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HR SUCCESS Onlineは、HR領域において先進的な取り組みをされている企業の経営者や人事担当者をゲストにお迎えし、人事・経営に関する課題の解決に役立つ情報をお届けしてまいります。第6回は、複数社の代表を歴任し、現在は海外の急成長サービスの日本進出支援を手がけるジャパン・クラウド・コンサルティングの福田氏をお招きし、これまでの組織運営における採用と組織づくりの秘訣を余すことなく語っていただきます。また全6回のHR SUCCESS Online1stシーズン最終回として、各回の内容を福田氏と一緒に振り返りました。今回は後編として、組織づくりを経営者はどのように考えるべきか・社内へのバリューの浸透・ミドルマネジメント層の育成についてまとめたものをお送りします。
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「THE MODEL」著書 福田氏に聞く 成長する企業の特徴・共通点-前編-
福田康隆氏
ジャパン・クラウド・コンピューティング
パートナー
ジャパン・クラウド・コンサルティング
代表取締役社長
2004年セールスフォース・ドットコムに転職。翌年、同社日本法人で専務執行役員兼シニアバイスプレジデントを務めた後、2014年マルケト代表取締役社長として日本法人の設立に関わる。2019年買収により、アドビシステムズ専務執行役員マルケト事業統括に就任。2020年1月より、ジャパン・クラウドのパートナーおよびジャパン・クラウド・コンサルティングの代表取締役社長に就任。著書に『THEMODELマーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』(翔泳社、2019年)。
茂野明彦
株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部部長
大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。
「何が正しいか」ではなく「人がどう感じるか」を考えなければ組織づくりはできない
茂野:セールスフォースやマルケト時代の採用や組織づくりにおける失敗や学びなどがあれば教えてください。
福田:インサイドセールスのマネージャーだった頃、メンバーに対して「この活動履歴はどうなっているのか」「このお客様のフォローはどうなっているか」ということを細かく確認していた時期がありました。その後、新しい方が入社し、業務にゲーム性を取り入れるなどメンバーのモチベーションを上げる取り組みをしている姿を見て、最初は甘いのではないかと思ったのですが、結局メンバー全員が成果をあげている状態をつくるのがチームづくりなんだなと実感しました。
私自身がやっていたこと自体は間違いではなかったものの、今考えるとやり方は正しくなかったかなと思います。マネージャーはメンバーに対して「何を伝えるか」ではなく、それによって「人がどう動くか」ということが大事で、メンバーのやる気を引き出して目標を達成しようと思ってもらえなければ意味がありません。正しい・正しくないではなく、人がどう動くかを考えなければ組織マネジメントはできないということがセールスフォース時代に得た教訓です。
茂野:何が正しいかではなくそのアクションを起こしたときに、人がどう感じてどう動くか考えることが重要ということですね。そのような教訓を得た福田さんですが、それをきっかけに何か行動が変わりましたか?
福田:これはお客様に対してもそうですが、今は自分が言おうとしていることが自己満足になっていないか、その行動を取ろうという意欲が湧くか、ということを一歩立ち止まって考えるようにしています。
コアバリューを組織に浸透させるには、そこにもとづいたマネジメントの行動が必須
茂野:組織が大きくなるとマネジメントにも階層ができて、福田さんの意思が伝わりにくくなると思います。そのギャップはどう解消しているのでしょうか?
福田:自分と直接つながるポジションには自分がいなくなったときにそのポジションを任せられるくらい絶対的な信頼をおける方を採用しています。その方々と密にコミュニケーションを取ることで、組織全体にも自分が伝えたいことの核心を伝えられると思っています。逆に1つ目のラインで認識がずれると「伝言ゲーム」となってしまい、どんどんずれていってしまうので、直接つながる方とのやりとりには重きをおいています。
茂野:ありがとうございました。ここで視聴者からのご質問にお答えいただきたいのですが、マルケトの日本法人立ち上げの際には日本法人独自のコアバリューは作りましたか?
福田:コアバリューの部分はセールスフォースのときから変わらず、カスタマーサクセスに注力し自分たちが提供するサービスを使ってお客様に成果を出してもらうことを掲げていました。コアバリューには、「成長」や「謙虚さ」など5つを設定していますが、ここで重要なことがバリューの中での優先順位づけを意識した点です。これはセールスフォースのときに学んだことですが、当時オフサイトミーティングでコアバリューについて議論したときに、「トラスト」や、「カスタマーサクセス」、「グロース」など大切にしたいものをいくつか並べ、全員の投票で優先順位を決めていきました。その結果、事業を展開していく以上、システムの安定性や稼働状況などのサービスに対する信頼性が最初にあるべきということになり、ここでは「トラスト」が一番に選ばれました。この時に、コアバリューは必ずしも横並びのものではなく、その中にも優先順位があり、優先順位を明確にすることで今やるべきことがわかるということに気づくことができました。今でも、年に一度は優先順位を見返したり、コアバリューを変更するということに取り組んでいます。
茂野:コアバリューの中での優先順位づけを意識すること、そしてそれを年に一度見返して、組織として今何を一番大切にしていくべきかについて目線をあわせていくということですね。そのコアバリューはどのようにして会社全体に浸透させていくのでしょうか?
福田:掲げたコアバリューに対して実行がともなうかどうかが重要だと思います。これは当たり前のようですが難しいことで、例えば「世の中のために」や「世界を変える」「顧客の成功を願う」などのコアバリューを掲げている会社でも、普段は「この商品を売ってきなさい」「この数字を達成しなさい」というコミュニケーションばかりをとっていると、言ってることとやっていることが違うと感じてしまいますよね。その状態になると誰からも信用されなくなり、そこから組織が崩れてしまうので、コアバリューを決めた以上は、それにもとづいた行動をとることが大切です。
社外に向けて発言していることと社内に向けて発言していることが違うということは、最悪のパターンなので、そこだけは曲げないようにしています。セールスフォース時代から、カスタマーサクセスというコアバリューにのっとり、「もし自分がお客様の会社の社員になるとしたら本当に自社の商品を買うかどうか」という視点を全員に持ってもらうよう指導していました。そういった姿勢を見せることもバリューの浸透につながると思います。
マネージャー育成は早い段階から取り組むべき
茂野:セールスフォース時代にマネジメントの方法で学びがあったということですが、マルケト時代はいかがでしたか?
福田:マルケトでは過去の反省を活かしながら取り組みましたが、1つ後悔したことを挙げるとすれば早い段階でマネージャーの育成にもっと注力すればよかったということです。
セールスフォース時代はマネージャーへの登用はかなり慎重に判断していましたが、マルケトでは早めにチャンスをどんどん与える方が良いのではないかと考え、マネージャーへの登用を加速させていました。しかし、マネージャーに対する教育や準備期間を用意していなかったため、新しくマネージャーになった方がつまずいたり戸惑ったりしてしまうことがありました。単にチャンスをあげるだけでは不十分で、教育や準備期間を用意し、特にマインドセットの部分で支援をしなくてはいけないということを実感しました。
茂野:組織の拡大においてはミドルマネジメント層が一番足りなくなるのでしょうか?
福田:そうですね。マネージャーはチーム同士の結節点となるつなぎ役なので、そこが弱いとチームの中にいるメンバーの成長も遅れてしまいます。ただ、優秀なプレーヤー、成果を出すプレーヤーが良いマネージャーになるとは限りません。本当にマネージャーに向いているタイプの方をみつけて育成することを考えると、一番時間がかかる難しいところではないかと思います。
茂野:メンバーの採用とマネージャーの採用でみるべきポイントに違いはありますか?
福田:マネージャーはチームの士気を高めたり、チームを目指す方向に導くためにわかりやすく核心をついた言葉が使えるかどうかが重要だと思います。チームメンバーはさまざまな人がいても問題ありませんが、マネージャーにはメンバーをまとめる能力や、メンバーが何をしようとしているのか的確に把握できるコミュニケーション能力などを特に重視しています。
茂野:マネージャーとそのマネージャーを統括する部長以上ではマネジメントとしての育成方法に違いはありますか?
福田:マネージャーはチームのマネジメントが重要ですが、部長以上では他部門との連携などより広い視野を持つことが必要とされます。特に営業部門では商談の金額や案件数などの全体をフォローする必要があるので、人によってどうしても得意不得意があると思います。
そのため、マネージャーとして結果を出した方が必ずしも部長で成功するというわけではなく、その人の得意分野にあったポジションに配置することが重要です。ですので、マネージャーと部長が上下関係ではないということは常にマネージャー候補の方に伝えています。
また、外部からマネージャー候補の方を採用する場合は過去の成功体験に固執せず、その会社にあわせられる方ということを意識しています。「前の会社で成功したからこの方法はこの会社でも通用する」と考えが固まっている人はうまくいかないことが多いので、経験があるうえで「まずはこの会社の現状を知りにいこう」という考え方を持っていることが重要です。
外部から来ていただく方がマネージャーとして成果を出すかどうかはその点にかかっていると思っています。
茂野:ありがとうございます。福田さん自身はマネージャーになる際にどのような努力をされましたか?
福田:最初は営業もやったこともない状態でマネージャーになったので、まずチームのメンバーが何をしようとしているのかを一生懸命勉強しました。「自分に伝えられるものがないからメンバーから学ぶ」という姿勢になれたことが良かったのかなと思っています。また、マネージャーから部長になった時には、マネージャーに対して自分がどこまで介入するべきなのか気をつかってしまうところではありますが、「必要だと思ったことを伝える」ということを意識していました。経験がない状態でマネージャーを経験したことで、成功しているメンバーがどのような営業をしているのかゼロから学ぶ姿勢をつくれたことは良かったですね。
経営者みずから採用や組織づくりにコミットするべきか
茂野:ここまでのHR SUCCESS Onlineの振り返りも含めて、福田さんにお話を伺っていきたいのですが、第1回の三村さんは経営者自ら組織づくりに積極的に取り組まれているというお話がありました(なぜコンカーは「働きがいのある会社」ランキングNo.1を3年連続で受賞できたのか-前編-)。なかでも採用がかなり重要で、経営者は仕事の時間の多くを採用に投資すべきではないかとおっしゃっていたのですが、福田さんは経営者として採用の優先順位についてどのようにお考えでしょうか?
福田:採用は経営者の仕事のほとんどすべてだと言ってもいいくらい重要だと思います。私もマルケトでは全員の最終面接まで入りました。経営者みずからが採用にコミットすることが一番大事です。経営者だけでなく、例えば営業チームを束ねる営業マネージャーにとっても採用はチームの成果を最大化するために一番重要な仕事だと思っています。
茂野:三村さんがおっしゃっていたように、人は競争優位性になり得ると思いますか?
福田:例えばわかりやすく営業を例にしますと、四半期の目標があったときに、ハイパフォーマーの方はその目標の3倍の成果をあげることがありますが、目標値の20~30%で終わる方も中にはいらっしゃいます。そう考えると数としては同じ1人でも、その生産性は5、6倍違うわけですよね。さらに、会社のカルチャーにあわない方を採用した場合、時間をかけて育成しても早い段階でその方が辞めてしまえば、また1から採用をすることになるので、成果を出す営業を1人育てるまでに1年以上の遅れが生じてしまいます。つまり、どの役職においてもいえることですが、「1人」は「1人」ではない。こういう点でも採用には一番力を入れるべきだと思います。そもそも組織は人ですからね。
茂野:第2回では、事業を立ち上げるときにどのような人を採用するかという話でした(日本法人CEOに学ぶ 今だから言えるスタートアップ企業における1人目の採用-前編-)。やはりここでも経営者が採用にコミットしてようという話がありました。福田さんも先ほどバリューフィットを重要視しましょうとおっしゃっていましたが、そこにもう1つ何か加えるとしたら何だとお考えでしょうか?
福田:「自分の持っていないスキル」だと思います。これは社長になってはじめて意識できたことですが、営業マネージャーのときはメンバーと同じ営業という職種のなかで、自分がメンバーより優れたところを持っていないと、役割をまっとうできないところもあるわけです。しかし社長になると、経営という幅広いスキルが必要になるため、自分にできないことも多くモヤモヤする部分が必ずあると思います。私の場合はプロダクト開発をみてくれる方とファイナンスをみてくれる方が入社したときに、頭の中の霧がすっと晴れる感覚がありました。自分が持っていないスキルを持っている人を採用するというのはこういうことなんだと、そのときにわかりましたね。このことはマネージャーとして、同じ職種だけをみていたら気づかなかったことだと思います。
これからの人事に必要とされること
茂野:第3回では「CxO」採用の話がありましたが、登壇したお2人ともHRBPやCHROがこれからすごく大事な役割になるとおっしゃっていました。福田さんが思う、優秀な人事に共通することや、これからの人事に必要とされることは何ですか?
福田:世の中全般の話はできませんが、マルケトのときはセールスイネーブルメントとして営業組織の強化・改善を行ってくれていた方に、途中から人事を担当してもらうことにしました。最初は何かあれば上司に相談して解決できるだろうと考えていたのですが、実際は必ずしも上司に相談できることばかりではありません。人事をお願いした方は、社員が悩んでいるときに、誰もが悩みを打ち明けられるような人柄をお持ちでした。相談者がオープンになってくれないことには力になることもできませんから、その人柄に期待をしてこの方に人事をお任せしたという経験があります。
会社の核となるバリューを発信し、そこに誰もがアプローチできる状況をつくる
茂野:第4回は日系大手企業の採用変革というテーマだったのですが(世界的メーカー人事が伝える採用改革の成功事例。他部門を巻き込む採用術-前編-)、外資系企業は直接採用に積極的で、日系企業はヘッドハンターや人材紹介会社を多用するイメージがあると思います。福田さんは、あらゆるチャネルを駆使して候補者との接点を広く持つことと、ある程度チャネルを絞って集中的に採用活動を行うこと、どちらの方が良いとお考えですか?
福田:私が重視しているのは、まずは自分たちの会社がどんな会社かを伝えるということです。当然すべての人が自社に魅力を感じるわけではないので、先ほどもスキルではなくてバリューフィットという話をしましたが、先に会社の核となるバリューをきちんとつくって発信し、興味を持った方がアプローチできるという状況をつくることが大事だと思います。
茂野:採用においてもマーケティングと同じような考えで、候補者との接点を持つというイメージですね。第5回はIPOを経験された2社にお越しいただきましたが、2社とも採用は営業に似ているとおっしゃっていました(事業成長を加速させる人事戦略 上場を経験した2社の歴史とこれからの挑戦-前編-)。営業で成果をあげた方に採用をお任せすると採用でも成果をあげていただくことができ、今後HRBPをお任せするうえでも非常に頼りになるというお話がありましたが、福田さんはどう思われますか?
福田:私は外資系企業の多くが人事と採用で部署をわけていることが多いことに対して疑問を持っています。採用活動の結果、入社してくれた方をきちんとフォローして、長年活躍いしてもらう、営業でいうカスタマーサクセスと同じことです。エンプロイーサクセスといわれますが、そういう意味ではマルケトでも採用担当と人事担当はセットで動いていました。そこが日本では当たり前に一体化していると思うのですが、外資系企業はわかれていることがほとんどです。そこをきちんと一体化して、どうやって長く活躍してもらうかですね。かつてセールスフォースのCEOマーク・ベニオフが「あなたたちを成功させるのが自分の仕事だ」と言っていたことがすごく印象に残っています。経営者がそういうマインドをもってはじめて、社員にロイヤルティーが生まれ、長く働くことができるのだと思います。
茂野:最後にこれから組織づくりや採用に力を入れていく経営者の方、人事の方へのメッセージをお願いします。
福田:私は採用ほど楽しいやりがいのある仕事はないと思っています。私自身の体験なのですが、マルケトの代表に就任してしばらく経った時に、体は疲れているのに、会社に行くのが楽しい、このメンバーでもっと長く働きたいという気持ちになって、自分でも気づかないうちにスキップしながら帰っていたことがありました。採用担当、社長、組織のリーダーは自分で一緒に働く人を集めることができます。選ぶのではなく、自分で探しにいき、仲間になってもらえるよう説得し、一緒に働いてもらう。それこそが仕事・会社の本質だと思いますので、皆さんもぜひ採用を楽しんでいただければと思います。
※各種データや肩書はイベント実施時点のものです