インターネットの力によってサイバー化やボーダーレス化が進行するなかで、「人」の価値がますます高まる時代に突入しています。日本においては、とどまることのない少子高齢化による労働力人口の減少傾向も見られる一方で、個々人の価値観が大きく変化しており、雇用の流動化が加速。企業にとっては、求める人材の採用そのものが難しくなるばかりか、従業員が離職しやすい状況に直面することになります。このような背景から、人事データの活用が注目され、「戦略的人事」を目指す企業も増えています。本記事では、企業の導入事例から抽出したキーワードをもとに「人材管理システムの活用方法」をご紹介いたします。
人事データが必要とされる背景
「人の価値」がますます高まるなかで自社に適した人材を採用し、その能力を最大限に引き出し、従業員が自社のなかで活躍しつづける状態をつくることが、これからの経営戦略、特に人事戦略にとっての要です。このような背景から、昨今、人事データマネジメントが見直され、人事データにもとづいた戦略的意思決定を行う「戦略人事」が注目されています。しかしながら、人事データの活用はもとより、その管理自体がうまくいかないという声が多いのも、事実です。
人事データ活用への4つのステップ
人事データを有効活用し、戦略人事を実現するためには、ただデータを収集するだけでは不十分です。人事データの「一元化」人事業務の「効率化」、人事データの「見える化」、そして人事データの「活用」という4つのステップが重要になります。
①一元化
まず、1つ目のステップは人事データの「一元化」です。人事データは、必ずしも「人事部が持っているデータ」に限りません。現場でのプロジェクトへの参加履歴や営業成績などの情報は人事部ではなく、別の部署で管理されていることが多いでしょう。「人事データ」と聞くと、人事部にあるデータに少し手を加えればまとまりそうなイメージがありますが、実は社内に散在しているのです。絶えず移り変わるデータをマネジメントに活用するためには、データの一元化が重要になります。データ収集の方法から、そのデータを絶えず更新しつづける運用プロセスを設計して、一元化できるような仕組みをつくることが大切です。
②人事業務の効率化
次に、人事業務の効率化が必須になります。人事データの収集も人事業務の仕事の1つですが、業務の中には紙やExcelで管理されているものもあります。アナログで収集したデータをExcelやGoogleスプレッドシートなどに入力する作業や、入力したデータを加工する作業などが発生し、作業行程が多くなるほどミスの発生頻度も高くなるでしょう。また、労務領域は法改正によって必要とされる手続きやそれにともなって発生する業務への対応が必要不可欠です。紙やExcelではなく人事データベースなどによる管理を行うことで、項目の転記ミスなどの人為的ミスを軽減することにもつながり、人事業務の効率化を図ることができます。
③人事データの見える化
そして、人事データの見える化も重要なポイントです。特に複数の拠点をお持ちの企業では拠点ごとに独自の方法で人事情報が管理されていることも多く、現場の担当者による「属人的な管理」が目立ちます。拠点ごとの管理では経営陣やマネジメント層が正確な情報を把握することができず、人材の採用や異動・配置の決定などの検討に活用することが難しいでしょう。従業員の保有スキルや資格情報、健康診断の結果などのあらゆる人事データを見える化することにより、離れた場所からも必要な情報を必要なタイミングで参照することができます。人事データにもとづいて従業員の育成計画の作成や社内コミュニケーションの促進にもつなげている事例もあるため、人事データの見える化を行うことで、従業員一人ひとりの能力を活かした組織づくりを実現することが可能になります。
④人事データ活用
収集した人事データを分析することで、組織の現状を定量的に把握し、「適正な人材配置ができているか」、「改善のための施策の結果はどうなのか」を明らかにすることができます。人事データを活用して課題の原因を深掘り、目的達成のために必要な条件などを明確にすることは、勘や感覚に頼ってきた人事をデータにもとにした戦略的人事にアップデートし、企業の急成長や次のフェーズへの移行に向けた対応や備えにつながります。
人事データベースづくりで大切な4つのポイント
前述した4つのステップを実現し、人事データを活かすためには、基盤となるデータベースづくりが何よりも大切になります。以下では、データづくりの4つのポイントについて説明します。
①データの項目数
ポイントの1つ目は、「どのようなデータを収集するか」。人事データのデータベースの項目には、大きく分けて次のようなものがあります。
- 個人情報→名前や住所など
- 働き方情報→退勤情報や残業の履歴など
- プロジェクト情報→担当している案件
- 採用情報→採用時の選考過程での評価・採用時の意向など
- 評価情報→人事評価・目標達成率など
- 社外活動情報→勉強会や奉仕活動への参加
- 前職情報→過去の職歴など
- 資格情報→保有資格
- 退職者情報→退職者の退職理由
- 育成情報→研修受講履歴(社内・社外)・OJTの進捗
- 異動情報→異動理由や異動履歴など
- その他企業固有の情報など
必要なデータ項目は企業ごとに異なるので、主な項目例として参考にしてください。また、さまざまな人事データを一元管理するためには、柔軟かつ簡便に項目を追加できることや項目を細分化できることがポイントになります。
②データの質
2つ目のポイントは、「データの質」です。データを活用するためには、常に最新状態のデータである必要があります。データベースは定期的に更新してフレッシュな状態を保つことが求められるため、更新の頻度やデータ管理や、メンテナンスの容易さも重要なポイント。定期的に更新することで、入力漏れや誤情報の登録を抑制することにもつながり、より正確で質の高いデータを活用することができます。
③データの履歴
3つ目は「データの履歴」になります。過去データからの履歴を管理することで、人材育成などにも活用することが可能です。施策の振り返りにも活用できるため、項目にあったタイミングや最適な形で簡単にデータを蓄積できることも重要になります。
④データの抽出
4つ目は、「データの抽出」です。人事データを活用するためには、蓄積されたデータを意図した通りに抽出できることが重要です。蓄積されたデータの検索はもちろん、柔軟かつ簡便にフィルタリングをしたり、データ抽出ができることも大切な要件になります。
活用事例
ここからは実際に、①人事業務効率化、②人事データの見える化、③データ活用を実践されている3つの企業の事例と、人事データ活用の効果についても合わせてご説明します。
①人事業務効率化
1名の入所に対して、複数の「Excel」ファイルを 開き、ときに 10 回以上、同じ名前をコピペしていろいろな「Excel」に入力していました。さまざまな部署から「こういう情報を教えて」という要望がありますが、個人情報が詰まった 「Excel」のシートをそのまま展開するわけにはいかないので、必要な情報だけ切り貼りして送るなど、細かな業務に手間がかかっていました。「Excel」の管理業務が減らせないのなら、人事・ 労務担当を増員するか、効率化するかしかない。その 2択から、人事システム導入を決めました。」(法律事務所)
人事業務効率化に取り組まれたこの法律事務所では、以前は人事データを「Excel」で管理していました。しかし、データの入力漏れや業務量の削減を目的に人事管理システムを導入。人事システムの導入後は、「複数の部署で同じ画面を確認、入力できるので業務スピードが上がり、従業員に基本情報を直接入力してもらうことで業務量の大幅削減につながった」とのことです。人事部がすべて入力していたデータを従業員みずから入力することで、人事の業務が軽減されたとの効果を実感されています。また、以前は人事のタスク管理を紙を使ったチェックリストで運用しており、他の担当者との業務進捗が共有できず業務の抜け漏れが発生するなども起こっていました。属人化を脱してシステム化することにより、周りがミスに気づくことができるような体制になり、ミスの抑制と業務効率化につながります。
②人事データの見える化
経営陣やマネジメント層が従業員の健康状況を常に把握できるようにしておくことは、当事業(運送業)にとって非常に重要です。しかし、健康診断の結果 などを正確に把握できていたのは、各営業所の保健担当者と所長、そして本社に勤務する保健師だけでした。全国の 8つの営業所でそれぞれ「Excel」や紙で従業員情報を管理しており、社内で統一された「データベース」 がありませんでした。どのような経歴の従業員がどの部署でどういう業務についているのかが不透明だったので、社内の人材活用も進みませんでした。(運送業)
人事データの見える化に取り組んだ運送会社では、以前は拠点ごとに独自の方法で人事情報が管理され、各営業所の部長しか把握できていない状況にありました。さらに、職務経歴書は紙で管理されていたため、個人情報を把握するのに時間がかかり、従業員情報の検索性が低く、適切な人材の配置が実現できていない状況でした。従業員情報を人事管理システムで見える化することで、「従業員の基本情報が一元化され、人材活用に活かすデータが可視化された。データが可視化されたことで、従業員同士のコミュニケーションも増加した」と効果を実感されています。従来では拠点ごとの人材配置が見えない状態でしたが、人事データを見える化することで、組織内のポジションを可視化。組織ごとのロールモデルをつくり、個人のキャリアアッププラン作成など育成にも活用されています。また、システムによって相手の顔が分かる状態になるので、「他拠点の方に連絡をとる際、相手の顔がわかるので話しやすくなった」など、従業員同士のコミュニケーションの増加にもつながったとの声もあります。
③データ活用
2018年の1年間で、従業員数が約150人から300人へと2倍に増え、従業員データの管理が追いつかなくなりました。新規事業立案や組織改編の際、「このような実績を持つ従業員をアサインしたい」といった人材配置プランを考える必要がありますが、従業員の情報が一元管理されていないため、誰をどこに配置すべきかすぐに判断することができていませんでした。(不動産)
会社の急成長にともない、データ活用の必要性を感じて人材管理システムを導入された不動産会社。従業員の人数が少ないうちは「Excel」などで従業員データを管理できますが、従業員数が増えると管理が難しくなります。こちらの企業も1年で従業員数が2倍に増えたなか、従業員情報の一元化がされていなかったため、事業戦略にもとづく組織再編や従業員の異動・配置などが行えていなかったという課題がありました。人事管理システム導入後は、「複数の部署に散在していた従業員の情報を集約でき、業務効率が上がった。データの検索性が高く、部署ごとの資格保有者数など必要な情報をすぐに取り出せるようになった」という効果を実感したとの声もあります。社内に散在していた情報を一元化することで、業務の効率化が向上し業務時間の削減にもつながったとのことです。また、人事データの一元化や見える化によって、必要なときに必要な従業員データを参照することができるようになったため、組織が急拡大するなかでも、データに基づいた意思決定で柔軟な組織づくりを行うことができているとのことです。
まとめ
「人」の価値がますます高まるなかで、人事データという事実にもとづいた戦略的意思決定を行う戦略人事の必要性が高まっています。人事データを活用するためには、データ収集だけでなく、データの一元化から活用までを見据えて運用を設計していく必要があります。人事データの可視化により戦略的な人材配置を行うことが、経営課題の解決と企業の成長にもつながるでしょう。
従業員データ・マネジメントの実際
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