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2020年6月17日(水)に第2回のHR SUCCESS Online「日本法人CEOに学ぶ 今だから言えるスタートアップ企業における1人目の採用」が開催されました。HR SUCCESS Onlineでは、HRにおいて先進的な取り組みをされている企業の経営者やご担当者をゲストにお迎えし、人事・経営にまつわるお悩みを解決できる情報をお届けしています。
第2回は、外資系企業で日本法人の立ち上げを経験されたCEOのお二方をお招きし、組織のつくり方、信頼できる仲間の集め方、採用活動において取り組む順序や人事に求めることなどをお話ししていただきました。
今回は後編として、候補者の見つけ方・見極め方・口説き方と今後人事に求められるスキルやスタンスについてまとめたものをお送りします。
前編はこちら
日本法人CEOに学ぶ 今だから言えるスタートアップ企業における1人目の採用-前編-
道下和良氏
WalkMe株式会社
代表取締役社長
1997年、慶応義塾大学総合政策学部卒業後、日本オラクル入社。エンタープライズ向け営業部長、CRM事業本部長、CRM/HCM事業本部長などを歴任。2013年にセールスフォース・ドットコム入社。コマーシャル営業部門執行役員を経て、常務執行役員として製品営業部門、エンタープライズ営業部門を担当。2019年6月よりSaaSやデジタルの利用定着化ソリューションを提供するWalkMeの日本法人代表に就任。
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小西真一朗氏
New Relic株式会社
代表取締役社長
2004年、株式会社エル・ティー・エス入社。コンサルタント、営業としてスタートアップ実務に幅広く携わり、執行役員兼コンサルティング事業本部長を経て、取締役兼営業統括に就任。2011年、株式会社セールスフォース・ドットコム入社。コマーシャル営業本部アカウントエグゼクティブとしてトップセールスを達成。コマーシャル営業本部営業部長をはじめ、ダイレクトセールスやアライアンス分野におけるリーダーシップポジションも歴任した。2018年10月、New Relic株式会社代表取締役社長就任。
茂野明彦
株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部 部長
大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。
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優秀な人材に巡り合うには、たくさんの方に会うことが重要
小西:本当に良い方と出会う確率を上げていくためには、たくさんの方に会うことが重要です。自分の交友範囲だけでなく、広いマーケットの中に自らを投じ、たくさんの良い方と巡りあえるようにしなければいけません。そのためには、知り合いや知り合いからの紹介はもちろんですが、人材紹介会社とのパートナーシップも重要なファクターになるでしょう。ただ、何より大事なのはリストをつくることではなく、自らの行動量です。自分の予定が埋まっている状態を常につくるようにしていました。私の場合、1日4人以上の方にお会いすることに徹底的に取り組んでいました。
茂野:リファラル採用では、自分の経験と勘をいったん捨て、いろいろな方とお話ししたのが良かったということですね?とにかく多くの方と会うというのが候補者の見つけ方の第一歩ということでしょうか?
小西:そうですね。多様性に関して一言付け加えるなら、会社が小さいうちから大きくなった状態を想像することが大事だと思います。私の場合は、いろいろな方が集まり、いろいろな考え方があるなかで、それでも生産性が高いチームをつくりたい。そうなると、最初のうちから取り組んでいったほうがいいですよね。金太郎飴でしばらく過ごして、大きくなってから急に多様性にシフトしていくのは大変だと思います。
茂野:道下さんの候補者の見つけ方はいかがでしたか?
道下:WalkMeの日本法人立ち上げから1年が経ち、従業員数が16人になったのですが、これまで人材紹介会社を経由で採用したのは1人だけです。基本的に知り合いや、社員の紹介で入社してもらっています。その理由は、会社としてのカルチャーのコアや礎をつくっていくというフェーズであり、早期に成果を出すためのスピード感や「あうん」の呼吸が必要だったからです。
茂野:経営者は自分のチームなので全力で取り組むと思いますが、社員の方に伝播させるコツはどういうところにあるのでしょうか?
道下:何度も何度も繰り返し社員に伝えていくことだと思います。「この役割の方は必要だし、採用したいから良い人いないかな」というような雑談を含めて、お昼ごはんを食べているときも呪文のように唱え続けることですかね。
その方の未来を想像できるかが見極めのポイント
茂野:小西さんは、見極め方の部分ではどのような点に気をつけていますか?
小西:まず、私が一緒に働く方々に対してどのように考えているかお伝えしています。私は社員に「私の代理人」になってほしいとは思っていません。私は社員を「投資先」としてみています。パフォーマンスが多少上がらないから、期待にそぐわないから社員を短期で見捨てるということはありえません。ですので、最終的にご入社いただく際の基準は、その方が笑顔で、会社で活躍しているイメージが頭に浮かぶかどうか。その姿を自分がずっと見続けていたいと実感できたら、自分がコミットできる準備ができたと判断しています。
茂野:道下さんはいかがでしょうか?
道下:基本的にリファラル採用での話になりますが、紹介してくれる方が、その方に対してどういうストーリーを話してくれるかが重要だと思います。紹介してくれる社員が話すエピソードが、絆としてその人たち同士で共有されているだろうなということが実感できたり、そこで培われたストーリーが、今後つくられていくであろうWalkMeの描く未来のストーリーと合致しそうだなと思えたりするかどうかをみています。
茂野:見極めという点で付随した質問なのですが、面接官が候補者の方の職務経歴書に書かれている内容の確からしさを確認するのは難しいと思いますが、スキルの見極めのポイントはどういうところにありますか?
小西:まず客観的に判断するために、リファレンスチェックは大事だと思います。面接では確認できない部分について、実際の上司の方がどのように感じられているのかが分かるので、非常に信頼性のある情報だと思います。そして、今からお話しするのが、実際に皆さんに使っていただけるテクニックです。まず、候補者の方には職務経歴書にそってお話ししていただきます。「そのお話のなかで一番好きだった上司はどなたですか?」と質問し、思い描いていただいて、「もしその上司の方に〇〇さんの強みはなんですかと聞いたらなんて返ってくると思いますか」をお話ししていただきます。
加えて、「〇〇さんがもっと良くなるためにどういうところを伸ばしたほうがいいかと、その上司の方にアドバイスを求めたとしたらどういう回答が返ってくると思いますか?」と聞くと、ある程度の自己認識に関する正確性がわかると思います。やはり組織の中でチームワークを発揮するためには、自分が思い描いている自分と、客観的に見た自分を両方理解しておく必要があるので、自己認識の正確性は非常に大切かと思います。
道下:私の場合は2つあります。1つ目は、過去に積んできた経験のなかでの能力と未来をつくっていける能力。2つ目は、新しい環境に適応しながら新しいものをつくっていくという能力。この2つを重要視しています。
1つ目の過去の経験に関しては、どんどん深掘りして聞くようにしていて、「こういう場合はどう考えるのか?」などを聞くようにしています。この質問で、その方が全体を俯瞰したなかで整合性を持って答えられる方なのかどうかがわかります。整合性を持って答えられれば、それはきっと確かな能力なのだと思っています。そういった会話を通して、自分の能力を客観視して言語化する能力、経験の厚みなどもわかりますね。
特に、私が一緒に働きたいと思うのは、「未来に向けて私自身はこういう夢を持っています。もしご一緒した場合、あなたはどんな夢を持ち、その未来を共に勝ち取るために、キャッチアップしていかないといけないことはなんですか?」ということをご質問した際に、ご自身の言葉で言語化できる方ですね。
口説くコツは「丁寧さ」と「愚直に未来を語ること」
茂野:最後に口説き方の部分ですが、候補者の方がもし今の環境に満足されている場合にどのように口説かれますか?
小西:やはり、New Relicは素晴らしい会社だと売り込むよりも、候補者の方の自己実現にどうつながるのかを考えることが大事だと思います。候補者の方が現状に十分満足されていたとしても、もし一緒に働けることになれば、さらに幸せな未来が待っていますよ、ということを丁寧にお伝えすることなのかなと思います。
道下:私の場合、口説く際に苦労したことが2回あります。一方は一度断られてから粘ったことと、もう一方はWalkMeではない他社に魅力を感じている方を口説く際に苦労したことです。特に、立ち上げ期の採用というのは1件1件が真剣勝負で、営業でいう商談を成功させるようなものだと思います。
最初の方は、断りに来ていただいた際に、「私の座右の銘がありまして、『断られてからが営業』だと思っています」とお伝えして、将来どうなっていきたいのかという話をしました。営業活動の中でもお客様の話をよく聞いて、要望にそった提案をすることが大切だと思いますが、採用に関してもそういったことが重要だと思います。本当にいろいろなお話をしました。もう一方の場合は、実際にWalkMeが法人になる前からサービスをご利用いただいているお客様のところにお連れし、お客様の口からWalkMeの良さを1時間ほど話していただいてから風向きが変わりました。
茂野:営業と一緒ですね。採用はセールス&マーケティングに近くて、テクニック的な口説き方というよりも、ありとあらゆる手段を使いながらしっかりと丁寧に魅力を伝え、未来を語るのを愚直に続けるということが重要ということですね。
道下:やはり人を動かすときに真心を込めてプレゼンテーションをして、候補者の方に「ここまでしてくれるんだ」と思ってもらうことは大切だと思います。
人事に必要とされる考え方、スキル、スタンス
茂野:今後、人事にはどのような考え方や、スキル、スタンスが必要になるとお考えでしょうか?
道下:私はまずマーケティング思考が必須だと考えています。最後のクロージング部分はわれわれ現場の人間が行うので、人事の方には「THE MODEL」でいうと母集団形成のためのパイプラインをいかにつくれるか、顕在層潜在層問わず、候補者となる方をどれだけナーチャリングしていけるかを求めています。
もう1つは、会社のブランディングの部分も担っていける方にぜひ人事を担当してほしい、と考えています。会社の採用を考えたときに、魅力的な職場として感じてもらうための情報発信や取り組みの一部だけをうまく見せることは本質的ではないと思っていて、社員がいきいきと働ける職場をつくるところまで設計し、広げていける方に携わっていただきたいです。
小西:私が最初の人事に必要だと思うことは2つあります。1つは、採用なら採用専門ということではなく、HR全般の知見に明るいゼネラルな経験をお持ちの方に来ていただきたいです。特に重要なのは数字に強いことです。組織のモチベーションやコンディションを数値として可視化していき、最終的には人事に関わることすべてを、計測可能な状態にして経営に提言してほしいと思っています。
もう1つは、カルチャーオフィサーです。New Relicのカルチャーのすごく良いところは、その人のありのままの姿を大事にのばしてくれるカルチャーだと思います。私は外資系企業での経験が長いのですが、この会社に入ってはじめて言われた言葉が「小西さんの成功が第一だから」でした。これまでお客様の成功のためや数字のためというのは何回も聞いたことがありましたが、私にスポットライトを当ててくれたということは今までなく、とても驚きました。
そして、私自身がこのようなカルチャーを社員全員に伝播させていく役割なので、HRを担っていただく方にはこのムーブメントを起こすために、カルチャーを体現している言葉を一番発信している人であってほしいと思っています。
スタートアップ企業の、1人目の採用に悩む採用責任者の方へのメッセージ
道下:私は、この先のネクストノーマル・ニューノーマルを考えたときに、人へのフォーカスや人への眼差しを強化していくべきと思っています。今まではプロセスをつくったり組織をつくったりすることが機械的だった部分もあるのですが、リモートの環境になり孤独感・不安感が生まれたことで、人と人とのエンゲージメントが大事になってきました。エンゲージメントは組織づくりのなかで非常に大事なものですし、同時に採用も重要性が増してきているので、ネクストノーマル・ニューノーマルを見据えて人と人のエンゲージメントを大切にしていきたいと思います。
小西:普段自分が大事にしていることは、無私であること、自分のなかの私利私欲をなくしていくことです。これはトップや人事であったり、新規事業の責任者やリーダーに必要な素養だなと思います。誤解を招くかもしれませんが、私は就任初日から退任を意識しています。私がいついなくなっても良いように、会社はちゃんとしなければいけないと思っています。私がいることで生まれている雰囲気もあれば、私がいなくても変わらないものもあり、これが風土と文化の違いだと思っています。風土はなんとなくの雰囲気で1人の人間が動かしていたりすることもあるのですが、文化は、誰か特定の人がいてもいなくても100年残り続ける良いものだと思っています。本当のスタートアップでない限り、どんな企業にもありのままで残しておくべき良いカルチャーがあると思いますので、私はその文化の醸成を妨げないように、きちんと育まれるように意識しています。私も修行中の身ですが、皆さんと一緒にがんばっていければと思います。
※各種データや肩書はイベント実施時点のものです