離職の根本的な解決は、エンゲージメントの可視化から

「タレントマネジメント」が世の中で注目されるとともに、よく聞くようになった言葉として「エンゲージメント」があるのではないでしょうか。

エンゲージメントとは、簡単にいうと、従業員から見た企業への愛着度合いのこと。高ければ従業員のモチベーションは上がり、低ければ離職率が高くなるといったイメージを持っている方も多いかもしれません。

これらのイメージは間違いではないのですが、「退職希望者を思いとどまらせるためにはエンゲージメント向上施策を行えばいい」と考えている方がいたら、それは立ち止まって考えていただきたいところです。

離職とエンゲージメントには相関関係があるものの、エンゲージメント施策によって直近の離職や退職を防げるとは限りません。

この記事では、従業員の離職や退職とエンゲージメントの関係について改めて理解を深めていきましょう。

1.退職の意思表示があったとき、人事にできることはほとんどない

最初に意識していただきたいことがあります。それは、退職の意思を示した従業員を引き止めるためにエンゲージメント向上を考え始めることは、ほとんど意味がないということです。

例えるならエンゲージメント向上施策というものは、体質改善のために生活習慣をコツコツ変えていくようなもの。即効性のある薬のようなものではありません。

「最近退職者が多いから、エンゲージメント向上施策を行おう」とするのは、風邪で40度の熱を出してから、普段の栄養バランスや運動メニューを考え始めるような話。そんなことをしている場合ではないし、対処としてほとんど意味がないものになってしまいます。

厳しい事実ですが、退職希望者が増えたりキーパーソンが退職の意向を示したりしたとき、人事にできることはもうほとんどありません。退職の意思表示があった時点で、「手遅れ」に近いでしょう。待遇や異動に関する改善提案で交渉するなど、対症療法的な手段しかないのです。 

人事が考えるべきは、退職の意思を示されてからどうするかではなく、そもそも退職したくならないような環境を日々整えることです。退職意思を示した従業員のことだけに注目せず、未来のために根本的な課題を見つけて取り組むのが最適解。それが、先程の例えで言えば「体質改善」にあたります。組織の体質改善を行うのが、エンゲージメント向上につながるのだと考えましょう。

エンゲージメント向上施策:組織環境の改善であり、体質改善。
待遇や異動などの改善提案:退職希望者に対してその場でできることであり、対症療法。
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2. エンゲージメントとは、企業と従業員の良好な関係度合い

この章では、エンゲージメントがそもそもどのような概念なのかについて、改めて理解しましょう。

冒頭でも示したように、エンゲージメントとは、従業員の企業に対する愛着度合いのことです。企業への所属意識や貢献意識、その場所での成長実感、どれだけ仕事を自分ごと化できているかなど、様々な要素で変化をします。

労働力不足や働き方の多様化などにより、企業と従業員のつながりがいままで以上に重要視されるようになり、エンゲージメントも注目を集めるようになりました。

エンゲージメントは、「従業員満足度」や「ロイヤルティ」とは区別されます。従業員満足度は、単に従業員がどれだけ「満足」しているか。どちらかというと、福利厚生や給与など、待遇面に左右されやすいという特徴が挙げられるでしょう。例えば「組織自体にまだまだ不満はあるけど、自分がこの状況を変えていきたい!」と思っている人がいるとしたら、これは、従業員満足度は低いけれどエンゲージメントは高い人かもしれません。

ロイヤルティは、企業への「忠誠心」に近い考え方です。どちらかというと、雇い主と労働者のような主従を前提とした考え方が強くなります。例えば「組織の一員だからと制限をかけられたり、『会社のために』といった考え方は嫌いですが、この会社は結果を出せば自由にやらせてくれるから、やりがいを持って働くことができる」という人がいれば、それはロイヤルティは低いけれどエンゲージメントは高い状態だと言えるかもしれません。

エンゲージメントは、従業員満足度に影響する要素や忠誠心の要素も併せ持つ、より複合的な広い概念だと理解してもいいでしょう。企業と従業員の関係が次第に対等になり、働く理由も待遇だけではなくなってきた現代だからこそ、エンゲージメントはより重要視されているのかもしれません。

待遇や給与、忠誠心だけではないのがエンゲージメント。待遇などももちろんですが、やりがいや組織への貢献感など様々な要素が含まれるものです。エンゲージメントの低下は、やりがいを感じられなくなっている状態や、待遇に満足できていない状態、仕事に向いていると思えない状態、様々な状態を表し、相関関係があるといえます。

ただし最初に示したように、「エンゲージメントが下がったから退職が増える」ような因果関係ではありません。組織の状態が可視化された、ひとつの指標のようなものとしてエンゲージメントを捉えるようにしましょう。

3.エンゲージメント向上への3ステップ

エンゲージメント向上へ向けたアクションとしては、下記3つのステップがあります。

STEP1 エンゲージメントの現状を知る
STEP2 データの分析や対話を通じて課題を明確にする
STEP3 課題解決に向けた施策の立案と実践 

STEP1 エンゲージメントの現状を知る

主な手法としては、パルスサーベイやアンケート、1on1を通じた定性情報の収集などがあります。

サーベイなどは、ある程度定量的なデータが収集でき、比較や分析が比較的容易です。それに対して1on1や自由記述のデータは、一人ひとりの詳細な意見を拾うことができる一方、分析の難易度が上がるものになるでしょう。

STEP2 データの分析や対話を通じて課題を明確にする

3−1で集めたデータは、分析や対話につなげていきます。ただサーベイの実施で終わってしまったり、社内イントラに結果を公開するのみで周知もしないまま終わってしまっては非常にもったいない。改善できる点を検討する材料として存分に活用したいところです。

分析といっても、必ずしも統計などの難しいスキルが必要とは限りません。

たとえば「退職者のうち●割が●●という理由を挙げている」「●●年あたりから●●の部署でモチベーションの数値が下がっている」といった発見で十分。そこを起点に、背景や改善策を考えていきましょう。

この段階では、人事だけでなく経営層や現場のマネージャーも一緒に結果を共有します。出てきた結果に対して現場はどのように捉えるか、どうしていきたいかなど、実際マネジメントする立場の人の意見も交えながら協同して未来を考えてみましょう。

データがあることによって、現場の本音が話しやすくなるという効果も期待できます。

STEP3 課題解決に向けた施策の立案と実践

課題解決に向けた施策も、大掛かりなものとは限りません。現場レベルでできるルールの調整や1on1のやり方を変えてみるなど、小さな変革から考えてみることを意識しましょう。

制度や組織編成を変えることは時間のかかるものですから、スモールステップで改善していくことで少しずつよくなっている実感を重ねることも重要視したいところです。スモールステップでの改善ができれば、小さな成功体験にもつながるので、組織内で「変えられる」「できる」という雰囲気を醸成することにもつながります。

サーベイサービスの利用

サーベイの実施は、ゼロから自社で準備をして、まずは費用を抑えながらスタートさせることもできますが、質問項目をゼロから用意して運用方法を考えて……と行うのは時間も手間もかかってしまいます。そこで外部サービスを利用することも、ぜひ検討したい手段です。運用の手間を省くことができ効率を上げることができます。加えて、外部コンサルタントのサポートを受けられることもあるでしょう。

一方で、質問項目の内容などに関してゼロから自社で行うよりも自由度が下がり、その会社ならではの重要視しているポイントを聞けないこともあるなどデメリットも意識したいところ。各社から提供されるサービスごと特徴があるため、比較検討を行い、自社に合うものを選びたいところです。

4.エンゲージメント向上施策を行う際に注意したいポイント

以上で見てきた3ステップの中で、より効果を高めるために意識したいポイントをいくつかご紹介します。

4-1.繰り返すことで、組織を変える

エンゲージメント向上には、これさえやっていれば向上するという近道はありません(なぜなら、体質改善だからです)。エンゲージメント向上は、そのままよりよい組織づくりとつながっているものなのです。

何かやって終わりではなく、3つのステップを繰り返しやり続けて、改善を続けることが重要。終わりなく、少しずつ、組織をよくすることで、結果的にエンゲージメントに表れるのだと考えるようにしてみましょう。

4-2.サーベイの意図を従業員に共有する

サーベイを実施する際は突然始めるのではなく、事前にサーベイの目的を明確に伝えるようにしましょう。

業務で忙しい従業員にとって、サーベイが「目的のわからないアンケート」だと感じられてしまえば、正確な回答が得られなくなってしまいます。回答に協力することで、自身のあるいは周りの、職場環境がよくなるのだと信じられる状態で向き合ってもらうことが理想です。

4-3.サーベイで高得点を出す組織が、必ずしも良い組織とは限らない

繰り返すこととともに、もうひとつ意識したいポイントがあります。それは、見える結果だけでなく見えないものにも注目することです。

たとえば、回答されたサーベイの結果だけでなく、どれだけの人が回答していないかにも注目します。極端に回答率が低いチームは、チーム全体が問題を抱えているかもしれません。以前はサーベイに協力してくれていた人が突然まったく回答しなくなったら、組織そのものに対して大きな不満を抱いているかもしれません。

あるいは、ずっと低いポイントでサーベイに回答していた人が、突然高評価で提出するようになったとき。それはすでに転職先と退職を決めているため、問題はすでに解決済みであるという意味で高ポイントをつけていた、といった話も珍しいことではないのです。

重要なのは、結果が数値的に高かった、低かった、だけではありません。単純な結果からは見えない突然の変化がないか、回答すらしないことにも背景がないか。様々な可能性を考えてみることも忘れないようにしたいところです。

5.Visionalの事例

最後に、Visionalグループにおけるエンゲージメントの可視化事例についてお話します。

Visionalグループでは、エンゲージメントを可視化するために主にふたつのサーベイを実施しています。

ひとつはパルスサーベイ(通常業務における仕事の取り組み具合や心の健康などに関するサーベイ)。もうひとつが、組織診断サーベイ(個人にとどまらず組織の課題を発見するためのサーベイ)です。

全社のパルスサーベイは、毎月回答してもらう3問だけのもの。組織サーベイは、半年に1度70問以上あるものを実施しています。

Visionalグループにおける従業員サーベイ
Visionalグループにおける従業員サーベイのフロー

サーベイを実施した後は、時間を置かず分析とフィードバックを行います。Visionalグループの場合は組織の変更も多く、フィードバックまでに時間をおいてしまうと組織そのものが変わっていてサーベイの結果が意味をなさなくなってしまうからです。加えて、回答してもらったものにすぐに対応することで、「きちんと意見を拾ってもらっている」と従業員と組織の信頼関係を強くすることにもつながっていると考えています。

得られた結果は組織全体の結果と、個別の結果の両方の観点でみます。定量的な結果は組織全体に関する施策に、個別の結果は1on1など従業員個人へのフォローアップに活かしていきます。

重要視しているのは、従業員の負担にならない頻度で実施することと、サーベイの分析、結果にもとづくアクションを繰り返すことです。少しずつですが、継続的に実施することで、組織全体の変革に繋がり、それがエンゲージメントにも表れるのだと考えています。

6.まとめ

最後に、本記事の内容をおさらいしましょう。

まず重要なこととして、エンゲージメントの向上は対症療法ではなく体質改善のようなもの。何かの対策としてやるべきではなく、組織改善を小さく繰り返し変えていくことが必要です。

だからこそ、エンゲージメント向上に向けた取り組みは、1度実施しておわりではなく、継続的に実施することがポイントです。現状の調査、分析、改善アクションの3ステップで、常に組織を変えていくことを忘れないようにしましょう。

その際、調査して終わりにしたり、表面的な結果だけ見て一喜一憂したりしてはいけない点も大切です。サーベイの結果として顕在化していない部分や小さな変化を読み解き、その結果を組織の課題としてどう捉えるか、どのような施策を行うべきかの検討につなげます。丁寧にそれらを続けることで、小さな階段を上がるように組織は変わり、結果としてエンゲージメント向上につながっていくでしょう。

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