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コーチングといえばスポーツの場を連想する方が多いかもしれませんが、ビジネスの現場でも注目されており、多くの企業が導入を進めています。
その一方で、ビジネスにおけるコーチングはまだまだ発展途中ということもあり、種類が多く煩雑で、その研究は完璧とはいえません。そこで本記事では、従業員のエンゲージメント向上や自制の充足感の改善など、ビジネスからプライベートに至るまで、さまざまなシーンで注目されるコーチングについてわかりやすく解説していきます。
ティーチングやカウンセリングとの違い、コーチングを応用した技法に至るまで、ビジネスに生かすための要点をまとめてご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
コーチングとは?
まずはじめに、ビジネスの現場におけるコーチングについて解説していきます。
ビジネスにおけるコーチング
コーチングといっても、その定義が明確になされているわけではありません。現代ではスポーツをはじめ、教育や医療、ビジネスなどの幅広いシーンで活用されるコーチングは、その発展の中でさまざまな定義がされてきました。
ビジネスにおけるコーチングは「従業員の自発的な行動を促し、リーダーシップを育て、組織の目標を達成させること」です。
ビジネスコーチングでは、主に上司が部下に質問を投げかけ、部下自らが考えて答えを出していくのが特徴です。また、ビジネスコーチングでは、外部から専門のコーチを雇い、コーチングを実施するケースもあります。
スポーツにおけるコーチングは、より勝敗を意識するため、技術指導が中心になります。一方で、コーチが選手に質問を投げかけながらパフォーマンスの最大化を目指すという点では、スポーツにおけるコーチングもビジネスコーチングと共通しています。
医療現場においては、より専門的な知識や技術を前提としたコーチングが必要となるほか、患者に対するコミュニケーションの技法としても活用されます。例としては、生活習慣病を予防するための対策や骨折などの機能障害からのリハビリテーションなどが挙げられます。
コーチングの目的と効果
ビジネスシーンにおけるコーチングの目的は、人材育成や目標の達成です。コーチングを実践することで、従業員のリーダーシップを育て、自発的な行動を促すことが可能です。
例えば、部下は上司の指示通り動くだけでよければ、指示待ちの従業員が増えることが予想できます。またその場合、上司が不在のときには業務の遂行が困難となるでしょう。
コーチングを実践して従業員のリーダーシップを育てることで、従業員が自ら考え行動する意識の醸成が可能です。人材育成のコーチングとして有効なのが、上司と部下による1on1のコーチングです。
1on1では、主に部下と上司が1対1で面談を実施し、目標の進捗状況の確認やキャリア実現のサポートをしていきます。上司と部下の信頼関係の構築や、従業員の能力を最大限引き出すことができるとして、多くの企業で導入が進んでいる人材育成方法です。
1on1の効果的な実践方法については、こちらの記事もご覧ください。
コーチングの起源と歴史
コーチングには、さまざまな系譜が存在しており、明確な定義はありません。
コーチングの「コーチ(Coach)」とは馬車のことであり「目的地まで送り届ける」といった意味があります。
コーチという言葉は1500年代から使われるようになり、はじめは大学の教授を指していました。その後1880年代から、スポーツ界で選手に指示を与える人をコーチと呼ぶようになります。マネジメントの手法として使われるようになったのは1950年代になってからです。
また、1970年代に入ると、指示をするコーチングから、問いを投げかけ、選手に考えさせることによってパフォーマンスを改善するコーチングスタイルが確立します。
現代に至るコーチングの根底にある「問い」によるコミュニケーション手法のはじまりといえるでしょう。日本では1997年に初のビジネス向けのコーチ養成機関が設立され、コーチングが職業として確立していきます。
コーチングの資格
ビジネスにおけるコーチングは民間資格のみであり、その種類や資格の取得方法もさまざまです。また、民間資格であることから、コーチングを職業とする場合でも取得は必須ではありません。
具体的には、主に以下のようなコーチングの資格があります。
- アソシエイト認定コーチ(ACC)
- プロフェッショナル認定コーチ(PCC)
- マスター認定コーチ(MCC)
- GCS認定コーチ(銀座コーチング資格)
- JADP認定ビジネスコーチ
- 生涯学習開発財団認定コーチ資格
民間資格とはいえ、コーチングの資格を取得することで、コーチングに必要な要素を体系的に学んだ証明となります。一方で、コーチングを外部に委託する場合には、その資格が十分な研修のもとで与えられるものかどうかを確認するようにしましょう。
コーチングとティーチングの違い
コーチングと似たコミュニケーション技法として、ティーチングというものがあります。ティーチングとは「教える」ことです。
コーチングとの最大の違いは、答えや方法を教えるのか、または自ら考えさせるのかの違いです。具体的には「やったことがない」「やったことはあるけど自信がない」場合には、相手に答えを教えるティーチングが最適です。
一方、業務の経験があり、遂行する自信のある従業員に対しては、コーチングをして答えを自ら考えさせることでさらなる能力開発が期待できます。コーチングとティーチングはそれぞれ目的が異なるため、使い分けることが大切です。
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コーチングスキルと技法
ここからは、コーチングに必要なスキルと技法をご紹介していきます。
傾聴力
1つ目にご紹介する「傾聴」は、コーチングのスキルのみならず、多くのシーンで重要なスキルです。
「傾聴」とは、ただ相手の話を「聞く」のではなく、相手の発言の本質や背景までを意識して「聴く」ことです。経済産業省が提言している「人生100年時代の社会人基礎力」における要素としても含まれており、チームで働くための大切なスキルとされています。
傾聴の具体的なスキルは以下の3つです。
- 耳で聞く:相手の発言を否定せずに最後まで聞く
- 目で聞く:相手の表情や姿勢、声の調子などに注意を払う
- 心で聞く:相手の言葉の背景にある感情を受け止め、共感する
相手の表情や声の調子も同時に観察することで、発言からは得られない情報を手に入れることができます。また、相手の発言は最後まで聞き、結論を促さないのもポイントです。自分の意見を横に置き、相手の言葉や態度を「聴く」ことが求められます。
質問力
コーチングに求められる2つ目のスキルは「質問力」です。コーチングでは、相手に答えを教えたり、アドバイスしたりはせず、相手の中にある答えを引き出します。
そのためには、知りたい情報を聞くのではなく、相手の視野を広げ、自身の価値観を客観視できるような質問をすることが大切です。質問を通して相手が発言する機会を与え、自ら考えて答えを出していくようにするのがコーチングにおける質問力といえます。
コーチングのステップや目的によって使う質問は異なります。一例をご紹介します。
テーマを決める質問 | どういうテーマでコーチングを進めていきたいですか?今日は何について話したいですか? |
目的を決める質問 | なぜそれがそんなに重要なのですか?その目標を達成すると、将来にどんな影響がありますか? |
現状を把握する質問 | 目標達成した状態を100点だとすると、現状は何点ですか?目標を達成するうえで、何か障害になっていることはありますか? |
視点を変える質問 | 何でもできるとしたら、目標を達成するためにどうしますか?相手の立場から自分を見つめてみるとどう感じますか?その短所を、長所に言い換えることはできますか? |
他の選択肢に気づかせる質問 | ほかにどんなやり方が考えられますか?1億円が手元にあってもそれをしますか? |
行動を促す質問 | 決めたことに対し、今できることはありますか?誰の協力が必要ですか?いつからはじめますか? |
承認力
3つ目にご紹介するコーチングのスキルは「承認力」です。コーチングにおける「承認力」とは、相手の存在をありのまま認め、伝えるスキルのことを指します。
「承認力」ではただ結果を褒めるのではなく、相手の成長や変化そのものを肯定して伝えるのがポイントです。
具体的な承認には以下の3つがあります。
存在承認 | 声をかける(おはよう、元気?)相手を名前で呼ぶ変化を伝える(髪を切りましたね、明るくなったね、表情が暗いけど何かあった?) |
行動承認 | 資料まとめてくれたんだね大きな声で挨拶していますね会議で積極的に発言していますね |
結果承認 | 今期の目標を達成できましたね営業での契約率が20%上がりましたね先月は新規獲得率が10%上昇しましたね |
注意したいのが、褒めることは相手に不必要なプレッシャーを与える恐れがあるということです。例えば、「さすがだね。いつも期待しているよ」という言葉は、「絶対に失敗できない」という過度なプレッシャーになり得ます。
このリスクを抑えるためには、部下の努力や仕事との向き合い方など、具体的な相手の行動を示して承認するのがポイントです。
また、承認は、行動があったその時にタイムリーに伝えましょう。業務開始前に出勤して今日の仕事の段取りをしている部下がいれば、「いつも早くきて、仕事の整理しているのはいいことだね」などと具体的にかつその場で伝えることで、上司は細かいところまで見ていてくれている。とモチベーションも信頼感も上がるでしょう。
コーチングのステップ
コーチングを実際に行う際のステップは以下の通りです。
- ラポール形成
- 目標設定
- 現状分析
- 行動計画立案
- フォローアップ
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
ラポール形成
コーチングの1つ目のステップは、ラポール形成です。
ラポールとは心理学の用語で、安心して相手に考えや感情を伝えられる状態のことをいいます。
ラポール形成が不十分で、相手が正直に話してくれないと、相手の価値観を見出すことができず、効果的なコーチングができません。そのため、ラポール形成はコーチングの成否を決めるとされるほど、重要なステップとされます。
ラポール形成のためには、以下の2つの行動が重要です。
- かかわり行動
- 傾聴
かかわり行動とは、相手の話に興味を示すことです。具体的には、相手の目を見て話を最後まで聞くことを指します。また、姿勢や声の調子に注意を払い、相手が話しやすい環境を作ることも大切です。
目標設定
コーチングの流れ2つ目は、目標の設定です。
目標とはあるべき姿ともいえます。あるべき姿と現状のギャップを埋めることが、コーチングのポイントとなるため、目標の設定はより具体的である必要があります。
目標を対象者のみに考えさせると、過去の経験や考え方の癖によって、適切な目標の設定ができない可能性も否めません。そのため、コーチングの際は、対象者が気が付かない視点からの質問をすることがポイントです。
コーチングでは、コーチングをする人をコーチ、コーチングを受ける人をクライアントと呼びますが、クライアントが答える目標を鵜呑みにしてはいけません。
クライアントがそれを目標とする意図を引き出していくことが大切です。つまり、クライアントが「フルマラソンを走りたい」と言っても、その背景に「健康でありたい」という意図があるなら、コーチングでは「健康でありたい」という目標を設定するべきということです。
<関連記事>SMARTの法則とは?具体例、目標設定のポイント、メリットを解説
現状分析
信頼関係を構築し目標を設定したら、次は現状分析を行います。
現状分析では、目標で定めた「あるべき姿」から見たときに、現状とどれくらいの乖離があるのかを理解します。
つまり「あるべき姿」と「現状」のギャップを把握することで、次に何をするべきかを明確にさせる手順といえるでしょう。
また、現状分析では、目標達成までの道のりのうち、自身がどこにいるのかも明確にさせます。そうすることで、現在の自分を取り巻く環境や目標達成までの障害が明確になり、行動計画を立てることが可能となります。
行動計画立案
コーチングのステップ4つ目は、行動計画の立案です。
目標に到達するために「いつ」「誰が」「何を」するのかを決めていくステップを指します。
まずは現実的に可能かどうかではなく、理想的な行動計画を出していきましょう。このとき、正しい行動を決めるのではなく、なるべく多くの行動案を出して選択肢を増やしていくことがポイントです。
理想的な行動計画を複数出したら、現実的に実行可能かどうかを確認していきます。また同時に、具体的な評価基準についても決めていきましょう。
行動計画の立案が完了したら、本人に意思の確認をしてから取り組んでいきます。
フォローアップ
行動計画の立案をしたら、定期的に目標達成のためのフォローアップを行います。
フォローアップの目的は、進捗状況の確認と、行動計画の障害となっている事象を把握することです。コーチングを成功させるには、定期的なフォローアップが欠かせません。
行動計画の進捗確認とそれまでの行動に対する評価を実施し、改善を促していきましょう。また、目標達成の障害となるものを取り除いたり、行動計画の見直しを実施したりするなどの活動も重要です。
定期的にフォローアップを実施することで、モチベーションの維持にもつながります。フォローアップの終わりには、目標達成に対する本人の意志を再確認することも忘れないようにしましょう。
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ビジネスシーンにおけるコーチングの活用
ここからは、ビジネスシーンで実際に活用できるコーチングについて解説していきます。
マネジメントコーチング
マネジメントコーチングとは、組織の目標達成やリーダーシップの向上などに焦点を当てたコーチングの技法です。主に管理職である上司が部下に対して行います。
マネジメントコーチングを実施することで、リーダーシップのある前向きな部下を育てることが可能になり、組織の業績向上とパフォーマンス改善が可能です。
マネジメントコーチングでは、部下に具体的な指示を出す命令型のマネジメントとは異なり、部下に考えさせて問題解決を図ります。
部下は成功や失敗を繰り返しながら、自分で課題を解決するスキルを身につけていくことが可能です。上司の経験や勘による課題解決に頼る場合、先が見えない現代においては、ビジネス環境の変化に追いつけない恐れがあります。
経験したことのない課題を解決するためには、原因を追求し、解決までの道筋を立てる能力が必須です。また、どんな課題も必ず解決できるという前向きで強い意思も求められます。
マネジメントコーチングを実施することで、経験や勘に頼ることなく、自ら考え解決する能力を育てることができるでしょう。
キャリアコーチング
キャリアコーチングとは、主に就職や転職の際に、クライアントの価値観を明確にして、望むキャリアを歩むために利用されるコーチング技法です。具体的には、自己分析やキャリア設計などのサポートを指します。
しかし、キャリアコーチングは、組織内における定着率や職務満足度の改善にも役立てることが可能です。
従業員の価値観を明確化させ、組織の役割と関連付けることで、仕事への納得感が増し、人材の定着率を向上させることができます。
また、人事としては従業員の価値観やキャリア像を理解することで、本人の意向に沿った人材配置を行うことも可能です。従業員が望む仕事をすることで、職務満足度が上がり、パフォーマンスの向上も期待できるでしょう。
チームコーチング
チームコーチングとは、少数の集団(チーム)の成長と発展を促すためのコーチング技法のことです。チームコーチングを実施することで、複雑な問題や環境の変化に柔軟に対応する強いチームを作り上げることができます。
また、リモートワークや時短勤務などの働き方の多様化によって、分散してしまったチームの結束力を再びまとめ上げることが可能です。先が見通せない現代においては、個人の能力と同時に組織の強さが求められており、チームコーチングの重要性も高まっています。
変化の激しい時代で生き残るための適応能力や問題解決能力を身に着け、組織全体を強化することができるチームコーチングは、今後ますます重要性が高まっていくでしょう。
コーチングのロールプレイング演習
ここからは、コーチングのロールプレイングについて解説していきます。
ロールプレイングの目的と効果
ロールプレイングの目的は、より実践的なスキルを身につけることです。
コーチングは、相手に答えを教えるティーチングとは異なり、相手の内面にある価値観や考えを引き出し、自発的に答えを導き出すコミュニケーション手法です。
答えや方法を教えるティーチングでは必要とされない「傾聴力」「質問力」「承認力」を身につけるためには、学習だけでなく実践が大切になります。ロールプレイングを実施することで、実際のコーチングを体験することができ、これらの技術を実践形式で学ぶことができるでしょう。
また、ロールプレイングでは相手からフィードバックを得ることができるため、自身の強みや弱みを把握することも可能です。
ロールプレイングの基本的な進め方
ロールプレイングは、以下のステップに沿って行うのが基本です。
- ロールプレイングの目的を説明する
- ロールプレイングのシーンを説明する
- 実践方法や注意点を解説する
- 実践とフィードバックをする
- 全体の振り返りをする
ロールプレイングでは、ラポール形成や傾聴などの特定のスキルを習得することを目的としましょう。コーチングには多くのスキルが必要なため、一度で全てをマスターすることは難しいです。
また、業務に関係のあることをシーンに設定することで、より実践的なロールプレイングができます。
ロールプレイングをした後は、フィードバックをすることで、参加者の理解を促すことが可能です。ロールプレイングが終了したら、振り返りとして、学んだことを発表することも参加者に気づきを与えます。
コーチ役とクライアント役の事例
コーチング役とクライアント役の事例としては、上司と部下というケースが多いでしょう。
上司と部下とはいえ、必ずしも年功序列とは限りません。同年代や年上の部下を持つケースは多く見られます。
自分より年齢も上で経験もある人材を部下として持つ場合、うまく活用できずに課題を感じている若手管理職は多くいます。
ロールプレイングでは、実際に組織内で課題視されていることを取り上げるのがポイントです。上記の例でいえば、年上部下との関係性の構築方法や期待する役割を伝える方法を、ロールプレイングを通じて学ぶことができるでしょう。
コーチングスキル向上のためのトレーニング方法
コーチングのスキルを向上させるためのトレーニング方法について解説していきます。
セルフコーチング
セルフコーチングとは、自分の内面と向き合うコーチング技法です。身近な例では、自己分析や日々の振り返りなどもセルフコーチングといえます。
優れたコーチの多くは、内省を繰り返しながら自身のコーチングを改善させていることがわかっています。また、コーチングでは、コーチ自身が自己理解を深めていることも大切です。
コーチが自身の価値観や考え方を理解していないと、コーチングでの偏ったアプローチや自身の価値観で相手を判断してしまう恐れがあります。セルフコーチングをすることで、自身の考え方の癖を把握でき、自身の価値観にとらわれないコーチングのスキルが身につくでしょう。
コーチには主観的な判断は求められず、常に客観的に相手を見つめ、導くことが大切です。時間や場所を問わず自分だけでできるのもセルフコーチングの特徴といえます。
ピアコーチング
ピアコーチングとは、お互いに対等な、横のつながり(ピア)同士で行うコーチングを指します。ピアコーチングは同僚と行えるため、上司とのコーチングよりも心理的に実施しやすいのが特徴です。
コーチとクライアント双方の役割を担えるため、お互いの能力や考えを効果的に引き出すことが期待できます。また、心も打ち解けている同僚なら、お互い感情を表に出しやすく、正直に話し合うことができるでしょう。
さらに、共に学び合う機会の提供につながるのも、ピアコーチングの特徴です。ピアコーチングによって目標とする同僚が生まれ、お互いに切磋琢磨する環境を作ることもできます。
スーパービジョン
スーパービジョンとは、コーチ自らがコーチングのプロから助言をもらうことを指します。コーチ自身がフィードバックを受ける機会は非常に少なく、コーチングの上達はその人のスキルや人格に頼ってしまうことが多いです。
スーパービジョンでは、自身が実際に担当したケースを報告し、その過程について指導やアドバイスを受けることができます。
コーチングの現場では、よい関係を築けていると思っていたなどの「勘違い」が発生する恐れも否めません。そのようなコーチングにおける勘違いを未然に防ぐことができることも、スーパービジョンの特徴です。
スーパービジョンをすることで、コーチングのプロである第三者から客観的なアドバイスをもらえるため、自身のコーチングの癖を見直し、コーチングのスキルを高めることができるでしょう。
コーチングの応用と発展的な技法
ここからは、コーチングのロールプレイングの応用と発展的な技法について、詳しく解説していきます。
ソリューション・フォーカスト・アプローチ
1つ目にご紹介する技法は、ソリューション・フォーカスト・アプローチです。
日本では、解決志向型アプローチとも呼ばれ、コーチングに応用することができます。
ソリューション・フォーカスト・アプローチでは、問題を単独ではなく、さまざまな相互関係の中で起こるものと理解し、解決に導いていきます。
以下の3つがソリューション・フォーカスト・アプローチの基本の考え方です。
- うまくいかないなら継続させない
- うまくいったなら継続させる
- うまくいかないならそれを継続せずほかのことをさせる
相手の理想の状態を把握し、強みを拡大させてサポートすることで、課題の解決を図ります。
また、原因を探るのではなく、これからどうしていくかを話し合う未来志向という点もソリューション・フォーカスト・アプローチの特徴です。
ナラティブコーチング
コーチングの応用的な技法2つ目は、ナラティブコーチングです。
ナラティブコーチングは、相手の人生を物語と捉え、その物語をよりよい方向に導いていくコーチング技法です。
物語として自身の人生を語ることで、自分の考えや感情を言語化し、客観視することができます。また、今まで語ってこなかった人生の物語を語ることは、自己の潜在性への気づきをもたらすと考えられます。
ナラティブコーチングでは、相手の発する言葉に注目します。同じことが起きても人によってネガティブに捉えるかポジティブに捉えるかは変わります。つまり、本人の状況がどうであれ、ネガティブな物語を語っていれば、それは成長にとってマイナスの影響を及ぼすということです。
ナラティブについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
<関連記事>ナラティブとは?ナラティブアプローチやマーケティングの事例を含めて分かりやすく解説
コーチングの課題と限界
人材開発や組織の目標達成に効果的なコーチングですが、万能ではありません。ここからは、コーチングの課題と限界について解説していきます。
コーチングが効果を発揮しにくい状況
コーチングが効果を発揮しにくいケースは以下のとおりです。
- 短期間での成果を求める場合
- 業務の熟練度が低い場合
- コーチとの相性が悪い場合
コーチングは長期的な視点で対象者の目標達成をサポートする取り組みのため、短期間で成果を求める場合には向いていません。また、業務の熟練度が低い場合には、すでにご紹介のとおり、やり方や答えを教えるティーチングが向いています。
コーチも1人の人間であるため、相性によってはコーチングの大前提である信頼関係の構築が困難な場合もあります。とくに、上司と部下の関係でコーチングを実施する際は、上司が信頼できない可能性も十分にあるでしょう。そのため、日々の業務においてコミュニケーションを取ることはもちろん、人としても信頼できる言動を意識することが大切です。
コーチングとカウンセリングの使い分け
コーチングと似たコミュニケーション技法にカウンセリングがあります。
両者はアプローチ手法が非常に似ているため混同されがちですが、それぞれ目的が異なります。
目標を達成することを目指すコーチングに対して、カウンセリングとは精神的な不調を健全な状態にリセットするためのコミュニケーション技法を指します。
つまり、コーチングは将来の目標達成のために行い、カウンセリングは過去から原因を探り、現在の問題を解決するものということです。また、コーチングではクライアントを軸に話を進めていきますが、カウンセリングではカウンセラーが回答を提案し、話をリードしていきます。
コーチングの今後の展望と可能性
スポーツだけでなく、ビジネスにおいても注目を集めているコーチングは、近年研究が進みつつあります。ここからは、コーチングの今後の展望と可能性について見ていきましょう。
AIとコーチングの融合
AIの発展によって、AIとコーチングの融合である、AIコーチングというサービスが注目を集めています。人間中心のコーチングでは、コーチとの相性や時間的制約が課題となるケースがあるのも事実です。
AIを活用することで、時間や場所の課題を解決できるほか、人には言いにくい悩みを伝えやすくなるなど、AI特有のメリットがあります。また、AIでは主観が働かないため、より客観的にユーザーの行動特性や思考、感情を分析することが可能です。
一方で、人間のコーチングによる共感や深い洞察にはまだ及ばない部分もあり、今後のAIの進化に期待が寄せられています。
グローバル化に対応したクロスカルチャーコーチング
グローバル化や多様性によって、異なる文化や背景を持つ人材との関係構築が必要な場面が増えてきました。
そこで注目されているのが、クロスカルチャーコーチングです。クロスカルチャーコーチングとは、異文化間でのコーチングのことを指します。例えば、日本では当たり前の「報連相」も、国によっては「自分は信頼されていないのではないか」と受け止められることもあるのです。
育ってきた文化が異なれば、価値観や考え方も当然異なります。そのような違いを認め、向き合いながら着地点を探すのがクロスカルチャーコーチングのスキルです。
ウェルビーイングとコーチングの関係性
WHO(世界保健機関)によると、ウェルビーイングとは「身体的、精神的、社会的に満たされた状態」のことを意味します。また、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンによって提唱されたウェルビーイングに欠かせない要素としては、以下の5つがあります。
- Positive Emotion(ポジティブな感情)
- Engagement(何かへの没頭)
- Relationships(他者との関係性)
- Meaning(生きる意味)
- Accomplishment(達成)
コーチングの本質は自身の価値観を理解し、自己実現や課題解決によって、より幸せな生活を送るサポートをすることです。コーチングを通してポジティブな感情を創出し、自己実現のための行動を促し、人生の達成感を充足させることで、ウェルビーイングに必要な5つの要素を満たすことが期待できます。
まとめ
今回は、コーチングの基本的なスキルから応用的な技法を解説してきました。スポーツに起源を持つコーチングは、今やビジネスシーンにまで広がっており、人材育成や組織の強化に役立つ技法として注目されています。
また、従業員同士のコーチングであるピアコーチングや、自身でできるセルフコーチングなど、コーチングの技法は幅広く応用できるのもポイントです。
一方で、短期間で成果を出したい場合や、業務の熟練度が低い場合には、コーチングの効果を発揮できないことに注意しましょう。
コーチングを実践することで、個人のスキルアップからチームワークの強化が可能です。ぜひ本記事を参考にして、コーチングを取り入れてみてください。
コーチングで得られたキャリア観とタレントマネジメントの併用でさらなる人材強化を
タレントマネジメントでは、従業員情報を一元管理し、従業員一人一人のスキルを数値で可視化することができます。従業員のスキルが一目で把握できるため、上司やコーチの感覚に頼らない、効果的な人材育成が実現できます。
また、タレントマネジメントシステムを活用した人材配置も可能です。コーチングによるキャリア観の明確化と一緒に活用することで、従業員が本当に望むキャリアを後押しすることが可能となり、職務満足度を向上させ、人材定着率の改善が図れるでしょう。
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