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「びっくり退職」という言葉を耳にしたことはありますか?職場において退職者が出ると、他の従業員にも少なからず影響を与えるものです。
その中でも、トップセールスなど職場に大きな影響を与えている人材の退職は、周囲の従業員のパフォーマンスを低下させ、業績ダウンにつながるほどの衝撃をもたらす可能性があります。
しかし、退職が決定してからその才能や影響力の大きさに気付いても、損失を回復させることはできません。
びっくり退職による影響を最小限に抑えるためには、在職中から従業員を多面的に評価し、そのスキル才能を把握しておくことが重要です。
では、どのようにすれば、組織を支えている隠れたキーパーソンとそのスキル才能を見いだすことができるのでしょうか。
本記事は、びっくり退職が組織に与える影響と隠れたキーパーソンの才能の発掘と活用に有効なコミュニケーション能力の可視化と定量化の重要性について解説します。

プロフィール
友部 博教
株式会社ビズリーチ WorkTech研究所 所長
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まさかあの人が?「びっくり退職」が組織にもたらす衝撃
予期していなかった人の退職は、人事や管理職だけでなく、同僚や部下にも大きな影響を与えます。びっくり退職が組織に与える衝撃やびっくり退職の予防につながる対策についてご説明します。
将来を期待される従業員の突然の退職
びっくり退職とは、退職の予兆を感じさせていなかった人が突然、退職することです。
特に、高い成果を挙げている従業員が退職すると、業務の正確性やスピードが低下し、組織全体の業務効率に支障をきたす恐れがあります。
さらに、他のメンバーにも大きなショックを与え、会社への不信感や将来への不安を招くケースも少なくありません。優秀な従業員が他の従業員に与える影響は大きく、びっくり退職による衝撃によって、モチベーションが低下する従業員も出ることがあります。
優秀な従業員の退職は、組織に衝撃を与えるだけでなく、さらなる悪影響を招く可能性もあります。びっくり退職が刺激となり、他のメンバーも退職を考え始めるケースも見られます。
一人の退職がもたらす組織への影響について、管理職や人事は十分に認識しておくべきでしょう。
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びっくり退職がもたらす予想外のコスト
弊社が運営するビズリーチWorkTech研究所では、年収600万円で採用した従業員が早期退職に至った場合の企業の損失は、1,250万円〜2,000万円にのぼると試算しています。
採用・研修コストや退職者の給与、周囲へのネガティブな影響を考慮すると、退職は企業に大きな損失をもたらします。
高い成果を残してきた優秀な人材や組織への貢献度合いの大きな人材の退職は、さらに大きな損失を招くおそれがあります。
びっくり退職の防止は、コストの面から見ても重要な課題です。
しかし退職の兆候を感じ取ることは簡単ではなく、上司や同僚との関係性に問題がある場合などは、従業員が意図的に退職の兆候を隠し、突然退職を切り出すケースも珍しくありません。
組織に大きな影響を及ぼす、びっくり退職はできる限り避けたいものです。
しかし、退職理由には複数の要因が絡んでいることが多く、退職者それぞれに理由があるため、退職理由の共通点が見いだせない場合がほとんどです。
そのため、効果的な退職防止策を立てることは難しく、状況に応じた個別対応に留まるケースが多いのではないでしょうか。
見落としがちな隠れたキーパーソンの存在
急な退職によって組織の他のメンバーに影響を与えるのは、優秀な人材だけではありません。個人の業務成果が目立たない人材であっても、その人の退職によって組織全体のパフォーマンスが低下する事例もあります。
従業員を評価する際は、個人のパフォーマンスに注目する傾向が強いため、個人の成果が目立たない人材の存在価値は見落としがちです。しかし、そのような人材の中にも、メンバーが高いパフォーマンスを発揮できるよう組織を陰で支える隠れたキーパーソンが存在する可能性があります。るのです。
隠れたキーパーソンの退職は、組織の雰囲気を停滞させます。職場環境の悪化は個人のモチベーションにも波及し、優秀な人材の退職以上に、他の従業員のパフォーマンスの低下や業績の悪化を招く恐れがあるのです。
コミュニケーションの可視化・定量化という新たな解決策
退職による影響を最小限に抑えるためには、びっくり退職を防止すること、特に、隠れたキーパーソンの退職を防ぐことが重要です。
高いパフォーマンスを発揮する人材は、成果を見るだけで判別できます。
しかし、隠れたキーパーソンのように陰で組織を支える人材は、従来の評価制度では、組織への貢献度を正しく評価されにくい傾向にあります。
そのため、人事では組織にとって重大な影響を及ぼす隠れたキーパーソンを把握できていないケースも少なくありません。
隠れたキーパーソンの退職を防ぐためには、パフォーマンス以外の面も適切に評価し、組織への貢献度を的確に把握しておく必要があります。隠れたキーパーソンの貢献価値を把握する際に有効な手段が、コミュニケーションや関係性を可視化し、定量化するという手法です。
組織に埋もれた存在?「隠れたキーパーソン」の実態とは
優秀な成績を収めているわけではないものの組織に多大な貢献をしている、見えない貢献者「隠れたキーパーソン」とは、具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。
隠れたキーパーソンの定義
組織全体に大きな影響を及ぼすキーパーソンというと、マネージャーやリーダーなど、職位の高い人物を指すケースが多く見られます。
また、職位に関係なく、優秀な成績を上げている人を指すケースもあるでしょう。しかし、隠れたキーパーソンとは、職位や成果に関係なく、組織内のコミュニケーションを円滑にし、意思疎通しやすい職場環境の実現に貢献している人を指します。
個人として目立つ成果を上げるわけではないため、隠れたキーパーソンの貢献度合いは評価されにくい傾向にあります。彼らの存在は目立たないものの、退職によりポジションが不在となり組織のパフォーマンスが低下すると、その重要性に初めて気付くケースが少なくありません。
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隠れた人材が発生する要因
一般的に、個人のパフォーマンスに優れた人材は、高い評価を得やすくなります。
しかし、職場の人間関係のハブとなり、業務のスムーズな進行を支えている従業員や正確な作業で商品やサービスの品質維持に寄与している従業員などは、目立つ活躍がないために、その才能に会社側が気付かないケースが散見されます。
才能が埋もれた状態は、従業員と対象の従業員にとっても組織にとっても不幸な事態です。
従業員の能力やスキルを正しく把握できない事態が発生する要因としては「評価の偏り」「配置の固定化」「情報分散」の3つが考えられます。
個人の成果だけにフォーカスした評価や評価者の先入観に基づいた評価では、能力を適切に評価することができません。
また、異動がなく、長期間同じ部署で同じ業務に携わっていることで、保有する才能を発揮できていないケースもあります。
さらに、従業員に関するデータを部門ごとに保有していると、才能を生かせるポジションへの配置ができず、結果として、隠れた人材を生み出すことになります。
コミュニケーションの可視化・定量化で、埋もれた貢献を見える化する
在職中に隠れた才能を適切に把握・評価することは、退職防止の一助になる可能性があります。コミュニケーションの可視化・定量化は、見えない貢献を把握するための有効な手法です。
コミュニケーションの可視化・定量化とは
目には見えないコミュニケーションを把握し、数値や尺度で評価することは難しいように感じます。
しかし、「ネットワーク図」や「ネットワーク分析」の手法を用いるとコミュニケーションの可視化・定量化が可能です。
ネットワーク図は、従業員を「点(ノード)」で表し、一定以上の関係性がある他の従業員の点と点を「線(エッジ)」で結び、点をつないで従業員同士の関係性を示す図表です。
従業員同士の関係性を目に見える形で表現することで、従業員同士のつながりや、組織内のコミュニケーションの強弱を視覚的に理解できます。
また、ネットワーク分析は、ネットワーク図内にあるコミュニケーションの構造から定量的な指標を算出し、重要な役割を担っている人物を定量指標で特定する手法です。
可視化・定量化がもたらす効果
コミュニケーションの可視化・定量化をすると、多くの従業員と活発にコミュニケーションをとっている人物や部門をまたいだ関係性を構築している人物を特定できます。
さらに、コミュニケーションの濃淡を把握することで、組織が推進するコミュニケーションのあり方と実態のギャップを可視化することも可能です。
たとえば、部門間連携を進めているつもりでも、実際には部門をまたぐコミュニケーションが不足していたり、特定の従業員に偏っていたりすることがあります。
こうした実態を数値で可視化することで、改善点が明確になります。
組織が持続的によいパフォーマンスを発揮するには、良好なコミュニケーションの土壌が欠かせません。コミュニケーションの可視化・定量化は、その基盤づくりを支える重要なアプローチです。
その他、退職前の予兆として、勤怠状況やコミュニケーション量に変化が見られる場合もあります。これらの変化もデータとして可視化すると、退職の兆候の早期把握につなげやすくなります。
納得感のある評価を効率的に行うための仕組みを整備し、従業員の育成や定着率の向上に効果的な機能を多数搭載
・360°フィードバック
・1on1レポート/支援
・目標・評価管理
・従業員データベース など
データ活用で変わる人事の「最前線」と具体的なアプローチ
近年のデータ活用技術の進化に伴い、人事においても、経験や勘に頼るのではなく、データに基づいた意思決定を進める企業が増えています。コミュニケーションの可視化・定量化を実現するために有効なデータ収集方法と分析法をご紹介します。
コミュニケーションデータの収集方法
コミュニケーションに関わるデータの収集方法には主に「アンケート」「ツールの活用」「センサーデバイスの活用」があります。
まず、アンケートの場合、手軽に始めやすい手法であり、従業員の自己認識の把握には有効な手段です。
しかしながら、自己認識と実態が乖離しているケースもあり、正確なコミュニケーション状況を把握することは難しい場合もあります。また、回答しなければならないという心理が従業員の負担になる可能性も否めません。
その他、コミュニケーションツールに記録されているメッセージのやり取りや会議への出席などの履歴から、社内のコミュニケーションの状況を客観的に把握することも可能です。
センサーデバイスを活用すれば、発言の内容や会話の場所、向きといった行動データを取得できます。導入のハードルは高いものの、高精度な分析につながる可能性があります。
ただし、従業員のプライバシーへの配慮が必要になるため、運用ルールを厳格に定めるなど、実施にあたってはクリアしなければならないさまざまなハードルがあります。
AIによるデータ分析
データを収集しても、分析ができなければデータを活用することはできません。
かつては、データ分析には、統計学やプログラミングに関する知識が必要でした。しかし、AI技術の発達により、現在は特別なスキルがなくても、AIに普段通りの言葉で指示を出すだけで分析することが可能です。
例えば、AIチャットボットとして広く知られる「ChatGPT」でもデータの分析ができます。データが含まれたファイルをアップロードし、データ分析をするように指示を出すと、データを分析し、グラフなどを表示します。また、分析結果をもとに、さらに掘り下げた分析についての提案や分析結果をもとにした施策の提案などを受けることもできます。
ChatGPTで提供されている「Advanced Data Analysis」を利用すれば、より高度なデータ分析が可能になります(有料プランの契約が必要)。
このように、特別なスキルがなくても直感的にデータを活用できる点は、AIによる分析の大きな強みといえるでしょう。
データ活用における重要ポイント
データを収集しても、十分に活用できないケースは少なくありません。
データを活用するには、「なぜ収集するのか」「収集したデータで何を実現するのか」といった目的を明確にすることが不可欠です。
目的が明確でない場合、収集自体が目的化し、本来目指すべきデータの活用方法を見失う恐れがあるのです。
また、データ収集の目的が明確でない場合、データの収集にも悪影響を及ぼします。
デバイスの活用などにおいては、過度な監視がプライバシーの侵害に該当すると捉えられる場合もあります。有効なデータを収集するためには、従業員と人事の信頼関係の構築も重要です。
データ収集時には、データの活用目的を示し、同意なく目的以外の利用をしないことを約束するとともに従業員にとってのメリットも具体的に伝える必要があります。
そのうえで、最初から完璧なデータ活用を目指すのではなく、特定部門におけるデータ分析から始めるなど、仮説と検証を繰り返しながら、自社に合ったデータ活用の手法を見いだすことが大切です。
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まとめ
びっくり退職とは、何の兆候もなく、従業員が突然、退職を申し出ることです。
特に優秀な従業員や他の従業員に大きな影響を与える従業員の退職は、組織全体に大きな影響を与える可能性があります。
特に、職場のコミュニケーションを支えていた人材の退職は、大きな損失を招く可能性があります。
退職理由は人それぞれでによって異なり、離職防止退職予防のためにの具体的な施策を進めることは難しいケースもあります。
しかし、コミュニケーションの可視化・定量化を実践することで、解決すべき課題が明確になり、適切な施策を実施することで貴重な人材の流出を防げる可能性があります。
コミュニケーションの可視化・定量化は、働きやすい職場環境の整備につながり、組織全体のパフォーマンスの向上を実現します。
AIによるデータ分析も行いつつ活用しつつ、成果以外の貢献度にも着目して適切に評価し、働きやすい職場環境の整備を進めていくことが大切です。
HRMOSタレントマネジメントで「びっくり退職」を防ぐ
組織に多大な影響を与えるびっくり退職は、極力避けたい事態です。
びっくり退職を防止するためには、従業員が出す予兆をシグナルを敏感にキャッチするとともに、日頃から積極的にコミュニケーションを図り、不安や不満が生じた場合に相談がしやすい環境を整えることも重要になるでしょう。
また、従業員の能力を正しく評価し、適材適所の人材配置を実施することも重要な取り組みとなります。
HRMOSタレントマネジメントには生成AI機能が搭載されており、従業員のスキルやキャリアに基づいた適材適所の人材配置を実現します。
HRMOSタレントマネジメントの活用により、社員のスキルを可視化することで、隠れた人材の発見と適材適所の配置を支援し、従業員と組織の双方の価値を高めることが可能です。