注目される、HRBPとCHROの役割とは-カインズCHRO 西田氏に聞く人事戦略 –

2021年9月に新たな人事戦略を発表した、全国に230店舗を展開するホームセンター・カインズ。経営と人事を意識しながら戦略を進めていくにあたり、重要なポイントはどのようなところにあるのでしょうか。本記事では、注目を集めるHRBP(Human Resource Business Partner)やCHRO(Chief Human Resource Officer) の役割について、カインズにおける事例を交えながら、CHRO 兼 人事戦略本部長の西田政之氏に伺います。

西田政之 氏

株式会社カインズ 執行役員 CHRO 兼 人事戦略本部長 兼 CAINZアカデミア学長

米系資産運用コンサルティング会社や米系組織人事マネジメントコンサルティング会社などを経て、2015年、ライフネット生命保険株式会社に転じ、取締役副社長に就任。2020年4月よりネッツトヨタニューリー北大阪株式会社社外取締役を兼務。2021年、一般社団法人日本CHRO協会理事に就任。2021年6月より現職。

カインズ_西田氏
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1.第3創業期における新人事戦略

ーカインズは2021年9月に、新しい人事戦略をスタートさせました。ホームセンターを中心とする小売業で、人事施策に注力している企業はまだまだ少ないのではないでしょうか。カインズの新人事戦略について、背景を教えてください。

西田:カインズは現在、第3創業期です。ホームセンターを全国展開した第1創業期、SPA事業を立ち上げた第2創業期。そして、2018年より掲げている「IT小売企業」としての現在があります。新たなチャレンジを行うにあたり、組織として変化していく必要がある。そこで生まれたのが新人事戦略です。

また、お客様のニーズの変化はもとより、従業員個人のニーズも変化してきたことも影響として挙げられます。これはカインズに限ったことではないかもしれませんが、個々人が働く上で、企業へ求めることが以前とは変わってきた。「良い企業で働きたい」といったニーズから、「組織の中で個人として成長したい」へと変化しています。人事戦略策定にあたっては、そういった個人の成長に対するニーズなども考慮が必要でした。

カインズ_西田氏

2.HRBPの役割は、組織に合わせ柔軟に

―新しい人事戦略の大きな施策のひとつに、「HRBP」の設置がありますね。HRBPは近年注目を集めるポジションであり、導入を検討する企業も増えています。HRBPの役割について、西田さんの考えをお聞かせください。

HRBPとは:
Human Resource Business Partnerの略であり、企業の中の人事機能のひとつ。人事を担いながらも、事業部門責任者のパートナーとして、事業をサポートする。

西田:これからHRBPを導入したい企業を迷わせてしまうかもしれないのですが、HRBPとは、決まった仕事内容のある職種ではありません。

―HRBPに決まった仕事内容がない、とは?

西田:あえて言うならば、「HRBPとは、事業部ごとの人事部長」というのが正しいでしょう。「人事部長」の役割を考えてみてください。組織に合わせて、中期経営戦略の内容で掲げられたことに合わせて、その時どきの状況に合わせて、人事部長の役割は変わります。仕事内容はひとつではないですよね。それと同じことがHRBPにも言える。その事業部の目指すべき未来や特色、状況に合わせて、HRBPのやるべきことは変わってきます。

―これがHRBPの仕事だ、と全ての組織のHRBPにも共通して言えることは少ないのですね。

西田:そのとおりです。こういうものだと型にはめた仕事内容を求めたり、あるいは海外のHRBPのマネをしたりすることがありますが、そういったやり方はやめた方がいい。自分たちの組織における人事部長ならば何をするべきか、と考えることを大事にしてほしいと思います。

―HRBPの仕事内容は組織によって変わるとのことですが、組織の中ではどういった役割と連携するのが重要なのでしょうか?

西田:主には、所属する事業部の事業部長と人事部の両方と連携することが必要です。事業部長とは、同じ事業の未来を見ながら語り合える存在とならなければなりません。単なる労務や給与のような話にとどまるのではなく、事業の描く未来へ向かうにはどのような組織であるべきかと考える視点が必要になります。人事部とは、全社の人事戦略を実現するために連携します。全社的な人事施策や制度などを、担当する事業部内で浸透・実行させていくことが求められるでしょう。

―HRBPにはどのような能力や資質が求められるのでしょうか。

西田:大きく3つのことが求められるでしょう。1つ目は基本的な人事に関する知識や経験です。事業部ごとの人事部長的ポジションなので、ここは欠かせません。2つ目は戦略的思考です。課題や状況を正しく捉え、事業や組織を目標達成に向け導く能力です。事業戦略と組織戦略の両方を考えながら、その都度講じるべき策を考えられる能力が重要になるでしょう。

―最後のひとつはどのようなことですか?

西田:最後の3つ目は、コミュニケーション能力です。事業戦略や組織戦略といった大きな枠組みを捉えることは重要な一方、やはり企業を支えるのは従業員個々人であるという意識を忘れてはいけないし、個人に寄り添うことを大切にしてほしいと思います。とくにカインズでは、1on1の実施を上司部下に加えてHRBPも行います。一人ひとりのことをよりよく理解し、向き合っていくのはHRBPの役割です。

―HRBPは事業部とも人事とも連携が必要なのですね。そうなると、いわゆる「板挟み」になるHRBPも出てきてしまうのでは?

西田:そうですね。まさに、板挟み状態で本来やるべきことを見失ったり疲弊したりしてしまうケースがよくあると思います。そういったとき、動くべきなのがCHROです。CHROの役割として、HRBPのサポートはマスト。板挟み状態を解消できるよう、動かなくてはなりません。

CHROとは:
Chief Human Resource Officerの略であり、企業における最高人事責任者のこと。

3.CHROの3つの役割

―HRBPの担うべき役割については、「事業部ごとの人事部長」として理解できました。CHROについては、いかがでしょうか。西田さんの考えをお聞かせください。

西田:先程挙げたように、HRBPのサポートなどもCHROがやるべきことですが、大きくはこちらも3つの内容に分けられると私は考えています。 まず、パーパス経営を意識した人事戦略のディレクションです。経営の向かう先に合わせて、人事戦略を策定する存在だといえるでしょう。たとえばカインズでは「DIY HR®*」という独自の人事コンセプトを掲げています。これらの策定や浸透策の検討、具体施策の実施に際したディレクションを担います。

―日々の人事業務にとどまらず、経営を意識する点も大きなポイントですね。2つ目はどんなことでしょうか。

西田:2つ目は、個人に寄り添いながら、企業と個人の目標のベクトルを合わせることです。これはHRBPにとって必要なこととも共通します。全体の戦略を描きながらも、一人ひとりの従業員とコミュニケーションをとることを疎かにしてはいけません。

―カインズは従業員数が約28,000人、店舗数228店舗とかなり大きな組織です。そのなかで個々人とコミュニケーションというと、かなり難しいことのように感じられますが……。

西田:そうですね。たしかに全員としっかり話をするのは難しい。しかし立ち話でもいいから、店舗へ自ら行き、直接話すことが大切なのではないでしょうか。店舗の社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーの方も、みなさんと話をするべきです。これを読んでいる方にも意識してほしいですね。店舗に本社の人が来ても店長としか話をせず、自分たちのことは見てくれない。そうなったとき、店舗で働いている人はどう感じるでしょうか? やはりモチベーションが下がりますよね。逆に、ちょっとでいいから「仕事どうですか?」と聞いてみる。すると、たとえばパートタイマーの方が「自分の仕事を知ってくれて、評価してもらえるのがやりがいだ」と話してくれるようになったりするものですよ。ちなみに、カインズではパートやアルバイトを含め、従業員の呼称を全て『メンバー』に統一しており、区別はしていません。

―ちょっとしたコミュニケーションを大事にすることで、CHROや人事部と、従業員との信頼関係はよりよいものとなっていくのですね。

西田:そう。経営層は、雲の上のような存在になってはいけないのですよ。最後の3つ目としては比較的カインズならではの役割だと思いますが、従業員が自分で課題を設定し、上質な問いが立てられる力をつけられるよう、サポートに力を入れています。

―指示された仕事や決められたキャリアにとどまらず、自分で自分の道を考えられる力、という意味でしょうか。

西田:そうですね。仕事やキャリアについて、自分が決められる、コントロールできる力をつけることが大事だと思います。その力を養うためのきっかけや情報を発信するのがCHROの大切な仕事です。

カインズ_西田氏③

4.まとめ

本記事では、HRBPやCHROとして求められる能力やその役割についてご紹介しました。最も重要なポイントとして、HRBPとは「各事業部における人事部長」であることは押さえておきたいポイントです。

HRBPとはこういうもの、と決めつけて、役割ありきの期待はしない。事業戦略や組織の状況に鑑みながら、そのときどきで「いま人事部長として行うべきことは」と問うていくことが重要です。

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 *DIY HR®は株式会社カインズの登録商標です。

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