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CHROとは、Chief Human Resource Officer。日本語で、最高人事責任者のこと。単なる人事管理業務を行うだけでなく、経営を行う一員として、経営戦略と人事戦略に携わります。今回お話を伺ったのは、Visional株式会社でCHROを務めている三好加奈子さん。CHRO、あるいは経営視点を持った企業人事が担うべき役割や、大切にするべきスタンスについて教えてもらいます。
三好加奈子氏
Visional株式会社 CHRO
京都大学卒業後、三菱商事株式会社に入社。2005年、ハーバード・ビジネス・スクールに留学。Coach Inc.ニューヨーク本社、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社を経て、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツで、幹部人材のサーチなどに従事。2013年にファイザー株式会社に入社し、人事企画、HRBPを経て、人事オペレーショングループ部長に就任。2019年、株式会社ビズリーチに入社。2020年2月、現職に就任。
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Visionalを、3,000名規模になっても成長しつづけられる企業へ
―三好さんは新卒で三菱商事入社、その後もラグジュアリーブランドや製薬会社など、さまざまな企業をご経験されていますね。どのような経緯で、現在のような人事にまつわる仕事に携わるようになったのか。最初に伺いたいです。
三好:人事の仕事に興味を持った大きなきっかけは、ハーバードのビジネススクールで学んだ経験からです。ビジネススクールのケーススタディでは、経営者の意思決定が事業や組織の成長にとって大きな影響を及ぼすことを実感しました。リーダーとはどうあるべきか。どのようにしてリーダーとなる人材を育成するべきか。そういったことを強く考えるようになり、人事やキャリア教育に興味を持つようになりました。
―Visionalへの入社はどのようなことがきっかけでしたか?
三好:現場での事業づくりの経験があり、人事としての専門性も持つ人を探している企業があると、知人からVisional(当時はビズリーチ)を紹介してもらったことからでした。CHROのポジションを探していたというよりは、人事に関する課題が山積しており、解決できるスペシャリストを探しているといったものでした。
―どのような課題があったのですか?
三好:課題を挙げるとキリがないのですが、例えば、当時のVisionalは従業員数が1,000名を超えていましたが、その成長に人事制度の枠組みが追いついていない状態になっていました。企業の規模が大きくなり、組織の課題も変わっているにもかかわらず、人事制度は組織規模が500〜600人くらいの頃につくった制度を現場の実態に合うように運用でカバーしているという状況でした。個別のケースにはなかなか対応できず、結果として従業員や組織の成長を必ずしも後押しできない人事制度になっていました。私のミッションは「Visionalがここから3,000名の規模になっても成長しつづけられる組織にするために、兼ね備えておくべき人事・労務基盤を整備すること」でした。
例えば、組織が大きくなると、おのずと管理職も従業員も増えますが、人事制度に現場の運用でカバーする部分が多いと、評価への納得感の醸成が難しくなります。従業員の成長を加速させて、新規事業を次々と生み出し、事業の非連続な成長を促すこと。私たちが「Visional Way」として掲げているグループミッションである「新しい可能性を、次々と。」を体現するためには、「期待し、任せる」という思いを込めた役割等級制度に変える必要がありました。
CHROは、組織の文化をつくり、守る役割
―一例として人事制度改定を挙げていただきましたが、組織の基盤を整えることが三好さんのミッションだったのですね。あらためて、CHROとは組織の中でどのような役割を担うべきか。今日は三好さんの考えるCHROについてお聞きしたいと考えています。
三好:あくまで、私の考えるCHROの役割ですが、広くは「企業における長期ビジョン・戦略実現のための盤石な人事基盤をつくること」だと考えています。これをもう少しわかりやすくすると、大きく3つの要素に分けることができます。
―では、1つずつお伺いしたいです。
三好:まず「企業文化をつくり、その文化を守ること」です。文化は、その企業の価値基準と言い換えてもいいかもしれません。先ほど申しあげたミッション・バリューであるVisional Wayが従業員それぞれのDNAに根づいている状態にしていかなければなりません。
―価値基準が従業員のDNAに根づいているとは、どういう状態でしょうか。
三好:Visional Wayを、社員が正しく暗記しているかどうかは重要ではありません。重要なのは、意識しなくても価値基準に従った行動ができること。Visional Wayの価値基準に納得し、価値基準にもとづいた行動を主体的にできるように促していく必要があります。
―従業員が価値基準を体現できるようにするには、どのようなことが必要なのでしょうか?
三好:いくつかポイントはありますが、まずは採用です。採用要件として、組織の価値基準へフィットしているかを判断しなければなりません。それから従業員に模範を示すという意味で、経営層ほど価値基準に沿った行動をすることも大切です。
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―具体的にはどういうことでしょうか?
三好:例えば、「価値あることを、正しくやろう」というバリューがありますが、日々の行動レベルでガイドラインとして明示しようとすると、細かいルールで縛ることになってしまいます。禁止事項が多く生まれ、プロセスが厳しく指定されるようになる。それでは、窮屈な組織になっていき、また一人ひとりの従業員が自分で判断する機会を奪ってしまいます。そうではなく、価値基準の認識が共有されていて、体現できている具体的な事例から学ぶのが望ましい。組織内で多くの人は、上司や先輩をお手本に行動したり、どういう判断をすべきか相談をするでしょうから、上司や先輩が意識して価値基準を体現することが大事だと思います。
―組織のトップが価値基準を体現できていれば、経営層がそれに倣い、マネージャー層も倣い、と波及していく。
三好:まさしく。価値基準を体現している人が決裁権を持っている状態は理想的です。価値基準に従った意思決定が行われるため、社内外の施策が価値基準と一貫した考え方で行われることになりますよね。
―そう聞くと、組織は経営層によって、まったく異なるのだなとあらためて感じます。
三好:本当にそうです。組織はトップ次第で変わります。上司ができていないことは、部下もできません。だからこそ、まずは、マネジメント層、マネージャー層の中で、価値基準を体現しているとはどのような状態なのか、議論してみてほしいと思います。体現できている人を、上位層から増やしていき、組織の大多数が価値基準を体現できている状態を目指していくことが最初のステップになると考えています。
全員が価値基準に従うことで、一人ひとりが自律したビジネスパーソンに
―大多数が価値基準を体現できている状態であれば、細かいルールなどで縛らなくとも、一人ひとりがどう行動すべきかおのずと理解できるようになると。
三好:ええ。言葉やルールで細かく規定するよりも、体で覚える感覚に近いかもしれませんね。それくらいになれば、文化が浸透している状態だと言えるのではないでしょうか。そうすると、組織にいる一人ひとりが自ら価値基準に則って、日々の判断を行えるようになります。
―価値基準が共有されていない状態だと、「上司に聞いてみないとわからない」「マニュアルがないからどう判断してよいかわからない」なんてことになりがちですよね。
三好:それでは、いつまで経っても自律的な人材は育ちません。価値基準に、私たちであればVisional Wayに沿った判断を皆ができるようになることが必要です。そうすれば、各自がその場その場で判断できるため、事業成長のスピードも上がるうえに、若手や社歴の浅い人でも自らチャレンジする場面での助けになります。
―1人のビジネスパーソンを育成していく過程でも、価値基準は大切なのですね。
三好:学んだ価値基準は、その後Visional以外の場所に移ったとしても、ビジネスパーソンとしての重要な指針になると思います。社内でも社外でも信頼できる人財を育てていくのは、Visionalとしていつも大切にしている点ですね。
CHROは、ときに経営の防波堤となるべき
―経営層から入社1年目まで、同じ価値基準を一貫して共有することが大切なのですね。
三好:経営層が組織の価値基準と異なる行動や指示を出していたら、従業員は混乱しますよね。一貫しているということはとても大事なんです。一貫性が大切なのは、組織内に限りません。時間軸でも大切です。
―時間軸、ですか。
三好:今何らかの意思決定を行うべきとき。その決定は、過去の施策や決定と一貫していなければならないし、今後未来の意思決定にも影響するのだということを忘れてはならないのです。
―未来への影響も考えながら、現在の意思決定をするのは、忘れがちなことですね。
三好:CHROの役割を「企業の文化をつくり、文化を守ること」として説明しましたが、その「守る」方ですね。組織とは、成長途上にあるとき、ポジティブな意思決定をするうえではみんな「いいね、いいね」と反対もなく意思決定をしやすいと思います。一方で、そのようなときであっても、リスクなどを考慮して、難しい意思決定をしなければならない局面もあります。ある種、難しい局面でブレーキを踏むのはCHROの役割の1つでもあります。今の意思決定が未来にどう影響するのか、冷静に示していく必要があると考えています。
―なるほど。CHROには、守りの役割があるのですね。
三好:守りができるかどうかは、CHROとして重要な資質ですね。本来はCHROに限らず、組織のCxOは皆、守りの意識をどこかには持っていると思います。しかしCHROはとくに、文化をつくり守っていく存在として、経営の防波堤として意識する必要があると思います。そのミッションに対して、強い信念と高い価値基準を持っていなければなりません。
―経営の防波堤として、経営者へ意見する場面もありますか?
三好:もちろんあります。むしろできなければならない。最終決定を行うのは経営者かもしれなくとも、中長期的な視点で文化醸成にとってどのようなリスクがあるか、影響があるか。考えを議論のテーブルへ載せることができるのが、健全な組織です。バランスを意識しなければなりませんね。
まとめ
Visional CHROに聞く、CHROの役割。前半では、組織の文化をつくり、守ることの重要性についてお伺いしました。後半ではさらに、CHROの役割について詳しく聞いていきます。
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【Visional/三好氏】企業人事とCHROの理想像-後編-
【事例紹介】ラクスルのHRBPの事例はこちら
ラクスル社の事例から紐解く、HRBPの役割とは-前編-