フィードバックをしたら、部下が落ち込んでしまった。
モチベーションを下げたくなくて、フィードバックができない。
フィードバックしたけれど、うまく伝わっていない気がする。
メンバーのマネジメントにおいて、そのようなお悩みはありませんか?
もしかすると、それは正しくフィードバックできていないことに原因があるかもしれません。
フィードバックは、れっきとしたマネジメントスキルのひとつ。やって良いことと悪いこと、さまざまな手法やコツがあります。
この記事では、フィードバックの目的や手法、おさえておきたいポイントについて、丁寧にご説明していきます。
1.フィードバックの目的は目標達成
フィードバックとは、相手の行動に対しての評価や改善点を伝えること。改善点だけを指摘するものと認識している方も多いですが、それは間違いです。良い点も悪い点も、惜しい点も次回に活かしてほしいアイデアも、すべてフィードバックに含まれます。
ただ良くないポイントを指摘したり、経験則だけで説教をしたりするのはフィードバックではありません。ましてや高圧的な態度で相手を萎縮させたり、怒鳴ったりしては絶対にいけません。
ではフィードバックの大きな目的は何かと言うと、業務における目標の達成です。設定した目標の達成に向けて軌道修正や動機付けを行い、パフォーマンス向上を目指すために行うものなのです。
今回は上司とメンバー(部下)間で行うことを想定してお話ししますが、そもそもフィードバックは、上司から部下へ一方的に行うものを指すのではありません。360度評価という評価の仕方があるように、部下から上司であっても、対等な立場同士でも行われます。
2.フィードバック3つの対象
行動に対しての評価や改善を伝えるのがフィードバック。もう少し詳しくお話しすると、フィードバックの対象は主に3つあります。それは「ひととなり」「行動」「成果」。
「ひととなり」は、その人自身のこと。人柄や性格、その人が持つ雰囲気などです。
「行動」は文字通り、その人が行った行動のこと。業務のプロセスや進め方、具体的には例えばメールの打ち方やプレゼンの行い方、粘り強い交渉などを指します。
「成果」も文字通り、その人の行動の結果得られた成果のこと。売上やページビューのように数値で表せるものや、新規の契約、クライアントからの賞賛などです。
この3つがあることを意識すると、ひとつの事柄についてばかり言及することを避けられますし、フィードバック前に内容を整理して個人的な感情が入っていないかを確認できます。
フィードバックの手法「SBI型」 目標達成に向けた正しいフィードバックには、いくつかの実践的な手法があります。ここではそのひとつ、「SBI型」をご紹介します。 Situation:状況 Behavior:行動 Impact:影響 SBIとは、上の3つの頭文字をとったもの。フィードバックを伝える際、これら3つをセットにすることで、相手がフィードバックの根拠を理解できて納得感が高まります。伝える内容を問わず、活用できる手法です。 フィードバック例: お客さまからクレームを受けたときに(状況)、自分で対応せずにすぐ上司に報告してくれたので(行動)、事態を素早く収束することができました(影響)。
3.ポジティブ/ネガティブフィードバック
フィードバックは改善点の指摘だけではないとお話ししました。具体的にいうと、ポジティブフィードバックと、ネガティブフィードバックとの2種類があります。
言葉のイメージ通り、ポジティブフィードバックは、相手の行動の良かった点を伝えるもの。できていることや達成したことに対する承認です。できていることを認識してもらうことで、意欲を高める効果があります。
一方でネガティブフィードバックは、改善すべき点を伝えるものです。悪かったポイントを指摘するために行うのではなく、どうすればもっと良くできたのかを考えるために行いましょう。
フィードバックの伝え方にはさまざまな手法がありますが、ひとつ共通して重要なポイントがあります。それは、ポジティブとネガティブのフィードバックを2:1のバランスで行うこと。
アメリカで行われた研究によると、人はポジティブなことよりもネガティブなことのほうが反応しやすいことが分かっています。ネガティブフィードバックによってモチベーションが下がるのを防ぐため、ポジティブフィードバックの割合を増やしてバランスを取りましょう。
またこのバランスで行うことで、相手のプラス面とマイナス面の両方をフェアに見ていることが伝わるため、ネガティブフィードバックを受け取りやすくなる効果もあります。
ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックを用いて、先述した3つの対象についてフィードバックを行う際、ひとつ注意点があります。それは、ネガティブフィードバックを、「ひととなり」について行わないこと。
ネガティブフィードバックは、改善すべき問題点に対するフィードバックですから、「行動」「成果」に対しては行うことができます。しかし「ひととなり」については、人格否定と捉えられて事態や関係を悪化させる可能性があるため、行ってはいけません。
また「成果」に関しては、すでに出てしまった結果について過度に責めることはやめましょう。ネガティブフィードバックは特に、改善のサイクルを回しやすい「行動」に対して行うことが効果的です。
3つの対象におけるポジティブ/ネガティブフィードバック例 【ひととなり】 ポジティブフィードバック あなたの常に冷静沈着なところは大きな強みですね。 ネガティブフィードバック あなたはいつもやる気がなさそうに見えますね。 ※このようなフィードバックを行ってはいけません 【行動】 ポジティブフィードバック 昨日のプレゼンではとても良いアシストをしていましたね。 ネガティブフィードバック 先ほどの会議での発言は少しわかりにくいように感じました。 【成果】 ポジティブフィードバック あなたが企画した施策の実施によって、売上が10%も上昇しています。 ネガティブフィードバック 今期の目標達成率は90%と未達でした。行動計画について一緒に見直しましょう。
4.フィードバックを伝えるタイミング
何かフィードバックすべき点があったとき、どのように伝えるかのお話をここまでしてきました。それと同時に重要なのが、いつフィードバックするか。そのタイミングです。
最も誤ったパターンは、半期・四半期などの期末や、給与査定など評価のタイミングにまとめて伝えること。しかし残念ながら、このタイミングでフィードバックを実施している企業も多いのです。
まとめてフィードバックを伝えてしまうデメリットは、例えば以下のようなものがあります。
- そもそも言われたこと全てを覚えられない
- ミスをしたときの記憶が曖昧で改善点がわからない
- ネガティブなことばかりが頭に残ってモチベーションが下がる
さらにまとめてフィードバックをするとなると、必然的に日常的な気遣いや些細な出来事に対するポジティブフィードバックが少なくなります。何ヶ月も前のことをわざわざメモしておいて、「あのときの会議ではあらかじめ配線をつないでいてくれて助かったよ」とは言わないですよね。
つまりフィードバックは、普段からその場でこまめにやることが重要。気付いたときに伝えることで、相手も受け入れやすく、モチベーションの向上や行動変容につながりやすくなります。
また日常的なフィードバックとは別に、ぜひ実施してもらいたいのは、定期的な1on1ミーティング。週に1回から月に1回のペースで、主に上司とチームメンバーの1対1で行うミーティングです。
定期的に実施することで、突発的な行動には現れないもののぜひ伝えたいポジティブなフィードバックや、真剣に伝えたいネガティブなフィードバックを行う機会になります。
相手と1対1で積極的なコミュニケーションがとれるため、1on1を繰り返すことでますますフィードバックを言いやすい信頼関係を築くことができるのです。
▼1on1ミーティングについて詳しくはこちらの記事も参考にしてください。
1on1を成功させるポイント-実施方法や代表的な11のテーマをご紹介-
5.フィードバックにおける9つのポイント
ここまでフィードバックの行い方について、さまざまにお話ししてきました。上記のことを踏まえて、さらに効果的かつより一層信頼関係を築けるフィードバックを行うために、重要なポイントと注意点をお伝えします。
ぜひしっかりと心に留めて、フィードバックに活かしてくださいね。
(1)「率直に」「相手の成長のために」を心がける
フィードバックをする際は、前置きを長々と言わず「良かった点を2点、改善が必要な点を1点伝えますね」のように、率直に伝えましょう。
またフィードバックはあくまでも、相手の成長のために行うもの。「個人的に気に入らない」という感情は抜きにして、「これを伝えることが相手の成長につながるか」を判断基準としましょう。
(2)小さな進歩を見逃さずフィードバックする
普段からメンバーをしっかりと観察して、小さな進歩も見落とさずに、できるようになったことをポジティブフィードバックしましょう。小さくても着実に進歩していることを実感することで、学ぶ意欲を高めることができます。
(3)「これができていない」ではなく「こうしましょう」と具体的に伝える
行動に対するネガティブフィードバックを行う際は、「これができていない」と伝えるだけでは、相手はどのように行動を修正して良いか分かりません。どうすれば良いのか、とってほしい行動を可能な限り具体的に伝えましょう。
(4)先にメンバーのセルフフィードバックを聞き、上司との認識の違いを明確化する
案件で発生している問題や、メンバー本人の課題についてフィードバックする際は、まずメンバー本人にセルフフィードバックを聞いてみましょう。上司の評価とメンバーの自己評価の間にギャップがあると、上司の意見をうまく聞き入れられない場合があるからです。認識が一致していれば通常通りフィードバックを行い、認識が異なる場合はより丁寧に課題についてフィードバックしましょう。
(5)他者との比較ではなく、メンバー自身の成長を比較する
誰かとの比較で評価されることは、誰でも嫌だと感じるもの。「同期の◯◯さんはもうこんなことを任されている」「自分が同じ年齢の時はこんなことができた」のような比較をすることは、良い効果をひとつも生み出しません。
人はそれぞれ異なる個性を持っていて、それこそが強み。他者や上司自身の過去と比べるのではなく、得られた成果や数値、メンバー自身の過去と現在を比較して、成長した点・していない点などをフィードバックしてください。
(6)第三者からの伝聞は、事実情報を徹底的に収集してからフィードバックする
上司がメンバーの行動を直接見たのではなく、第三者からの情報に基づいてフィードバックを行う必要があるときは、徹底的に情報収集してその情報が本当に正しいかを確認しましょう。
例えば「◯◯さんは最近昼休憩を長くとっている」という情報があったとしても、たまたま事情があった日のことを指しているのかもしれません。そのまま本人に伝えると、一方的に疑われている不信感につながりますし、「誰がそんなことを言っているんだ」と気になりチーム内の不和を生みます。フィードバックをする際には裏付けとなる情報を収集し、丁寧に伝えましょう。
悪い例:最近、昼休みをやけに長くとっているそうですね。仕事にやる気がないのですか?
良い例:先週は5日間のうち4日間、1時間以上長く昼休みをとっていたことを、複数のメンバーが確認しています。周囲から心配の声があがっていますが、何かありましたか?
(7)相手がどう受け取ったか、フィードバック後に必ず確認する
フィードバックは、上司と部下の関係性や、本人が課題をどれほど自覚しているかによって、伝わる度合いが変わってきます。特にネガティブフィードバックはそれらに左右されやすく、マイナスの効果を生んでしまうことも。
そのためフィードバックした後には、どのように伝わったか、どれくらい伝わったか、本人の認識を必ず確認しましょう。モチベーションが下がった様子であれば、自らが信頼関係を築けていないことを受け止めて、メンバーをしっかりとフォローしましょう。
(8)メンバーからフィードバックしてほしいポイントをリクエストしてもらう
メンバーがフィードバックしてほしいと思う事柄を確認することで、より相手のニーズを満たす効果の高いフィードバックを行うことができます。
例えば企画書のレビューをする場合でも、メンバーが特に気にしている点は読みやすさなのかコンテンツの充実度合いなのか、インパクトの強さなのかを確認することで、相手が求める情報をフィードバックすることができます。
(9)自分に対するフィードバックをもらう
1on1ミーティングなどで定期的にフィードバックを行っている場合は、フィードバック自体の質を改善していくために、メンバーから上司へのフィードバックをもらいましょう。
企業にとっては上司もひとりのメンバーですから、常に成長が必要です。部下であっても謙虚な姿勢で、積極的にフィードバックをもらうようにしましょう。
フィードフォワードとは? フィードバックと似た言葉に、フィードフォワードがあります。「back」に対して「forward」は「前」を意味しますから、過去に起こったことについて伝えるフィードバックに対して、未来に焦点をあてた話をするのがフィードフォワードです。 上司とメンバー間で行われるフィードフォワードでは、フィードバックと同様、目的は目標達成にあります。つまり目標達成に向けて、これから先何をすべきかを対話し合うのがフィードフォワードです。 フィードフォワードを行う際には、「どうすれば未来がより良くなるか?」をテーマとして、目標の達成につながるアイデアを話し合います。問題ではなく解決策に焦点をあてて、自由な発想で上司とメンバーがアイデアを出し合うと効果的です。
6.まとめ
ここまで、フィードバックの目的から細かいコツを一気にご紹介しました。全てを一気に意識して実施することは当然難しいので、最後に必ず覚えておいてほしいポイントをまとめます。
・フィードバックは、業務における目標達成を目的にし、メンバーのパフォーマンスの向上を狙って行うもの。普段からこまめに行うと共に、定期的な1on1などでも実施しましょう。
・フィードバックにはポジティブフィードバックとネガティブフィードバックがあり、メンバーに伝える際は2:1のバランスを心がけてください。
・フィードバックする対象は「ひととなり」「行動」「成果」の3つですが、「ひととなり」についてのネガティブフィードバックは、人格否定になりますので絶対に行ってはいけません。
まずはこれら3つのポイントを必ずおさえて、その他の手法やコツは徐々に活かしながら、メンバーと信頼関係の築けるフィードバックを実施してみてください。