永久ベンチャー DeNAの多事業化を支える組織作り

人材獲得競争の激化、雇用や働き方の多様化、「ニューノーマル」の到来など、今、社会全体が大きな変革の時期を迎えています。しかし、どのような変化が起きようとも、企業にとって「自社にあった人材を採用したい」「社員に生き生きと働いてもらいたい」「会社の成長はそこで働く人の成長とともにある」といった思いは普遍的なものです。そしてその思いは、テクノロジーの進化とともに、日々実現に近づいてきています。2021年5月26日に開催したHR SUCCESS SUMMIT 2021は「DX時代の採用力」をテーマとし、採用・人事領域における成功事例を知る機会を提供。基調講演として株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役会長の南場 智子氏にご登壇いただき「多事業化を支える組織作り」についてお話しいただきました。

南場 智子氏

株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役会長

1986年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。1990年ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年にマッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを設立し、現在は代表取締役会長を務める。2015年より横浜DeNAベイスターズオーナー。著書に「不格好経営」。

企業が抱えていた課題の解決事例を公開

・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化

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世の中に多くのDelightを届けるための「多事業化」

DeNAグループはゲームの会社だと思われがちですが、実はゲーム以外にもさまざまな事業を展開しています。例えば、「Pococha(ポコチャ)」のようなライブコミュニケーションアプリや、「Anyca(エニカ)」というカーシェアリングサービス、日本交通と一緒に提供しているタクシー配車サービスの「GO(ゴー)」、そしてヘルスケア事業では遺伝子検査サービスの「MYCODE(マイコード)」など、最近はデータヘルスのサービスなどにも取り組んでいます。また、スポーツではB.LEAGUE所属の「川崎ブレイブサンダース」や、プロ野球球団の「横浜DeNAベイスターズ」を運営。そして、球団運営だけでなく、球場(株式会社横浜スタジアム)の運営や、その周辺の市庁舎街区を含めた都市開発にも他社とコンソーシアムを築き、2025年のまちびらきを目標に現在取り組んでいるところです。ここですべての事業をご紹介することはできませんが、「多事業化」といわれるように、さまざまな事業をやっています。

図に表すならば、多事業といわれる横軸には「エンタメ」と「社会課題解決」、縦軸には「リアル」と「バーチャル」があります。そのなかでさまざまな事業が展開されていますが、基本的に「言い出しっぺは現場」です。世の中に大きなDelightを提供でき、私たちがやるに足る面白味があり、そして、その事業をやりたくてたまらなくて目をキラキラさせている人が社内にいるということを条件に、会社として新しいことにどんどん挑戦しています。コングロマリット・ディスカウント(複合企業の企業価値が、事業ごとの価値の合計よりも小さい状態)という言葉がありますが、私たちはむしろ、これがDeNAのあり方だと思っています。ある事業で培ったノウハウや知見を、別の新しい事業でも生かすことで、シナジーを効かせていく。例えば、社会課題解決型の事業でも、少しエンタメの要素を入れてみるなど、エンタメも社会課題解決も両方の事業に取り組んでいる良さを生かして、世の中に大きなDelightを届けていきたい。それがDeNAという会社です。

ピラミッド型ではなく、「球の表面積」を意識した組織作り

DeNAもまだ道半ばではありますが、組織や人材についてはDeNA独自の考え方があるので、今回はその考え方をご紹介したいと思います。

DeNAでは「球の表面積」という考え方を大事にしています。会社というのは通常、ピラミッド型組織ですが、私たちがイメージしているのは球体型組織です。昨日入社したばかりの新入社員も、ベテランでスキルのある社員も、全員が同じように一つの「球の表面積」を担います。つまり、全員がDeNAを代表する気概と責任感を持つということです。もちろん、仕事はチームで行いますが、そのなかにも役割があり、自らが果たす役割においては会社を代表する、というイメージです。球体型組織の特徴は、見る角度によって無数の真正面があること。自分が責任を持つ領域では、誰かの陰に隠れることなく、真正面でDeNA全体を代表するという気概と責任を持って仕事をするという意味で「球の表面積」という言葉を大切にしています。

また、「ヒエラルキーで仕事をしない」ということもDeNAの特徴です。会社のなかで大切にしている言葉があります。1つ目は「誰が言ったかではなく、何を言ったか」ということ。例えば「これは社長が言ったから」とか、その人の持つオーソリティーに正しさの根拠を求めるという言動は、弊社では行いません。昨日入社したばかりの新卒社員であっても、正しいことを言ったらしっかりと耳を傾けようということが共通言語になっています。2つ目は、「思考の独立性」です。私もコンサルタント時代の経験で、会議室のなかで一番上位の役職者の意見が推し量られ、その人の意見に合わせることが日本の会社では多いことを実感しています。ですが、DeNAの社員であれば、そういった役職にとらわれることなく一人一人が思考の独立性をもって意見を持たなければならない、という意味で使われている言葉です。3つ目は「おもねり禁止」で、これもよく社内で使われている言葉です。そして、4つ目が一番大切にされているもので、「DeNA Quality」という5つの約束事のトップでもあるのですが、「コトに向かう」という言葉です。さまざまな言動にはその背景がありますが、私たちは、プロフェッショナルとしての言動はすべて、コトに向かっていなければいけないというルールで運営をしています。「その言動はコトに向かっているか?」ということをお互いにチェックし合い、常に自分自身にも問いかけることが共通言語になっています。

ここまで組織全体としてDeNAが大切にしていることについてお話ししてきましたが、社員一人一人に対して大切にしていることもあります。まず1つ目は「ストレッチアサイン」をすること。その社員が、本気で取り組んで七転八倒しながらできるかできないかという、成功確率フィフティー・フィフティーの仕事を常にアサインすること。これが理想です。もちろん、研修やトレーニングも大事ですが、「人は仕事で育つ」という考えから、基本的には「本番の打席」を大切にしています。「この目標を達成してください、目標の達成の仕方は任せます」と目標ごと託し、あとは各自の工夫を促すことで実際の仕事を通じて人を育てるという形式をとっています。簡単な仕事では人は育たないので、「ストレッチアサイン」をする必要があります。

2つ目に大切にしているのは「個性と夢中をリスペクト」することです。これはあくまで個性と夢中を「育む」のではなく、「リスペクトする」ということが重要ではないかと考えています。例えば、配属の決め方。会社の都合や事業上の必要性もありますが、弊社では「個人の希望」も大いに重視し、その人がやりたいことは何か、というコミュニケーションを頻繁に行っています。それに加え、本人がどのようなキャリアビジョンを持っていて、そのキャリアビジョンに到達するためにはこういう経験が必要ですね、という「成長のために必要な経験」に基づいたアサインメントを行っています。「個人の希望」「成長のために必要な経験」「事業上の必要性(=実力)」の3つの要素を加味したうえで、コミュニケーションを徹底し、アサインメントを決めています。

そのうえで、「シェイクハンズ制度」という制度も設けています。これは、どうしても今取り組んでいる仕事に夢中になれない、今の仕事にパッションを持てないという人は、社内で夢中になれる仕事をどんどん探してください、という趣旨の制度です。最近はZoomなどのオンライン環境での仕事が増えており大変ですが、事業部長は自分の部署だけでなく、他の部署へも出向いて自分たちの事業の素晴らしさやその事業に対するパッションを語ってもらうようにしています。そのなかで、自分もその事業に取り組みたいという人がいれば面接をし、両者のパッションが重なって握手をすると、その瞬間に異動が決まります。引き継ぎなどがありますので、異動まで数カ月かかる場合もありますが、異動すること自体は決定します。なので、事業部長や事業リーダーは本当に、自分の事業を社内でも熱く語り、一緒に取り組んでくれる仲間の社内ヘッドハントを頑張ります。まさに「Passion or Death」という感じです。

他にもさまざまな成長機会を設けていて、「クロスジョブ制度」という制度により社員はいつでも兼務申し出ることができますし、「独立起業支援プログラム」という制度により社員の起業を後押ししています。会社として柔軟性をもって、社員の個性と夢中をリスペクトしてアサインメントを考えていこう、という姿勢を大切にしています。

Delightの総和を最大化させる「DeNA ギャラクシー」

もう一つ、大事にしているのが「囲い込まない」という考え方です。DeNAとして公式に推奨するキャリアパスは、マネジメントキャリアとも呼ばれる「事業リーダー(経営者、執行役員、部長、グループリーダー、子会社幹部など)」や、各種の「スペシャリスト(AIエンジニア、ゲームクリエイターなど)」です。本当にスキルが高ければ、社長よりも高い給料をもらうこともあるくらい、スペシャリストを事業リーダーと同じく重視していて、これらが公式に後押しする社内でのキャリアパスとなりますが、3つ目のキャリアパスとして「独立起業・スピンアウト」というものがあります。実は、これはここ3~4年でのDeNAの大きな変化なのですが、私も創業者として心境が大きく変化した部分は、この部分です。

弊社が採用に力を入れていることは多くの方がご存じかもしれませんが、入社していただいた優秀な人材に会社を辞めてほしくない、という気持ちはもちろんあります。しかし、中長期の会社の成長を考えたときに、独立起業したい人に対しては会社として後押しをしようと、「デライト・ベンチャーズ」という100億円のファンドを作りました。デライト・ベンチャーズはDeNAのOB・OGではない外部のスタートアップ企業にも出資を行いますが、DeNAの社員で優秀、かつ起業したいという意欲の強い人に関しては、「そろそろ起業のタイミングではないか」と背中を押して起業をしてもらいます。これまでは個人的に親交があっても会社として起業家を応援するすべがなかったのですが、デライト・ベンチャーズから出資することを通して優秀な起業家たちと公式につながっていける。また、DeNAのOB・OGと同じように高いスキルと、コトに向かうマインドがあれば、OB・OGではない人とも、つながることができます。DeNAという1つの星ではなく、いろいろな企業と星座を作って大きな取り組みをしたい、そのなかでわれわれよりも大きく成功する会社が出ることも心から歓迎しよう、というのが「DeNAギャラクシー」の考え方です。この考え方によって、1社で取り組むよりも、より多くのDelightの提供ができるようになり、社会に提供するDelightの総和を最大化できるのではないかと思っています。

この考え方について、「本当に有益なのか?」「優秀な人材が辞めてしまって、大変ではないか?」と思われる方もなかにはいるかもしれません。しかし、企業という単位が事業のベースであり続けるのは、あとどれくらいでしょうか。1つの共通目的を掲げて、その目標を達成するために人材が集まり、目標を達成したらその果実を分け合って解散する。そうしたプロジェクト単位の事業が、今後は中心となるでしょう。そういった時代を見据えると、企業や組織の枠組みにこだわるのではなく、所属企業にかかわらず、つながることでバリューを生み出していくということに率先して取り組む価値があるのではないかと思います。企業という枠組みにとらわれずにつながることを始めて以来、毎日DeNAのOB・OGたちとオンライン会議をするようにしています。そうすると、そのなかの何割かは「そろそろ次のステップを考えている」や、「DeNAに戻りたい」と話します。起業して大成功していても、大失敗していてもいい。そういう経験を持った人がDeNAに加わることで、組織もハイブリッドになります。コトに向かうという共通の価値観のもと、多様性を実現した、強い組織になるのではないかと思っています。

日本企業が抱える課題は、「人材のハイブリッド」で解決

私は、日本の経済には大きな課題が2つあると考えています。1つは、大企業中心に人材が固定化されているということ。人材の流動性が圧倒的に不足しています。優秀な人材は多いのですが、その会社だけで通用するスキルを身に付けて、40年間その会社のなかで出世競争を勝ち抜いた人たちが集まっているのでは、改革やイノベーションが生まれにくいのではないかと思っています。日本企業の生産性の低さは繰り返し指摘されていますが、これは「人材のハイブリッド」が圧倒的に欠落しているからです。

もう1つ、日本の経済の課題はスタートアップ企業のエコシステムの脆弱さにあります。10年前と比べて、優秀な人材の起業も増え、リスクマネーも増えています。しかし、アメリカのベンチャー投資は18兆円(試算によっては14~15兆円)ともいわれる一方で、日本では、試算にもよりますが、2,000億~4,000億円とまだまだ脆弱です。エコシステムをしっかりと作っていかなければ、次世代のGAFAに相当するような企業が日本から生まれることはないでしょう。この現状を大きく変えていく必要があると思っています。そこで、DeNAの優秀な人材を、スタートアップ企業のエコシステムに投入していく。そこで成功した起業家、失敗した起業家が経営に参画することでDeNAが発展していけば、日本のさまざまな会社も後に続いてくれるのではないかと考えています。実際にDeNAから輩出した人材は大変優秀で、起業して大成功している人が多いです。こうした人たちとつながり、また、同じようなマインドを持ったDeNA以外の背景を持った人たちともつながることで、ハイブリッドな組織や新たな事業を作り、日本経済の課題解決に挑戦していきたいと思います。

※所属・肩書等はイベント当時のものです。

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