ダイバーシティが企業の採用戦略を変える!未来を見据えた組織づくり

ダイバーシティが企業の採用戦略を変える!

グローバル化や少子高齢化が進む中で、人材確保が企業の競争力を左右しています。本記事では、ジェンダーや年齢、国籍など多様な背景を持つ人材の採用が、企業にどのような価値をもたらすのか正木先生に伺いました。記事内では、採用戦略の工夫や多様な人材が活躍する職場づくりのポイントについても語っています。

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正木 郁太郎

プロフィール

正木 郁太郎

東京女子大学准教授 社会心理学博士

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了後、同研究員などを経て、2024年4月より現職。組織のダイバーシティ&インクルージョンに関する研究や、「職場で感謝を交わすこと」などの職場マネジメントに関する研究を中心に、社会心理学や産業・組織心理学を主たる研究領域としている。主な著書は、『感謝と称賛――人と組織をつなぐ関係性の科学』『職場における性別ダイバーシティの心理的影響』(いずれも東京大学出版会より)など

なぜ今、ダイバーシティが企業に求められるのか?

──ダイバーシティが企業にとって重要な理由は何ですか?

多様な人材を採用することで、組織の競争力が向上し、市場の変化に柔軟に対応できます。背景が違うことからコミュニケーションが困難になるリスクもありますが、異なる視点を持つチームは新しいアイデアを生み出し、イノベーションを促進する可能性も高まります。

ダイバーシティが特に求められる業界は2つあります。

ひとつは、人手不足が深刻な業界です。

飲食業や介護業、建設業などは慢性的な人手不足に直面しているため、優れた人材であれば、国籍や年齢、性別を問わず幅広い人材の採用が不可欠です。

もうひとつは、人材の質が競争力を左右する業界です。

優秀な人材の確保が企業の成長を大きく左右します。例えば、Webサービス企業では、グローバルな市場で競争するために海外のエンジニアや専門人材を採用する必要性が高いです。

ただし、ダイバーシティ推進を成功させるには、企業文化や適切な環境整備がも重要です。漫然と多様な人材をかき集めるだけでなく、企業の目的や価値観に沿った形でダイバーシティを取り入れることが求められています。


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採用におけるダイバーシティ推進のポイント

──企業がダイバーシティを進めるために、最初に見直すべき採用戦略は何ですか?

企業の採用戦略において重要なのは「譲れないポイント」と「譲れるポイント」を明確にすることです。

例えば、IT企業であれば「プログラミングスキルが一流であること」が譲れない基準かもしれませんが、それ以外の要素は柔軟に考える姿勢が大切です。

他にも、医療や医薬品に関わる企業であれば、公正さや社会的責任といった考え方や価値観こそが譲れない基準かもしれません。大事にすることは企業によってそれぞれですが、何かは必ずあるはずです。

特に外資系企業では「譲れないポイント」をミッションやバリューという形で明確にして社外に発信しているため、採用がうまくいっている企業が多い傾向です。

単にダイバーシティを重視するのではなく、企業が大切にしていることに共感した人に来てもらうことが、重要となるでしょう。

──性別や年齢、国籍など、多様な候補者を公平に評価するための採用基準の決め方として、具体的な方法があれば教えてください。

採用基準の決め方は主に3つあります。

  • データ分析
  • トップダウン
  • 現場とのコミュニケーション


データ分析とは、過去のデータを分析し、活躍する社員の共通点を探る方法です。活躍しやすい人材や離職率の低い人材の特徴を、人の心理的なバイアスや偏見を極力減らしながら、明確にできます。

トップダウン型のアプローチ方法とは、企業の歴史や経営者が持つ価値観を言語化し、求職者に伝えることです。採用担当者は経営者の考えを聞き、求職者にわかりやすく伝える役割が求められるでしょう。

現場とのコミュニケーションでは、採用担当者と現場社員で対話を重ねていきます。対話を重ねることで、組織内の「譲れない価値観」と「柔軟に考えられる部分」が見えてきます。現場の声を反映して、企業文化に合った採用基準をつくるのがおすすめです。

3つの方法を組み合わせ、自社に最適な採用基準を行うことが重要です。

──ダイバーシティ採用を進めるためには、具体的にどのような手法がありますか?

ダイバーシティ採用や関連する組織マネジメントには「アイデンティティ・ブラインド」と「アイデンティティ・コンシャス」の2つのアプローチがあります。研究ではどちらの効果も一長一短だと言われているので、自社の歴史や戦略に合った方法を選ぶことが重要です。

アイデンティティ・ブラインドは、候補者の性別や年齢などを考慮せず、スキルや実績、人となりのみで評価する方法です。「公正な採用が結果的にダイバーシティを実現する」という考え方に基づいています。

一方アイデンティティ・コンシャスは、候補者の属性を考慮し、多様な視点を生かすことを目的とした採用方法です。性別や国籍、年齢といった属性によって、典型的に持っている考えや思考スタイルが異なると仮定して、さまざまな市場のニーズを理解するために、異なる文化の背景を持つ人材を採用する戦略を指します。

最終的には、企業の価値観や経営方針に基づいて、採用基準や方針を明確にすることが重要です。企業の理念にふさわしい人材を採用し、多様性だけでなく組織の成長を目指すべきだと考えます。

ダイバーシティを生かす職場づくり

──多様な人材が活躍できる職場環境をつくるために、企業が取り組むべき施策は何ですか?

多様な人材が活躍するには、ミッションやビジョンを軸にした組織運営が重要です。企業の方向性や守るべきルールが明確であれば、共通の価値観が生まれ、一体感が生まれやすくなります。

また、わかりやすいコミュニケーションを意識することも重要です。比較的似たような背景を持つ人材が多かった従来の組織では、「言わなくても伝わる」が前提でしたが、価値観や生まれ持った背景がばらばらになりがちな現代の組織では「言葉にしなければ伝わらない」時代です。対話の場を設け、互いの考え方を理解する仕組みや習慣を整えることが大切となります。

例えば、外国籍のエンジニアが非常に多いメルカリでは公用語を英語にせず、「やさしい日本語」「やさしい英語」を取り入れてシンプルで伝わりやすい表現を重視しています。難しい言葉を避け、誰もが理解しやすい表現を使うことで、円滑なコミュニケーションを実現しています。また、「どうすれば相手に伝わるだろう?」「相手はどう受け止めるだろう?」と考える習慣を作るという意味でも、有効な取り組みだと思います。

誤解やすれ違いを減らすには「感謝」や「称賛」を積極的に伝えることも大切です。人として相手を認めている・評価しているということも、いざ言われてみると、人と人の絆が強まります。しかし、言葉で言われないと、その事実も伝わりません。「言わなくてもわかる」ではなく「伝えなければ伝わらない」という意識を持ちましょう。

多様な職場では、丁寧なコミュニケーションが結束力を高めます。日々の会話やフィードバックを大切にすると、安心して働ける環境が生まれます。

──ダイバーシティ推進において、リーダーや管理職に求められる役割は何ですか?

リーダーや管理職は、メンバーに「感謝」や「称賛」を伝えるだけでなく「応援」や「共感」を示すことも大切です。仲間の挑戦を後押しし、その努力や成果を認めることで、チームの一体感が生まれます。

ただし、ポジティブな声かけだけでなく、成長につながるアドバイスも必要です。相手を尊重しながら、具体的な改善点を伝えることで、健全なコミュニケーションが生まれます。

さらに、リーダーや管理職だけが頑張るのではなく、メンバー同士が自然にフィードバックし合える環境づくりも大切です。リーダーや管理職が「挑戦の場」と「応援・共感の文化」を広げることで、チーム全体が成長し、持続的に発展できる組織が実現します。

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企業がダイバーシティの推進を成功させるためには

──ダイバーシティ推進に積極的に取り組む企業の事例を教えてください。

ダイバーシティ推進に積極的な企業では、「ERG(Employee Resource Group)」を導入するケースが多いです。

ERGとは、何らかの属性や特徴を共有する当事者や支援者が集まり、従業員主体で会社の環境改善に取り組む組織で、業務時間の一部や予算を活用しながら活動します。性別や年齢、障害の有無などをテーマにすることが多いですが、それ以外にも働き方をテーマにすることもあります。

役職に関わらず議論が活発な企業では、人材が定着しやすく、多様な人材が活躍しやすい環境が整っている傾向が見られます。

管理職に占める女性や外国人の比率も重要ですが、それを支えるための従業員主体のダイバーシティ推進が組織の成功に直結します。

──ダイバーシティ推進の取り組みを企業が取り入れる際、見落としがちなポイントや注意点があれば教えてください。

ダイバーシティ推進の目的は会社をよりよくすることですが、特定の層に配慮や優遇をしすぎると、公平性が問われることがあります。反ダイバーシティの議論は、こうした利害対立が原因になることもあります。

これを避けるには、企業としての明確な軸や共通のゴールを持ち、それを全員で共有することが重要です。会社は利益を追求する組織であり、その上で「どのような価値観を大切にするのか」「会社全体としてどう成長するのか」を明確にし、ダイバーシティ施策を目的達成の手段として位置づける必要があります。

例えば、むやみな女性限定採用は特定の層への優遇と受け取られ、社内対立を招く可能性があります。そうならないためにも、何の目的で、どのような施策が、どうして今のこの会社に必要なのか。そうした「どんな会社や組織を作りたいのか」という目的を全員で共有し、それを常に意識しながら、施策も柔軟にアップデートしていける環境をつくることが重要です。

ダイバーシティ推進を成功させる鍵は、明確な目的と共通認識を持つことにあります。

──企業の人事の役割として、ダイバーシティ推進においてどのようなことが求められるとお考えですか。

ダイバーシティ推進の本質は「すべての従業員が活躍できる環境をつくること」です。どんな背景や事情を持つ方々でも力を発揮し、長期的に活躍できる場を整えることが重要です。

もちろん制度整備も必要ですが、最も大切なのは、誰もが貢献できる環境や、それを認め合えるような対人関係をつくることです。その結果、やりがいを見出し、支え合える組織が生まれます。

私が思うダイバーシティ推進とは「すべての人が幸せに働ける環境をつくること」です。

ここでの「幸せ」には、経済的安定や働く満足感も含まれます。人事の役割はすべての人が満足して、効果的に働ける環境を整えることです。そのために、採用や制度設計を考えることが大切です。そうした工夫を突き詰めれば、ダイバーシティは自然と実現されると考えています。

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