1on1の目的を明確にして成果を上げる-oViceの事例から学ぶ1on1-

多くの企業がマネジメント施策のひとつとして実施している1on1。しかし実際のところ「目的が曖昧」「何を話せばいいのかわからない」と悩まれている方も多くいらっしゃいます。導入後に課題を抱える組織も多いこのテーマに対し、今回は1on1へ非常に力を入れているoVice株式会社に取材を行いました。

oViceはバーチャル空間にオフィスを再現し、現実で一緒に働くのに近い空間が体験できるサービス。世界の新しい働き方をつくることを掲げ、自社内でも新しい取り組みを数多く行っている企業です。

この記事ではoViceが行なっている1on1の具体的な手法とともに、実施する際のポイント1on1を行う上での前提となる考え方について、人事責任者の宮代隼弥氏へお伺いしました。

宮代隼弥 氏

oVice株式会社 Head of HR

新卒で株式会社ビズリーチへ入社。セールスを担当。退職後、友人と共に株式会社almaを創業。ビジネス部門の責任者兼HRを兼任。 2021年1月度よりoVice株式会社に副業人事として1人目HRとしてジョインし、2021年5月度よりoVice株式会社のHead of HRに。日本発のグローバルユニコーンSaaS企業を目指し、奮闘中。

oVice株式会社_宮代様
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1.oViceで行っている2つの1on1

――oViceでは社内の施策として1on1に力を入れていると伺っています。リモートワークを実施する企業が増えて、これまでと比べて社内のコミュニケーションに課題を抱える企業も増えています。コミュニケーション活性の施策としても効果が期待される1on1について、oViceでは具体的にどのように1on1を行っているのか、本日は教えてください。

宮代:わかりました。最初に誤解の無いように、少し補足しておきますと、弊社においては「1on1=コミュニケーション活性のためのもの」とは限っていません。その前提でお話しできればと思います。

oVIceでは、大きく2つの1on1を行っています。1つは入社された方に対して入社後1ヶ月間、オンボーディング期に行うもの。もう1つは、オンボーディング期よりも後の時期に実施しているものです。時期により、1on1の目的ややり方を変えていますので、分けてご説明できればと思います。

1−1.オンボーディング期には人事と現場、双方との1on1

――まず、オンボーディング期に実施している1on1について教えてください。

宮代:はい。oVIceでは各事業部の課題に応えられる人物のスキルセットを定量・定性的に言語化し、「こういう人材を採用したい」と明確に定めたうえで中途採用を実施しています。定めたスキルセットに合う人材が見つかった場合に面接を行い、入社前に「お試し採用」としてお互いのことを知る期間を設けています。そのお試し期間も合わせて、入社から1ヶ月間に行っているのが1つ目のオンボーディング期に実施している1on1です。

具体的にはその1ヶ月間で、約8回の1on1を行います。週1回の計算ですね。関わるのは、人事と現場マネージャーです。人事担当者と入社したメンバー、現場マネージャーと入社したメンバー、どちらの組み合わせも行います。

――人事担当者と現場マネージャー、それぞれの1on1で行われることの違いはなんですか。

宮代:それぞれの1on1で、目的が異なります。オンボーディング期において人事担当者が行う1on1の目的は、「新しいメンバーに組織にフィットしてもらうこと」です。働きながら、社内のことでわからないことがないか、実際に入社してみて組織風土やカルチャーへの違和感はないか、チームに馴染めているかを確認します。

オンボーディング期 人事との1on1における質問例

Q.入社して◎週間が経ちますが、入社してからの率直な感想をお聞かせください。
Q.今のパフォーマンスを、Maxが100%として表すなら、何%ですか?また、その理由は?
Q.課題に感じていること、上手くいっていないことはありますか?(ある場合、それは解消できますか?)
Q.一緒に仕事をする人との関係性はどうですか?気軽に相談できますか?
Q.組織内特有のワードでわからないことなどはありますか?
Q.解決したいこと、わからないことはありますか?小さいことでもOKです。
Q.入社以降、役に立ったオンボーディング・ツールやイベントなどはありますか?
Q.あなたの仕事の成果を出すため、人事がサポートできることはありますか?

――人事は業務内容そのものよりも、組織やカルチャーになじめているかをサポートする動きをするのですね。現場マネージャーの方はどうですか。

宮代:オンボーディング期に現場マネージャーと行う1on1は、「新しいメンバーに期待していたスキルを発揮してもらうこと」を目的としています。現場マネージャーは、新しいメンバーが業務に慣れて、期待されていた成果が発揮できるようにサポートします。したがって、求められているスキルセットどおり成果を発揮できそうか、事業部の課題を解決することへ貢献しているか。社内の評価基準に照らしながら状況を確認します。

オンボーディング期 現場マネージャーとの1on1における質問例

Q.入社から◎◎週間働いた感想は?(いいと感じている点、改善が必要な点の両方)
Q.現在業務で困っていることや、やりづらいと感じる点はありますか?
Q.お互いに気持ちよく&効率的に業務を進めるために、どんなことをするとよくなると思いますか?(入社したメンバーから、マネージャーから、双方率直に)
Q.より活躍するために、あなた自身はどんな目標やゴールを設定するといいと思いますか?(対メンバー、対業務、対組織、それぞれ)

――人事は組織やカルチャーへのフィット、マネージャーは期待役割へのフィット、と役割を分けているのがポイントですね。

宮代:はい。もちろん、それぞれがバラバラに聞き取られて終わっているわけではありません。オンボーディング期には、人事担当者と現場マネージャーが、オンボーディング戦略の方針を予め共有します。そして、週次ミーティングを必ず実施し、各1on1で話した内容を共有します。もし人事と現場で協力して解決した方がいい課題があれば、迅速に対応を行えるようにしています。

 1−2.オンボーディング後の1on1

――オンボーディング後の1on1についても教えてください。

宮代:オンボーディング期を終えた後は、最低でも2週間に1度の頻度で1on1を実施しています。実施するのは、現場マネージャー。アジェンダについてはある程度型化しているものの、1on1実施に関してはマネージャーにある程度裁量があるため、1週間に1度のチームもあれば、2週間に1度のチームもあります。

このときの1on1の目的は、メンバーそれぞれが「成果を発揮できるようにすること」です。そのために成果や成長を可視化しやすいよう、人事評価スコアもかなり明確に設定しています。成果を出せているかどうか、1on1の際にスコアを見ながら話し合いができるようにしています。成果を発揮するために障壁となっていることなどについて、マネージャーとメンバーがともに考える場として1on1を捉えています。

オンボーディング後のアジェンダ例

・1on1の場における目的のすり合わせ 
 ーその日は何について話すべきなのかを決める

・ゴール設定
 ー長期・中期の目標について

・成果のレビュー
 ー現状で上げられている成果やFB、課題など

・次回のゴールについて
オンボーディング後の質問例

・目標・ゴール設定(短期・中期・長期の期間の中での目標設定を意識)に関する質問
 Q.今週はどんなことができると成長を感じられるようになると思いますか?

 Q.今月の目標は? 数値目標、状態目標まで具体的に話してみましょう。
 Q.この3ヶ月ではどのような状態になっていたいですか?

 Q.oViceにしばられず、あなたの実現したいことはどんなことですか?
 Q.oViceへ入社した目的は?
 Q.oVIceではどのようなキャリア・チャレンジを望んでいますか?

・課題に気づくための質問
 Q.現在自分のパフォーマンスは100%中、何%?
 Q.障壁になっていそうなことは?またそれは解決できそうですか?
 Q.中期目標に対する進捗は、100%中、何%?
 Q.パフォーマンスを2倍にするには、何を変えるといいと思いますか?
 Q.いちばん困っていることは?

・目標を達成に近づけるための質問
 Q.どんな計画・インプットができると目標達成をしやすくなりそうですか?
 Q.自分のスタンス面で改善できることはありそうですか?
 Q.自分のどんな強みを活かすと、よりパフォーマンスを発揮できそうですか?
 Q.足りていないと思われる部分を率直にFBしてもいいですか?

2.1on1を実施する際のポイント

――オンボーディング期には組織風土にフィットしてもらうこと、あるいは業務を通じた期待役割へのフィットのため。その後には、成果を上げてもらうため。1on1の目的をかなり明確にしていることがわかりました。最初に伺ったように、よくある「コミュニケーション」だけを目的とせずに1on1を実施していることが特徴的だと感じました。

宮代:そうなんです。極端な言い方かもしれませんが、コミュニケーションだけを目的にすると他愛のない雑談で1on1の時間を消費してしまうこともありますよね。oViceでは、雑談は1on1ではないと考えます。個人に活躍してもらうために行うのが1on1であるという大前提があります。

――1on1を行う際に意識しているポイントについて教えてください。

宮代:ではわかりやすいよう、1on1でのNG例からお話しましょう。

2−1.1on1におけるNG例

宮代:以下3つが1on1におけるNG例です。すべてに当てはまることはないにせよ、心当たりがあるものも中にはあるのではないでしょうか。

  • 雑談だけで終わってしまう
  • 双方が同じ目的を共有していない
  • 双方向のコミュニケーションになっていない

宮代:先程申し上げたように、1on1の大きな目的はメンバーに活躍してもらうことです。しかしその目的が明確になってない場合、定期的に上司と部下がコミュニケーションをとるだけの場になってしまいがちです。雑談に終始してしまったり、週次フィードバックの場として一方的なダメ出しになってしまったりする可能性があります。

――1on1は雑談やフィードバックの時間ではないのですね。

宮代:もちろんその組織内で、「1on1はマネージャーとメンバーのコミュニケーション活性のために行う」と目的が共有されているのであれば間違いではないかもしれません。コミュニケーションと雑談は別物ではありますが。問題は、目的がきちんと設定されていないまま現場任せになった結果、目的を果たせなくなることだと思います。

だから、1on1を何のために行うかは、人事も現場マネージャーもメンバーも、正しく認識している必要があります。それから先程少し触れましたが、1on1は一方的にフィードバックをしたり一方的にヒアリングをしたりする場ではないということも大切です。基本は双方向に質問しあったり、意見を言ったりできることが大事だと思います。

oViceでの1on1は、2週間に1度以上という高い頻度で行っています。双方がかなり時間を割いているのです。だからこそ、漫然と終わらせていてはお互いに「相手の時間を奪っている」と、あえて厳しい言い方をしています。マネージャーとメンバーが、共通の目的のために時間を有意義に使えるのが理想です。

2−2.1on1は、目的を明確にすることからはじめる

――NG例の逆を意識することが、宮代さんの考える効果的な1on1ということになりますか?

宮代:基本的にはそうですね。繰り返しになりますが、1on1の目的は、成果を上げることです。実施するのは現場マネージャーですが、運用が属人的にならないようにアジェンダや質問例などの型を決めています。そして、ベースとなる目的を理解した上で、毎回の1on1におけるゴールを決めることも重要だと考えています。「今日の1on1で話したいこと」をマネージャーもメンバーも双方が持ち寄ってゴールを定めることも大切です。

1on1で話すことはマネージャーが決定するものだと思っている方も多いかもしれません。しかしいつもマネージャーが決めていては、一方的なコミュニケーションになりやすくなります。課題の共有や相談したいこと、FBなど、話題は様々でしょうから、双方が能動的に参加し、双方向のやりとりを意識することが重要になります。

―― 1on1自体の目的、そして都度の目的を明確にする重要性がわかりました。目標を設定し、目標達成に近づくために時間を使わなければならないのですね。

宮代:そうするともうひとつ重要なことに気づけると思います。それは、「1on1はメンバーのための時間」だということです。マネージャーが連絡事項を伝えるための便利な時間ではありません。メンバーが活躍するためにお互いが考える時間です。


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3.マネージャーへ、役割と目的を正しく周知する

――「1on1はメンバーの時間である。」意外と見落としがちなポイントだと思いました。

宮代:oViceではオンボーディング期の1on1もその後の1on1も、現場マネージャーが携わります。組織体制にもよりますが、1on1の実施においてはマネージャーがかなりカギを握るのです。そのために、マネージャーはマネージャーの役割を正しく理解する必要があります。ただ管理をするだけではなく、メンバーの能力開発を行なう役割を担わなければなりません。

3−1.マネージャーの役割は、メンバーの能力開発

――マネージャーの役割をマネジャー自身にしっかりと知ってもらうことも大事ですね。

宮代:はい。マネージャーはメンバーの能力開発が最も重要な仕事です。極端に思えるかもしれませんが、ずっと成長しない、あるいは成果を上げられないメンバーがいた場合はメンバー本人の能力が低いのではなく、マネージャーの方に課題があるとoViceでは考えます。マネージャーはメンバーの能力を向上させるべきだし、そのために1on1があるのです。

逆に言えば、マネージャーの役割が明確でない場合、1on1のような具体施策は効果を発揮しづらくなります。マネージャーはメンバーに成果を発揮してもらうことが役割であり、そこにマネージャーとしての専門スキルがある。だからメンバーで成果を出している人がマネージャーにも適任だとは限りません。役割もスキルも、正しく捉えなければならないと思います。

3−2.マネージャーに対する人事の働きかけも重要

――効果的な1on1を実施するために、人事はどのようなことをすべきだと考えていますか?

宮代:マネージャーの役割と1on1の目的を正しく伝えること。この2つを何度も伝え続けることが重要だと思います。とくにオンボーディング期以降の1on1に多いのですが、漫然と続けるだけでは、その目的があやふやになり、1on1自体の質が下がってしまうことがあります。そこで1on1のアジェンダや質問例の型を用意するなど、マネージャーごとに属人化することを最小限にするような工夫を行っています。

人事からマネージャーへ周知している1on1における重要なポイント

・1on1の際には必ず目的を明確にしてのぞむ
・メンバー本人が目指す長期目標を認識・合意した上でコミュニケーションを取り続ける
・メンバー本人の成長・パフォーマンス向上にフルコミットする

4.まとめ

今回は、1on1に力を入れるoViceさんへお話を伺いました。1on1の目的を明確にし、メンバーが成果を出せるようにするための時間、と明確に定義していることがとても特徴的であったと思います。

具体的なポイントとしては、オンボーディング期とそれ以降は目的も実施担当者も異なり、それぞれで目的や対応を明確に定めて実施。話す内容や見るべきポイントも、人事側がしっかりと定めることで属人化を小さくする工夫も見られました。

また、メンバーが成果を出すための時間という大前提は共有しつつ、1回ごとのゴールも明確にする点もポイントです。雑談で終始してしまったり、一方的な連絡事項の共有などに費やしたりしまっていては時間がもったいないとするのも覚えておきたい点です。

毎回、より成果をだすために何をするべきか、とマネージャーもメンバーもお互いに考えることが大事といえるでしょう。 そして1段高い視野で考えるならば、上記を適切に行うのはマネージャーのスキルが重要であり、そのマネージャーに望む役割や個別の施策内容については、人事の働きかけも大切でしょう。

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