燃え尽き症候群を防ぐには? データで見る「持続可能な組織」の作り方 <石川県立看護大学 木田 亮平教授>

燃え尽き症候群を防ぐには? データで見る「持続可能な組織」の作り方

近年の研究では、職場のソーシャルキャピタルや評価制度といった「構造」が、燃え尽き症候群や離職リスクに大きく関係していることが明らかになってきました。

本記事では、石川県立看護大学の木田亮平先生に、職場で見逃してはいけないサインや人事ができる予防策について、話をうかがいました。

木田 亮平

プロフィール

木田 亮平

石川県立看護大学 石川県寄附講座災害実践看護学 教授 博士(看護学 東京医科歯科大学)・看護師・防災士

東京都立神経病院、東京大学大学院医学系研究科特任助教、助教、石川県立看護大学准教授を経て2025年4月より現職。専門領域は医療分野における組織心理学、産業衛生学、医療・看護管理学など。現在はデータサイエンス・地理情報科学の手法などを用い、災害時の持続的医療提供体制や医療組織構築に関する研究を幅広く行っている。医療分野における組織心理学、医療・看護管理学に関する学術論文を多数公表している。

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「もっと頑張らなきゃ」が招く燃え尽き症候群

―― 燃え尽き症候群が起きやすい人は、どのような人でしょうか?

「もっと頑張らなきゃ」「成果を出さないと」と、自分に過度なプレッシャーをかけて働く人は、燃え尽き症候群のリスクが高まります。特に、自己評価が低く、他人と自分を比較しがちなタイプは、心身の限界を超えても頑張り続けてしまいがちです。

一見すると高い熱量で働いていても、内心では「足りない自分」を責めている人ほど、見えない疲労を溜め込んでいる可能性があります。

若手社員やストレス対処スキルが未熟な人は、自身の異変に気づきにくく、周囲のケアが不可欠です。

―― 具体的に、どのようなサインに気づけばよいのでしょうか?

燃え尽きの兆候は、日常の些細な違和感として現れます。

たとえば、褒められても「まだまだです」と頑なに否定したり、会話中に上の空になっていたり。高いパフォーマンスを保っているように見えても、心の余白を失っているケースがあります。

大切なのは、表面的な成果ではなく、普段との違いに目を向けることです。小さな変化を見逃さず、声をかけられる職場文化が、深刻な状態を防ぎます。

―― 職場の環境要因も関係しているのでしょうか?

燃え尽き症候群の背景には、個人の性質だけでなく、職場全体の環境が密接に関係しています。

たとえば、長時間労働が常態化していたり、「あの人はもっとやっている」といった比較の文化が根づいていたりすると、心の疲弊は加速します。

結果的に、「プレゼンティーズム」(集中力が落ちたまま働くなど、出勤しているが生産性が低下している状態)や離職、メンタル不調へとつながる悪循環に陥りやすくなります。

燃え尽き症候群を防ぐには、個人への支援だけでなく、業務量・評価・支援体制といった環境そのものの再設計が必要です。

こうした悪循環を断ち切るために、多くの企業が制度や仕組みづくりに取り組んでいます。1on1ミーティングの導入や有給取得の推奨、業務量の見直しなどがその一例です。

ですが、それだけでは不十分なケースも少なくありません。

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制度が使われない理由は、空気にある

―― 制度があっても、なぜ燃え尽き症候群や離職は減らないのでしょうか?

制度を整えるだけでは、燃え尽き症候群や離職はなくなりません。その制度が「実際に使える」と感じられる心理的安全性と信頼関係が職場に根づいていなければ、効果は限定的です。

制度の有無よりも、「使ってもいい」と思える職場の空気や人間関係のほうが、働く人の安心感に直結します。制度があっても、上司の一言や態度ひとつで「遠慮すべき」「評価が下がるかも」と思わせてしまえば、制度は機能しません。

制度の整備だけではなく、制度を支えるソーシャルキャピタルの形成が重要です。

―― ソーシャルキャピタルとは?

ソーシャルキャピタルは、「信頼・規範・ネットワーク」の3つの要素で構成されています。これらが揃うことで、人間関係が「資源(キャピタル)」として機能します。

ソーシャルキャピタルがあることで「困ったときに頼れる」「安心して本音が話せる」と、心理的安全性が高まり、働く人の意欲やパフォーマンスも引き出されやすくなります。

日常的に雑談や業務の話題以外の会話プライベートな話が交わされている職場では、安心感が生まれやすいでしょう。上司が業務外の場面でも部下とコミュニケーションをとることで、信頼関係が強まり、チームとしての一体感も育ちます。

安心して働ける環境やエンゲージメントの高い組織づくりには欠かせない土台です。

燃え尽き症候群を防ぐには?ソーシャルキャピタルを高める方法

―― 職場構造も、燃え尽き症候群と関係があるのでしょうか?

評価制度などの職場の制度設計は、燃え尽きやメンタル不調に大きな影響を与えます。特に相対評価が強い職場では、リスクが高まるでしょう。


人事評価が相対的な視点ばかりだと、従業員は本人の努力が正当に見られていないと感じやすくなります。その結果、精神的に不安定になったり、モチベーションを失ったりしやすくなるのです。


たとえば、「○○さんはここまでやっているのに」といった他と比較ばかりされると、自分の価値が見出せなくなります。このような職場ではソーシャルキャピタルも育ちにくく、孤立感が強まる傾向です。


評価制度は、職場の安心感や働く意欲にも直結する重要な構造要素です。成果やプロセスを個別に見て、納得感ある評価を伝えることで、燃え尽き症候群や離職を防げます。

―― 職場のソーシャルキャピタルは、どうすれば高まるのでしょうか。

職場のソーシャルキャピタルを高めるには、「信頼されるリーダーの存在」と「職場外での交流機会づくり」が効果的です。特に、業務から離れた場所でこそ見える「人となり」が、心理的距離を縮め、協力体制の基盤を作ります。

研究では、誠実で信頼されるリーダー(オーセンティック・リーダー)がいる職場は、ソーシャルキャピタルが高まりやすいとされています。また、飲み会のような場は、フォーマルな会議やプライベートでの集まりよりも、組織全体の信頼関係に強く関連しているという研究結果もありますます。

ソーシャルキャピタルを高めるには、職場内での信頼構築とともに、職場外で「人」を知る時間を意識的に作ることが重要です。そのきっかけや機会は、飲み会でなくても構いません。形式ではなく「相互理解の場」として再定義することで、有効な手段になり得ます。

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人事が担う燃え尽き症候群を予防するための仕組みづくり

―― 現場の人事担当者が「明日からできる」燃え尽き症候群の予防の一手があれば、教えてください。

効果的なのは、現場に足を運んで声をかけることです。メンタル不調や離職の背景には、「上司との関係性の悪化」が大きく関係しています。しかし、当事者である部下が上司に直接改善を求めるのは難しく、問題は見えないまま放置されがちです。

だからこそ、人事が第三者の立場で関わることが、現場にとっての安心感と抑止力になります。人事が中立的な立場で相談しやすい窓口としての姿勢を示すことで、職場の健全性と信頼感を高めることができます。

―― データを使って改善することはできますか?

人事がすでに持っているタイムカードやストレスチェックなどのデータを、「見える化」するだけで、改善のヒントが見えてきます。

たとえば、ストレスチェックを「子どもがいる/いない」といった属性別に集計し、部署ごとに比較することで、部署間の負担の差や支援が必要な層が浮かび上がるでしょう。

新人が多い部署のスコアが高ければ「育成に課題があるのでは?」といった仮説も立てられます。

数値をもとに背景を現場と語り合うことで、制度改善や組織設計に生かせます。

―― 最後に、従業員の離職やメンタル不調に悩む企業の人事担当者に向けて、先生からのアドバイスをお願いします。

従業員の不調は、その人だけの問題ではありません。組織全体が抱える不調のサインと捉えられるでしょう。

まずは人事だけで抱え込まず、早い段階で専門職と連携しましょう。心理士や保健師などと組むことで、メンタル不調の早期対応やストレスの可視化がしやすくなります。

また、制度運用においては「その制度が誰に恩恵をもたらし、誰に負担を強いているのか」を見つめ直すことが重要です。実際の現場でも支援制度によって救われている人がいる一方で、支援を受けていない人が業務を抱え込んでしまう構造が、指摘されています。

制度は、組織全体を考慮して持続可能な仕組みにしなければなりません。

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