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HR SUCCESS Onlineは、HR領域において先進的な取り組みをされている企業の経営者や人事担当者をゲストにお迎えし、人事・経営に関する課題の解決に役立つ情報をお届けしています。第5回は、急成長企業2社の人事責任者をお招きし、急成長中の企業の人事部がたどった変遷や進化の過程をお話しいただきました。今回は前編として、2社の人事組織の変遷や全社にミッション・バリューを浸透させるためにどのような施策を行っているかについてまとめたものをお送りします。
大間祐太氏
Sansan株式会社
取締役/CHRO
人材系企業へ入社し、採用コンサルティング事業の立ち上げを経験し、独立。その後、採用領域のベンチャー企業の立ち上げに携わる。2010年にSansan株式会社へ入社し、営業部門のマネジャー、人事部長を務める。現在はCHROとして、人材価値を高めるための人事戦略を指揮する。
菱沼史宙氏
株式会社マネーフォワード
人事本部本部長兼人材採用部部長
人材業界にて求人メディアの制作・ディレクター・セールスを経験した後、株式会社クライスアンドカンパニーでキャリアコンサルタント職に携わる。その後、株式会社スープストックトーキョー(スマイルズ)の人材開発副部長として採用/制度/組織開発を経験した後、2018年にマネーフォワードにジョイン。採用部門のマネージャーを務めた後、2020年5月より人事本部長兼人材採用部長に就任。
茂野明彦
株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部部長
大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める
マネーフォワードとSansan、それぞれの人事組織の構成
茂野:まずは現在の人事組織体制の紹介をお願いします。
菱沼:マネーフォワードの人事の組織図はこちらです。
人事本部のなかに「人材採用部」と、制度関連・教育研修をする「人事企画部」、そして「人事管理部」があり、大きくわけてこの3部体制で進めています。それぞれ異なる機能があるわけですが、左下に青で囲んでいるグループ会社は採用関連で連携していまして、私自身もスマートキャンプ株式会社に出向しており、出向関係を持ちながら一緒に採用活動をするような連携をしています。右上にはMFK(MF KESSAI)がありますが、こちらはマネーフォワードから生まれたグループ会社で、採用チームからHRBP(HRビジネスパートナー)として1名、組織人事の担当者をおいており、採用だけではなく人事制度や人事管理も含めて連携をしています。
大間:Sansanの人事部は約40名で構成される組織です。現在Sansanは従業員全体で約700名の規模なので、企業規模の割には人事部門が少し大きめだと思います。部の下に6つのグループがあります。
左から新卒採用グループ、中途採用グループとありますが、この2つのグループからなる採用部門があわせて役20名と、人事部の半分を占めています。この部門のミッションは新卒採用や中途採用ですが、イベント企画や採用企画、マーケティングなどもあわせて行っています。中央にあるEmployee Successグループは、いわゆる制度・育成・評価などのオペレーション部門になっています。事業部門では、営業が受注してきた案件をカスタマーサクセスがフォローしていきますが、採用とEmployee Successはそれと似た関係ですね。
労務もEmployee Successと連携する部分が多いですが、労務・給与・入退社手続きを担当しています。Global HRグループは、当社はシンガポールとアメリカに拠点があり、子会社のSansan Globalのバックオフィスマネージャーがこのグループの責任者を兼任して、本社と連携しながらグローバルのHRを統括しています。あとは戦略人事グループがあります。ここは私がグループマネージャーを兼務しており、コンサルタント出身者やエンジニアが所属し、主にデータとテクノロジーを駆使して経営の意思決定を最適化する業務に取り組んでいます。ここでは、人事企画として新規施策の立ち上げを行い、その施策が軌道に乗ればEmployee Successグループに引き継いでいくといった役割を担っています。
茂野:大間さんに1つ伺います。戦略人事グループが人事部の直下にあり、Employee Successグループとどのような関係性かはわかったのですが、例えば新卒採用や中途採用における採用計画に対しての戦略立案や実行計画策定はどちらの部署が担っていらっしゃいますか?
大間:基本的には、新卒・中途の採用戦略は各グループで立てていますね。全社の人員計画や全体方針は戦略人事グループが策定することが多いです。
茂野:どちらかというと事業計画や財務諸表にかかわるものは戦略人事グループが戦略を策定し、実行部分にかかわる戦略は新卒採用・中途採用それぞれのグループで立案されているということですね。菱沼さん、マネーフォワードさんの場合、人事にかかわる戦略立案や企画などはすべて部門の中で行われているのでしょうか?
菱沼:組織図に「MFW人事本部(2)」とありますが、私と副本部長で全体的な戦略や企画を取りまとめ、各部長と連携する形になっています。
茂野:Sansanさんでいう人事戦略を、マネーフォワードさんでは菱沼さんが本部のほうで描かれて、各部門がその実行を担われているということですね。
菱沼:そうですね。私もこのポジションについてまだ2カ月ですので、これからSansanさんのような体制にしていく予定です。人事本部と経営企画本部で人員管理計画を一緒につくるような動きになっています。
まず採用部門からスタート。なんでもやる「一人人事」から、どんどんセクションがわかれていく
茂野:ここからは人事部門の組織体制の変遷についてお話を伺います。もちろん2社とも最初からこの体制だったわけではないと思いますが、例えば「立ち上げ時期はこの部門から強化した」「だんだんとこういう役割を増やしていった」など、フェーズ別に強化していった人事機能についてお伺いしていきたいと思います。マネーフォワードさんはどういう拡大路線を取ってこられたのでしょうか?
菱沼:まず採用がスタートで、そこから組織活性やインナーコミュニケーションといった役割を強化していきました。もともと人材採用部と人事企画部がスタート時点で存在していて、労務は人事本部ではなく管理本部の中にあり、どちらかというと守りは守りで固めていました。
茂野:労務を人事管理部の中に配置した経緯を伺ってもよいしょうか?
菱沼:本来は一緒でないと進めにくいことばかりなのですが、当時はとにかく「採用しなければいけない」という思いで採用にすべてを注いでいたので。人事本部よりも管理に強い管理本部に労務管理を委ねるという時代が、2年前まで続いていました。
茂野:人事内の連携を強化して人事全体の生産性向上を図るというよりは、業務を完全にわけてしまったほうがそれぞれの専門性が生きる。そういった理由で完全に分業していたところを、組織が大きくなってきたので戻したという形でしょうか?
菱沼:そうですね。そこから人材採用部・人事企画部・人事管理部を同じ本部の中においたわけです。「一人人事」で始めたメンバーからどんどんセクションに分かれていくので、この2~3年でだいぶ一人ひとりが担当する領域が限定されてきていると感じている人もいるかもしれません。
茂野:大きくなってくるとある程度仕方がないですね。人事に携わる人をこれだけの人数採用するのはかなり大変だと思うのですが、どのような採用の仕方をしているのでしょうか?例えばこういうバックグラウンドの人材を採用しているとか、こういう採用の仕方をしているとか。
菱沼:弊社の場合は、人事経験者が6割、残りの4割は人材業界出身の方ですね。
茂野:やはり即戦力人材というか、スキルやノウハウを持った方を人事として迎えて、組織をどんどん強くしていったということですね。
菱沼:これまではそうでした。本当は事業部に対して事業のことをよく知る現場の方が人事にも必要だという要望も出していたのですが、事業が成長するなかでそこまでの余裕がなく、外から即戦力人材を積極的に迎えいれていました。
営業力があるメンバーが人事としてさらに強いメンバーを採用していく
茂野:大間さん、Sansanさんは営業の方や、事業部門にいらっしゃった方を人事として採用しているというお話を伺ったのですが、そのあたりについて教えてください。
大間:そうですね。人事部門約40名のなかに20名の採用担当者がいますが、基本的には採用活動は営業活動に極めて近いので、営業出身や事業部門出身でクロージング力の強いメンバーを採用部門に配置しています。
茂野:社内の事業部門からすると、営業で高い成果を出している人材を人事に異動させる場合もあるということですよね。社内でのコミュニケーションの齟齬や反対などはなかったのでしょうか?
大間:もちろん一時的には戦力ダウンするので思うところはあるでしょうが、営業力があるメンバーが人事に異動して、さらに強い営業メンバーを採用していくということは、中期的にみれば事業成長を加速させることにつながります。私も営業部門にいたので、それはよくわかります。
茂野:やはり営業で高い成果を出している人材は、採用部門でも高い成果を発揮されますか?
大間:かなりご活躍いただけますね。お客様に対して製品を販売していくのと一緒です。このお客様に、どう意思決定をしていただくかというクロージングのプロセスも似ています。母集団がどれくらいあり、候補者が何人いて、そこから面接をどのように設計していくか。やはり採用には営業出身者をおいておくのが体制としては良いと思います。
茂野:営業経験のある方を人事に迎えいれる際、オンボーディングのポイントや注意点はありますか?
大間:採用活動を営業のフレームにあわせればほぼ間違いないと思います。営業でお客様のニーズをヒアリングして提案するように、採用も、候補者が「何をしたくて、どうなりたいのか」、「転職の理由となっている課題は何か」をヒアリングして、解決策を提案していくものなので、その重なりを理解すれば営業活動と同じように進められると思います。また、候補者の根幹にある課題を一緒に整理していく必要があるので、ソリューション営業に近いと思います。BtoBサービスの営業経験者はよりフィットすると思います。
組織が拡大していく中でも、ミッション・ビジョン・バリューの浸透に注力する
茂野:マネーフォワードの組織図に、「組織活性」というグループがありますが、具体的に何をされているんでしょうか?
菱沼:組織活性グループは、ミッション・ビジョン・バリューの浸透に注力しているグループです。社内のイベントや、懇親会、全社総会などの企画・運営などを行っています。弊社は設立当初からミッションやバリューをいかに全社に浸透させるかという点に力を入れてきました。入社前にも選考のなかでミッションやバリューへの共感は確認するのですが、入社後にもそれが浸透している状態をつくらなくてはいけないと考えています。
茂野:ミッションやバリューを社内に浸透させていく役割を担う部門ということですね。組織の急拡大にともなってミッションやバリューの浸透に課題があってつくられた部門ということでしょうか?
菱沼:組織拡大前から、ミッションやバリューという会社の軸をぶらしたくないというのが代表の想いだったので、何か課題にぶつかってというわけではなく、初期から注力していました。人事部ができてから2年経った頃までは採用担当者がその役割を兼任していましたが、より一層注力すべく専任の組織活性グループが生まれました。
茂野:Sansanさんも「Sansanのカタチ」(Sansanの企業理念)を非常に大事にされていると思いますが、人事組織の中ではどのような役割の方がミッションやバリューを社内に浸透させる役割を担っているのでしょうか?
大間:ミッション・バリューズの浸透施策は、人事組織の中のEmployee Successの中にあるカルチャーチームが中心となって進めています。大きな取り組みとしては「全社カタチ議論」という、全社員でミッション・バリューズを議論するような取り組みが挙げられます。前回の「全社カタチ議論」では、今のミッション・バリューズの意味自体は変えないのですが、社内外に向けた表現の仕方を全社員で論議しました。例えば、今Sansanでは「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げていますが、その前は「ビジネスの出会いを資産に変え働き方を革新する」という違う表現をしていました。
マーケットに対して自分たちの価値をどう提示し、発信していきたいのか、それを実現するために今あるバリューズを継続していくべきなのか、それとも変えるべきなのかを7名ずつの100チームに分けて1時間の議論を計3回行っています。そこで出たアウトプットを各自が部門に持ち帰り、グループ内で論議し、次はマネージャーと部長、最後は役員にも議論してもらい、合わせると5000時間程度をかけて「カタチ議論」を行いました。「カタチ議論」は2年ごとに全社で取り組んでおり、全社員にミッション・バリューズを自分ごと化してもらうための重要な取り組みだと考えています。
※各種データや肩書はイベント実施時点のものです