採用人数から逆算して考える必要はありますが、基本、TA室のトップは専任が望ましいと思います。ただ、組織の拡張期でなければ、兼任体制でも問題ありません。スタートアップは採用数が年ごとに変動するため、その時々に合わせて、柔軟に構成を変えているケースが多い印象です。
ー続いての質問ですが、採用したい人材と給与テーブルが合わない場合の対応についてですね。お二方の見解を教えていただけますか。
逆瀬川氏: 給与テーブルは、必要に応じて見直していこうと思っています。ただ、給与テーブルが合っても、会社が求めている役割とその人の期待値が合わないと、結局双方が不幸になってしまうので、そちらのすり合わせをより大切にしているかもしれません。
水野氏: 会社の成長と売上の伸びを鑑みて、1〜3年で投資分の回収見込みが立つなら、給与テーブルの見直しを検討してもよいのではないでしょうか。ただ、給与以上に「その会社に入りたい」と思ってもらえるか、会社に愛情を持ってもらえそうかという点の方が大切だと思います。

―最後に、参加者の方々に向けてお二人からメッセージをお願いします。
逆瀬川氏: たった1人、キーになる人材を採用できるかどうかだけでも、事業進捗が半年〜1年変わるという感覚があります。私たちも今後さらに採用に力を入れていきますので、皆さんと挑戦していけたらと思います。
水野氏: 皆さんと一緒に採用市場を変えていきたい。そして日本の人事の価値を、ぜひ一緒に世界基準にまで高めていきたいです。
全セッション終了後の懇親会には、ヘンリーのタレント獲得室のトップも参加し、熱心な意見交換がされていました。他セッションについても非常に盛り上がり、皆さん熱心に学んでおられました。