人事制度の設計に関して、「従業員数が増え、既存の人事制度では立ち行かなくなった」 「他の会社は制度設計をどう進めているのか、リアルな事例を知りたい」などの悩みを抱えている企業は多くあります。本トークイベントでは、日本最大級の弁護士/法律ポータルサイト「弁護士ドットコム」などを開発・運営する弁護士ドットコムと不動産業界の変革に取り組むGA technologies というスタートアップ企業2社の人事責任者にご登壇いただき、それぞれの会社が抱える組織づくりの悩みや工夫、これからの挑戦についてお話しいただきました。
伊達雄介氏
弁護士ドットコム株式会社
人事室室長
2006 年よりエン・ジャパン株式会社で法人営業、 経営企画、人事業務全般に従事したのち、新規事 業開発部門で HR に関する新規サービスを担当。 2018 年 1 月より現職。採用・人事制度の設計・運用、 労務など人事領域全般を担当。
Excelやスプレッドシートでの評価による手間のかかるプロセスは
評価基準の不明確さや納得感の低下など従業員の不満を生む原因になります。
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清家良太氏
株式会社 GA technologies
CHRO(最高人事責任者)
2007 年に旭硝子株式会社(現・AGC)に人事として入社。その後、アクセンチュア株式会社、株式会社 DeNA、株式会社ビズリーチにて人事を担当。 2019 年 3 月より現職。GA グループ全体の人事戦略を担っている。
福田 大造
(ファシリテーター)
株式会社ビズリーチ
HR Tech カンパニー
HRMOS 事業部 事業開発部
アカウントエグゼクティブ 2 グループ MGR
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ミッションと事業の接続の重要性
制度設計に向けて、会社が掲げるミッションと事業の接続を、従業員にどのように理解、浸透させていくかは重要な問題だと思うのですが、御社ではどのように取り組んでいるのでしょうか。
そこは、事業部ごとの取り組みをメインにしています。全社としての横串を通す動きは必要最低限なものに絞って、各事業をいかに強くしていくかというテーマに沿った取り組みをメインに推進してきました。 組織をマネジメントする方法として、「トップダウン型」と「事業部主体型」があるとしたら、弊社は後者の「事業部主体型」。事業部には「弁護士ドットコム」 の部門の他に、別のポータルサイト「税理士ドットコム」「ビジネスロイヤーズ」や、Web 完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」の部門がそれぞれ事業部としてあります。人事はそれぞれの事業責任者が裁量を持って意思決定していくことを支援する役割です。
それでいうと、弊社はトップダウン型ですね。「世界のトップ企業を創る」というのが創業者のビジョンで、不動産領域はテクノロジー化が圧倒的に遅れているからこそ、トップになれると本気で信じて突き進んでいます。採用時に「一緒にトップカンパニーを目指したい」というメッセージを伝えつづけ、それを達成することに喜びを感じられるか、テクノロジーで世の中を変えることにわくわくできるかという視点で人をみています。
弊社も、創業時はトップダウン型でしたが、 事業が多角化するに応じて、少しずつ権限移譲を進めました。人材採用に関しては、事業が大事にしたい価値観への共感を重視して採用しています。各事業によって、事業領域・ ビジネスモデル・事業フェーズが異なっているため、採用したいターゲットも事業によって異なります。そのため、採用についても事業部主導で行っている状況です。GA technologies さんは、トップダウン型でどのように事業を推進しているんですか?
弊社は、組織変更が月単位で起こるほど変化が激しいのですが、組織の形そのものが事業戦略を表しているんです。例えば「この四半期はカスタマーサクセスを伸ばしたい」となれば、社長がその部門やプロダクトのトップになる。社長がどの事業に注力したいかを明確にして動くので、社員は「ここが今の会社の注力部門だ」 という意識が働きます。まずはトップ自ら背中を見せて、プロセスを考えさせるということが多いですね。
理想とする組織と人事のあり方
続いて、理想とする組織のあり方とそれに向き合う人事のあり方についてお聞きします。組織拡大フェーズにある中、 人事として会社から何を求められていると思いますか?
これからのフェーズで大事なのは「らしさ」の定義だと思います。事業が多角化し、急激に従業員が増えていくと、創業期からいるメンバーであれば暗黙知で価値観を共有できていたところが通用しなくなります。この1年は特に、事業部への権限委譲を進めることで組織の縦軸を強化してきたので、全社共通の“らしさ” は希薄化の傾向があります。採用において譲れないものは何か、入社後の目標設定や評価など、全社として大切にしたい “らしさ” とは何か。定義をもう一度考え、それにもとづいて人事評価制度を設計することが大事だと思っています。
事業成長をもたらすのは、優秀な人材の採用とタレントマネジメントだと思います。300~400 人規模の組織では、エースプレーヤーがもたらす事業へのインパクトはとても大きい。来期は 450人、2 年後には650人と従業員数も一気に拡大させるので、どういう人材が当社の事業を成長させるのか、タレントマネジメントもより体系化させていく必要があります。
人事施策を考える際の注意点
続いて、人事施策を作る際の注意点についてお聞きします。現在の組織図や組織の役割は、どのようにして決めてきたのでしょう。 人事施策を考える上で気をつけたことについてお聞かせください。
前提として、まだまだ成長を目指すベンチャーマインドを持っているので評価制度は作りこみすぎないようにと考えています。その上で、ここ1 年は事業部それぞれで目標を定め、その方針や設定内容が適切かというチェックを人事が担う形で進めてきました。事業部主導だと縦割り組織になり、全社横断のシナジーは生まれにくいという弊害があります。でも、「今はシナジーが出なくてもいい」と割り切り、各事業部の強化に注力してきました。
ルールを作り込まない、というのは弊社も同じです。変化が激しいベンチャー企業であり、中間マネジメント層の人材が不足しているという課題もあります。これまでは「人の善意をベースにどこまで組織が大きくなれるのか」という壮大な実証実験をしてきたイメージで、1年前まで人事制度がほぼなかったんです。マネージャーとメンバー間のコミュニケーションが足りていなかったので、まずは「評価シート」 を作成し、それをもとに現場でコミュニケーションが生まれるきっかけにしてほしいと考えました。
経営と人事の意思疎通のはかり方
最後に、経営と人事の意思疎通のはかり方について、どのように進めていきましたか。
マネジメント層のスキル不足は、弊社を含め、多くのベンチャー企業が抱えている問題ですよね。弊社でも「はじめて部下を持ちました」というマネージャーが多いので、抽象度の高い評価制度のまま現場に任せると、適切な運用がなされない可能性があります。そこで、全社共通のグレード定義をもとに、部門別・職種別に求める具体的な役割定義をできるだけわかりやすく言語化しました。それにもとづいて、個人が能力開発目標を設定できるようにし、評価者によって目標設定の質にばらつきが出ないようにしています。 特徴としては、「WILL」 がない人でも設定できるように、「WILL」目標がなくてもいいようにしたこと。また、業績連動で自動的に決まる報酬の割合はかなり小さくし、チャレンジ目標の設定を推奨しています。 制度は設計よりも運用が大切。現場を巻きこみ、どうしたら現場の納得感が得られるのか、運用ルールの設計及びその運用支援の方にパワーをかけています。
運用が大事、というのはまさにその通りですね。設計に時間をかけても組織はどんどん変化していく。そのため、制度の賞味期限は1年だと考えています。評価シートには、トレーニー、メンバー、 リーダー、マネージャー、事業部長まで 5 段階の等級制度を明記し、 それぞれの職責役割をわかりやすく入れています。その上で本人が 「WILL・CAN・MUST」にもとづいた目標設定ができるように設計し、 シートを見ることで上長もメンバーの目標を把握できるようになりました。現段階では、走り続けるベンチャー企業としてメンバーマネジメントをしている余裕がない。いち早く自走できるメンバーになってもらうために、評価シートの運用を進めていきたいですね。
参加者の方からのご質問
イベント会場には、人事・採用関係者が多く参加しており、さまざまな質問が飛び交いました。質問と回答の内容をまとめてお伝えします。
Q:全社の一体感を醸成するために何をしているか?
今は事業間のシナジーの優先順位は下げています。 ただ、組織としてのゆるやかな一体感はつくっていきたいので、 部活の支援制度や、事業部間のメンバー交流のためのシャッフルランチなどは制度として設けています。他にも、“ビアバッシュ” と言って、毎月第1金曜日の夜はお酒や食べ物やゲームを用意して、組織横断で従業員同士が接点を持てる場を用意しています。場が形骸化しないように、「来たい人は来てね」と参加は個人の自発性に任せています。
Q:マネジメント層のスキル・経験不足を補うためにどのようなことをしているか?
100 ~ 300人規模の成長企業によくある話ですよね。 当社は、優秀な人材の採用に頼っており、同時に健全な人材の流動化を促しています。チャレンジングな目標を設定しつづけ、メンバーがそれをクリアしていくことで成長していくような仕組みにしています。
Q:評価の結果をどう給与に反映させているか?
評価と報酬は連動していますが、前述の通りデジタルに報酬が決まる割合は小さくしています。総合的な評価と報酬については、部門長が自組織の評価案を作成して評価会議で社長に提案し、最終決定は社長が行います。メンバーへの説明責任は部門長にあり、あくまでも部門の中で完結しています。
ポイント制のようなルールをかっちり決めると、マネジメント層はラクではありますが、組織に柔軟性がなくなります。 現在は、全社員の評価を経営会議で決めていますが、従業員が 1000 人を超えると難しくなるでしょう。組織の成長痛は、これからもたくさん出てくるので、他社の人事担当者の皆さんと 課題を共有しながら組織を大きくしていきたいです。
Q:評価の納得度についてはどう考えているか?
評価の納得度は、目標設定の納得度にすべて起因すると思っています。まずは目標設定が適切であることが重要です。結果的に、個人レベルでは評価制度にフィットしない人は出てくるかもしれません。それをどこまで覚悟して制度設計できるかも大切だと思います。「どういう組織になりたいのか」というゴールと、 評価制度がフィットしているかどうか。その全体視点を見失わないということが大事ではないでしょうか。
納得度は非常に重要ですが、当社は目標設定の適切さをロジカルに検証するフェーズには至っていません。今大事にしているのは、メンバーとマネジメント層との信頼関係構築。 誰とコミュニケーションをとっているか、誰に言われているかに人の納得度は大きく左右されます。とてもアナログな方法ではありますが、信頼関係があれば「目標設定が間違っていたから次からはこうしていこう」と会話ができる。メンバーとマネジメント層の関係性と目標設定に無理がなかったかが重要だと思います。
まとめ
登壇したお二人はともに「まだ発展途上段階。一緒に知恵を出し合っていきたい」と話していました。「できていないことばかりだからこそ、こうして同じ悩みを持つ人事の方たちの前で話すことで、 いろいろなナレッジ共有をしていきたい」。そのメッセージ通り、イベント終了後も、会場で話し込む来場者の方の姿がありました。
※各種データや肩書きはイベント実施(2019年9月)時点のものです