離職確率とは、「ある従業員ひとりについて、その人がその後退職するリスクがどれくらいあるか」を算出したもの。それぞれの従業員の未来について考えるもので、「新卒入社社員の3年後の離職率は○%」などを示す「離職率」とは区別して使われます。
離職確率を可視化することのメリットはいくつかありますが、最初に挙げるとすればELTV(従業員生涯価値)の予測を行う際に必要なひとつの指標となる点です。
ELTVとは従業員生涯価値(Employee Life Time Value)のこと。ひとりの社員について、入社から退職までの期間で発揮したパフォーマンスの総量を指します。
このELTVがどのくらいになるか。将来的な予測を行うために、必要な指標のひとつが離職確率。離職確率によって在籍期間(上記図形の横幅の長さ)が変化するため、期間の予測はELTVの予測に役立つといえるのです(横幅の長さが変われば図形の面積が変わってくる=ELTVが変わってくる、とイメージしてみてください)。
このような前提のもと、1章からは離職確率の定義について解説します。
1.離職確率と定着率
冒頭ですでに示した内容ですが、離職確率とは「ある従業員について、その人の退職リスクがどれくらいあるか」を算出したもの。確率が高くなれば離職可能性が高まり、逆ならば働き続けてくれることが期待できるといえるでしょう。退職に繋がりやすいいくつかの要因リスクから算出することができます(要因リスクについては2章でご紹介します)。
離職確率と対になる言葉として、「(ひとりあたりの)定着率」も覚えておきましょう。こちらは「ある従業員ひとりについて、その人がその後退職せず組織に定着する確率がどれくらいあるか」を算出したものです。
基本的に新しい従業員が組織で働くことになったときは、その後働き続けるか退職するのいずれかになるため「(ひとりあたりの)離職確率+(ひとりあたりの)定着率=100%」と表すことができます。式で表すと、下記のようになります。
(定着率)=1−(離職確率)
・離職確率:退職につながる要因リスクから算出される退職の確率
・定着率:離職確率から算出される退職せずに勤続してくれると期待できる確率
離職確率がわかれば、その数値と退職に関する統計によって、残りの在籍期間について予測を立てることが可能になります。たとえば、「○○業界の人で離職確率○%の人であればあと○○年くらい勤続するだろう」と見積もることが可能になるのです。
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2.離職確率の予測には、3つの要因が存在する
1章では離職確率の定義や離職確率と定着率の関係についてみてきました。ここからは、離職確率に影響を与える3つの退職要因リスクについて見ていきます。
離職確率は主に、エンゲージメント要因・市場価値要因、外的要因と、3つの要因の影響を受けます。
- エンゲージメント要因:企業や組織への愛着や仕事のやりがいなど
- 市場価値要因:転職市場の状況など
- 外的要因:その時どきの個人や環境によるものなど
まず、エンゲージメント要因とは、企業や組織への愛着や仕事のやりがいによって左右されるリスクです。たとえば希望の部署へと異動がかなった際にはモチベーションが上がり、退職リスクが下がる。逆に、「会社の方針に賛同できない」と考えているときには退職リスクが上がります。定期的なパルスサーベイや1on1などから、各社員の状況をキャッチしておくことが重要となります。
市場価値要因は、転職市場の状況で変わってきます。たとえばその業界での給与水準が上がり転職することで給与が上がると期待されている状況や、売り手市場で転職しやすい状況などは、リスクも高まる状態。社内の状況だけでなく、このような転職市場にも目を向けることを忘れないようにしましょう。
最後に外的要因では、上記ふたつに当てはまらない外部からの影響を受けるものになります。わかりやすい例では、病気や家庭の事情などで業務が続けられなくなりそうな場合はここのリスクが高まっている状態です。1on1や人事面談で個人の状況を把握しておくことが重要であることとともに、個人やその時どきの状況に合わせた対応や制度やルールの柔軟な変更などによって、対応することも可能です。
上記3つに関して、リスクレベルを点数付けするなどの方法で定期的に可視化。そうすることで、離職確率を可視化することができます。
明確な数値で出そうとすれば統計学などのある程度専門的なスキルが必要である一方、たとえば各要因リスクをスコア化して各従業員の離職確率を「高/中/低」のように可視化することはそれほど難しいことではありません。統計やデータ処理の知識や経験が少なくても比較的やりやすい方法だと言えそうです。
数値のちょっとした違いが大きな意味を持つというよりは、可視化することでその後のアクションや他の指標との関わりのなかで役立つものだとまずは考えてみるといいかもしれません。
半年に1度程度、従業員の離職確率を出すことをおすすめしますが、もちろんそのときだけ退職リスクをケアすればいいわけではなく、日頃のコミュニケーションなどから個人のケアも忘れないようにしたいところです。離職確率が高いことがわかった時点では、かなり離職の意志が決まっているケースがほとんどです。離職を防ぐために可視化する離職確率ではありますが、高くなってからアクションするのではなく、低く保つために可視化するものだと意識します。
3.離職確率の可視化によってできること
離職確率がわかると、主には下記ふたつのことに役立てることができます。
3-1.離職防止アクションにつなげられる
離職確率を下げて在籍期間を伸ばす施策を行う際に、各離職要因リスクがわかることに大きなメリットがあります。従業員ごと、離職確率を調べるのに適しているのはおおよそ半年に1度程度。半期ごとに離職確率を出し、そのデータを蓄積させていくことで、離職確率の変化を見ることができますし、変化に気づくことができれば早めのケアを行うことが可能になるでしょう。
また、3つの離職要因リスクの特徴も見えてくるでしょう。完璧な企業というのはなかなかなく、どの企業においても離職要因リスクは抱えるもの。しかし、その中でも自社がどういったリスクを抱えやすいか、傾向を把握しておくことは非常に重要です。
たとえば仕事のやりがいは感じられないけれども転職するよりは在籍していたほうが給与が高いと判断される状況であれば、エンゲージメント要因リスクは高くなる一方で、市場価値要因リスクは低くなっている状態。
介護が大変だったけれども介護を理由とした時短勤務が可能になったときには、外的要因リスクは高くなったものの、制度での対応や周りの人のサポートでカバー可能で、エンゲージメント要因リスクを下げることができたといえるでしょう。
このように、離職確率と離職要因リスクを明確にすることで、どのようなリスクが高くなっているかがわかれば、何を改善するのか、改善できない場合は何でカバーするのかなど、その後の対応につなげやすくなります。
3-2.離職が企業に与える影響を示すELTVの予測に必要な指標の1つになる
離職確率は、ELTVの予測を行うに当たり、役立つ指標です。ELTVとは、Employee Life TimeValueの略で従業員生涯価値のこと。各期間(たとえば評価の半年)で出したパフォーマンス×在籍期間の総量で表される、下記図の面積の部分です。
入社から退職までこのグラフがどのような形となるか予測することでひとりの従業員のELTVの総量も予測できるようになります。
予測ELTVを算出するには、期待在籍期間(底辺の長さ)、最大期待役割(最も大きな縦の長さ)、成長角度(グラフの角度の変化)の3点が必要です。
そのうち、期待在籍期間の予測をするために必要なのが離職確率です。最初に触れたとおり、離職確率がわかれば、その後の在籍期間をある程度予測する事が可能になり、期待在籍期間がわかれば予測ELTV算出が可能になります。
予測ELTVを算出し、各要因リスクがわかれば、企業の特徴や抱えるリスクがより見えやすくなります。ELTVを大きくするには、図の高さもしくは横幅を大きくすればいいため、極端な話をすると「ELTVの縦軸(パフォーマンス向上)へ全社的に舵を切る」と決めてしまい、離職については問題視としないことも起こり得ます。こういった人的資本を運用する際の判断材料として、予測ELTVは非常に重要な要素となります。
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4.離職確率可視化にあたってのポイント
離職確率を可視化するにあたっては、重要なポイントが主に2つあります。
4-1.データを蓄積する
離職要因リスクには、エンゲージメント要因、市場価値要因、外的要因と、3つの種類があります。
各リスクをスコア化して状況を把握することは非常に大切 です。一方でそれぞれの退職要因リスクは、一度把握したら終わりではないのが押さえておきたいポイントです。
たとえばある人について「退職確率が60%」と出たとして、それだけで何かを判断することはできません。大切なのは、離職確率を基に算出される予測ELTVです。予測ELTVを最大化させるために、人事施策の優先順位(パフォーマンス向上によりELTVを最大化させるのか、それとも在籍期間を伸ばすことでELTVを最大化させるのか)を決めなければいけません。
さらに重要なのは、点で判断せず、線で捉えることです。その時点以前ではどのような結果が出ていて、そのときどきどのように変化したのか、ある程度の期間を見るようにしましょう。これは離職確率に限らず、他の指標についても同じことが言えるでしょう。
4-2.マネジメントの重要性
離職確率を求めるために必要な離職リスク要因それぞれについては、マネージャーが1on1などを通じて把握しなければならないものがいくつもあります。それゆえ、マネージャーには、正しくメンバーの状況を把握したり、本音を引き出すマネジメントスキルが求められます。活用できる指標やデータは様々ありますが、基になるデータが間違っていては意味がありません。正しく現状を知るためにも、マネージャーの育成は重要なポイントのひとつです。
5.まとめ
最後に本記事の内容を簡単に振り返りましょう。
離職確率とは、「ある従業員について、その人がその後退職するリスクについてどれくらいあるか」を算出したもので、定着確率と対になる概念です。確率を算出すると、おおよそその後の在籍期間を求めることが可能。在籍期間を予測することができれば、予測ELTVの算出にも寄与します。
明確な確率を算出するにはある程度専門的な知識が必要である一方、3つの離職要因リスクをスコア化し、離職確率を大まかに可視化することは比較的難しいことではありません。組織によって、あるいは人によって、どのリスクが高くてどのリスクが低いのか。そしてそれぞれどのように対応していくのか。可視化によってアクションにつなげることが重要です。
また可視化された数値やデータをきちんと活かすには、そもそも基となるデータを正しく収集し、蓄積させていくことも忘れないようにしたいポイントです。正しいデータ収集には現場マネージャーのマネジメントスキルがカギとなるため、マネージャー育成にも力点を置くようにしましょう。