多様化する価値観に対応するこれからのストレスマネジメント

多様化する価値観に対応するこれからのストレスマネジメント

働き方改革やデジタル化の進歩により職場環境が大きく変化する中で、従業員のストレスマネジメントは企業の課題となっています。ストレスは従業員の生産性低下や離職につながるため、ストレスマネジメントは会社にとって重要な事項です。

本記事では、従業員のストレスマネジメントやストレスの早期発見・対策について、川崎医療福祉大学の谷原弘之教授に伺いました。

谷原 弘之

プロフィール

谷原 弘之

川崎医療福祉大学 医療福祉学部 臨床心理学科 教授 博士(医療福祉学)

川崎医療福祉大学 医療福祉学部 臨床心理学科 教授。博士(医療福祉学)精神科病院に勤務していたとき、アメリカのメンタルヘルス・サービスである、EAP(従業員支援プログラム)を提供する部署を立ち上げ、職場のメンタルヘルス支援を実践。2016年から現職。心理学をベースに、働く人と職場環境のマッチングを意識した支援を提案。日本産業ストレス学会評議員、岡山心理学会理事

多様化する職場のストレス

ーー現代の職場環境におけるストレスの特徴について教えていただけますか。

多様性の時代と言われるようになり、人によってストレスの感じ方の差が大きくなっている気がします。特に、職場における世代間ギャップの問題が大きく、考え方や価値観に差が出ている傾向です。

最近の傾向として、ベテラン世代とZ世代との間で、基本的な解釈の違いが生まれているように感じます。以前は「コミュニケーションのズレ」程度で済んでいた世代間の違いが、現在では「価値観の対立関係」があります。

例えば、営業で「10時 10分前集合」と言われた際、ベテラン世代は9時50分と解釈するのに対して、Z世代では10時8分と考える方がいます。つまり、同じ言葉を聞いてもベテラン世代とZ世代で、大きく解釈が異なるのです。

どちらが悪いわけではありませんが、世代間で判断基準が異なるため解釈違いが生じ、職場内での意思疎通にも影響が出始めている気がします。

また、昨今の日本では仕事で何らかのストレスを感じる従業員は約8割を超えており、その内容もさまざまです。従来の仕事量や失敗への不安だけではなく、顧客・取引先からのクレームによる「カスタマーハラスメント」にストレスを感じる従業員が増えています。

日本は他の国と比べても、メンタルヘルス不調を感じ始めたときに、誰にも相談せずに一人で抱え込む傾向にあります。そのためストレスを抱える従業員が増えていることを認知し、きちんと対策することが求められています。

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心理的安全性を重視した職場づくりに向けての取り組みーEAPの戦略的活用

――従業員のメンタルヘルスを解決する方法として、『EAP(従業員支援プログラム)』があると伺いました。EAPにはどのような役割があるのでしょうか。

職場のメンタルヘルスサービスであるEAPは、予防的な観点から非常に効果的なツールです。アメリカではフォーチュントップ500企業の90%が導入しており、経営層も含めた全社的な活用が進んでいます。

EAPの最大のメリットは、外部機関であるため企業内で拡散される心配がなく、相談しやすい点です。EAPの基本的な仕組みとしては、『従業員数×数百円×12ヶ月』の年間契約料が発生します。契約すれば、従業員はメール相談や電話相談、カウンセリングなどのサービスを無料で利用できます。

一方で、EAPでの相談内容は基本的には企業には口外しませんが、自傷他害のような緊急性のある場合は、企業と連携して迅速に医療機関へつなぎます。

――ストレスを減らすためには、職場の心理的安全性を高めることも重要だと伺いました。そのあたりはいかがでしょうか。

グーグル合同会社の研究で社内の200以上のプロジェクトチームの特徴を分析して調査したところ、心理的安全性が高いチームが最も成果を上げていることがわかりました。

心理的安全性が高い職場とは、「自分の意見を否定されない安心感のもとで、どんどんアイディアを出せる」ことです。

私が取り組んだ認知症施設での事例も紹介します。

施設では、職員のストレスが非常に高い状態が続いていたため、「心理的安全性プロジェクト」という取り組みを始めました。患者さんや家族から褒められた経験を、自分の口から共有するというシンプルな方法です。

その結果、職員間でのコミュニケーションが活性化し、職場全体のストレスレベルが大幅に低下し、離職率も改善しました。

このように、従業員のストレスを減らすためには、心理的安全性を重視した職場づくりも重要だと言えます。

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ストレスの早期発見と効果的な対応

――管理職は、どのように従業員のストレスを早期発見できるのでしょうか。

アメリカのEAP(従業員支援プログラム)の管理職マニュアルでは、「昨日と今日の違いに気づく」ことが、上司として必要な管理職の能力と言われています。

ストレスの世界では、「ストレスに時間を暴露している」という言い方があります。ハラスメントを受けている時間のように、強いストレスを受け続けている状態が「ストレスに暴露している時間」にあたります。管理職は、この暴露時間を短くすることが重要です。

人はストレス反応が慢性化すると、適応障害や精神疾患のリスクが生じます。ストレス反応が蓄積すると、思考が混乱しはじめ、自分の状態を正確に認識できなくなります。

例えば、調子が悪そうな従業員に対し「大丈夫?」と声をかけたときに「大丈夫です」と答えが返ってきたとします。

この「大丈夫です」の言葉が本当に大丈夫なのか、思考が混乱している状態なのかを、管理職は見極めなければなりません。

――従業員のストレスが疑われる場合、管理職はどのように対応すべきですか?

従業員のストレスを早期発見するための方法として、管理職にやってもらいたいことは2つあります。

①睡眠時間の確認

②食事の確認

睡眠時間は、現在の状況だけでなく半年前との比較を行います。

例えば、現在何時間眠れているかを聞いた際に「3時間しか眠れていない」と言われたら、「半年前は何時間寝ていたか」といった問いをします。半年前は6時間寝ていた場合、その従業員は本来6時間の睡眠が必要な体質である可能性が高いです。

睡眠時間が減少している場合は、すぐに病院を勧めるのではなく、まず「今日は1時間多く寝てみない?」と、4時間寝るようにアドバイスをします。

健康な状態から病気の状態にズレてきているのを戻すアドバイスが大切です。それでも改善されない場合、心療内科への相談を検討します。

食事の確認では、「食欲がない」「食事がおいしく感じない」などの傾向が見られた場合、「食べやすいものから少しずつ食べよう」と伝えます。

一度自力で健康を取り戻すよう促し、それでも回復しない場合は、睡眠と同様に心療内科を紹介するのが良いと思います。


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人事が意識すべきこれからのストレスマネジメント

――人事部では、どのような点を意識するのが良いのでしょうか。

ストレスは定点観測は、個人や集団にかかわらず難しいです。

「昨日元気だったのが今日は不調」と、状態が動くことがよくあります。人事は従業員の状態が動くことを理解しつつ、対応することが必要でしょう。

また、現在企業では世代間ギャップのような対立構造も問題視されています。今後は、お互いの価値観を受け入れる組織構造に転換していくことが大事です。

例えば、高校生に向けた新商品を開発するのであれば、Z世代の方が良いアイディアを出すこともあります。企業の中で、各世代の人が柔軟にお互いの価値観を認め合う組織をつくることが大事なのではと思います。

だからこそ、従業員の特徴やスキルを理解し、マネジメントできる人材を採用・育成することが人事にとっては必要です。

ーー最後に、谷原先生から読者に向けてメッセージがあればお願いします。

近年働き方改革が導入され、働き方の枠組みが変わってきています。

そのため、職場で働く人たちはさまざまな価値観に翻弄され、新しいタイプのストレスに対応せざるを得なくなっています。

メンタルヘルスの一次予防として大事なのは、個人が不調にならないような『セルフケア』です。

居酒屋や推し活などセルフケアにあたる内容はそれぞれ異なりますが、各自がメンテナンス方法を見つけ、まわりはその価値観を認めることが大切です。

二次予防として大事なのは『ラインケア』です。ストレスは早期発見が重要な一方で、最近では「ハラスメントにならないかな」と、従業員に声をかけにくい管理職も少なくありません。

メンタル不調者の発見を遅らせないためにも、世代の特性を知って対応するのがこれからのストレスマネジメントでは大切だと思います。

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