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2020年10月22日(木)に第11回のHR SUCCESS Online「VCが語る SaaS成長企業の組織戦略 ~ARR10億円を超える組織に必要なコト~」が開催されました。本イベントでは「SaaS成長企業の組織戦略」をテーマに投資家から見た成長企業の組織運営に必要なコトや事業フェーズ別に重要視すべき組織運営のテーマなどについてお話しいただきました。今回は前編として、SaaS企業の経営者や人事担当者が創業初期に気をつけるべきポイントや考え方についてまとめたものをお送りします。
浅田慎二氏
One Capital株式会社
代表取締役CEO
伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社にて、ユーザベース(IPO)、メルカリ(IPO)、Box(IPO)、WHILL、Tokyo Otaku Mode等国内外ITベンチャーへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表に就任しSansan(IPO)、TeamSpirit(IPO)、freee(IPO)、Goodpatch(IPO)、Visional(ビズリーチ)、Yappli、Andpad、スタディスト(Teachme Biz)等B2Bクラウドベンチャーへ投資。2020年4月にOne Capital株式会社を創業、代表取締役CEOに就任。慶應義塾大学経済学部卒、マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了。
・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化
堀新一郎氏
YJキャピタル株式会社
代表取締役社長
慶應義塾大学(SFC)卒業。SIerを経て、株式会社ドリームインキュベータにて経営コンサルティング及び投資活動に従事。2007年より5年半、ベトナムに駐在。ベトナム法人立ち上げ後、ベトナム現地企業向けファンド業務に携わる。2013年よりヤフー株式会社に入社しM&A業務に従事。2013年7月よりYJキャピタルへ参画。2015年1月COO就任、2016年11月より現職。日本を中心に総額465億円のファンドを運用。ファンド累計出資社数は100社超。東南アジアでは250百万ドルのEV Growth FundをEast VenturesとSinar Masと共同で運用。 Zコーポレーション株式会社代表取締役会長、Code Republicアドバイザー、ソフトバンク株式会社のグループ内新規事業開発・投資会社であるSBイノベンチャー株式会社取締役、EV Growth Fundのパートナー兼務。著書に『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(共著。NewsPicksパブリッシング)。
茂野明彦
株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部 部長
大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。
投資家から見た、成長するSaaS企業の特徴
茂野:最初のセッションでは、投資家からみた成長するSaaS企業の特徴について「採用・カルチャー・創業者」の観点でお聞きしたいと思います。
浅田: そうですね。採用は成長するSaaS企業にとって重要な手段だと思っていますし、何のために採用をするかが非常に重要です。のびるSaaSの特徴について、いろいろなパターンがありますが、極論をいうと2つしかないと思っています。1つは、プロダクトエクセレンス、そしてもう1つはオペレーショナルエクセレンスです。その2つを実現するために適切なタイミングで採用を行う必要があります。簡単に言うとプロダクトエクセレンスはエンジニアリングで、オペレーショナルエクセレンスはそれ以外で、その両方を高めるという目的のために採用をできている会社はやはりのびていますね。
堀: もちろん採用も大事ですが、やはりシード期から会社をみていると、最初に会社を組成するタイミングのチームビルディングも重要だということがわかります。Appleのスティーブ・ジョブズさんの「Aクラスの人材はAクラスの人材を連れてくる」という有名な言葉にもあるとおり、最初の段階で良いメンバーが集められている会社は、成長する過程でも良い人を採用できるので、スタートダッシュをしっかり切れる。
もう1つは、創業者が自分の得意なところと不得意なところを認識したうえで、自分のできないところを補ってくれる人材を採用できている会社は、圧倒的に成長しています。採用も広報もファイナンスもプロダクトづくりも営業も、ワンマンで何でもできてしまう人もなかにはいますが、そういう会社の場合、 ARR10億円の壁を越えられないというのはみていて感じます。採用するにあたって、まずは自分たちの組織にどういった人材が足りないのかを客観的に分析することが大事なのではないでしょうか。
創業初期のリファラル採用の重要性
茂野:ありがとうございます。初期のメンバー集めが重要となると、リファラル採用が大事になってきますね。カルチャーフィットする人材を採用することは、つまりは仲間を集めることだと思うのですが、お2人はリファラル採用についてどう思われますか?
堀: 私は、もう最初はリファラル採用をがんばるべきだという考えです。一定のステージまではリファラル採用だけでいくべきだと。最初は人脈がないこともあるかもしれませんが、それでも自分の持つコネクションをしっかり使ってやっていくべきだと思います。また、面接でわかることにはどうしても限りがあるので、リファレンスチェックもしっかりと行って、その人が信用できる人なのか、前職でパフォーマンスを出した人なのかを確認することも重要です。そういった意味でも、私は投資先や支援先の会社に対してはリファラル採用をやっていくべきです、という話をよくしています。特にビズリーチとメルカリが創業初期に、リファラル採用で組織を急成長させたという事例は、すべての投資先に話しています。
茂野: ありがとうございます。リファラル採用である程度までは行くべきだと思うのですが、どれくらいまでリファラル採用中心の採用活動をするべきか、従業員数の目安などはありますか?
堀: そうですね。営業・ファイナンス・プロダクト開発・人事がしっかり回るところまではリファラル採用で進めるべきですね。CxOや各事業部の部長になるような人材に関してはリファラル採用になるかなと。従業員数にすると難しいですが、10~20人くらいまでが目安かと思います。
企業のフェーズと採用要件の関係。カルチャーフィットとスキルフィット、どちらを重視するべきか
茂野: ありがとうございます。浅田さんに伺いたいのですが、企業が変化していくなかで採用要件も変わると思います。特に創業してから2、3年とその後で、採用要件や採用する方の人物像はどのように変わっていくと思いますか?
浅田: 先ほどの堀さんの話に関連するのですが、リファラル採用は、その会社のビジョンに共感している人材を採用する手段だと思います。初期は会社のカルチャーやバリューをつくっていくフェーズなので、スキルは高いけれど、プロダクトが実現したいビジョンに共感していない人材を採用すると、必要な機能は果たせるのですが、カルチャーが壊れてしまう可能性があります。創業初期は、会社の性格を創業者が代弁するフェーズなので、創業者のキャラクターを理解し、解決したい課題に共感しながら役割を全うできる人材を採用するのが一番良いと思います。レイトステージになると、「この会社おもしろそう」というライトな感覚で入社していただくのでもいいかなと思います。そのフェーズでは、もっとスキルや経験のある人や、事業を拡大させられるオペレーションマネジメントができる人に入社していただくのがいいと思います。
茂野: スキルフィットなのかカルチャーフィットなのかといった話はよく出ると思うのですが、特に創業初期はカルチャーフィットを重視したほうが良いということですね。成長する企業はどこか宗教的というか、強烈なカルチャーがあると思っていますが、何かのびる企業に共通するカルチャーがあれば教えてください。
堀: カルチャーに関しては、特に強いこだわりがあるわけではありません。カルチャーはあるタイミングから大事になってくると思っています。最初はコーポレートカルチャーがないままプロダクトドリブンでスタートしていた会社が、後になってカルチャーをつくったというケースもあれば、どのようなサービスをやる会社かを決める前にビジョンを決めたというケースも知っています。どちらが上ということはなくて、どちらも素晴らしい会社だと僕は思っています。創業期からしっかりとしたカルチャーがなくてはいけないというわけではなく、その会社にとって必要なときにあるべきだと考えています。まずはプロダクトとビジネスをしっかりと作っていって、なにか壁にぶつかったときや採用を加速するタイミングにあわせてその会社のカルチャーを言語化していけばいいのではないかと。どのタイミングで必要になるかが事前に予測できていれば、そういった課題にぶつからすにすむという発想もあるかもしれませんが、僕はどちらかというとそういう考えですね。
茂野: ありがとうございます。浅田さんがいらっしゃったセールスフォース・ドットコムはカルチャーが強い企業の代表例だと思うのですが、浅田さんはカルチャーについてどうお考えですか?
浅田: カルチャーは間違いなく創業者の性格を細かく言語化したものだと思います。理論で合理化したバリューやカルチャーだったとしても、創業者の性格とマッチしていないとその企業の本質を表していない、説得力のないものになってしまうこともあります。カルチャーは大事ですが、プロダクトや売上、顧客がきちんといるときに定義をするものであり、カスタマーサクセスのレベルを決めてオペレーショナルエクセレンスを実現しやすくするために有効なツールだと思いますね。早めにやるべきか後からでいいのかというよりは、オペレーショナルエクセレンスやプロダクトエクセレンスを追求しているが、なかなかうまくいかない、となったタイミングで言語化する必要が出てくるのではないでしょうか。
成長する企業の経営者に共通するポイント
茂野: 先ほど堀さんが創業者は自分の能力を自己認知して、足りない部分を補ってくれる人材を採用してくるべきだというお話をされていましたが、成長する企業の経営者に共通するマインドや素養などが自己認知以外にあれば教えてください。
堀: 自分より優秀な人を連れてこられるかどうか、ですね。面接をしていると、この部分は優れているけれどここが物足りないな、という部分がみえるときがあると思うのですが、優れているところをみて、足りない部分はあるけれど、この部分は力を発揮してくれそうだというふうに、優れている点を認められることが重要だと思います。完璧な人を求めようとしてもなかなか難しいので、その人のきらりと光る長所をみつけて、それが今の組織や自分に欠けているからこそのばしてもらいたいと考え、積極的に採用する動きができることが重要かなと思います。
もう1つは、マインドというか動き方なのかもしれませんが、常に良い人がいないかと採用へのアンテナを張って、その方がたとえ他社の経営幹部であっても、常に自分の会社に来てもらう方法を考えつづける姿勢ですかね。ビズリーチの南さんは典型的です。会うたびに誰か良い人がいないかとプレッシャーをかけられています。採用が強くて組織が成長している会社の経営者は、優秀な人材はどこにいるのか教えてくれといわんばかりのオーラを常に出していますね。
茂野: きちんと自己認知をして足りない力を補ってくれる人材を採用しつづけることに加えて、完璧を求めすぎずに自分より優秀な人材を常に探し続けていく能力が、経営者としては非常に重要ということですね。浅田さんはいかがですか?
浅田: 僕も独立してチーム集めをしているところですが、大事だと思っているのは心理的安全性ですね。カルチャーや性格があう人たちが集まって、士気が高い状態で、難しい課題に対して一丸となって向かっていく状況をつくれるかが重要だと思います。能力が高かったとしても常に皮肉を言っていたり、士気が低かったりする人は、組織を成長させるうえでは障害になる可能性があると思っています。
茂野: 先ほど堀さんが社外に対して採用のアンテナを立てつづけるとおっしゃっていましたが、社内に対してもアンテナを立てつづけて阻害要因やマイナス因子を取り除いていけるアンテナを持っていることも大事ということですね。
堀: お話から感じたことなのですが、自分の弱みをきちんと言える人は、人としてチャーミングだと思っています。経営者は組織が大きくなってくると、自分を大きく見せなければいけなかったり、戦略の方向性をしっかりと示さなければいけなかったり、会社からの期待がどんどん大きくなっていくものですが、成長している企業で採用がうまくいっている会社のなかには、かなり大きな会社になっているにもかかわらず、外部から優秀な人を採用できています。その要因には、経営者の人としての魅力があると思います。「これをやるのはあなたしかいない」を当たり前に言える経営者ってなかなかいないですよね。
茂野: 信頼関係を醸成する際に、相手をリスペクトする気持ちと親近感の2つが混ざると強いということですね。弊社の南はまさにそういうタイプで、ビジョンを語るのは得意なのですが、苦手なことも包み隠さないので、何かをお願いされると仕方ないなと思って皆が助けたくなるというのはあると思います。成功事例と失敗事例や、良い面と悪い面を両方みせられると、距離感が近づくというのはありますね。
堀: 道を切り開いていく強いリーダーシップを持ちながら、弱みをきちんとみせるということですね。ビジョンや戦略がある。怖さももちろんあるけど、それをみんなに知らせて乗り越えていこうといったコミュニケーションがとれる人は良いチームビルディングができているように思いますね。
セミナーレポート後半では、ARR10億円を目指すうえで必要なことをより具体化し、
- 規模拡大時にぶつかる組織の壁は事前に対処すべきか? 壁を迎えた際に対処すべきか?
- ARR10億円を目指すために。組織づくりで必要なこと
- 優秀な人材を採用し、ベストなタイミングで権限委譲を
について詳しくお伺いしていきます。
※各種データや肩書はイベント実施時点のものです