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企業によって活用の方法や考え方も様々な、人事データ活用。「シリーズ・人事データ活用最前線」では、実際にデータ活用を行っている企業の人事担当者へ、人事データ活用における重要なポイントや具体的な取り組みについて伺います。
今回の事例は、Visionalグループにおける人事データ活用について、人事本部タレントマネジメント室室長の小上馬麻衣さんに取材を行いました。前半では、Visionalグループにおける人事データ活用の姿勢や思想についてご紹介しました。後半では具体的に現在行っている施策に関して掘り下げます。
前編はこちら
「新しい可能性を、次々と。」可能性を生み出すための人事データ活用【ビジョナル株式会社】-前編-
小上馬麻衣
株式会社ビズリーチ
人事本部
タレントマネジメント室 室長
HRMOS WorkTech研究所 研究員
2008年、株式会社ワークスアプリケーションズに新卒で入社し、CEO直轄部門に配属後、採用、広報、育成などの部門責任者を担う。2018年、立教大学経営学部の講師に就任。2019年に株式会社ビズリーチに入社。2020年2月より人事本部タレントマネジメント室室長として、Visionalグループの人財開発、組織開発、ピープルアナリティクスを担う。2021年3月よりHRMOS WorkTech研究所の研究員を兼務。
・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化
組織への評価を知るためではなく、ギャップを知るための組織サーベイ
―「新しい可能性を、次々と。」生み出す組織となるために、組織に関するデータと従業員の属性データ、双方を活用するというお話がありましたが、具体的にどのようなことを行っているのかお伺いしたいです。
小上馬:ではまず、組織に関するデータに関してお話をしていきます。すでに行っているのが、組織診断です。弊社は1年に2回大きな組織改編があり、組織改編の1ヶ月後に、従業員へサーベイを実施しています。目的は、新しい組織がどのような状態であるかを把握するため。働きがい、成長、キャリア、信頼関係、衛生要因、組織戦略や業績達成への満足度や定性的な意見など、様々な項目のデータを収集します。
―サーベイは全従業員を対象に行うのですか?
小上馬:基本的にはそうです。セグメントの切り方としては、最小単位では、3人のチームから最大で全社1600人の組織まで。大小さまざまありますが、それぞれの組織ごとの結果をフィードバックしています。
―サーベイの結果で、組織に対する従業員からの評価が可視化されるのですね。
小上馬:そうです。ただし従業員からの評価が、それぞれの項目でよかった、悪かった、の結果自体は重要ではありません。着目すべきは、上長の認識とメンバーの認識が合っているかどうかです。組織はすべての人に対して、常に価値を感じてもらえる環境を提供できるわけではありません。その時々の課題や注力するポイントによって、状況は変わる。だからたとえ悪い結果が出たとしても「今期の方針だと、こういう結果が出るだろう」と上長が考えていたものと近い結果が出ればいいと思っています。逆に、ギャップがあれば改善すべき、という考え方です。
―たしかにそうですね。毎回働きがいも福利厚生も業績達成も、とすべての要素で全員が満足している状態を目指すことは難しいですね。
小上馬:ちなみに昨年からは、リモートワーク導入がメンバーの働きがいに対しどのように影響しているかという観点で組織診断の結果を気にする上長が多いです。
―世の中全体でも、リモートワークの影響については気になるところですよね。
小上馬:Visionalグループ内の結果だけお話しすると、リモートワークによって直属のマネージャーとメンバーのコミュニケーションは増えていることがわかりました。「リモートワークだからコミュニケーションが取りづらい」という意識が働くため、逆に積極的にオンライン上でやりとりが生まれているようです。一方で、Visionalグループ内の組織をまたぐコミュニケーションは減っていることがわかりました。マネージャー同士が情報交換を行ったり、ノウハウ共有をしたりすることは難しくなっています。
―ひとつの組織内ではコミュニケーション活性が行われていても、組織の垣根が高くなっている。意外な課題が発見できるんですね。
小上馬:そうやって課題が明らかになると、マネージャー同士の情報交換の場を全社として設けましょう、と対策が打てます。このように、組織サーベイを実施して課題がわかれば、必要に応じてすぐに手を打つ。このサイクルを回しつづけることこそが重要だと考えています。
誰でも、すぐに、同じデータを見ながら建設的な議論ができる状態をめざす
―現状の把握や課題の発見に人事データが大いに活用されているのですね。
小上馬:もちろん、現在を可視化することだけでなく、未来を可視化していくことにもチャレンジしています。
―未来の可視化、とは?
小上馬:「新しい可能性を、次々と。」を体現できる組織になっていくために必要なことは何かを、人事データを用いながらさらに具体化する作業です。私たちはVisionalとしてのビジョン実現に向けて「社員一人ひとりが能動的に学び、育つ」をキーワードとした人財育成が必要だと考えています。その中で、能動的に学び、育っている状態とはどういうことか、活躍する人材はどのような人か、あるいは、次の事業長になるのはどのような人かといったモデル人材の要素をデータ化して人物像をより明確にします。経験、資質、能力、などを可視化していくイメージです。可視化したモデルに基づいて、今の従業員たちの育成計画に活かしたいと思っています。
―そうすることで、目指すべき未来と現状の間をつないでいくために何をすべきかもわかっていくのですね。
小上馬:はい。さらに今後は、組織のすべての人が、誰でも、すぐに、同じデータを見られるようにしていきたい。従業員数、構成員のバランス、従業員それぞれの得意なことや経験・スキル、組織の状態など。整理したいことはたくさんあります。人事データを知るために、都度、人事に問い合わせをせずとも、組織をもっと良くしていきたいと考える従業員が、いつでも情報にアクセスできるようにしていきたいと思っています。
ー誰もが同じデータをすぐに確認できるのはいいですね。
小上馬:はい。以前は部分最適によって、さまざまなファイルやフォルダでばらばらに個別のデータが保管されていました。数値に基づいた組織設計や人材配置はおろか、正しいデータの一元管理もできていなかったのです。そうすると経営戦略や事業戦略を考える際、経営層が参考にできる情報が断片的になり、当然、適切な意志決定はできません。現在では多くの情報が正しく管理され、一元化できるようになりました。これからもより良くしていこうとしています。
―そうすると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
小上馬:みんなで同じ情報を見ながら建設的な議論ができるようになります。情報が誰かに偏ったり、情報の鮮度がばらばらだったり、といったことが起こりにくくなるでしょう。
働く一人ひとりに、「新しい可能性を、次々と。」提示できるように
―組織に関するデータについてお伺いしてきましたが、従業員のデータ活用に関してはいかがですか?
小上馬:組織が成長するには、個人の成長が不可欠です。一人ひとりにいきいきと能力を発揮してもらうためにデータ活用は重要です。異動履歴や研修履歴などすでにあるものだけではなく、今後チャレンジしたい業務やどんなことにやりがいを感じるのかなど、従業員のWILLや思いも活用できる状態になればいいなと思っています。
―具体的には、どのように活かされていくイメージでしょうか?
小上馬:わかりやすいところでいくと、データを基に挑戦の機会を提供し、やりがいを得やすい環境づくりがあげられます。新しいプロジェクトのメンバーを選定する人が、なんとなく顔のわかる身近な社員をアサインするのではなく、より適したスキルや経験を持った人に声をかけることができるかもしれないし、個人のやりたいこととプロジェクトが合致している人を見つけられるかもしれない。そういったことを通じて、働く個人にも「新しい可能性を、次々と。」提示できるようにしていきたいですね。
―個人にとってはチャンスが広がるし、組織としてもより強いチームづくりに活かせますね。
小上馬:そうなんです。目の前の仕事と、やりたい仕事が合致していないとき、多くの人は新たな機会を求めて転職を考えてしまいがちです。しかし、やりたい仕事に挑戦するチャンスは、社内にもあるかもしれない。それを、本人も周りも、発見できるのが、データを活用するメリットの1つです。
組織と個人がともによりよくなるために。現在と未来を可視化して最適な施策を実行する
―これまでのお話は、データ化、可視化の意義が非常によくわかるお話ばかりですね。
小上馬:若手の育成においては、データによって組織と個人を可視化することの重要性を特に感じます。キャリア採用の方であれば、前職での経験など個人のスキルを可視化する材料が多いのですが、若手の方に関してはそれがない中で、能力開発を行っていかねばなりません。 そうなったときに、上長と本人の認識にギャップが生まれやすくなります。
そのため、主に若手の方に実施している研修では、「能力診断」というものを独自開発して取り入れています。人事制度を軸に成果を出すために必要な能力を数値化する診断で、質問項目を埋めていくと、それぞれの能力に対する点数が出てきます。これを研修受講者と受講者の上長双方に受けてもらい、お互いに認識差分を見ることができます。
データを見ながら何がどのようにあっていて、どこにギャップがあるのかを面談することで、お互いに納得感を持って成長を目指すことができます。
ーそれは、本人と上司の双方がやることが大事であるということですね。
小上馬:そうです。双方が結果のデータを見ながら、認識をすり合わせることで、建設的な議論が生まれていくのではないでしょうか。
―かなり個人の働き方や育成に力を入れられているのだなという印象です。
小上馬:繰り返しになりますが、やはり個人がいきいきと働くことが、組織の成果につながる。それが「新しい可能性を、次々と。」という理念にもつながっていると考えているからですね。そのために、現状の組織や社員の属性など現状が可視化されていることは始まりとして重要で、かつ、どんな組織を目指すのか、どんな人財になって欲しいのかという未来の可視化も必要となります。現在と未来のギャップを解決するために、育成や異動、リテンションなどの施策を実施しています。
―データを活用し、数多くの施策が実施されていることがわかりました。
小上馬:目下動いているものと、これからやっていきたいことと、さまざまです。あとは、組織としてのカルチャー浸透・醸成も人事としては取り組んでいきたい課題ですね。ミッション・ビジョンの浸透や、社員同士のつながりなど、組織開発の定義を再検討しています。部活動やコミュニケーションを目的としたランチ会など、従来から行っていた施策が組織開発にどのような影響をもたらしているのかを分析し、より活用したり改善していきたいと思っています。また、オンライン上でコミュニケーションを生みだしていく手段も、今の時代ならではの新たな課題かもしれません。
まとめ
ビジョンや目指したい未来は、多くの企業が持っている。一方で、それをデータとしてさらに詳細にしていくことの重要性を今回は知ることができました。未来を明確に可視化する。そして組織の現状、個人の現状を可視化する。その間のギャップをどのような施策で埋めていくかに、人事データは大いに活用することができそうです。
※この記事は今後のHRMOSの開発予定について保証するものではございません。