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成果を生む組織には、信頼あるコミュニケーションが根付いています。多様性が進む現代の職場では、関係性の質が企業文化の土台となります。
なかでも注目されているのが、上司と部下が定期的に対話する「1on1」です。1on1を活用して、信頼関係を深め、部下の成長を支援することは、組織づくりにおいても欠かせない要素です。
では、管理職は1on1の場で、どのような関わり方をすればよいのでしょうか? 本記事では、筑波技術大学の竹下浩教授に1on1による信頼構築やインクルーシブな組織づくりにおける管理職の役割について、話を伺いました。
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プロフィール
竹下 浩
筑波技術大学教授 博士(経営管理 青山学院大学)・博士(心理学 九州大学)
企業が抱えていた課題の解決事例を公開
- 入社手続きの効率化
- 1on1 の質の向上
- 1on1の進め方
- 従業員情報の一元管理
- 組織課題の可視化
au コマース&ライフ株式会社、コニカミノルタマーケティングサービス株式会社など、タレントマネジメントシステム活用によりどのような効果が得られたのか分かる資料を公開中
⇒実際の事例・機能を見てみる「監督者」から「支援者」へ。時代が求める管理職の新しい役割
ーー近年の職場環境では「多様性」や「個別対応(包括性)」の重要性が高まっています。管理職に求められる役割は、どのように変わってきたとお考えでしょうか。
今、管理職に求められているのは、「監督者」ではなく「支援者」への転換です。年齢・性別・国籍・価値観など、多様な背景を持つ人材が集まる組織では、画一的なマネジメントでは対応しきれません。
これからの管理職には、現場の一人一人に寄り添い、必要に応じて個別に関わる視点が不可欠です。そのためには、自らのスキルを見直し、アップデートしていくリスキリングが避けて通れないでしょう。
とくに、「チームを育てる力・支える力」は、すべての業種で通用する「新たな必須スキル」になりつつあります。
ただし、現実は簡単ではありません。「多様な部下に応じた対応」に悩み、管理職が孤立するケースも、珍しくありません。だからこそ、人事部門を中心に、管理職が安心してチャレンジできる環境整備が求められています。
専門性だけでなく人を育て組織を支える力に目を向けることが、管理職のキャリアの選択肢を広げるでしょう。
ーー管理職は部下との関係性づくりにどのような意識を持つとよいのでしょうか。
管理職にまず意識してほしいのは、「1on1は部下のためだけでなく、自分自身の成長にもつながる」という視点です。
発達的相互作用(Developmental Interaction:DI)は、「上司と部下が関係性の中で業務スキルを高め合う」という考え方です。ここでの「スキル」とは、成果に結びつく具体的な(他者が観察可能な)業務能力です。
1on1は、部下を支援するだけでなく、自分のマネジメント力を磨く場でもあります。部下の課題に向き合い、対話を通じて整理を手伝う過程で、管理職自身の視野や対応力も広がっていくでしょう。
部下の成長を当事者意識をもって捉えることが、関係づくりの第一歩となります。支援は人事だけの仕事ではなく、現場のマネジメントに直結する力。取り組むことで誰でも身につけられ、自身のキャリアにも役立ちます。
上下関係にとらわれず、パートナーとして信頼を築く姿勢を持つことで、日常の声かけややり取りの質も変わります。信頼関係は、特別な言葉より、日々の行動の積み重ねから生まれるでしょう。
納得感のある評価を効率的に行うための仕組みを整備し、従業員の育成や定着率の向上に効果的な機能を多数搭載
・360°フィードバック
・1on1レポート/支援
・目標・評価管理
・従業員データベース など
信頼を引き出す1on1のメンタースキルとは
ーー1on1を効果的にするために、管理職にはどのような「メンターのスキル」が求められるのでしょうか?
ポイントは、「指示する上司」ではなく「伴走する上司」へとスタンスを変えることです。
1on1では、答えを出すよりも「問いかけ」や「伴走」の姿勢(相互行為の過程)が重要です。
実際、上司と部下それぞれにヒアリングした際、「この1on1は意味があった」と双方が感じていたケースでは、必ず「見える支援」が行動として現れていました。雑談や業務報告ではなく、部下の内面に寄り添い、考えを深めるきっかけがあったかどうかが重要です。
しかし、制度として1on1を導入しても上司が「義務だから仕方なく」、部下が「話すことがない」と感じているようでは、本質的な対話は生まれません。上司自身が部下一人一人に関心を持ち、丁寧に対話のプロセスを積み重ねる姿勢が求められます。
関わりができてはじめて、部下も「この時間は、自分のためになる」と前向きに捉えられるようになります。
1on1は、業務の枠を越え、部下が本音や悩み、将来像を語れる場へと変わっていきます。そして、信頼関係は、部下のパフォーマンスやチーム全体の雰囲気にもよい影響をもたらすのです。
信頼と成長を引き出す1on1に必要なのは、メソッドではなく支援の姿勢です。「やってよかった」と心から思える1on1の背景には、対話を大切にする上司と部下の相互の態度があります。
ーー部下の成長や信頼関係の構築につながる1on1を行うには、どのような工夫が必要ですか。
1on1を成果につなげるには、「小さな行動の積み重ね」と「行動結果の共有」が大切です。
たとえば、上司と部下がそれぞれの視点や価値観の違いを認識できるような研修を取り入れるだけでも、「自分だけが悩んでいるわけではない」といった安心感が生まれます。これにより、無用な緊張や構えが和らぎ、対話が自然と深まりやすくなります。
また、1on1を育成の場として機能させるためには、仕組みづくりも重要です。「今月の重点スキル」を1つ決めて共有するだけでも、対話に軸が生まれます。
「顧客からこう評価された」「社内でこんな工夫をしてみた」などの些細な報告であっても、蓄積されることで、信頼関係と実務スキルの双方が着実に育っていくのです。
1on1は、特別なことを話す時間ではありません。日々の業務のなかで生まれた小さな成長や変化を、上司と部下でともに確認する時間として設計・進行することが、最大の成果につながります。
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1on1ミーティングのやり方と効果的な進め方のコツを解説
ーー1on1を実施するなかでよくある失敗や、注意点を教えてください。
1on1がうまく機能しない最大の原因は、「義務だから」と惰性的に続けてしまうことです。
導入当初は前向きな気持ちで始めたとしても、回を重ねるうちに「月に一度、30分だけやればOK」とノルマ感覚に陥ると、1on1は「消化すべき予定」になってしまいます。
その結果、部下の強みや課題を引き出すこともできず、上司自身が支援スキルを磨く機会としても機能しません。結果的に、1on1の本来の目的である「対話による成長」や「信頼関係の構築」は遠のいてしまいます。
ただし、同じ制度のなかでも、効果的に活用できている上司と部下がいるのも事実です。その違いを分けるのは、相性や関係性に対する工夫です。
たとえば、最初の5分を雑談にあてて心理的安全性を高めたり、テーマをあらかじめ共有しておいたりするだけでも、1on1の質は格段に変わります。
大切なのは「どれだけ実施したか」ではなく「どれだけ本音で話せたか」なのです。形式ではなく本質を見据えた対話こそが、1on1を価値ある時間へと変えるでしょう。
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スキル起点で部下を見る。発達的相互作用を促すマネジメントの第一歩
ーー発達的相互作用を業務のなかで促進するために、管理職が取り組みやすい行動や工夫があれば、教えていただけますか。
部下一人一人に合った伸ばし方を見極める視点を持つことが、管理職にとって最も実践的な第一歩です。
管理職に必要なスキルには、大きく分けて3つの種類があります。
- テクニカルスキル
- ヒューマンスキル
- コンセプチュアルスキル
テクニカルスキルは、資料作成・表計算・データ入力など、手を動かして身につける力です。上司がやり方を教え、部下が繰り返し実践することで着実に定着していきます(モノ相手)。
ヒューマンスキルは、チームワークや顧客対応など、人との関係性のなかで発揮される力です。まず部下のやり取りを観察し、「なぜそう言ったのか?」「相手はどう感じたか?」と一緒に振り返る対話が効果的です。これは、SST(ソーシャルスキルトレーニング)という手法でも活用されています(ヒト相手)。
コンセプチュアルスキルは、複雑な情報を整理し、物事を構造的に捉える力です。マルチタスクの調整や戦略立案も含まれます。たとえば業務を任せる際、「まず誰に相談し、どの順序で進め、どんな成果を出すべきか?」といったプロセスを、部下に言語化させます(コト相手)。
上司自身の経験と照らし合わせながらフィードバックすることで、部下は思考のフレームを習得していきます。
現場では、部下ごとに業務の難度やスピード感が異なるため、画一的な指導やマニュアルは通用しません。だからこそ、「この人に必要な支援は何か?」「今、どのスキルを伸ばすべきか?」「そのために自分は何ができるか?」という視点が必要です。
ーー個人だけでなく、職場全体のスキルを育てていくにはどのような取り組みが効果的でしょうか。スキルマップの活用についても伺えれば幸いです。
組織全体のスキル育成においては、「スキルマップ」を「たたき台」として活用するのが効果的です。
いきなり一人一人に個別対応をするのは現実的に難しいため、まずは既存のスキルマップを使って、「どんなスキルが求められているのか」「チームや個人に足りていないのは何か」を可視化することが出発点になります。
導入初期は、スキルマップを「何を話すか」の土台として、チェックリスト感覚で使うと効果的です。気軽に始められることで現場にも受け入れられやすく、結果として部下一人一人への個別最適な支援につながります。
大切なのは、スキルマップを「評価ツール」として使うのではなく、「対話の入り口」として設計することです。目に見える共通の土台があることで、育成や支援のコミュニケーションもやりやすくなり、職場全体の成長が加速します。
ーースキルマップはタレントマネジメントにも有効だと聞きます。具体的にはどのような点で役立ち、どのように使うと効果的なのでしょうか。
スキルマップは、タレントマネジメントにおけるリスキリングの出発点として有効です。
近年のように変化のスピードが速いビジネス環境では、外部から人材を補うだけではなく、社内にいる人材のスキルを見直し、再構築する取り組みが欠かせません。
そのときの実践的なツールとして、スキルマップは機能します。たとえば「HRMOSタレントマネジメント」のようなサービスが提供するスキルマップは、社員が無理なく取り組めるよう工夫されており、「まずは考え方に慣れる」ことから始められる設計になっています。
社員が強制されているという印象を持たず、自分のスキルを見える化することで、「これなら使えそう」「今の業務にどう活かせるか」と、前向きな行動変容につながります。結果として、タレントマネジメントの質そのものが高まり、個人と組織の成長が自然とリンクするのです。
管理職が部下の育成とスキルアップを両立するためには
ーー管理職が「部下の成長支援」と「自身のスキルアップ」を両立するには、どのような取り組みが効果的でしょうか。
「今週の気づき・相談内容」を記録するだけでも、対話の質は大きく変わります。続けるうちに、「この半年でどんなスキルを伸ばすか」といった目標を部下と共有し、定期的にアクションを記録していけば、進捗の見える化にもつながります。
データをもとに1on1を重ねることで、会話がより具体的で建設的になります。上司にとっても「何をどう支援すればよいか」が明確になり、支援スキルを磨く実践の場として機能していくのです。
ーー最後に、これから管理職育成に力を入れたいと考えている人事担当者の方へ、アドバイスやメッセージをお願いします。
これからの時代、人事が注目すべきなのは「管理職がどれだけ業績を上げたか」だけではなく、「どれだけ部下の成長を支援できたか」の視点です。
たとえば、「部下一人一人のスキルやタスクに対して、どのように関わったか」を評価の軸に加える。それだけでも、現場のマネジメントの質は大きく変わっていきます。
そして何より、管理職も部下も、そして人事も忙しい。だからこそ、「すべてを内製化しよう」と抱え込む必要はありません。外部の知見や仕組みを上手に取り入れることで、負担を減らしながら、育成の質を底上げすることができます。
「小さくても始めてみよう」と思った方は、ぜひ行動に移してください。その一歩が、組織の未来を育む起点となるはずです。