人事データを生かした採用体制のつくり方【株式会社 資生堂】

今では企業の成長には欠かせない存在となり始めている「人事データ」。その人事データを活用することで、これから企業を支えていくことになる採用の現場にも、変革をもたらそうという動きが広がっています。今回は、会社の成長とともに移り変わる人材ニーズの変化に対応した採用の体制づくりに成功し、2020年度のHR SUCCESS SUMMITアワード*を受賞された資生堂様に、人事データの活用方法や、体制の変更で見られた効果などについて伺いました。

*HR SUCCESS SUMMITアワード…即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」、採用クラウド「HRMOS(ハーモス)採用」の利用企業の中から、企業成長のために人事・採用を変革させ、先進的な取り組みを行った企業を表彰するアワード

企業紹介

株式会社 資生堂

事業概要:化粧品、業務用化粧品、石鹸、トイレタリー商品、
     医薬品、ヘルスケア商品などの製造販売、輸出入

従業員数:3,961名(2019年12月末時点)

海外の売上比率増加に伴い、求める人材に変化。HR体制の刷新へ

ーここ数年と比べ、2019年度の採用活動では変化があったということですが、その背景について教えてください。

この数年で、毎年かなりのペースでキャリア採用の人数が増えており、2019年度の採用数は前年度の2倍に達しました。海外売上比率の増加にともない、専門性をもった経験者採用のニーズが高まったことが理由です。そのため、Head Quarter(以下、HQ)機能を中心として研究開発、マーケティング、経営企画、法務、IT、ファイナンス、HRなど、社外の特にグローバルビジネスにおける経験と実績を備えた専門的な人材を迎え入れる必要がありました。環境変化に合わせて戦略的に採用活動を進めていくには、役割分担が重要です。

そこで、まずは体制を整えることから始めました。初めに取り組んだこととしては、もともと採用は人事部の仕事という要素が強かったように思えるのですが、Hiring Manager(以下、HM)を採用ポジションの責任者とし、選考プロセスに一貫して関わってもらうようにしました。また、2019年からは、HQにおいてHRビジネスパートナー(以下、HRBP)といわれる経営幹部とともに、組織や事業に合わせて人事戦略を設計し、ビジネス目標達成を人事の側面からリードする役割を設置。HRBPが採用業務を兼務する体制としました。そして、翌2020年にはHRBPが兼任していた採用業務をTalent Partner(以下、TP)として切り離し、募集から入社、定着まで、候補者体験の向上に取り組んでもらう体制へと変更しました。さらに、コーディネーションなどの採用活動をサポートする役割を設け、現場のHMとの連携を加速させただけでなく、TPは候補者のケアに専念できるような形としました。

現場のマインドチェンジを進め、採用管理システムで情報の管理・運用を効率化


ー現場を巻き込んだ採用体制を作る際に、意識したポイントは何でしょうか?

まずは、採用活動に対し「ともに取り組んでいこう」と思ってもらうために、キックオフミーティングを必ず実施し、現場に細かくヒアリングしながら、ジョブディスクリプション(職務記述書・求人)を作成してもらう流れをつくりました。その上で、どんな経験・スキルのある人をどれくらいのレイヤーで採用したいのか、どういう経路で誰が採用決定するのかを決め、キックオフまでにジョブディスクリプションのベースを共有します。それを人事部の「候補者リスト」と照らし合わせ、現場と人事部、双方のニーズのすり合わせを進めていきました。これにより、人事と現場のコミュニケーションが増加し、その積み重ねで現場側のマインドセットが生まれてきたと思います。また、ジョブディスクリプションの内容によって検索結果の精度や候補者数の変化が可視化されたことで、「人材要件が詳しければ詳しいほど、求める人材にたどり着ける」という手触り感を現場と共有できたのではないかと思います。

さらに、オペレーションの面では、表計算ソフトやメールでの候補者管理では、進捗漏れや情報共有に手間やロスが発生することが懸念され、体制強化として「担当者を増やす」だけでは限界がありました。そこで、採用管理システム(ATS:Applicant Tracking System)の導入を検討し、2017年秋から「HRMOS採用」の利用を開始したことで、候補者情報の管理・運用上の煩雑さを軽減しました。

そのほかにも、面接担当者のスキル向上が課題としてありましたが、ビズリーチの面接マニュアルを自分たちでカスタマイズし現場に配るなど、少しずつレベルアップを図っていきました。

困難な「スペシャリスト採用」も、データの有効利用でさらなる成長を目指す

ーさまざまな取り組みを通して、実際に採用現場に変化はありましたか?

情報共有がしやすくなったことで現場との連携を深められただけでなく、担当者が「自分ごと」として動くようになりました。現場が積極的に動けば採用できる体制を数年かけて作ってきたことで、「候補者の入社意欲を高めるのは自分たち」という意識が現場に広がり、能動的に取り組むカルチャーもできていきました。そして、もともと少なくはなかったのですが、自発的なリファラル採用も増えました。2019年度時点で、人材紹介会社や媒体を活用しない採用活動のうち30~40%がリファラル採用となりました。特にインセンティブなどを設けていないにもかかわらず、ここまで増えた背景には、現場の「自分たちで採用していく」というマインドの変化があると思います。

ー最後に、今後の採用活動における展望をお聞かせください。

今後組織がよりグローバル化していけば、役員候補や部門長候補のポジション専門のダイレクトリクルーティングチームを作ってもいいと思っています。ただ、そうした採用ニーズに対してすぐに採用することが難しいポジションも多いので、後追いにならないように、タレントプールのデータベース化が重要になります。担当者それぞれが持つ候補者の情報をデータ上で確認できるようになれば、今後のスペシャリスト採用をよりスムーズに進められるのではないかと考えています。

※企業情報などはインタビュー時点のものです。