トップダウンでメンバーにノルマを課すだけの組織にしたくない。自分の力で考え、行動できる人材を育てたい。そう考えている組織があるならば、検討したいのがMBO(Management by Objectives)と呼ばれる目標管理手法の導入です。
組織と個人両方の目標達成を叶えるための管理手法。MBOについて、今回は見ていきましょう。
1.MBOの定義と注目される背景
MBOとは「Management by Objectives」の略で、日本語では「目標管理」。組織ごと目標を設定し、目標達成に向けたステップやタスクを個人が可視化し、それをもとに評価を行う仕組みのことを指します。ピーター・ドラッカーが著書『現代の経営』の中で提唱しました。
MBOに基づく目標管理は、組織が個人を支配し統制することではありません。上司が機械的にノルマを定め、部下はただノルマに従い達成するだけとなっている組織では、MBOが機能しているとは言い難い状態でしょう。
MBOのポイントは、自己統制によるマネジメント。組織がノルマを設定して個人に課す方式とは真逆の考え方です。従来的なノルマ達成だけを基準にした評価が難しくなっていること、あるいは、働き方や働く目的が多様になる過程で、MBOは注目されるようになりました。
個人が自ら目標を立て、目標へ向けたステップやタスクまで自分で決める。個人の意思や決定が含まれているため、個人もノルマを課されている意識だけではなく、積極的に目標達成へ向かうことができます。結果として個人がモチベーションを落とすことなく、組織と個人の目標双方の達成に向かうことができる点を押さえておきましょう。
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2.MBO実施プロセスとポイント
MBOを実施するには、大きく以下4つのステップがあります。
- 組織目標を社員が自らブレイクダウンし、自分にとっての目標(タスク、指標)を設定する
- 上司・マネージャーとすり合わせ、適正な目標であることを確認する
- 業務において実行・実施する
- 評価・振り返りを行う
各プロセスの中では、次のようなポイントを押さえるとより成果が見られやすくなるので、意識してみてください。
ポイント1 個人と組織双方の目標達成を意識する
組織の目標だけが強いと、個人にとっては「やらされ感」の強い業務となってしまう。一方で個人の目標だけを追求しても、組織の目標が達成されなければ意味がありません。重要なのは、双方のベクトルを合わせ、個人の目標達成が組織の目標達成につながり、どちらの目標も達成されるようにすること。目標を上司・マネージャーと個人がすり合わせ、適正な目標としましょう。
ポイント2 評価のためだけに使わない
目標の達成度合いと評価を直結させてしまえば、評価をよくしたい個人は、達成の容易な小さい目標しか掲げなくなってしまう可能性があります。MBOのいちばんの目的は、あくまで組織目標の達成です。ここでもやはり、上司・マネージャーと本人が適正な目標であるかどうかをきちんと確認することが重要です。
ポイント3 MBOの意義・目的を共有する
MBOそのものが個人に目標設定・管理させる手法ではあるのですが、そもそもMBOを導入する目的について、個人への共有も忘れないようにしましょう。説明が不足していると、個人にとっては目標を設定することすらもノルマとなり、自発的に取り組むことが難しくなってしまいます。わかりやすく言えば、「目標を立てるのは自分の仕事ではなく上司の仕事なのに」と、MBOの意図とは全く異なる不満が生まれてしまう可能性も。実施の意図や、組織と個人にとってのメリットについて、共有するのを忘れないようにしましょう。
ポイント4 評価・振り返りを、こまめに、リアルタイムに行う
最初に挙げた4つのステップは、1から4までをおよそ半期の間で実行することが望ましいです。ステップの1と2である目標設定は期の初めに、全体の評価・振り返りは期の終わりに行います。
ただし全体的な目標設定や振り返りは期の最初と最後に行う一方で、こまめな振り返りや軌道修正は日常的に意識されるものであることを忘れないようにしたいところです。ポイントの3で挙げた評価・振り返りは特に意識したいポイントです。
たとえば通常業務の中でも目標達成につながらない行動があれば、リアルタイムでの指摘・確認が必要。1on1などの機会でも、目標に対する進捗度合いを確認するようにしましょう。
もしかしたら、実行段階になると目標設定がそもそも間違っていたとわかることもあるかもしれません。短いサイクルで振り返りとフィードバックを行うことで、こまめに組織と個人の目線を合わせ、目標達成までの道筋を確認していきましょう。
3.MBOのメリットとデメリット
MBOの特徴は、目標までの道のりを個人が細かく設定し、それを各々で管理する点でした。その特徴を踏まえると、下記のようなことがメリット・デメリットとして挙げられるでしょう。
メリット:個人のモチベーションを高く保てる
組織の目標に対し、自らの意思も加味しながら自分で道のりを組み立てていくため、自然と個人のやりたいことが含まれるようになります。ですから、ただ目標と実行を課すだけの管理とは異なり、個人のモチベーションを低下させにくいと言えます。
メリット:評価・振り返りが明確になる
大きな目標達成に向け、ステップやタスクを可視化しているので、実行できたタスクとできなかったタスクが明確になります。具体的にできたものとできなかったものがわかるため、公平でわかりやすい評価・振り返りが可能になります。
メリット:企業と個人のベクトルを合わせられる
組織目標の達成へ向けて、個人は、組織の向かう方向と個人の向かう方向のすり合わせを考える必要が出てきます。組織として何を達成したいのか個人が自ら考え、そこに自分のやりたいことを合わせていく。この過程を通じて、企業のミッションやビジョンなどについて改めて理解を深めてもらうことが期待できるでしょう。
メリット:人材育成の効果が期待できる
個人が自分で目標を考えることは、自ら考え行動する力を養う機会になります。ただ指示通りにタスクを実行する人材でなく、自分が組織の中でどのように働くべきか考え、自ら行動してくれる人材を育てることにつながると言えます。
デメリット:個人任せになると失敗しやすい
目標達成に向けたステップやタスクを考えることは個人に任せられることになるため、人によってやることが全く異なってくる可能性があります。そうなると、人によってタスクの粒度がバラバラになってしまったり、結果的に負担が一部の人に偏ってしまったりすることも。個人で考えることを尊重しつつも、マネージャーや上司が内容を確認しながら、放任になりすぎないよう注意しましょう。
デメリット:現場判断になりやすい
具体的なステップやタスクを挙げていくことで評価・振り返りをしやすいことは事実なのですが、これら一つひとつを人事が全て管理することはほぼ不可能。どうしても具体的な部分は現場での判断になってしまいます。そうすると、組織としての大きな目標と個人の目標が合っているかどうか、現場で正しくジャッジできていないという懸念も。普段から組織としての方針や目標に対する考え方などを発信し、できるだけ人事と現場が同じ目線で目標について考えられるようにしたいところです。
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4.OKRやKPI、KGIとの違いは?
目標設定や目標管理の文脈では、いくつかのフレームワークや考え方が存在します。近しい単語について、簡単に違いを理解しておきましょう。
OKR=Objectives and Key Results
チャレンジングで定性的な目標(Object)に向かうための、2−5個程度の定量的な指標(Key Results)を設定する目標管理手法です。
最大の特徴は、指標を少し高めにおいて60−70%の達成度合いで成功とみなす点。必ず達成すべき目標やタスクではなく、「できるかな?」「できたらいいな」と思えるものを掲げます。
少し背伸びが必要な目標を目指すことで、組織も個人も成長・生産性向上を得ることを期待します。比較的短期間、1−3ヶ月の期間で実行します。
目標と指標は、必ずしも個人が主体的に定める必要はなく、むしろトップダウン的に定めるほうが効率がいい点は、MBOとの大きな違いと言えるでしょう。会社全体としてのOKR、部署としてのOKR、チームとしてのOKR……と定めていくと、最終的に個人のやるべきことが見えてくるようなイメージです。個人としての目標を立てにくい側面はありますが、その分やるべきことが明確になるメリットがあります。
KPI=Key Performance Indicator:重要業績評価指標
組織の目標達成へ向けたプロセスが正しく実行されているかどうかを図るために、設定される指標のこと。日々の業務レベルまで落とし込まれた、より具体的な目標です。たとえば、「サイト来訪者数を月●●人にする」「商談数を●●件にする」といった、数字で表せる目標のこと。
組織全体としての目標は定性的だったり抽象的なものである場合もありますから、それを具体的な数値目標に落とし込み、達成度合いを明確にするためのものです。
KGI=Key Goal Indicator:重要目標達成指標
組織の目標達成に対し、「何を持って達成とするか」を定めたもの。達成できたか否かを判断する際の基準です。KPIと混同されがちですが、KPIが日々の業務における達成を図るものだとすれば、KGIは組織全体・業務全体に対する指標として区別されます。
たとえば、KGIとして「月間受注件数●●件」と定めたとすれば、それに向けた日々の業務として、「サイト来訪者数●●名」「架電1日●●件」「新規リード●件獲得」など、より具体的な指標とするのがKPIです。
5.まとめ
最後に、簡単にポイントをおさらいしましょう。
MBOとは、組織目標達成に向けた道のりを個人が考え、個人に自ら管理させることが特徴的な管理手法です。
トップダウンでノルマやタスクを指示する旧来的な手法とは異なり、自ら考える力を育てたり、モチベーションの低下を防ぎながら、組織と個人双方のベクトル合わせができたりする点が大きなメリットと言えます。
ただし、個人任せになりすぎれば目標が意味をなさなくなってしまうため、上司・マネージャーと個人で認識のすり合わせを怠らないようにしましょう。加えて、適切に振り返りを行うことで進捗の確認や必要に応じた方向転換も意識しておくことも忘れないようにしたい点です。
組織の業績向上に非常に有効だとされるMBO。成果につながるポイントを押さえ、適切な実施へとつなげていきましょう。