新卒採用の「イマ 」 変わらない意義、進化する採用戦略-前編-

2020年10月9日(金)に第10回のHR SUCCESS Online「新卒採用の『イマ』 変わらない意義、進化する採用戦略」が開催されました。HR SUCCESS Onlineは、HR領域において先進的な取り組みをされている企業の経営者や人事担当者をゲストにお迎えし、「人材開発」・「組織開発」における課題解決に役立つ情報をお届けしています。今回は前編として、新卒採用に取り組む意義についてまとめたものをお送りします。

寺脇英雄氏

株式会社サイバーエージェント
採用戦略本部 新卒採用チーム ビジネスコース マネージャー

2013年サイバーエージェントに新卒で入社し、インターネット広告事業本部へ配属。大阪・名古屋で勤務し、2014年にマネージャーへ昇格。2016年動画広告専業代理店CyberBullへ営業マネージャーとして出向。大手ナショナルクライアント・スマートフォンアプリ事業者の営業を担当。2019年10月よりサイバーエージェント新卒採用戦略本部へ異動。

今村慎太郎

株式会社ビズリーチ
人事本部 人財採用部 部長

2012年、大手人材サービス企業へ入社。 2013年、ビズリーチへ転職。ダイレクトリクルーティングの啓発および導入・実践の支援に取り組み、全社表彰を複数回受賞。ビズリーチ事業にて営業部長を歴任した後、 2019年8月より人財採用本部へ異動し現職に至る。

茂野明彦

株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部 部長

大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。

新卒採用に取り組む意義とは

茂野:まずは、新卒採用に取り組む意義について伺いたいと思います。最近、日本でも中途採用、即戦力採用がかなり活発になってきているなかで、2社はかなり新卒採用に注力されていると思います。まずは、なぜ新卒採用に取り組まれているのかお聞かせください。

寺脇: 世の中のトレンドとしてメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へといった流れがあるなかで、新卒採用に取り組む意義は何かという問いが生まれるのは当然ですよね。必要なポジションが明確な場合、中途採用でそこに当てはまる方を探して採用した方が短期的にみれば早いということは理解しております。そこを理解したうえでも、弊社が新卒採用を重要視する姿勢は、今後も変わらないのではないかと思っています。

実際、全社員のうち4~5割を新卒社員が占めますが、広告やメディア、ゲームといった事業ドメインを問わず、いろいろな事業領域を彼らが牽引しています。創業以来ずっと新卒採用を行っている理由は、「企業は採用と育成、組織の活性化、適材適所を適切に行っていれば、人材が競争力になり成長しつづけることができる」ということを、代表の藤田含め経営陣がこれまでの経験から実感しているからです。

また、中途採用ではなく、なぜ新卒採用なのかという質問に別の観点で答えるならば、今の日本の採用市場はまだ大多数の企業が新卒採用をメインに採用活動を行っているという点も挙げられると思います。 

もちろん中途採用でも優秀な人材を採用できますが、採用の難度やコストを考えた際にまだまだ難しい部分もあります。特に弊社は、事業領域が多角化しているため、いろいろな職種の人材を採用したい、かつ多様な人材を採用したい、しかも一定以上のまとまった人数を採用する必要があります。そういった採用ニーズがある場合は、新卒採用の方が優秀な人材を数多く獲得できるチャンスが大きいように感じています。

茂野: 中途採用、新卒採用のどちらが良いかというよりも、企業の競争力の源泉が人であり、事業戦略の中心が新卒採用という状況だということですね。

寺脇: おっしゃる通りです。弊社では人材に対する考え方として「採用・育成・活性化・適材適所」を大事にしているのですが、なかでも一番大事にしていることは「採用」ですね。その中心になっているのが新卒採用です。

茂野: ありがとうございます。次は今村さんに伺います。ビズリーチは中途即戦力採用のサービスを事業の中心としているなかで、そのビズリーチが新卒採用に取り組む意義をどのように考えていますか。

今村: 現在、新卒採用と中途採用を一緒にみているなかで、個人的には新卒採用と中途採用の果たす役割が違うと考えております。どうしても、会社が初期フェーズのときには組織の人数もそこまで多くはないなかで、専門性がある方を即戦力人材として採用して、事業の垂直立ち上げを実現するという変遷をたどってきたと思っています。ただ、新卒採用の役割として欠かせないものがあり、それは先ほど寺脇さんからもあったように、育成という観点だと思っています。つまり自社の環境や自社のカルチャーにおいて、活躍できる可能性があるのは誰なのか、最大限まで育成できるのはどのような人なのか、ということまで考えられるのであれば、新卒採用は長期的に見て事業成長に大きく寄与すると考えています。

目の前の1年間ではなく、3年、5年先を見据えた中期経営計画を立てたときに、それぞれのタイミングで必要な人材はどのような人か、そのタイミングまでにどういう人たちが成長して事業の一翼を担っているか。そういったことを想像すればするほど、新卒採用で入社した人が育成期間を経て事業を支える人材になるという計画の方が描きやすい。ここに、新卒採用を行う意義があると思っています。

採用活動は、人事だけの仕事ではない。全社で取り組む姿勢が重要

茂野: ありがとうございました。ここで寺脇さんに質問が届いています。新卒採用が最重要であるという認識は社内でどれくらい浸透していると思いますか?

寺脇:かなり浸透していると思います。当社では新卒採用を競争力と位置づけ、人事担当者だけではなく、多くの社員が協力して採用活動に取り組んでいます。具体的な取り組みが「YJC」というプロジェクトです。YJCとは「良い人を(Y)自分たちで(J)ちゃんと(C)採用する」の頭文字をとって名づけています。「採用には全力をつくす」というミッションステートメントを掲げてこれまでも力を入れてきましたが、今まで以上に現場社員と人事が一丸となり採用に取り組んでいます。社員それぞれが自走しながら採用活動を行っており、例えば、事業部単位でチームをつくって、母校のキャリアセンターに電話をかけて、講義をさせてもらうこともあります。新卒採用が最重要であるという認識は、役職や立場、部門関係なく広く社内に浸透していると思います。

茂野: 採用は、一部の例えば採用チームや経営層など一部だけが熱心になっていてもできるものではないと思うので、それは新卒採用、中途採用問わず、重要なことかもしれないですね。

新卒社員に期待するポイント

茂野:良い人材を見極めるポイントに関する質問が多いので、こちらをお2人に聞きたいと思います。学生のなかでこの人は優秀だなと思うポイントについて1つだけ教えてください。

今村:自ら課題を設定できる人ですね。僕らは、事業をつくっていく会社であり、これから起こりうる課題を解決していくということを標榜している会社です。「これが課題なので解決してください」と言われたことをやれる人ではなくて、彼ら彼女らの世代で感じている課題感や違和感をきちんと言葉にして、さらに仲間を集めて課題解決に導くというところまで取り組んでいける人と一緒に働きたいと思っています。

寺脇: 今村さんがおっしゃったところもすごく大切な要素だなと思いつつ、あえて1つあげるとしたら素直さでしょうか。サイバーエージェントには昔から「素直で良い人」という採用基準があります。私自身も広告の仕事をしていて感じたのですが、インターネット業界で仕事をしていると、1カ月前までできていたことが急にできなくなったり、新しいものがすぐに出てくることが当たり前のことのようにあります。そのため今まで自分たちがやってきたことや成功体験にとらわれず、変化する環境のなかで次のアクションを考えつづける必要があります。そのために必要となるのが素直さだと思っています。

新卒採用を取り巻く環境の変化

茂野: ありがとうございます。ここからは、ここ数年の新卒採用領域に起きている変化について教えてください。

今村:新卒採用戦略を立てて実行していくなかで、マーケティング戦略と同じように、学生をセグメンテーションし、ターゲティングしてどのようなポジショニングをとるのか、という「STP」を考えるのですが、このセグメントの切り方が細かくなっているなと感じています。以前は大手ナビサイトでの一括大量エントリーしか学生と接点を持つ手段がありませんでしたが、最近はいろいろなサービスができています。加えて、学生の価値観も多様化してきているように感じています。学生一人ひとりの価値観や所属するコミュニティーが多様化しているので、画一的なプロモーションだけでは多くの学生と接点を持つことが難しくなってきています。

茂野: 学生の志向が細かくわかれてきているということですね。例えば、大手企業で安定している企業がいい、ベンチャー企業やスタートアップ企業で経験を積みたいといったことではなく、より具体的に個々の会社について検討できている学生が増えているということでしょうか。

今村: それもありますし、以前と比較すると、大手企業だからといって外部環境の変化への対応力が低いとは一概には言えないようになってきています。大手企業かスタートアップ企業かを問わず、どの会社も変化が激しい環境下にあるという前提のもと、自分は何を実現したいのかという点が以前よりも問われているなかで、会社選びをしている学生が増えてきていると実感しています。

寺脇: この数年で一番の変化はやはりコロナの影響による急激なオンライン化ですね。この流れに対応しきれたかどうかが採用成功できるか否かをわけたと、言えるのではないでしょうか。先ほど今村さんも学生の価値観の多様化という話をされていたのですが、僕も実感しています。もともとここ数年「新卒採用の早期化」というキーワードはよく話題になっていたと思いますが、今年はそれが急激に進んだように思います。おそらく、学生も学内・学外の活動も含めていろいろな制限がある状況のなかで、これまで以上に就職活動に時間を割いている人が増えているのでしょうね。以前は他社よりも早く動き出せばより優秀な学生に会えた部分もありましたが、今は早く動くだけではなく、学生に対して明確なメッセージや打ち出し方をきちんと考えて、発信と実行を行わなければなりません。その点では難易度が上がっていますね。

経営層の意識と会社全体への発信が大切

茂野: サイバーエージェントでは、面接担当やリクルーターになることが社内の重要なステータスになっていると伺ったことがあります。事業で成果を出した優秀な人が採用や人事にいるということは大切だと思いますが、このようなカルチャーをつくりあげるためにはどのようにすればよいでしょうか、という質問をいただいております。いかがでしょうか。

寺脇: やはり新卒採用が企業の競争力の源泉であるということを経営層が意識的に発信していることが大きいですね。新卒採用について外部メディアの取材や自身のSNSなどを通じて、経営層が定期的に「採用が非常に大切である」というメッセージを発信しつづけてくれているので、良い人材を採用して組織で育てて活躍してもらう、というカルチャーが根づいています。事業責任者をインターンシップの設計段階から巻きこんだ際に、断られた経験は一切ありません。学生との面談もこの時期や時間は避けてほしいと言われたことも一度もありません。学生がサイバーエージェントに入社して活躍するためにはどのようにすればいいのかを、社員が人事と同じ目線で考えてくれるので、経営層からの発信をずっと続けることの重要性を感じています。

今村: 弊社も経営層が意思を持って採用に取り組んでいるという点は共通するので、寺脇さんのおっしゃる通りですね。弊社はまだ新卒採用を始めて数年の会社なので、最初はどのような状態だったかを共有させていただきます。当時、先行事例がないという課題がありました。新卒採用で入社した社員が活躍したという事例があって、それゆえに新卒採用に注力することが企業の競争優位性をつくることだと言える状態ができれば、人事として推進力を持ちやすいと思います。それがないなかで、新卒採用を始めたきっかけとしては、サイバーエージェント様はもちろん、日本の大手企業など、成長している企業は新卒採用に取り組んでいるということが最初の一歩の後押しになりました。他社が新卒採用に取り組んでいて、成長しているのであれば、まずは真似してやってみよう、と前例をつくる気持ちで新卒採用を始める意思決定をしたのが、弊社の新卒採用の歴史の出発点です。まずは成長している企業にならって、前例をつくりにいくという始め方もあるのではないかと思いましたし、そういうきっかけをつくれるように採用チームからはたらきかけをすることも大事だと感じています。

茂野: 何か新しい意思決定を経営層にしてもらう際には非常に重要ですね。私のおすすめは、新卒採用担当者向けのイベントに経営層を誘ってみることです。自社とはまったく違うカルチャーの企業の考えにふれて、こんなにも素晴らしい世界観があるのかということを体感してもらう、同じビジョンを共有するというのは大事な要素ですね。

セミナーレポート後半ではより詳細に、

  • 採用戦略の立て方
  • インターンシップについて
  • 新卒社員の育成プログラム
  • 新卒採用の効果測定や振り返り方

について詳しくお伺いしていきます。

※各種データや肩書はイベント実施時点のものです

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新卒採用の「イマ」 変わらない意義、進化する採用戦略-後編-