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従業員の待遇などを決めるため、人事評価を導入する企業も多くみられます。人事評価はうまく活用できれば、従業員ひいては企業の成長にもつながる、効果的な手法です。しかし、人事評価制度は活用方法を間違えると、さまざまな問題が生じる原因となります。そこで、この記事ではそもそも人事評価とは何か、意味や導入の目的、注意点などについて網羅的に解説します。
そもそも人事評価とは?
そもそも人事評価とはどのようなものなのでしょうか。意味や似た言葉との違い、一般的な導入基準について見ていきましょう。
人事評価制度とは
人事評価制度とは、企業の従業員の働きぶりやパフォーマンス、生産性などを総合的に評価することをいいます。一般的に、その結果は従業員の報酬や待遇などに反映される仕組みです。人事評価を実施するスパンは企業によってそれぞれ異なり、半年のケースもあれば、一年というケースもあります。なかには四半期ごとに人事評価を実施するケースもあるでしょう。
人事評価と人事考課の違い
人事評価と似た言葉に「人事考課」というものがあります。人事考課とは、主に給与・昇給・賞与・昇進などの決定を目的とするものです。役員や役職クラスが内容や基準をクローズドに運営する傾向にあります。一方、人事評価制度は内容や基準が比較的オープンなことが特徴です。人事評価のなかに査定を目的として人事考課が含まれるという捉え方をするとわかりやすいでしょう。企業によっては人事評価と人事考課は同じ意味合いとして捉えるケースもあります。したがって、無理にそれぞれを切り離して考えなくても問題ありません。
人事評価を導入する基準
人事評価制度を導入すべきか、判断に悩む企業も少なくありません。どのようなケースで人事評価制度を導入すれば良いのでしょうか。一般的には、従業員数が50名以上の企業・事業所などでは、人事評価制度を導入すると効果的だとされています。というのも、従業員数が50名未満の企業・事業所の場合、経営・管理層と従業員が同じ職場内で仕事をする機会が多く、管理者が部下の働きぶりを細かく確認できるためです。お互いに目の届く範囲で仕事をする小規模な職場であれば仕事ぶりも適切に判断しやすく、わざわざ機会を設けて人事評価を実施する必要性はそこまで高くないでしょう。
一方、従業員数が50名以上の規模の大きい企業・事務所となると、経営・管理層と従業員が同じ仕事を行う機会が減ります。すると、経営・管理層が従業員の働きぶりを直接自分の目でチェックすることが難しくなります。その結果、適切な評価やフォローをすることが難しくなるのです。適切なマネジメントのためにも、従業員数が多く適切な評価をすることが難しい場合は、人事評価制度の導入を検討すると良いでしょう。
人事評価制度を導入する目的
そもそも企業にとってなぜ人事評価制度が必要なのか、導入目的を明確にしておくことが重要になります。人事評価制度の導入によって、どのような目的を達成できるのでしょうか。ここでは、主な導入目的と達成できることを確認していきましょう。
企業理念や経営方針の浸透
人事評価の項目に企業の思い描くビジョンや方向性などを含むことで、従業員に企業理念や経営方針を浸透させることができます。企業の円滑な運用のためには、企業と従業員が同じベクトル上にあり、目指す方向性をそろえることが重要です。人事評価制度を通じて企業理念などを伝えることで、求める社員像に近付けることができます。
適切な人材配置や待遇の決定
人事評価を定期的に実施することによって、人材を最適なところに配置できるようになります。なぜなら、人事評価によって各従業員のスキルや特性を細かく把握できるようになるためです。その評価をもとに、組織にとって最適な人材配置を考えることができます。また、人事評価制度を行うことで、明確な根拠のもと待遇を決められます。根拠がないまま待遇を決定していると、従業員の理解を得にくく、ストレスや不満がたまる原因となるでしょう。そこで、明確な根拠のもと待遇を決定することで、従業員がスムーズに納得できるようになります。
社内における人材育成
人事評価は客観的な評価項目によって、従業員のスキルや成果などを可視化します。その評価は人材育成にも生かすことが可能です。上司は部下のスキルを把握し、それに応じた適切な業務を与えられるようになります。これにより、部下は無理のない業務量に調整でき、上司はマネジメントスキルが向上します。
従業員のモチベーションアップ
人事評価制度の導入は、従業員のモチベーションアップにも寄与します。これは適正な評価によって、成果や努力が認められるようになるためです。しっかりと頑張りが認められたこと、自分を見てくれる存在がいることは、従業員のやる気を刺激します。これにより、従業員の企業に対する愛着や帰属意識が高まることも期待できます。
企業と従業員における信頼関係の向上
人事評価制度で具体的な評価基準を設けることによって、昇給や昇進などの可能性を示すことができます。従業員はその基準に達するために自分が何をすべきか、どのような役割を求められているのかを明確に把握できるようになるのです。また、定期的に人事評価を実施することによってコミュニケーションのきっかけが増え、信頼関係の構築にも役立ちます。
企業における人事評価制度の種類
人事評価制度は社員のスキルや働きぶり、企業の業績などの観点から、総合的に判断します。なお、企業が従業員を人事評価する方法は大きく3つに分けられます。それぞれどのようなものか、確認していきましょう。
等級制度
等級制度は、社員に求める能力・職務・役割などを分けて階層化するものをいいます。その等級ごとに求める能力を決定することで、従業員自らが今後どのような成長をすべきか明確に把握できる仕組みです。等級制度は大きく分けると「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」の3種類があります。職能資格制度は、業務を通じて能力が蓄積されていくことを想定した等級制度をいいます。勤続年数が長ければ長いほど能力が高まり、基本的に上がった能力は下がらないという考え方です。日本の大企業で導入されるケースが多いといわれています。
職務等級制度は雇用形態や勤続年数ではなく職務に応じて人事評価するもの、役割等級制度は役割に応じて人事評価するものをいいます。ベンチャー企業で導入されるケースが多い傾向です。
評価制度
評価制度は企業の行動指標をもとに、従業員の能力や貢献度などを評価するものをいいます。たとえば、営業なら売上などの「定量的目標」、提案活動など数値化されない「定性的目標」をそれぞれ設定し、達成度合いに応じて人事評価を行います。等級制度や報酬制度と連動させるケースが多く、評価は従業員の等級・給与・待遇などに反映されることが一般的です。
報酬制度
報酬制度は従業員の給与や賞与など、報酬を決めるものです。給与・賞与・退職金のほか、非金銭的な報酬もあります。具体例としては、従業員の活躍を社内報で取りあげたり、学習機会として研修を実施したりすることなどが挙げられます。報酬制度を設けることにより、等級制度や報酬制度の結果をベースに、従業員ごとのレベルに合わせた賃金を支給することが可能です。
人事評価における評価基準
人事評価を行う際は、明確な評価基準を定めておく必要があります。各企業によっても異なりますが、人事評価は主に「業績評価」「能力評価」「情意評価」という3つの評価要素によって成り立ちます。それぞれどのようなものなのか、確認していきましょう。
業績評価
業績評価とは、一定期間における従業員の能力・成果・貢献度を評価するものです。成果や目標などの達成度を数値化し、客観的に評価していきます。なお、評価は部門や個人単位で行います。達成度の評価はあいまいな表現を避け、数値化するなど明確な判断基準を定めることが基本です。
能力評価
能力評価は業務を進めるうえで必要になるスキルや知識などを評価します。職種やポジションによっても、求められるスキルや能力はそれぞれ異なるものです。主に業務を通じて培った経験や研修で得た能力などが評価の対象です。主な評価項目としては企画力・計画力・実行力などが挙げられます。管理職など成果が可視化されにくい従業員を評価しやすい、従業員のモチベーションアップにつなげやすいなどの特徴があります。
情意評価
情意評価は従業員の意欲・行動・勤務態度など、いわゆる「仕事への姿勢」を評価するものをいいます。業務に積極的に挑戦したか、責任を持って取り組んだかなどの要素を評価することが一般的です。また、業務姿勢のほか、出退勤状況など勤怠の要素も評価対象に含まれます。情意評価は数字による評価や定量化ができません。したがって、評価基準を明確に定めにくく、評価者の主観に左右されやすいことが特徴です。
人事評価制度の代表的な手法4つ
人事評価制度を実施するにあたり、さまざまな手法があります。それぞれの特徴を比較し、自社に合う手法を選択することが重要です。ここでは、人事評価制度で用いられる代表的な手法を4つ紹介します。
MBO
MBOは日本語にすると「目標管理制度」という意味を持ちます。部門や社員それぞれの目標を設定し、達成度により評価するものです。MBOを実施する際は、掲げた全社目標をまず部門目標に分けて、そこから個人目標へと落とし込んでいくことが一般的です。MBOは目標が明確なため、評価しやすいことがメリットです。また、従業員も目標をはっきりと理解でき、達成に向けて具体的な努力をしやすいという特徴があります。ポイントは、達成可能な目標を設定することです。いきなり高いレベルの目標を掲げるのではなく、努力すれば達成できる内容に設定しましょう。
OKR
OKRは日本語にすると「目標と成果指標」という意味であり、海外の大手企業も導入する目標管理手法の一つです。主に、企業全体の生産性向上や社員育成などを目的としています。OKRはまず企業全体として取り組む目標を1つ掲げ、それをベースに従業員がそれぞれ目標を1つ打ち立てます。なお、四半期に1つレベルの高い目標を設定することが基本です。また、成果指標は1つの目標に対し、複数設定されるケースが多くみられます。
360度評価
360度評価は別名「多面評価」「周囲評価」とも呼ばれるものです。上司に限らず、同僚・部下・異なる部署の従業員などが多面的に評価する手法をいいます。通常の人事評価は上司などが行うことが一般的です。一方、360度評価ではさまざまな立場の人が複数人で人事評価を実施します。多角的な視点によって、より公平で客観的な評価を行うことが主な目的です。上司が把握できていない部分を把握し、評価の精度を高められます。その一方、各従業員の主観や思い込み、忖度などによって評価が行われるリスクもあります。この場合、評価の精度が低くなる可能性があるでしょう。評価と待遇を切り離したり、匿名性を確保したりするなどの工夫が必要です。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価は、職務や役割に応じて行動特性を設定し、それをもとに評価するものです。コンピテンシーには「能力」「適性」などの意味があります。高い成果を出している従業員に対して行動観察などを行い、思考や行動の傾向を分析・モデル化します。それに沿って行動する従業員を評価する仕組みです。従業員は理想のモデルと自分を比較することで、ギャップや立ち位置などを把握します。そして、自分に求められる行動を理解するのです。このように、従業員の成長を促進させることができます。コンピテンシー評価は人事評価を円滑に進められるだけではなく、人材育成の面でも役立つ手法といえます。
人事評価制度を導入するための手順7ステップ
人事評価制度を実際に導入する際は、どのような手順で行えば良いのでしょうか。ケースによっても細かい部分は異なりますが、ここでは基本的な人事評価制度の導入手順を7つのステップに分けて説明します。
導入にあたり、まずは自社の理想とする社員像を考えましょう。その後、自社の現状を分析し、課題を整理していきます。課題はなるべく明確化することが重要です。たとえば「従業員が育たず競争力が高くならない」など、まずはおおまかな課題を取りあげ、そこから内容を掘り下げていくと良いでしょう。どの属性の従業員がどのような課題や問題を抱えているのか、また理想とする状態はどのようなものか、明らかにしていきましょう。
定量分析とは、具体的な数値を用いて行う分析をいいます。自社と他社の決算書を見て、売り上げや利益などの数値を比較してみましょう。そこから、自社の現状を分析・把握します。生産性の低さや高さといった現状を知ることができます。また、有価証券報告書などで自社の人件費について分析するのも一案です。
等級制度による評価基準を決めていきます。同じ等級であっても、職種や部門によってそれぞれ評価基準は異なるためよく検討しましょう。組織においてどのような役割や行動が求められるのかに注目し、評価基準を明確化します。
評価基準の決定後、評価項目を設定していきます。企業によって評価要素はさまざまですが、業績評価は課題目標達成度・日常業務成果・プロセスなどが挙げられます。能力評価は企画力・リーダーシップ・実行力、情意評価は規律性・責任感・積極性などの要素です。それぞれの要素に独自性を加えて運用するケースが多くみられます。
評価項目を何段階で評価するかなど、ルールを決定していきます。一般的には5段階評価とすることが多いですが、3段階や7段階で評価する企業もあります。段階評価でつけた評価をどのようにして等級制度や報酬制度に反映させるのか、この段階で決めておきましょう。
人事評価制度の導入スケジュールを考えていきます。評価する側の上司と評価される側の従業員に、人事評価制度についてしっかりと説明しましょう。両者の正しい理解が得られないと、運用後にトラブルが発生するおそれがあるため注意が必要です。スケジュールに余裕を持たせ、導入計画を進めていきましょう。あらかじめ評価する側に向けて研修や説明会などを実施すると、運営がスムーズになります。
実際に人事評価制度を導入したあとは、実施とあわせてフィードバックを行います。人事評価の結果は、客観性と根拠を持って伝えるように意識しましょう。評価の高い従業員には、良かった点とあわせてより良くするためのアドバイスを伝えます。一方、評価の低い従業員に対しては、結果と客観的な理由を伝えたうえ、丁寧なフォローを行うことがポイントです。評価が低いと、従業員はモチベーションが低下するおそれがあります。成長意欲を高めるためにも、丁寧な説明とフォローを心がけましょう。成長意欲を高めるために、一緒に次の目標を立てたり対策を考えたりすることも有効です。
人事評価制度を導入する際のポイント
人事評価制度の導入を成功させるためには、いくつかポイントがあります。どのような点を意識すれば良いのか、ここでは導入時のポイントを見ていきましょう。
定期的に内容を見直す
企業は事業拡大や従業員数の増減など、日々変化していくものです。その変化にともない、人事評価制度も定期的に見直しや改善をすることが重要といえます。特に従業員数が増えると、従来運用していた人事評価制度では対応できなくなるケースは多いものです。また、事業領域や業務のプロセスが変わることによって、仕事のやり方が大きく変わることもあります。そのタイミングで必要となるスキルや能力も変わるため、見直しを実施するよう心がけましょう。
フィードバックを実施する
人事評価制度は最終評価を決定すればそこで終わり、というものではありません。従業員へのフィードバックを行うことまでが一連の流れとなります。的確なフィードバックによって、従業員はその評価に納得することができます。そして、評価をもとに課題を明らかにし、今後の行動目標を立てられるのです。業務が忙しいと、ついフィードバックがおろそかになる評価者も少なくありません。しかし、従業員の成長のためにも、きちんとフィードバックを行うことが重要になります。
給与と評価の関係を明らかにする
評価される側の従業員は、人事評価制度を給与や賞与などの待遇が良くなるための指標として捉えているケースが多いものです。そのため、人事評価の結果が良かったにもかかわらず、待遇に反映されていないと、不満や不信感を抱く原因につながります。このような問題を避けるためにも、評価と給与の関係性を明らかにしておきましょう。たとえば、基本給を一般社員は20~26万円、係長は27~33万円にするなどの方法があります。あらかじめ給与額の幅を決定しておけば、同じ等級でもさまざまな理由で給与が変動することを理解してもらえるでしょう。
誰にでも分かる評価基準にする
評価基準は誰が見てもわかりやすく、理解できる内容にすることがポイントとなります。評価基準がわかりにくい内容だと、従業員はどのような目標を達成すればいいのか、何をすべきかわからなくなってしまいます。従業員が行動の指標としやすいよう、わかりやすい企業理念やビジョンにすることがおすすめです。従業員が共感できる内容か、イメージしやすいかなど、客観的な視点を心がけましょう。
人事評価制度を導入する際の注意点
人事評価制度の導入は、企業と従業員間の信頼性の向上、従業員のモチベーションアップなど、さまざまなメリットがあります。その一方、導入にあたり、いくつか注意すべきポイントもあります。具体的にどのような注意点があるのか、確認していきましょう。
評価者への負担を考える
人事評価制度の導入を検討する際に、注意しなければならないのが「評価者への負担」です。人事評価を実施するには、上司などの評価者が従業員の働きぶりを確認する作業が必要です。また、目標や基準の設定など、幅広い業務を担当する必要があります。人事評価制度の導入は、評価者の業務負担が増えることでもあります。なるべく負担をかけないよう、企業側は配慮が必要になるでしょう。大きな負担をかけないためには、評価項目を絞り込むことが有効です。項目が多いとそれだけ手間や時間がかかるため、盛り込みすぎないように注意しましょう。
評価外の仕事が軽視されないようにする
人事評価制度の導入によって、起こりがちな問題が「のびのびと従業員が働けなくなる」ことです。制度の導入後は「自分の評価が下がらないようにしよう」と考える従業員も出てくるでしょう。すると、評価を下げるような行動を避けるようになります。その結果、業務中に過度に人目が気になるようになり、その人が持つ本来の良さが失われてしまったり、独創的なアイデアが生まれにくくなったりするおそれがあります。また、人事評価の対象外となる仕事は「やらなくても良い」と考え、手を抜いたりおろそかになったりする可能性もゼロではありません。
このように、制度にとらわれすぎた状態は業務に支障が出たり、生産性に影響をおよぼしたりするリスクがあります。従業員がいきいきと個性を発揮しながら働けるよう、制度の導入にあたって工夫が必要です。たとえば、従業員と適切にコミュニケーションをとることも一案です。きちんと交流を通じて理解や信頼を深めることで、柔軟に業務を進めていけるようになるでしょう。
まとめ
人事評価制度を導入して企業や人材の成長に生かそう
人事評価制度を導入してうまく運用することによって、組織や企業の成長につなげることができます。また、評価の結果を従業員にフィードバックすることによって、人材育成にもつなげることが可能です。ただし、人事評価制度をうまく活用できないと、従業員のモチベーションや企業全体の生産性の低下など、さまざまな問題が生じる可能性があります。導入前に明確な評価基準を設定し、ポイントを押さえて運用しましょう。