コンピテンシー評価とは?メリットデメリット、失敗しない導入方法を解説

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勤務スタイルが多様化する現代において、適切な人事評価の実施は企業にとって重要なテーマです。コンピテンシー評価はその実現に役立つものであり、行動特性に着目する点が大きな特徴となっています。公平な判定を行えますが、そのためには手順やメリットを理解し、正しく運用しなければなりません。そこで本記事では、コンピテンシー評価のメリット・デメリット、失敗しない導入手順やポイントを紹介します。

コンピテンシー評価とは?

まずコンピテンシー評価がどのようなものか、意味を押さえておきましょう。

コンピテンシーとは?

コンピテンシーとは、「competency」をカタカナで表記したものです。この英単語は一般的に「能力」や「適性」などと訳されますが、評価のジャンルにおいては行動特性を意味します。ただし、すべての従業員を対象とするわけではありません。いわゆるハイパフォーマーと表現されるような人物に限定されています。組織において特に活躍している従業員の行動特性を指すというわけです。具体的な例としては、問題の発生時に原因を見極める注意深さや、取引中に的確な判断が可能な冷静さが挙げられます。他にもコンピテンシーの種類は多岐にわたりますが、どれも企業の武器として大事な役割を果たしていることがポイントです。

コンピテンシー評価の意味・定義

コンピテンシー評価とは、文字どおりコンピテンシーを基準とする人事評価です。つまり、企業にとって恩恵が大きな人物に共通して見られる行動特性を重視します。優秀な成果を出している従業員を指標としており、人事評価のみならず採用活動にも使われることが増えました。そう言われると、優れた従業員を見つけて真似をすれば、誰でも高評価を得られると思う人もいるでしょう。しかし、実際にはそう単純なものではなく、表面的な行動を参考にするだけでは不十分といえます。なぜなら、コンピテンシーはアクション自体よりもそれにつながる素養であることが多いからです。基本的には、従業員の価値観や性格といった抽象的なものを指しています。

そのため、コンピテンシーには可視化が難しいという課題があります。詳しくは後述しますが、この課題をクリアするには具体性のある評価項目を設定しなければなりません。結果のみに注目するのではなく、そこに至った思考なども含めて要素の良し悪しを細かく判定します。たとえば、売上が伸びている場合、セールスの手法だけを見ても根本的な理由が分からないこともあるでしょう。市場や消費者の好みを徹底的にリサーチする慎重さが、素晴らしい成果に結びついたのかもしれません。このような行動特性こそが大切だと考え、広い視野で判定しようとするスタンスは、コンピテンシー評価の大きな特徴です。

コンピテンシー評価を導入する企業が増えている背景

コンピテンシー評価を導入するなら、多くの企業がそうしている背景を知ることも大事です。日本のビジネスシーンには、年功序列によって待遇が決まるという傾向がありました。どれだけ若手が優れた成績を残しても、ベテランの従業員より昇進や昇給をするのは困難です。それが原因でモチベーションが低下し、優秀な人材の離職や転職を招くという問題があったのです。その対策として、成果主義を重視する風潮が強くなりました。成果主義に基づく評価制度では、優れた成績を残した従業員が高評価を得られます。グローバル化とともに、年功序列からそちらにシフトする企業が増えました。

この変化によって、従業員に不公平な印象を与えることは減りましたが、必ずしも最適な評価を実施できているわけではありません。なぜなら、単なる成果主義はあくまでも成績のみにフォーカスしているからです。これには2つの問題があり、どちらも解消しなければ、企業の発展を見込めないのが実情となっています。1点目の問題は、最終的に成果を出した人に高評価が集中しやすいことです。下地となる部分に貢献した人を軽視してしまうケースが見受けられます。年功序列と同様に、モチベーションを下げてしまうリスクが存在するのです。目立ちにくい業務を担当しようとする人が減り、プロジェクトなどをスムーズに進められないリスクがあります。

2点目の問題として、従業員の成長につなげにくいことが挙げられます。成果に至った要因があいまいだと、達成の確実性を上げるような取り組みを行えません。待遇の決定だけを目的として、人事評価を行うならそれでも問題はないでしょう。しかし、長所や短所を分析し、従業員のレベルを上げることも人事評価の役割です。この2つの問題は、コンピテンシー評価の実施によって解消できます。幅広い行動特性に着目するので、成果を出した従業員だけが高く評価されるわけではありません。また、行動特性を軸とすることで、ステップアップの方向性が明らかになります。これらに魅力を感じて、コンピテンシー評価を導入する企業が増えてきました。

コンピテンシー評価の導入手順

次にコンピテンシー評価の導入手順を紹介します。具体的な手順は企業によって異なりますが、大まかなフローは以下のとおりです。段階ごとにポイントを説明するのでチェックしておきましょう。

【第1段階】ハイパフォーマーのヒアリング

最初に行うのはハイパフォーマーを調査することです。部門ごとに、貢献度が大きな従業員をピックアップしていきます。そのような人物に詳しく話を聞いて、どのような行動特性があるのか分析しなければなりません。ここでポイントになるのは、成果だけに注目しないことです。成果を生む原因になったアクションを抽出し、それを実施した根拠などもヒアリングします。そうすると、会社生活で大切にしている考えなどが明らかになる場合もあるでしょう。多角的な質問をして、高いパフォーマンスの原動力となっている要素を探ります。自分について正しく理解できていない従業員もいるので、自覚のない潜在的な要素まで見つけるつもりで臨みましょう。

【第2段階】コンピテンシー項目の設定

第1段階の情報をもとにコンピテンシー項目を設定します。優れた従業員ごとにデータをまとめ、共通して多く見られる要素をリスト化することが大事です。ただし、前述のようにコンピテンシー自体は抽象的なものが多いため、そのまま記述すると評価の指標として利用しづらいです。よって、できるだけ具体的な項目を定め、レベルも細かく定義しなければなりません。たとえば、現状に満足しない積極性という素養があるなら、業務改善などのコンピテンシー項目を用意すると良いでしょう。さらに、5つほどのレベルに分けると評価しやすくなります。自分を改善できない人が最低で、チームを改善できる人が最高といった具合です。

【第3段階】指針となるモデルの明確化

コンピテンシー項目が明らかになったら、それらを高いレベルで満たす人材のモデルを明確にします。すべてを兼ね備えている従業員が実在するなら、その人物をモデルにするのが効率的です。しかし、たいていの場合、優れている従業員でも何か欠けている点があります。万能な従業員がいないなら、すべてのコンピテンシー項目が高いレベルの人物をイメージしましょう。それこそが自社の求める人物像なので、理想型のモデルとして定義します。また、実在する従業員と理想型のモデルを融合させ、ハイブリッド型のモデルを設定するという手もあります。このようなモデルを決めておくと、従業員への説明が容易になり、評価の指針を立てやすいです。

【第4段階】自社の戦略とすり合わせ

コンピテンシー項目やモデルが、自社の戦略にマッチするのか検証します。ビジネスシーンの移り変わりは激しく、企業の状況も時間とともに変化していくのが一般的です。企業ごとに求める人物像は異なりますし、同じ企業でも重宝する人材は変わっていきます。したがって、コンピテンシー項目を1つずつ検証し、現時点の指標として適切か判断しなければなりません。モデルに関しても、企業を発展させる人物像として本当に適切なのか考えましょう。自社のビジョンに合っていないなら、評価や育成に関して十分に機能しない可能性があります。そのまま運用を開始するのではなく、第2段階や第3段階に戻ってブラッシュアップすることが大切です。

【第5段階】評価シートを用意して運用スタート

戦略にマッチするコンピテンシー項目を設けたら、それらを含める形で評価シートを作成します。厳密な方法は定められていませんが、業務単位で行動特性を細分化すると点数を付けやすいです。業務で実施するアクションごとに、関連するコンピテンシー項目を評価できるようにします。そこまで終わったら、いよいよ運用をスタートするタイミングです。しかし、完ぺきな評価シートをいきなり用意するのは簡単ではありません。高評価の従業員が多いのに、自社の業績が上がらないようなケースもあるでしょう。その場合は、コンピテンシー項目やモデルが不適切となっています。実際に運用を開始してからも、クオリティを上げるための取り組みも必要です。

コンピテンシー評価導入のメリット

コンピテンシー評価を導入したいなら、自社にどのような影響を及ぼすのか事前に確かめましょう。検証の参考になるように、ここでは主なメリットを挙げていきます。

メリット1:納得しやすい人事評価

基準が明確なので、従業員が人事評価について納得しやすくなります。あからじめ定義されたコンピテンシー項目ごとに判断されるため、高評価につながった理由を容易に把握できるでしょう。低評価だった場合も、どのような行動が不足していたのか理解できます。また、業務の流れごとに行動特性が検証されるので、最終的な成果を出すステップに関与しない人でも、軽んじられる心配はありません。ノルマや売上などの形で数値化できない業務に携わっていても、自分の働きを正当に評価してもらえる可能性が高くなります。コンピテンシー項目ごとにレベルを細分化することで、評価者との人間関係や主観の入り込む余地を減らせることもポイントです。

メリット2:人材育成を促進

従業員の育成を促せることもメリットです。自社が求めるモデルを掲げているので、それと比べる形で長所や短所を明示できます。従業員は理想的な自分をイメージすることで、そこまでのロードマップを想定することも可能です。やみくもな努力を避けられるようになり、伸び悩んでいた従業員が急成長することも珍しくありません。コンピテンシー評価の指標は具体的なので、その結果によって従業員ごとの課題がよく分かります。そして、課題の解消がキャリアアップに直結し、自社のみならず市場における評価の上昇にもつながるのです。よって、各自のモチベーションが高まり、行動も短期間で改善されるケースがよくあります。

メリット3:人材配置の最適化

人材の配置を適切に行いやすい点もメリットの一つです。コンピテンシー項目と照らし合わせることで、従業員ごとに行動の傾向が明らかになります。それを考慮することで、各自の素養を活かせる部門への再配置が可能です。たとえば、コミュニケーションを得意としている従業員なら、営業部門で高い成績を残せる見込みがあります。物事を慎重に分析する従業員は、研究部門で活躍できるかもしれません。もちろん、技能や資格なども関係するので一概にはいえませんが、適材適所を判断する材料として役に立つでしょう。再配置された従業員も働きやすくなり、離職や転職のリスクが下がることも期待できます。

メリット4:企業の継続的な発展

コンピテンシー評価を長期的かつ適切に運用すれば、企業全体に良い効果が出てきます。なぜなら、そもそもコンピテンシーは企業が必要だと捉えている素養だからです。多くの従業員がその指標で高い評価を獲得すれば、おのずと組織全体の生産性も上がっていきます。そうなると、報酬という形で従業員に成果を還元できるため、さらなるモチベーションの向上も狙えます。社風として定着することで、各部門のポテンシャルを底上げすることも可能です。また、このような好循環を作れることは、中小企業にとっても魅力的なメリットに他なりません。企業の発展を継続させやすく、新規事業を手掛けるような余裕も生まれやすいからです。

メリット5:ビジョンの見直し

企業の経営状況が良くないときもコンピテンシー評価は役立ちます。評価の結果、自社のビジョンに適した従業員が少ないと判明することもあるでしょう。この場合、従業員をビジョンに合わせる形で教育することが、必ずしも正解とは限りません。かなりの時間とコストが必要なので、発想を変えたほうが有利になるケースもあるのです。たとえば、重視していなかった行動特性をコンピテンシー項目に加えたところ、高評価の従業員が多いと分かる場合もあります。その行動特性が業績に結びつくような戦略にシフトすれば、現状の従業員のままでも収益を伸ばせる可能性が高いです。

コンピテンシー評価導入のデメリット

コンピテンシー評価によって解決できる課題はたくさんあります。一方、以下に挙げるデメリットの存在を認識しておくことも重要です。メリットだけに注目せず、総合的な観点で導入を検証しなければなりません。もし導入するなら、デメリットの影響が小さくなるような運用を心がけましょう。

デメリット1:導入にかかる手間

導入に手間がかかることはデメリットといえます。コンピテンシー評価で重視する素養は企業によって異なるため、書籍やセミナーなどで方法を学んでも、すぐに実施できるわけではありません。共通のテンプレートがないので、新しい評価制度をゼロから構築することになります。コンピテンシー項目の確定までに、多大なヒアリングが必要になることも少なくありません。そもそも優秀な従業員の選定すら、思うように進めれられないケースもあるでしょう。既存の評価結果を参考にするだけでは、本当に優れている人材を見落とすリスクがあります。よって、普段から各職場に目を向け、誰がハイパフォーマーなのかチェックしておくことが欠かせません。

デメリット2:目指す役割の偏り

一般的に企業の業務はチームワークによって遂行されています。事業をスムーズに進めるには、自分の役割をそれぞれ果たすことが不可欠です。コンピテンシー評価におけるモデルの定義を誤れば、協調性が失われる原因になります。たとえば、優れたリーダーがいるからといって、その人物像を全社共通のモデルにするのは良くありません。なぜなら、全員がそれを目指すとチームが成り立たなくなるからです。リーダーをフォローできる人材や、指示の内容を迅速にこなせる人材なども必要になります。したがって、どのような役割があるのか部門ごとに検証し、それぞれに適したモデルを定めるという対策が必須です。

デメリット3:柔軟性の低さ

環境の変化に対応する柔軟性が低いこともデメリットです。コンピテンシー項目やそのレベルは具体的に細かく定義されています。つまり、業務や役割が変わったときに、そちらの評価として流用できるような状態ではありません。ステージが変われば、その都度コンピテンシー評価の基準を検討する必要があります。また、企業内の事情だけでなく、業界や社会の情勢によっても、自社で重視される素養は変わりやすいです。よって、PDCAサイクルを回しながら、常にコンピテンシー項目を最適化していくスタンスが求められます。運用を開始したからといって安心せず、フィードバックを受けながら定期的に改良することがポイントです。

コンピテンシー評価導入を成功させるポイント

企業によって、コンピテンシー評価で得られる効果には違いがあります。十分な恩恵を期待しているなら、以下に紹介する3つのポイントを意識しましょう。あらかじめ把握しておくと、成功の可能性を高められます。

1.導入の目的を理解

せっかくコンピテンシー項目を定めても、それらで高評価を得られる人物が少ないケースもあります。だからといって、落ち込んでしまうなら、この評価手法の本質を理解できていません。なぜなら、コンピテンシーが高水準な人物を見つけることは、導入の目的ではないからです。そもそも発展途上の企業において、完成度の高い人材の比率は低くても当たり前です。目標とする水準までの差を正確に割り出し、妥当性がある評価をすることが本来の目的となっています。もちろん、すべてのコンピテンシー項目で高評価の従業員が多いことは理想です。ただし、それは最終的な話であり、少なくとも導入した時点では伸びしろを探ることがポイントになります。

2.企業の業績向上が重要

コンピテンシー評価の目的は上述のとおりですが、企業が目指しているのはあくまでも業績の向上です。人材の再配置や育成にも大いに役立つため、従業員を主体として考えやすくなります。従業員の満足度が高くなり、職場全体のモチベーションが向上しても、収益に結びつく成果が出なければ意味がありません。成果だけに着目しないことはコンピテンシー評価の特徴です。しかし、成果を軽んじることは、企業の成長につながるという人事評価の前提に反します。この点を忘れていると、コンピテンシー評価の成果は中途半端になるでしょう。企業の業績向上というゴールを意識し、それに必要なコンピテンシーを掲げることがポイントです。

3.従業員への事前説明

既存の評価制度が根付いていると、コンピテンシー評価を運用するのは難しい場合もあるでしょう。年功序列に慣れている従業員や、成果を出すことだけに固執してきた従業員は、導入に反対するかもしれません。そのような状態で強引に運用をスタートすると、全社のモチベーション低下を招くリスクがあります。したがって、事前に社内で説明会を実施し、従業員の理解を求めることが大事です。メリットをしっかり印象づけて、デメリットの対策なども説明すると良いでしょう。企業だけでなく、自分にとって恩恵が大きいと分かれば、前向きに受け入れてもらいやすくなります。導入によって成功している事例などを紹介することも有効な手段です。

コンピテンシー評価が採用活動に与える影響もチェック

労働力人口の減少は社会問題となっており、従業員不足に悩んでいる企業がよく見受けられます。そのため、採用活動に力を入れているケースも多いですが、やみくもに募集すると双方にとって喜ばしくない状況になりやすいです。企業は十分なレベルの人材を得られず、応募者もミスマッチにより早期に離職や転職をしかねません。そうなると再び採用活動が必要で、前回の時間やコストが無駄になってしまいます。このような事態を回避するには、できるだけ自社のニーズに合う人材を探すことが重要です。コンピテンシー評価はその観点でも役に立っています。

人手が足りないからといって、とりあえず増員するだけでは根本的な解決になりません。長期的に活躍できる戦力を確保したいなら、まず自社のニーズを明確にすることが必要になります。コンピテンシー評価を実施している企業は、この点をすでにクリアしている状態です。なぜなら、コンピテンシー項目は自社が重視する行動特性に基づくものだからです。それらを高い水準で満たす人材を採用すれば、企業の戦略において重要な役割を果たす存在になるでしょう。応募者も自分の能力を発揮しやすく、採用後にミスマッチが発覚するようなリスクも小さくなります。つまり、自社で末永く活躍してもらうことを見込みやすいです。

以上のように、コンピテンシー評価の導入は採用活動にも好ましい影響を与えます。コンピテンシー評価におけるモデルを定めることは、採用したい人物像の明確化に他なりません。即戦力が必要なら、なるべくモデルに近い人材を探すことが重要です。とはいえ、そのような優れた人材がすぐに見つかることは多くありません。行動特性の点でポテンシャルがあると感じるなら、採用してから教育を施すことも視野に入れると良いでしょう。

コンピテンシー評価の適切な運用を目指そう

コンピテンシー評価はメリットが多い評価手法です。公平性の確保や人材育成に役立つだけでなく、採用活動においても恩恵があります。一般的な手順を理解したうえで、コンピテンシー項目やモデルを選定することが大事です。デメリットに注意しつつ、あらかじめ成功のポイントを押さえておくことも欠かせません。導入後は定期的に見直して、自社用に最適化しながら運用しましょう。