人的資本と人的資源の違いとは?人的資本経営が注目される背景・人材戦略のポイントなど

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人的資本経営が注目されています。しかし、従来の人的資源経営と何が違うのかよくわからない人もいるのではないでしょうか。この記事では人的資本と人的資源の違いから説明し、人的資本経営とは何か、人的資本経営が企業から注目されるようになった背景、人的資本経営に取り組むメリット、人材戦略を立案する際のポイントなどを解説します。

人的資源と人的資本の定義と違い

人的資源と人的資本は、字面の点でも考え方の点でも混同しやすい用語です。ここでは、人的資源と人的資本の定義を紹介した後、人的資源と人的資本の違いを解説します。

人的資源とは

人的資源とは、人材を事業のために消費するもの、あるいはコストと捉えた用語です。4大経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」においては、「ヒト」にあたります。人材を確保するには給与や賞与、オフィス環境、福利厚生などのコストがかかります。事業を営んでいくには、これらのコストを差し引いて利益を出していかなければなりません。人的資源で人材を捉える際は、現時点でのコストに対してどれくらいの利益を生み出せるかという視点で評価するのが特徴です。

人的資本とは

人的資本とは、人材を事業に不可欠な資本として捉えた言葉です。資本には事業に必要な基金という意味や、利子や利益を得るためのお金という意味があります。これらの意味と同じように、人的資本は事業を維持、発展していくために投資する価値があるものと捉えます。例えば、新入社員は入社時点では貢献度が低いですが、新人教育やOJT、業務経験を積むうちに戦力として育っていき利益を生むでしょう。人材を人的資本で捉えるときは、現在のスキルだけでなく、将来のスキルや可能性なども含めて評価するのが特徴です。
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人的資源と人的資本の考え方の違い

人的資源という考え方は、人材を消費する資源として捉えます。そのため、例えば工場に導入する設備と同じように、人材にかける費用をなるべく抑えようという発想になりやすいといえるでしょう。一方、人的資本という考え方では、人材は単なるコストではなく、組織の成長戦略にとって重要な投資対象になります。例えば、人材育成のために短期的なコストがかかっても将来の幹部候補として育成する未来志向の発想が生まれやすくなるでしょう。したがって、人的資本は経営戦略や人材戦略など、今後の計画を立てる際に向く考え方です。

人的資本経営とは?人的資源経営との違い

人的資本経営とは、人材を人的資本として捉えて、その能力や資質を最大限発揮させることで、中長期的な企業価値の成長につなげる経営手法です。従来は人材を人的資源と捉え、「ヒト・モノ・カネ・情報」のうちの1つとして扱う人的資源経営が主流でした。しかし、ビジネス環境の変化や従業員の価値観の多様化などにともない、人的資源経営よりも人的資本経営のほうが企業価値を高めやすいと考える企業が増えています。ここでは、人的資源経営と人的資本経営の違いを比較しながら、人的資源経営から人的資本経営にシフトする際に変革するべき5つのポイントを解説します。
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人材マネジメントの目的が管理から価値創造へ

人的資源経営においては、人材を消費するもの、コストとして捉えます。このため、人材マネジメントの目的は、いかに費用対効果を高めるかという管理中心になるのが特徴です。例えば、新事業で人材が必要になれば人手を確保し、事業が縮小すれば従業員を解雇するなどオペレーション志向になる傾向があります。対して人的資本経営の人材マネジメントでは、人材の育成、成長を重視するのが特徴です。例えば「どうすれば人材のパフォーマンスを最適化できるか」「どのような人事配置によってイノベーションを生み出せるか」などのクリエーション志向になります。
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人材戦略と経営戦略を連動させる

人的資源経営においては、人材の適切な管理が目的ですので、人事の諸制度内で整合性があればよいとされる場合が少なくありません。人的資源経営においては、人事領域のほとんどを人事部に一任している企業が多いのはこのためです。それに対して人的資本経営では、経営戦略との連携が欠かせません。そのため、人的資本経営においては必ず、経営戦略の立案から人事戦略への落とし込みの流れになります。したがって、人的資本経営においては、人材戦略のイニシアチブが人事部から経営層に移ると考えておきましょう。
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人的資本についての積極的な情報発信

人的資源経営においては、人材に関わる情報は会計処理されて外部に公表されるだけであるのが一般的です。それに対して人的資本経営における人材への投資は、将来的に利益を生み出すための活動という意味合いが生じます。人材は将来の利益を生み出すための資本として扱われるからです。したがって、投資家や取引先などのステークホルダーにとっては、人材に対する施策は、中長期的な業績を推測するための重要な情報になります。人的資本経営をして投資を呼び込んだり、取引先を増やしたりするためには、外部への積極的な情報公開が必要です。

従業員の自立・活性化を促す

人的資源経営において端的な例では、企業は組織の歯車としての人材を求め、従業員はその役割に自分を合わせることを求められます。新卒一括採用や年功序列制、終身雇用制で組織に合わせて人材を育てる日本企業では、特にこの傾向が強いといえるでしょう。こうした日本型の育成では、従業員が経済的に安定しやすく、帰属意識が育ちやすいなどのメリットがあるのは確かです。その一方、頑張っても報酬や昇進が変わらないため成長スピードが鈍化したり、自分の個性や主体性を発揮しにくかったりするデメリットがあります。

人的資本経営においては、人的資源経営で陥りやすい弊害を変革し、従業員の自立や活性化を促す施策が必要になります。人的資本経営で成果を出すには、企業が従業員に成長の機会を与え、従業員がそれに応えて組織に貢献していく関係が重要であるからです。

人材が流動化する

人的資本経営によって従業員の自立・活性化がともなうと、人材の流動性も高まる傾向にあります。というのも、人的資本経営が進むと企業が従業員の自主性を尊重するため、従業員が希望する人事異動や転職などが増えるからです。また、中途採用やヘッドハンティングなどの動的な雇用が増える傾向もあります。したがって、人的資本経営においては、終身雇用や年功序列のような囲い込み型の組織運営は機能しにくくなるでしょう。人材の流動性が増すにともない、人事部には専門性をベースにした雇用が求められます。職場が求めるスキル、経験を持った人材を、いかに的確かつ迅速に配属できるかが重要です。

人的資本経営が注目されるようになった背景

人的資源や人的資源経営に代わる新たな概念として、人的資本や人的資本経営が盛んに取り上げられています。この状況にはどのような背景があるのでしょうか。ここでは、ビジネス環境の変化や労働者の意識変化など、マクロの要因を解説します。

人的資本が重要な第3次産業が増加している

1つ目の大きな要因は、人材がビジネスの中核になる第3次産業が増加していることです。農業や漁業、林業などの第1次産業と建設業や製造業などの第2産業が占める割合は減少傾向にあるなか、第3次産業が占める割合は増加傾向にあります。第3次産業では、サービスや無形の商材が多いため、人材の質が成果を大きく左右します。人的資本が他の産業に比べて重視されるため、人的資本経営に注目する企業が増えました。

例えば、価値観や趣味・関心の多様化が進むスマートフォンアプリ業界や、外食産業や観光産業などでは、競合と違った角度でサービス提供することが重要になっています。競争力のあるサービス、無形の商材を提供するには知識や経験の育成や、多様な人材の雇用などが欠かせません。そのため、人材を使い捨てにするような人的資源経営を改めて、企業価値向上の推進力となる人材に投資する人的資本経営が注目されるようになっています。

人的資本に関する情報開示が一般化

人的資本に関する情報開示が海外や国内の市場で一般的になったことも、人的資本経営が注目されている要因です。国際標準化機構ISOは2018年に「ISO30414」を定めました。「ISO30414」は、以下の11領域の情報を開示するように企業に求めるガイドラインです。

1.コンプライアンスと倫理
2.人件費や採用費などのデータ
3.ダイバーシティ(人材の多様性)
4.リーダーシップ(管理職の数、男女比率など)
5.組織文化(従業員満足度、従業員エンゲージメントの指標など)
6.組織の健康・安全
7.企業の生産性
8.採用・異動・離職状況
9.従業員のスキル・能力
10.後継者育成
11.労働力の確保状況

また、日本では内閣官房が2022年8月に、上記のISO30414の内容も踏まえて、人材戦略に関する企業側からの情報提供の指針を示した「人的資本可視化指針」を発表しました。その背景には、人的資本への投資は企業の持続的な成長の中核要素であり、投資家や取引関係者、従業員などに広く知られるべきだという考えがあります。このようにステークホルダーに対する情報発信の中に人的資本が加わったことから、上場企業を中心に人的資本経営についての関心が高まっています。
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多様な価値観を持った求職者や従業員が増えた

働きやすさやキャリア形成のしやすさなどについて、求職者や従業員が多様な価値観を持つようになったことも、人的資本経営が注目される背景です。従来は給与や待遇を重視する人が大多数でした。しかし、現在は「ワークライフバランスを確保できるか」「在宅勤務が可能か」など、自分らしい働き方ができるかを重視する人が増えています。また、女性の活躍推進に積極的か、個人の価値観が尊重されているかなどの多様性(ダイバーシティ)を意識する人も多くなってきました。こうした背景から、画一的な働き方を想定した組織運営がそぐわなくなっています。優秀な人材を雇用して長期定着してもらうには、従業員ごとに違う価値観を尊重できる労働環境や人事制度が必要です。そのため人事領域の変革を進める企業から、人的資本経営が注目されるようになりました。
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人的資本経営に取り組むメリット

人的資本経営に取り組むと、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは従業員のパフォーマンス向上や人材確保、投資の呼び込みという3つのメリットを解説します。

従業員のパフォーマンス向上

人的資源経営から人的資本経営にシフトすると、一般的に人材育成の施策は手厚くなり、働きやすい職場への移行が進みます。また、適材適所の人材活用も進むでしょう。人的資本経営では、中長期的な視点から従業員を資本として扱い、大切に育てていくからです。この結果、職場環境や企業文化、上司のマネジメントなどに対する満足度である従業員満足度が向上します。また、企業に対する自主的な貢献意欲である従業員エンゲージメントも向上するでしょう。こうした仕事に対するやりがいを持った従業員はパフォーマンスも高い傾向があるため、業績向上につながります。
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人材を確保しやすくなる

求職者なら自分を組織の歯車のように扱う企業より、自分を高く評価し、育ててくれる企業を選ぶでしょう。したがって、優れた人的資本経営は、採用活動における企業ブランディングにもなります。実際、手厚いキャリア形成支援があったり、管理職の女性比率アップに取り組んでいたりすることで、求職者から魅力的な企業と評価されているケースが少なくありません。

このような人的資本への投資は、既存の従業員にとってもメリットがあります。離職率が下がり、長期定着する割合が増える効果が見込めるでしょう。日本においては、少子高齢化によって労働人口が減少し、優秀な人材の確保が難しくなっています。人材確保の対策としても、人的資本経営はメリットのある手法です。

ESG投資を呼び込みやすくなる

ESG投資とは、投資の判断基準にEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの要素を加えた投資です。ESG投資のなかで人的資本経営の施策は、ダイバーシティや女性進出などを含む社会と、積極的な情報開示や取引の透明性などを含むガバナンスに関係しています。国や市場の働きかけでESG投資が促されている背景にあるのは、国際的な持続可能の開発目標であるSDGsです。SDGsでは目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」や、目標8の「働きがいも経済成長も」、目標10の「人や国の不平等をなくそう」など、人事施策とも関連する目標があります。

このような国際標準の価値観の浸透は今後も浸透すると考えられるため、ESG投資もまた一般的になっていくでしょう。したがって、企業がESG投資を呼び込むには、社会やガバナンスの要素も配慮しなければならない時代になっています。

人的資本経営の人材戦略の参考となる「伊藤レポート」の3P・5Fモデル

日本企業の多くが人的資本経営の指針を得るのに参照しているのが「伊藤レポート」です。伊藤レポートは経済産業省が主催する「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の報告書で、主にコーポレートガバナンス、持続的企業価値の創造、投資家目線の3つの観点から作成されています。この伊藤レポートのなかで、人材戦略に求められる要素をモデル化したのが、3つの視点(Perspectives)と5つの共通要素(Common Factors)で構成される「3P・5Fモデル」です。ここでは、3P・5F モデルの概要を紹介しながら、経営層および人事担当者が参考になる内容を抜粋して解説します。

3つの視点

3Pは人材戦略を俯瞰するときに取り入れるべき3つの視点で、経営戦略やビジネスモデルに関係なく適用できます。それぞれについて解説します。

1.経営戦略と人材戦略の連動

1つ目の視点は、経営戦略と連携できているかどうかです。ICTの進歩やグローバル化などによりビジネス変化が速い現在、持続的な企業価値を得るには、経営戦略やビジネスモデルと人材戦略を一致させる必要があるからです。仮に人材を確保した後に、自社の事業に合わせて人材育成していたのでは、戦力化が遅れて競争力を確保できません。経営層がイニシアチブをとって人事部と緊密に連携しながら、採用活動や人材育成の方向性を決める必要があります。経営層はまず、全社的な経営課題と不足している人材、求める人物像などを明確にしておかなければなりません。
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2.As is – To beギャップの定量把握

As isとは「現在の姿」で、To beとは「目指すべき姿」です。伊藤レポートでは人材戦略を立案するには、現実と理想のギャップを定量的に把握する必要があると述べられています。例えば、DX推進にあたってIT人材が必要になったとしましょう。この場合、まず現状と理想とするIT人材の状況を洗い出します。例えば「データサイエンティストが10人必要であるが、現状では5人しかいない」のように、なるべく定量的な数値で把握しましょう。また、従業員に研修を実施する予定であれば、研修後にスキルをスコア化してKPIとして管理できるようにしておきます。

こうした定量化のために活用が進んでいるのが、人事と経営をデータでつなぐ人財活用システムです。人財活用システムを用いると、As isのデータがリアルタイムで一元的に管理でき、さらにグラフや表で自動的にレポート化できます。このため、経営層や人事担当者がAs isとTo beのギャップを定量把握しやすくなるでしょう。

3.企業文化への定着

企業文化への定着とは、人材戦略が企業理念やビジョンとリンクしていることを、従業員が理解できているかという視点です。人的資本経営における人材戦略は短期的な成果を求めるものではなく、長期的で持続的な企業成長を目指すものです。したがって、人材戦略が企業理念やビジョンを実現するためのものであると、従業員全員が理解している必要があります。例えば、同じ人材戦略を実施するにしても、経営理念が顧客ファーストか技術革新かによって、従業員の捉え方は変わるべきでしょう。仮に顧客ファーストが企業文化として定着していれば、さまざまな人材育成施策を受ける際も、自分の成長を顧客満足度の向上と関連付けて考えられます。

伊藤レポートにおいては、エーザイ株式会社が1万人にも上る全世界の従業員を対象に、企業理念の浸透度や従業員エンゲージメントなどのサーベイを実施した事例が紹介されています。企業文化の定着状況は変化するため、定期的に実施しなければなりません。経営層や人事部としては、同じ基準で評価できるアンケートツールや社内SNSによるアンケートなどでサーベイを仕組み化しておくとよいでしょう。
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5つの共通要素

続いて、人材戦略に必要な5つの要素を解説します。

1.動的な人材ポートフォリオ

動的な人材ポートフォリオとは、将来の目標達成から逆算した人材要件の定義や採用計画、育成計画などです。ビジネススピードが速い現代では、経営戦略に対応できる人材ポートフォリオと現状のギャップを埋めるまでの時間が競争力に直結します。このため、部署を横断した適材適所の再配置や外部人材のプール、場合によってはM&Aなどによって、動的に人材ポートフォリオを最適化できる体制を整えることが必要です。

伊藤レポートでは、動的な人材ポートフォリオを実現するためには、HRテクノロジーを活用したデータ蓄積と状況把握が望ましいとしています。HRテクノロジーの活用は、特に従業員数が多い場合に必須となるでしょう。例えば、従業員の属性やスキル、経歴、キャリア志向などあらゆる情報を集めて管理できるタレントマネジメントシステムを導入する方法があります。タレントマネジメントシステムは重要な情報をダッシュボードで見える化したり、人事異動後の組織状態をシミュレーションしたりする機能があるため、精度の高い人材ポートフォリオを構築できるでしょう。
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2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

伊藤レポートでは中長期的な企業価値向上には、多様な人材(ダイバーシティ)とその受容(インクルージョン)が必要だと述べています。多様な人材が伸び伸びと個性を発揮できる組織の方が、イノベーションを起こしやすいからです。日本企業においては、従来は同質性の高い組織のほうが、個性を尊重した組織より成果が上がりやすいとされていました。しかし、前述したように、従業員の価値観の多様化が進んでいる現代では、組織のあり方も見直す必要が出ています。
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3.リスキル・学び直し

現代はAIやIoT、ビッグデータなどの先進技術の実用化が急速に進む「第4次産業革命」の真っただ中です。ビジネス環境は大きく変化し、従業員が担う業務内容も大幅に変わってきています。こうした状況において企業の人材戦略に不可欠となっているのが、企業主導で従業員に新たな知識、技術を身に付けさせるリスキリング、学び直しの施策です。例えば、事務職の従業員をプログラマーに育成したり、営業員をデータアナリストに育成したりするなど、主にIT人材へのリスキリングが求められています。

4.従業員エンゲージメント

人的資本経営では、主体的に業務に関わる従業員エンゲージメントの高い人材が求められます。エンゲージメントの高い人材を育成するには、個人の成長ベクトルを組織目標の達成に合わせるのがポイントです。自分の成長が企業の貢献につながることで、企業に貢献したいという従業員エンゲージメントが育ちやすくなります。しかし、組織目標を従業員に強いると、自律性や主体性を損ないかねません。そこで伊藤レポートでは、自己啓発のための兼業や副業を支援する施策や、在宅勤務か出社かを選択できる制度などの導入を提案しています。組織目標を達成するためのアプローチに自由を与えることで、従業員が能力を発揮しやすくなるでしょう。
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5.時間と場所にとらわれない働き方

コロナ禍のなかで作成された伊藤レポートでは、従業員が安全に安心して働くためのテレワーク環境の重要性も述べられています。今後も感染症や災害によって出社しにくい状況が起きる可能性があるため、事業継続計画の一環としても、テレワークは重要になるでしょう。一方、テレワークではコミュニケーションや勤怠管理、マネジメントなどの方法が対面勤務と大きく変わるため、生産性が下がるケースも少なくありません。伊藤レポートは、テレワーク環境でのマネジメントに対応できるマネージャーの育成と支援がカギになると述べています。

まとめ

人的資本経営に取り組む際は組織連携の強化やITツールなどの準備からはじめよう

人的資源経営から人的資本経営にシフトする企業が増えています。人的資本経営では、経営戦略に沿った人事戦略の立案や従業員のキャリア志向に沿った人材配置など、人的資源経営に比べてきめ細かく、手厚い施策が求められるのが特徴です。人的資本経営に移行する際は、長期的な視点に立ち、経営層と人事部の連携強化や人材管理を効率化するITツールの活用などの準備から進めていきましょう。