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ビジネスでもプライベートでも、相手との交渉を有利に進めていくには、さまざまな心理学的テクニックが求められます。ドアインザフェイスもその一つで、効果的に活用すれば、自分が求める成果を得ることも可能です。
本記事では、ドアインザフェイスの概要から具体的な活用例、人事領域における事例などを見つつ、成功させるためのポイントと注意点をお伝えします。特にビジネスにおいて交渉を有利に進めたいと考える企業はぜひ、参考にしてください。
ドアインザフェイスとは
交渉を有利に進めるための心理学的テクニックの一つ、ドアインザフェイスとはどのようなものなのでしょうか。ここでは意味や由来について解説します。
ドアインザフェイスの意味
ドアインザフェイスとは、交渉を行う際の心理学的テクニックの一つです。本当に受け入れてもらいたい要求よりも大きな要求を行い、相手に断らせた後、改めて本命の要求を伝えて受け入れてもらいやすくするテクニックを指します。
交渉相手は最初の要求を断ってしまったという意識が芽生えるため、次の要求を受け入れざるを得ないと考えてしまう心理を活用した交渉術です。
ドアインザフェイスは、ビジネスの現場ではもちろん、プライベートでの交渉においても効果的な心理学的テクニックとして、さまざまな場面で活用されています。
ドアインザフェイスの由来
ドアインザフェイスの由来は、門前払いを意味する「shut the door in the face」です。訪問販売の営業社員がお客様のお宅を訪問した際、断られることを前提に、ドアの隙間から顔を覗かせる行動が由来とされています。
ドアインザフェイスは「譲歩的依頼法」とも呼ばれ、最初の要求を断ったことで相手が譲ってくれたので、次は自分がお返しをしたいと思わせる「返報性の原理」を応用したものです。
また、相手の大きな要求を断り、小さな要求を受けたことで交渉を有利に運べたと思ってもらえるため、本来の要求を果たしつつ、相手にも満足感を与えられます。
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ドアインザフェイスの具体的な活用例
ドアインザフェイスの具体的な活用例として、ここでは「営業での値引き交渉」「家事分担の依頼」「友人への頼みごと」の3つを紹介します。
値引き交渉
値引き交渉の場面では、購入者側と販売者側の両方でドアインザフェイスを活用できます。
購入者側の例:
100万円の製品を購入する際、まず40%引きの60万円で購入できないかと打診します。相手がこの金額では難しいと返答した場合、本来の希望価格である20%引きの80万円を提案し、交渉を成立させます。
販売者側の例:
実際には90万円で販売しても利益が出る製品を、あえて100万円で見積もりを提出します。顧客から値引きの要請があった際に、90万円まで譲歩する形で交渉を成立させます。
家事分担の依頼
ドアインザフェイスは、家庭内での交渉ごとでも活用できます。たとえば、妻が夫に対して2日に1回の風呂掃除をお願いしたい場合、まず毎日の食事の後片付けを頼みます。それは難しいと断られたら、2日に1回の風呂掃除をお願いする方法です。
最初から風呂掃除を依頼すると断られてしまう可能性が高まるものの、それよりも手間のかかる仕事を先にお願いすることで、要求が通りやすくなります。
友人への頼みごと
友人への頼みごとでも、ドアインザフェイスのテクニックは活用可能です。たとえば、引っ越しの手伝いを依頼する際、最初は丸1日かかる仕事をお願いし、難しいと断られたら午前中だけでいいのと小さなお願いをすることで受け入れてもらいやすくなります。
また、自分が結婚する際、披露宴の司会をお願いし、それはできないと断られたら、友人のスピーチだけでもいいとお願いすると、受け入れてもらいやすくなるでしょう。
人事領域におけるドアインザフェイスの事例
ビジネスのなかでも、人事領域における交渉では、ドアインザフェイスのテクニックが大きな効果を発揮します。主な事例は次のとおりです。
労使交渉
労使交渉、特に賃金交渉の場においては、労働者側、使用者側双方でドアインザフェイスの活用が可能です。
労働者側の場合、最初に賃上げ率4%を提示し、使用者側が拒否した場合に本来の要求額である3%を提示します。この方法により、3%の賃上げが比較的受け入れやすくなる可能性があります。交渉を締結します。
使用者側の場合、最初に賃上げ率2%を提示し、労働者側が拒否した場合に本来の提示額である3%を提示します。この方法により、3%の賃上げが労働者側にとって納得しやすくなる可能性があります。
福利厚生の導入
福利厚生は社員のモチベーション向上に高い効果を発揮するものの、種類によっては経費がかかり、会社の利益を圧迫してしまうケースも少なくありません。
そこで、使用者側が経費を抑えつつ、社員のモチベーションも向上させる施策として、ドアインザフェイスの活用が考えられます。
具体的には、まず廃止したい福利厚生サービスを社員側に提示します。
社員側に廃止を反対されたら、代替案として、低コストで導入可能かつ社員が利用しやすいサービスの導入を伝える方法です。新サービスの導入と引き換えに、廃止を検討していたサービスの廃止について合意を得やすくなります。
研修参加の要請
業務に必要な資格を取得するための研修に参加してもらいたいが、業務自体が忙しく参加してもらうのが難しそうな場合に使えるドアインザフェイスのテクニックです。
最初に「1週間の海外研修に参加してもらえませんか?」と大きな要求を出します。こちらが断られたら、「では2日間の国内研修はどうですか?」と提案することで、社員は小さな要求を受け入れやすくなります。
この方法により、従業員の研修参加率を向上させ、スキルアップや組織の成長につなげることができます。
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ドアインザフェイスを成功させるポイント
ドアインザフェイスは、難しい要求を受け入れてもらいたい場合に効果を発揮するテクニックです。ただし、うまく活用しないと成果を上げるのは難しいでしょう。ここでは、成功させるために欠かせないポイントを解説します。
適切な初期要求
ドアインザフェイスは、最初に高い要求を設定し、相手の反応を見た上で本来の要求を提示するテクニックです。しかし、最初の要求が高すぎると、その時点で交渉決裂になり、その後の話し合いができなくなってしまうリスクが高まります。
また、最初に法外な要求をすると、その後の交渉ができたとしても、次の要求も拒否されてしまう場合があります。そのため、交渉を継続しつつ相手に要求を受け入れてもらうには、状況を見ながら、適切な初期要求を設定することが重要です。
タイミングの重要性
人の気持ちは時間とともに変化します。高めの要求を断った際の罪悪感も、時間が過ぎれば薄れてしまいます。
ドアインザフェイスを成功させるには、最初の要求を断られたら、できるだけ早いタイミングで次の要求を提示することが重要です。
断ったことに対する相手の罪悪感が残っているうちや、断ってしまった借りを返したいと感じているタイミングで、素早く次の要求を提示するようにしましょう。
相手との関係性への配慮
あまり強引にドアインザフェイスを使おうとすると、相手の負担が増大してしまい、関係性を損ねてしまう可能性があります。
取引先や自社社員に対し、強引にドアインザフェイスを使用すると、信用を失ってしまうリスクがあります。相手との関係性には十分に配慮し、不快感を与えないよう注意した上での使用が重要です。
ドアインザフェイスの注意点
ドアインザフェイスの活用において、「過度な使用」や「相手感情の無視」「倫理的配慮」を欠けば、成功はおろか関係性にもヒビが入りかねません。ここでは、ドアインザフェイスを使用する場合の主な注意点を解説します。
過度な使用によるリスク
ドアインザフェイスは、過度に使用すると、相手にテクニックが見透かされ、効果は大幅に落ちてしまいます。
特に同じ相手に対し繰り返し使用すると、本来の要求は2回目以降に提示されるパターンが予測されてしまうため、相手は罪悪感が薄れ、交渉の主導権を失う可能性があります。
常に同じテクニックを使うことは避け、相手や状況に応じて他のテクニックとの使い分けをすることが、ドアインザフェイスの成果を高めるポイントです。
相手の感情を考慮する
ドアインザフェイスは、相手の罪悪感をうまく使って交渉を有利に進めるテクニックです。そのため、お互いの間に信頼関係がないと、後々相手に「だまされた」という感情を与えてしまうリスクがあります。
また、最初に高い要求を提示することから、場合によってはその段階で悪印象を持たれてしまう可能性もあるため、ドアインザフェイスありきで交渉を進めるのは注意が必要です。
相手との関係性や信頼関係の構築を重視し、その上で効果的に活用するようにしましょう。
倫理的に問題はないか
ドアインザフェイスは高い効果が期待できるテクニックである反面、相手を意図的に誤解させ交渉を進めていくテクニックのため、倫理的な配慮も欠かせません。
例えば80万円で提供している製品を、ドアインザフェイスの活用で、相手によってはそれ以上の価格で交渉をすることも可能です。
しかし、そうしたビジネスを継続していれば、いつかは誰からも信頼されなくなってしまうかもしれません。常に倫理的に問題はないかを自身に問いつつ、活用することが求められます。
ドアインザフェイスに関連する心理効果
ドアインザフェイスに近い心理的テクニックや効果として挙げられるのが、フットインザドアや返報性の原理、アンカリング効果などです。ここではそれぞれとの違いや関連性について解説します。
フットインザドアとの違い
フットインザドアとドアインザフェイスの違いは、最初に提示する要求の大きさです。
- ドアインザフェイス:最初に本来の要求より高い要求を提示
- フットインザドア:最初に本来の要求より低い要求を提示
フットインザドアは、低い要求を受け入れてもらうことで、高い要求も受け入れやすくなるという心理的効果を活用したテクニックです。
たとえば100万円のシステムを1か月間無料で提供し、その間に適切なサポートを行うことでシステムを定着させれば、購入の可能性を高めることが可能になります。
返報性の原理との関連性
ドアインザフェイスは、返報性の原理を応用したテクニックです。返報性の原理とは、「相手に何かをしてもらったら自分も同じ分だけ返したくなる」という心理です。
ドアインザフェイスでは、相手から提示される最初の要求を断ることで、それが借りとなり、次の要求が提示されたら受け入れようと思いやすくなる心理を活用します。
これが返報性の原理であり、ドアインザフェイスはこの原理を生かし、交渉を有利に進めるためのテクニックとしてつくられたものです。
アンカリング効果との関連性
ドアインザフェイスは、返報性の原理以外の心理的テクニックも活用されています。それがアンカリング効果です。
<関連記事>アンカリング効果とは?日常例や対策を含めてわかりやすく解説
最初に受けた情報がその後の意思決定に大きく影響するという認知バイアスの一つで、ドアインザフェイスの成果を高める上で欠かせないものとなっています。
たとえば、最初に製品価格として100万円を提示され、次に実際に販売したい価格である80万円を提示すると、最初の高い価格がアンカーとなり、80万円が安く感じるというものです。
実際には80万円でも十分な利益がでるにもかかわらず、最初の100万円が強く影響し、相手に安く購入できたと感じさせるテクニックで、これがドアインザフェイスにも応用されています。
まとめ
ドアインザフェイスとは、本当に受け入れてもらいたい要求よりも大きな要求を行い、相手に断らせた後、改めて本命の要求を伝え、受け入れてもらいやすくするテクニックです。
交渉を有利に進めるためのテクニックで、ビジネスはもちろん、家庭内や友人間で使っても高い効果が期待できます。
ただし、同じ相手に何度も繰り返し使ったり、信頼関係が構築されていない状態で強引に使ったりすると相手から反感を買い、信用を失ってしまうリスクもあります。
ドアインザフェイスを成功させたい場合は、相手との信頼関係が構築されていること、ここぞというとき以外は使わないことなどに注意することが重要なポイントです。
信頼関係の構築には従業員個々の適性把握がポイント
ビジネスにおいてドアインザフェイスを活用するには、従業員個々のスキルや特性の理解が欠かせません。
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