2020年7月7日(火)に第4回のHR SUCCESS Online「世界的メーカーが実践する、採用改革のステップ」が開催されました。HR SUCCESS Onlineでは、HR領域において先進的な取り組みをされている企業の経営者やご担当者をゲストにお迎えし、人事・経営にまつわるお悩みを解決できる情報をお届けしています。
第4回は、世界的メーカー2社の人事担当者をお招きし、「採用改革のステップ」をテーマに、両社がこれまで取り組んできた具体的な採用改革のステップや、施策を通じて得られた社内外の反応・変化についてお話しいただきました。
今回は後編として、他部門を採用に巻き込むポイントや、短期・長期で採用の予算を分けるメリット、採用に関する成功を図る指標についてまとめたものをお送りします。
前編はこちら
世界的メーカー人事が語る採用改革の成功事例。他部門を巻き込む採用術-前編-
杉山秀樹氏
パナソニック株式会社
リクルート&キャリアクリエイトセンター企画部
採用ブランディング・People Analytics課課長
慶応SFC卒。ベンチャーでマーケティング、PR、IR、経営企画を経てHRを立ち上げ、組織戦略、ブランディングをリード。その後、メガベンチャーに移りHR・PRチームを立ち上げ、責任者を務める。子供を授かったことを契機に、パナソニックの「A Better Life, A Better World」に共感し2016年に同社入社。エンプロイヤーブランディングに従事。
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鈴木敏之氏
住友重機械工業株式会社
人事本部人事戦略部採用グループ
大学・大学院と医療工学を専攻した後、2013年に外資系消費財メーカーに新卒入社。セールスレップとして多くのリーダーシップポジションを複数担当すると同時に全社横断型のダイバーシティ、採用プログラムにも従事。2017年11月より、住友重機械工業株式会社に入社。人事本部人事戦略部採用担当として、キャリア採用における採用体制構築~戦略立案~実働まで一貫して務めている。
茂野明彦
株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部部長
大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。
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人事部門以外にも採用へ関心を持ってもらう
茂野:後半は取り組みを推進するなかでの試行錯誤についてお伺いします。ファーストステップとして課題設定などを進めるなかで、失敗したことやうまくいかなかったこと、こんな工夫をしたというポイントがあれば教えてください。
鈴木:現場との協働という部分でいうと、数年前からキャリア採用が本格化した当社にとって、部門や人事の活動をどう意味づけていくかに注力しました。例えば部門に記載いただいた人材要件を見ると、よくあるパターンとして市況感とかけ離れた完璧な人材を求めているということがありました。また、人材紹介会社と現場で接点を持ったところでは、採用要件をある意味コントロールされすぎていて、もっと期待値が高くてもいいのでは?というようなものまでさまざまでした。これに対し、最近は直接候補者をスカウトできたり候補者のデータベースが見られたりするサービスがありますので、そういったものを人事で導入し、部門との接点を増やすことで、お互いに今まではっきりと見えていなかった市況感が見えてきたというのが一つのきっかけでした。
その後は私自身がパソコンを持って現場に行き、現場の方とデータベースを見ながら、市況感とかけ離れないような期待値コントロールや、もっとこういったスキルの人が欲しい、といったやり取りを行いました。しっかりとお互いの共通認識を持つことで、どういったところで要件を広げていけるのかを「良い人」とか「ちょっと物足りない」という抽象的な言葉ではなく、具体的に話せるようになったことは良かった点だと思います。またこのような些細な活動でも、部門に動いてもらい良い方の採用や成果につながった際には、必ず具体的なフィードバックをして部門に成功体験を実感していただくことを意識しました。
茂野:人材要件を定義する際、まずは現場の意見を聞くのか、それとも人事側からある程度条件を出すのか、どのように進められていますか?
鈴木:正解かどうかはわかりませんが、弊社のフローは現場から出してもらった人材要件を受け止めることからスタートしています。それにあたって、以前までは「Must」と「Want」のみだった要件書に部門の魅力やキャリアイメージなど、現場がより書きやすい部分を追加させていただきました。
茂野:まずは現場から受け取ってそこから人事の方で人材紹介会社や候補者に伝わりやすいように修正していくということですね。人材要件の定義に経営と現場でギャップがあった場合はどのように対処されていますか?
鈴木:そこは難しい問題だと思っていて、企業がおかれているフェーズによって対応は異なると思います。弊社の場合、初めはそこにギャップがあるなかでも部門に寄り添う活動を中心に進めていました。一方で、最終面接官などの経営側と現場の中間を取り持つのが採用側の人間なので、「どのような意図があって採用する必要があるのか」を経営側に伝える必要があります。
こういったことを着実に泥臭くやっていくことが、経営側の理解につながった要因だったのかと思います。
茂野:現場側に寄り添いつづけながら、一番良いポイントを一緒に探していくことが重要ということでしょうか。杉山さんはいかがですか?
杉山:この問題はあまりに業態も広く現場との距離感のギャップもあるため、本当にケース・バイ・ケースな問題だと思います。そこを調整する役割は人事、特に採用にかかわっている人事であることは間違いないので、試行錯誤しながら、経営と現場を接続できるように日々各所で動いているというのが実態だと思います。
茂野:今後採用部門以外の人事にも経営観点や現場視点など、俯瞰的に会社を見ることができる能力が求められているんだろうなということを感じます。ありがとうございました。さきほど鈴木さんのお話のなかで採用要件をコントロールされていたという話がありましたが、その点について具体的にお聞きしてもよいですか?
鈴木:最初に私の方で人事部門以外が採用に無関心な状態を変えたいと思って、何かしら部門が動けるような環境をつくろうと思いました。ただ、本社の採用チームのマンパワーの関係で全求人に手を回す余力はなかったため、まずは取引のある人材紹介会社と部門リーダーをつなぐ形をつくりました。しかし、部門が採用をリードできるような状況であれば良かったのですが、人事が介入せずただつないだだけでは、候補者の方のパーソナリティや入社後のキャリアパス等は度外視した、専門スキルのマッチングのみにフォーカスされたご紹介ばかりになるということが頻繁に発生してしまいました。
茂野:人事から他部門にはたらきかける際、反発されることもあるかと思いますが、そこはどのように乗り越えていかれるのでしょうか?
杉山: これは完全に頼りにいく、相談するというスタンスではたらきかけるのが一番だと思っています。例えば、弊社の場合は社外に出てからはじめて知るプロモーション活動が多いので、その施策を行っている部門を探し、社内の連絡帳を見て「すみません、ちょっと教えてください」と連絡することがあります。社内なので教えてもらうスタンスでいれば、最初から断られることはあまりありません。より企業の活動に共感してくれる方を集めることにノーという人はいないので、そのあたりの共通理解を得てご一緒させていただくことが多かったと思います。
鈴木:私も全く同じで、他部門にはたらきかけるときは「教えてもらう」というスタンスで行います。杉山さんがおっしゃっていた通り、会社としてより良い方向に進もうとしているときに、それを極端に断るという部門はあまりなかった記憶があります。私自身が人事畑出身の人間ではないのでよくわかるのですが、人事が行くと現場の人間は少し身構えてしまうんですよね。しっかり意図を伝えて教えてもらうスタンスでいれば、協力にネガティブになる部門は比較的少なかったかなと思います。
予算を分けなければ中長期の採用施策には投資できない
杉山:弊社の試行錯誤のポイントは予算と成果を測る指標に尽きると思います。採用に携わっている方は特に実感していると思うのですが、採用予算は短期のROIでみられがちです。なので、そこにマーケティング予算をかけようとすると、ダイレクトレスポンス系の施策が中心になると思います。ダイレクトレスポンス系の施策にも意味はあると思いますが、どの会社も力を入れていることでもあります。そうではなく、ベンチャーができず、大企業だからこそできて、他社がやれていないことに投資すべきではないかと考えて、長期のROIを見て、そこに別立ての予算を確保しました。幸いだったのが、最初期の予算を直接的な採用予算ではないところに紐づけられましたので、ダイレクトレスポンス系に予算を割かずにピュアにブランディングに投資をすることができました。以降はそこをベースに活動できているので、結論としては採用は長期・短期で予算をわけたほうが、理想的な活動につなげられるのではないでしょうか。そうしたことが難しい場合であっても、1つの予算枠のなかでも短期と長期で色わけしておかないと、最終的には直近の採用充足のための費用に投下されてしまうと思います。
茂野:最初の予算をわけるというのは非常に発見だと思うのですが、今までもそこはわけて考えてこられたのですか?それともパナソニックさんに来て、わけて長期投資しなければだめだとなったのでしょうか?
杉山:自身の経験上、過去は明確にわけていなかったように思います。ベンチャーにいて中長期投資という発想になかなかならなかったというのがありまして。なので、短期的、少なくとも1~2年くらいまではみたとしても、それ以上のスコープでみるということがなかったです。逆に大きな組織だからこそみる価値もありますし、みる体力もあるので、そこにあえて投資していくというのは差別化していくうえでは非常に大切だと思います。
もう1つの指標の部分ですが、エンプロイヤーブランディングはまだまだ概念的にも新しいですし、多くの会社が明確な活動をしているわけではありません。そのため何をもってうまくいっている・いないという部分が指標として非常に曖昧です。そのあたりは今も悩んでいて試行錯誤中ですが、いくつか手応えを感じている指標として今は3つみています。
1つは「人材の濃度」が挙げられます。エントリーしてくる方、あるいは接点を持った方に対する、本来接点を持ちたかった方の比率が上がっているのか下がっているのか。2つ目がいわゆるマーケティングファネルと呼ばれているもので、人をアッパー・ミドル・ロウアーの3階層で捉えて、各階層で認知・関心・実際に選択していただける方の遷移率をみていく。3つ目がコロナウイルス感染症の状況もあるので、いかにデジタル上で共感を生んでいくかというのはブランディングのうえでは大事だと思っていまして、そのときのソーシャルエンゲージメント、いわゆるTwitterのリツイートや「いいね」のようなものが、どれくらい広がりを持っているのか。このあたりの指標を取っていき、最終的なゴールとしてのブランド確立につなげていければ良いと思っています。
採用改革によってどのように社内の空気が変わっていくのか
茂野:お2人がいろいろな取り組みをして、最近社内の採用が変わってきたというポイントがあれば伺いたいです。
鈴木:部門を含めて経営層の協力度合いというのが変わってきました。社内的な部分も含め、部門の人が採用活動に対して当事者意識を持っていると感じることが非常に多くあります。例えば、もともと当社の場合は要件のすり合わせをするときに、人事が主体となって要件の市況感を含め部門と確認しあう作業をしているのですが、そのなかで新規の求人を出したときにこちらから投げかけていないのに部門の方から「ちょっとご相談があるんです」と直接相談してもらえたりとか、面接フローが全部終わった後に「こちらが伝え忘れたことがある」と熱意の部分を部門の方から言ってきたりということが起きてきて、私たちが想定しているよりも部門は本気なんだということが伝わってきます。こういったアクションが増えてきていると思います。
茂野:それは採用に対する熱量が上がってきたということだと思うのですが、取り組まれてどれくらいの月日でそうなったのでしょうか?
鈴木:弊社の場合は1年もかからず、早いものだと3カ月で出てきました。最初から全部門をやるのは難しいと思っていて、特に大手になればなるほど難しくなります。なので、小さな成功体験を積み重ねることが非常に大事だと思います。ある程度自分の志や、方向性に共感してもらえるような方、感覚としては1割くらいだと思うのですが、そういった人を見つけて、その方を中心に少しずつ成功体験を積んでもらう。そこに人事として伴走し、成功体験を他部門へ発信し社内での認知を作り、また新たな企画につなげるということを愚直に繰り返すと、思った以上に早くリアクションが出てきました。
茂野:杉山さんはいかがですか?
杉山:1つはクローズからオープンへという変化、もう1つは「We」から「I」へという変化があります。クローズからオープンというのは、例えば私自身がパナソニックに来た2016年末当時、直接応募でホームページから応募しました。しかし、パナソニックのことを知りたいと思ったときに、理念のような話はよく出てくるものの、どういう職場なのか、どんな仕事をしている人がいるのかという話はほとんど出てきませんでした。実際に入社した後も、情報発信をするときにみんな恐る恐るなんですね。ここを変えていかないと、というところからスタートしました。
最初は自分自身が出るしかなかったので、私が取材を受けて、コンテンツを出して、それがちゃんと届くかということを検証することから始め、初速をつけてからキーパーソンにつなげていくということをしました。それが2~3年続くと、表に出ることが当たり前になってきて、むしろどう出ていこうかとか、出る機会があったら誰を出そうかというのがフラットに話せる感じになってきて。肌感覚としては2019年あたりからそれまでの期間に比べて露出が相当増えたと感じています。
「We」から「I」というのは露出にも関わる部分で、今までだと「パナソニックの事業は」とか「技術は」という話が中心でした。ただ、ブランドを築いていくということは共感を形成する機会をつくるということであって、共感は会社を主体とした「We」では形成できません。社内のチームづくりなどは「We」の方が良いのですが、社外の人に関心を持ってもらい、共感を得るためには「あなたはどう考えているのか、どう感じているのか、どういう思いでやっているのか」という「I」がないと届かないのです。そういった意味で「I」のメッセージを言いつづけてきた結果、社内でも「I」のメッセージで話す機会が
増えてきました。「I」で語るカルチャーが醸成されてきているというのは非常にうれしい変化です。
茂野:ありがとうございます。採用活動に他部署の方を巻き込んでいくことを通じて、社内がクローズからオープンへ。そして発信するメッセージが「We」から「I」に変化したというのは、非常に大きな変化といえるのではないでしょうか?本日は、採用活動へどのように他部署を巻き込んでいくのかということが大きなテーマでしたが、それにとどまらず採用活動やエンプロイヤーブランディングを通して社内に変化を起こすことができるというのはあらたな気づきだったように思います。本日はありがとうございました。
※各種データや肩書はイベント実施時点のものです