多国籍化が進む中で、外国籍人材の受け入れと定着は、いま多くの企業が直面する人事課題のひとつです。採用段階で優秀な人材を迎えても、言語・文化の違いや役割期待のすれ違いにより、活躍につながらないまま離職してしまうケースは少なくありません。
本記事では、人的資源管理・ダイバーシティ研究の専門家である東北大学大学院経済学研究科の閻亜光先生に、多国籍人材の受け入れ体制をタレントマネジメントの視点から整理していただきます。
プロフィール
閻 亜光
東北大学大学院経済学研究科 講師(経営組織)・博士(経営学 立命館大学)
多国籍人材マネジメントの本質的な課題とは?
──日本企業の多国籍人材マネジメントには、どのような構造的課題があるとお考えですか?
ひとつは、「なぜ外国籍人材を採用するのか」という前提が曖昧なまま採用に踏み切ってしまっていることです。
たとえば、
- 人手不足の穴埋めなのか
- 日本人にはない専門性を期待しているのか
- 将来的な海外展開に向けた布石なのか
この目的が明確でないと、入社後の育成方針や配置、キャリア設計まで一貫性を持たせることができません。
結果として、採用がゴールになってしまい、入社後に企業側も本人側も何を目指すのかが見えなくなってしまいます。これが多国籍人材が定着しにくい、本質的な要因のひとつと考えています。
もうひとつは、多国籍人材が「異質扱い」を受けやすいことです。「外国人だからこの仕事」と勝手に役割を固定するといった接し方は、本人にとって「組織の普通の一員ではない」という疎外感につながります。特に共同体的な文化が強い職場では、現場側の準備が整わないまま受け入れが進み、理解不足から誤解や孤立が生じやすい傾向があります。
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──キャリアや評価の不透明さも課題だと伺いました。もう少し詳しく教えてください。
多国籍人材は、入社目的やキャリア志向が日本人以上に幅広い傾向があります。しかし企業側がその目的を把握していないと、役割期待のすれ違いが起こります。
- 早くスキルを伸ばしたい人が、単純作業を長期間任される
- 収入を上げたい人が、給与構造を理解できないまま働く
- 特定の技能を磨きたい人が、関係の薄い部署に配属される
こうした期待と実態のギャップは、離職の大きな理由になり得ます。さらに、キャリアパスや評価制度が明確に説明されていないと、「この会社で成長できるかが見えない」といった不安が生まれ、定着率の低下につながります。
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採用前後で押さえるべきは、すり合わせと心理的安全性
──採用前後でマネジメント層が理解しておくべきことは何でしょうか?
最も重要なのは、本人の入社目的と企業側の期待を丁寧にすり合わせることです。「なぜこの会社を選んだのか」「どのように成長したいのか」など、目的が異なると、定着条件にも違いが生まれます。
面接の一度だけで理解するのは難しいため、入社前面談やOJT後のフォロー面談など、複数回に分けて対話することが不可欠です。
一度きりのすり合わせでは、「思っていた仕事と違う」「期待と違う」といったギャップが発生し、離職につながりやすくなります。
──オンボーディングで最も重要なことは何でしょうか?
一番大事なのは、早期に心理的安全性を確保することです。多国籍人材は組織内のマイノリティであることが多く、不安や孤立感を抱えがちです。
だからこそ、安心できる関係性づくりが、最初の数ヶ月で重要となります。
面談を定期的に行ったり、日本語レベルや生活面の困りごとを早期に把握したりするといった仕組みを企業の中でも整えなければ、せっかく採用しても、活躍につなげることができません。
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「個人を見る」を徹底するタレントマネジメント
──多国籍人材のタレントマネジメントで、企業が最も重視すべき原則は何でしょうか?
重要なのは、国籍ではなく個人を見ることです。
多国籍人材だからといって、「語学が強いはず」「コミュニケーションには不安があるだろう」などと国籍ベースで判断してしまうと、本人の強みが生かされません。
配置・育成・評価を行う際は、あくまで個々の適性・成長スピード・キャリア志向に基づいて判断することが、タレントマネジメントの大前提になります。
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──「配置」の段階では、どのような点に注意すべきでしょうか?
配置でよく起きるのは、国籍や語学力だけで役割を固定してしまうことです。よくある例としては、
- 「外国籍だから英語を使う部署に」
- 「接客が不得意だろう」
- 「文化理解ができないからこそこの仕事を」
といった思い込みによる配属です。
しかし実際には、裏方の作業が得意な人や技術職で力を発揮する人など、個人の特性は国籍よりもはるかに幅広いものです。
適材適所の配置は、本人の希望・性格・得意領域・学習スタイルの把握から始まります。
──「育成」では、どのような工夫が必要でしょうか?
育成で大切なのは、一人一人の成長スピードや学習スタイルを見極めることです。
多国籍人材の中にも、実践の中でスピード感を持って学ぶタイプや、手厚い言語支援を必要とするタイプなど、さまざまです。
また、業種によっても育成の重点は変わります。サービス業であれば、言語・接客スキルのサポートが重要となるでしょう。育成においても、役割と個性に合わせた支援が欠かせません。
──評価ではどんな課題が起こりやすいですか?
評価で起きがちなのは、無意識の「特別扱い」です。
たとえば、言語面のハンデを考慮せずに、厳しく評価しすぎると、本人の納得感を損ないます。
評価はあくまで、行動の事実に基づいて判断することが重要です。もし文化の違いから誤解が生まれた可能性があれば、本人が意図を説明できる場を設けることも意識しましょう。
納得感のある評価を効率的に行うための仕組みを整備し、従業員の育成や定着率の向上に効果的な機能を多数搭載
・360°フィードバック
・1on1レポート/支援
・目標・評価管理
・従業員データベース など
多国籍人材の定着と活躍を生むために人事ができること
──多国籍人材の採用から定着までの中で、企業はどこに一番コストをかけるべきでしょうか?
評価と定期1on1(人事面談)に最も時間とコストをかけるべきだと考えています。なぜなら、面談の質がその人の定着や成長を大きく左右するからです。
<関連記事>1on1とは?実施の目的や効果、トーク例などを解説
評価面では結果を伝える場ではなく、現状認識(本人がいまの状況をどう受け止めているか)を確認し、改善策や活躍の可能性を広げる場として機能します。
実際に、仕事がうまくいかなかったり、辞めたいと思ったりしているタイミングで、上司や上位マネジメントとの対話が救いになることは珍しくありません。
また、近年はOJTや研修時間が短縮される傾向にあり、現場で「分からない」「ついていけない」と感じる場面が増えています。
不安を抱えたままだと、離職につながりやすくなりますが、評価面談や定期的な対話の場があれば、本人がモヤモヤを言語化し、企業側も状況を把握して支援や配置を調整できます。
──多国籍人材が組織に定着して活躍するために、人事ができることがあれば教えてください。
まずは自分の中にあるバイアスに気づき、それを外していこうとする姿勢を持ちましょう。制度や研修よりも先に、個々の意識の持ち方が職場の空気を大きく変えるからです。
多国籍人材が組織で孤立したり、誤解されたりする背景には、「普通/異常」という無意識の枠組みが大きく影響しています。
他者の価値観を異質と捉えるのではなく、もうひとつの普通として理解できると、コミュニケーションの質が大きく変わり、心理的安全性が高まります。
接点が増えると、外国籍労働者が本当に困っていること、職場でつまずきやすいポイントにも気づきやすくなり、結果として働きやすい組織づくりに直結します。



