DMM.comの人事制度で見る 「本当の事業貢献につながる人事」とは-前編-

合同会社DMM.com組織管理本部 人事部 部長の林氏をお迎えし、50を超える事業を展開する同社の人事の役割、その中でも特に組織のパフォーマンス向上に向けた取り組みについてお話しいただきました。今回は前編として、DMM.comの人事についての考え方や人事のミッションについてまとめたものをお送りします。

林英治郎氏

合同会社DMM.com
組織管理本部
人事部 部長

2008年、株式会社トライアンフにて複数業界の新卒 / 中途採用活動の企画~運用リードを経験。2012年、ソフトバンク株式会社にて採用、人事部担当人事、グループ会社の人事戦略設計に従事。2017年、DMM.com社長室にて人事制度設計、のちに人事部部長に就任し、人・組織で事業に貢献するための人事戦略の企画、実行全般をカバー。また、自社業務以外の活動で一般社団法人MATCH-UP!!を立ち上げ、人事領域の知見交換促進に携わる。個人として人事制度設計や人事領域アドバイザリーに取り組む。

DMM.comの組織について

DMMグループには50以上の事業があります。また、人事部のように「〜部、〜室」といったレイヤーでいうと70から80ほどあります。そのなかには動画や電子書籍などのデジタルコンテンツを販売している事業や、エンジニアが中心の組織、グループ会社では救急車や消防車をつくっている事業など、異なる分野でさまざまな事業に取り組んでいます。

多くの会社は1つのビジョン・ミッション・バリューで、会社全体を束ねていく、というのがセオリーとして語られることが多くあるように思いますが、DMMではそれぞれの事業が個別最適を追求すること自体は支援しながらも、結果として全体最適が実現されるように、基本的なフレームは整えながらも、ビジョン・ミッション・バリューなどについては、各組織の責任者が個別にみずから掲げることによって事業成長を強く推進していくことを良しとしています。

現在、創業から23年となり、売り上げは2,000億円超で会員数は3,000万人を超えています。DMM.comはさまざまな事業に積極的に挑戦していることから、当然ではありますが事業の改廃も多いという特徴があります。

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DMM.comにおける人事の事業貢献とは?

まず個人的にですが、事業とコーポレートの貢献は双方向で共依存のような関係性が社内認知として醸成されています。事業からコーポレートに貢献すること、コーポレートから事業に貢献することの両方が大切で、「双方向であることが望ましい」という感覚です。

話を人事部門に戻すと、貢献を考える際には短期・長期の時間軸を考えることは1つヒントになり得ると思います。例えば定量化しやすいものは短期の証明と相性が良いように思います。P/L(損益計算書)に寄与しているかどうかですね。ただしこれは会社によって判断が分かれますが、私個人としては事業部が必要とする採用・育成・退職マネジメントなどいわゆる「人事機能の最終決定権限」はやはり事業部の責任者が最終的には持つべきだと思っています。そうした考え方に立つと人事の貢献の仕方は事業責任者の意思決定にいかに寄与するかという切り口になるわけで、その事業部が進もうとしている方向をしっかりと捉えて、採用であれば「採用ターゲットや必要性についての会話や提案を通じて事業の定量成果につなげる」ことなんだと思います。

長期観点になりやすいものは定性的な成果であることが多く、例えば人材育成などが当てはまるのかなと考えています。企業成長にとって重要な職責を担うことができるであろう人材を、十分にパイプラインとして提供しつづけられているかどうか、ある時点で不足しているとしてもそこを増やすためのサイクルを回しつづけているかどうか。当社でいうと、重要な事業の責任者を担うレイヤー以上を十分に採用、もしくは育成できているかどうかを気にしています。まだまだ課題だらけであの手この手でがんばっています。こういった取り組みは定量的に測ることは難しいため、貢献できているか、間違っていないかを正しく捉えるためには経営層と認識を揃えることが必要だと考えています。

基本的な考え方は「勝ち筋を強化する」こと

私は人事の戦略や施策を考えるときに常に大事にしている考え方があるのですが、それは事業の「勝ち筋を強化できるかどうか」ということです。事業の継続的な成長を支えるような独自の強みを勝ち筋と表現していまして、それを強化できる施策をちゃんと実装していきたいと思っています。人材育成でもよくいう話ですが、弱みをなくすのではなく、強みを伸ばしていくことで弱みも解消されていく、という考え方に近いかもしれません。もちろん、根本的な課題になるような弱い部分についてはその解消が先になりますが、基本的に強みを伸ばしていくことが大切だと思います。

具体的に施策をどのように考えるか、組織能力という観点で整理してみるとわかりやすいかもしれません。DMM.comの事例をあげると、経営の方向や企業特性として、「基本的になんでもやる」ということや「事業の個別最適化を尊重する」といったことがありますが、中長期でそれが合理的であるかどうかは同時に実現していきたいものです。そんななか、基本的な人事の方針は、それぞれの事業が自律的に変化しつづけることを支援することだと考えています。自社の組織にどういう特徴があるのか、人事領域の意思決定の傾向なども把握しておくと、理想をどう現実に落とし込んでいくかがわかりやすくなると思います。代表が実質の人事権を握っているという会社もありますし、逆にほぼ人事に任せている、という会社もあるでしょう。会社そのものが急拡大していたり変化することをよしとしていたり、成熟していてプロダクトやサービスをしっかりと伸ばしていくことが求められる会社があるなど本当にさまざまです。その組織の特徴次第でやるべきことは変わると思います。


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人事と事業は相互に影響を与えあう関係であるべき

冒頭でお話ししたように、人事と事業はお互いに影響を与えあう関係が理想だと思っています。そのために、今経営が何を考えているか、経営の課題は何なのか、ということを人事が先回りをして考えたり、経営との距離を近づけるよう努力することはもちろん大切です。他方、経営や事業側が人事部門のメンバーを会議に参加させたり、事業の情報に触れさせることを積極的に行うことも非常に効果的な取り組みになり得ると私は思っています。

私の観測範囲にはなりますが、人事担当も経営もどちらもお互いに理解が足らず悩んでいるケースがあるように感じています。その時にありがちなのが、人事担当が健全な当事者意識から自分で努力して経営・事業へ歩み寄っていこうとしているという状況です。それ自体は良いことだと思うのですが、一方向ではなく双方向で歩み寄っている組織が強いと思います。

DMM.comにおける、人事のミッション・ビジョンについて

DMMには50以上の事業があります。生態系の集合体のような捉え方をしていて、それぞれにミッション・ビジョン・バリューがあります。人事のミッションは、「事業に貢献すること」と、非常にシンプルです。人材開発ポリシーは、「従業員一人ひとりの意欲と能力が最大限発揮できる状態を実現すること」です。個別の事業が個別最適を追求することを後押しするのが大前提で、そのうえで結果として全体最適が実現されるように、ルールではなくガイドラインやフレームを準備するイメージですね。

ビジョンの表現の仕方は各会社によってそれぞれかとは思いますが、私は「変わらないあり方」という解釈をしていて、「ベストプラクティス」「自律的な課題解決」の2つを掲げています。

何年後のマイルストーンのようなビジョンを設定することが必ずしもしっくりこない部署もあるので、あり方としてずっと追求しつづけたいことを自分たちで試行錯誤して人事施策に取り入れていくことや、自組織に留まらず部門を横断する課題であっても全社視点で解決するべきものと捉え、協働していくことが大切だとメンバーには伝えています。

人事観点で考える、組織の成長モデル

人事の各機能がどう連携しているのかという議論はDMM.comでもあり、このような図でメンバーに示しています。

事業貢献しよう、という話は前提として、人事が各事業とどうつながっているかということをメンバーに説明するためにまとめた資料なのですが、これを見ていただくとわかるように、採用があって育成があって制度があって労務があるところに、ビジネスパートナーとデータアナリティクスが広範に関与して、結果的に従業員の挑戦が増える。そうして意欲と能力が最大化されて事業成長を実現する。そんな理想を実現するような取り組みを今後も展開していきたいと思っています。

まとめ

  • 事業側から人事に貢献することも、人事側から事業に貢献することも両方大切。
  • 人事施策を考えるときに重要なのは「事業の勝ち筋を強化する」ことにつながるかどうか
  • 根本的な課題になるような弱みは解消するべきだが、基本的には強みを伸ばすアプローチを重視する

後編ではより詳細に

  • DMM.comの制度設計について
  • 人事の各領域にある下敷き
  • 重要なポジションにおける後継者育成の重要性

について詳しくお伺いしていきます。

※各種データや肩書はイベント実施時点のものです。

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DMM.comの人事制度で見る、「本当の事業貢献につながる人事」とは-後編-

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