目次
ビジネスにおける「能力」の定義には、さまざまなものがありますが、なかでも覚えておきたいのが組織全体を司るといっても過言ではない「コアコンピタンス」です。コアコンピタンスは、アップル、アマゾン、ウォルマートなど、現代の多くの先端的な製品販売やサービスの成功を支えています。コアコンピタンス(ケイパビリティ)とは何か、その技術や種類、定義の仕方、事例などを分析しながら解説します。
コアコンピタンスとは?
コアコンピタンスとは、企業の競争力を支える他社にはまねのできない技術やノウハウのことです。たとえば、ドミノピザであれば宅配、アップルやグーグルであればイノベーションが挙げられます。どのような組織にとっても、コアコンピタンスは、既存の競合他社や新規参入企業など他の組織とは一線を画し、容易にコピーできるものではありません。組織のコアコンピタンスは、他の企業より何が優れているか、そしてなぜそのようなことができるかを説明するものです。これらの能力は、企業が顧客や利害関係者に価値を提供し、新たな機会を捉え、成長するための強力な基盤となります。また、企業を同業他社から差別化するとともに、その業界またはセクターにおいて持続的な競争優位を生み出すのに役立ちます。企業は、以下のような1つまたは複数の組織全体のコアコンピタンスを持つことができます。
コンピタンスとアビリティの違い
人間の能力には「アビリティ」と「コンピタンス」の2種類の「能力」があるとされています。アビリティが成績や専門的スキルなどの「個人的能力」の意味合いであるのに対して、コンピタンスは協調性やコミュニケーション能力、社会常識といった他者との関わり合いを通じて発揮される「社会的能力」という意味合いが強いです。どちらも「能力」という意味ではありますが、「コンピタンス」は「アビリティ」の応用と考えると理解しやすいでしょう。「コアコンピタンス」とは、その組織の「決定的な強み」を構成する能力、知識、スキル、リソースを指します。
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
「コアコンピタンス」と非常に強い関連性を持つ言葉に「ケイパビリティ」があり、これらは非常によく似た概念です。この2つの言葉に大きな違いはないという考え方が主流になりつつありますが、厳密には、企業の強みを表す視点が異なります。ケイパビリティが「何かをする力」であるのに対し、コアコンピタンスは「他社より優れている力」です。企業が競争社会で生き残るためには、自社のケイパビリティを明らかにするだけでなく、競合他社と差別化できるコアコンピタンスを明らかにすることが重要になります。
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コアコンピタンス経営
コアコンピタンス経営とは、企業が持つ独自の強みや能力(コアコンピタンス)に焦点を当てた経営戦略です。この考えは、経営学者のゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードが1990年「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌に寄稿した論文の中で提唱したものです。コアコンピタンス経営では他社が真似することが困難な技術や知識、プロセスといった企業の競争優位性の源泉となる中核能力を特定し、それを強化・活用することで持続的な成長を目指します。
ビジネスにおけるコアコンピタンス
ビジネスにおけるコアコンピタンスは、顧客に提供する製品の種類や製品の提供方法と関連することが多いです。たとえば、最も安い価格、最も信頼できる配送、最も良いカスタマーサービス、最も親切な返品条件、あるいは優れた製品などが、コアコンピタンスの主な種類に含まれます。さまざまな方法によって、優れた経営をすることができますが、以下は、ビジネスで見られる一般的なコアコンピタンスです。
製品の品質
製品に最も耐久性があり、長持ちし、最も信頼できることを意味します。その企業は、最も強力な品質管理策、技術的に熟練した労働者、高品質の原材料に投資している可能性が高いです。
デザインまたはイノベーション能力
これらの能力は、該当分野の業界リーダーであることを意味します。その企業は、研究開発に多額の資本を投じ、多くの特許を保有し、各分野の専門家を雇用している可能性が高いです。
カスタマーサービスやオムニチャネル対応
顧客が購入時(および購入後)に最高の体験をすることを意味します。スタッフのトレーニング、多数の顧客サービス担当者、例外や問題が発生した場合の管理プロセスなどに投資している可能性があります。
購買力
企業のスケールメリットを活用します。合併や買収に投資し、ベンダーと強力な関係を築いて、有利な価格設定やサービスを獲得するようなことです。
企業文化
風通しの良い企業を作ります。従業員の表彰や能力開発、あるいは協力的で楽しいイベントなどに多額の投資を行うことで、良い人材を集めることや個人の能力が発揮されることを目指しています。
自動化されたワークフローとプロセス
最も速く商品を製造または出荷できることを意味します。生産プロセスや流通関係だけでなく、接続されたソフトウェアシステムにも投資している可能性が高いです。
低コストのプロバイダー
同等の商品の中で最も低価格を実現していることを意味します。労働力や材料の投入を削減する、最も効率的なプロセスに投資している可能性が高いです。
低コストのプロバイダー
同等の商品の中で最も低価格を実現していることを意味します。労働力や材料の投入を削減する、最も効率的なプロセスに投資している可能性が高いです。
柔軟性
ビジネスチャンスや革新的な挑戦に対応しやすい軸を作るうえでこのような能力は欠かせません。従業員全体のクロストレーニングや、軽快なソフトウェアソリューションに投資している可能性が高いです。
モノづくりのプロセスを理解する
具体的な製品を検討するだけでなく、その製品を作るために何が必要かを見直す必要があります。これには、あらかじめ精錬しておかなければならない労働力、材料、知識、工程、設備、あるいは研究などが含まれます。
企業のユニークな側面を特定する
他のすべてが失敗した場合でも、その会社に残るようなユニークさが何であるかを考えます。これは、会社の歴史、従業員に与えることができる特定の利益、会社が存在する業界、または達成したいことに関連するかもしれません。
人材を育成する
人材育成能力もコアコンピタンスの1つです。たとえば、数多くの起業家を輩出している株式会社リクルートや、女性技術者の教育、研修などに力を入れているGEジャパン株式会社が挙げられます。
研究開発力
企業独自の研究開発力もコアコンピタンスになり得ます。たとえば、Google LLCでは情報やコンピューターサイエンスに取り組む企業としてAIの発展をリードすることを目指し、独自の研究開発に基づいて事業革新に取り組んでいます。
マーケティング
P&Gジャパン合同会社では、1つのブランドを1つの企業体とみなし、「ブランド経営」という視点でマーケティングを行っています。また、消費者は商品ではなくブランドにお金を払うという考えのもと「ブランドづくり」を2つ目のテーマに掲げながら、マーケティングによるコアコンピタンス経営に取り組んでいます。
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コアコンピタンスをビジネスに活かす
ビジネスにおける主なコアコンピタンスを紹介しました。各コンピタンスは、企業にユニークなポジショニングを生み出すポジティブな特性といえます。コンピタンスを保有し、活用することで、競合他社がその企業の製品をそっくりそのまま複製したり、その成功を再現したりすることが非常に難しくなるからです。
コアコンピタンスを定める
コアコンピタンスを定めることは、企業の独自性を保つ戦略立案において、非常に重要なステップとなります。どのようなコアコンピタンスを最も重要とするかは、業界によって異なるでしょう。企業はこれらのコンピタンスにおいて際立った能力を持ち、理想的には他のコンピタンスとユニークに組み合わせることで、同業他社に対する競争優位性を獲得することができます。
サウスウエスト航空の成功例
たとえば、サウスウエスト航空は、コアコンピタンスに集中することで、競争の激しい航空業界において確固たる地位を築きました。Mukund Srinivasan氏の航空業界に関するブログ記事で詳しく述べられているように、これらのコンピタンスは、運航コストを低く抑えること(主に路線の効率化によって)、価値のある顧客サービスを提供すること、従業員の忠誠心を高める楽しい職場文化を創造することです。世界最大の企業や最も成功している企業の多くは、コアコンピタンスを重視することで成功を収めています。
コアコンピタンスは1つだけで良いというわけではない
コアコンピタンスの種類は、必ずしも1つだけで良いというわけではありません。ある種のコアコンピタンスは、他社が克服するのがより困難な場合があります。たとえば、コカ・コーラブランドについて考えてみましょう。同社のコアコンピタンスであるブランド認知は、新しい飲料メーカーが追い抜くのは非常に難しいかもしれません。しかし、コカ・コーラの顧客サービスに対するアプローチや企業文化は、競合企業にとって追い抜くのが容易かもしれないというわけです。
コアコンピタンスという考え方
コアコンピタンスの提唱者や、考え方について解説します。
コアコンピタンスの提唱者
コアコンピタンスは比較的新しい考え方であり、1990年、C.K.プラハラードとゲイリー・ハメルによるHBRの記事「The Core Competence of the Corporation」で初めて提唱されました。この歴史ある影響力のある記事のなかで、著者らは、企業のコアコンピタンスがグローバルな商取引に「勝つための最も強力な方法」であり、「変化する機会に素早く適応する」ものであると述べています。成長を可能にするコアコンピタンスを定め、育成して活用する能力に基づいて、経営者やリーダーを評価することが急速に広まるとともに、このアプローチはビジネスリーダーに企業の概念そのものを見直すことを促しました。
コアコンピタンスの3つの主要特性
プラハラードとハメルは、そのHBRの記事の中で、事業活動がコアコンピタンスとみなされるために満たすべき主要な条件として、次の3つを挙げています。
1、顧客や消費者に優れた価値(たとえば利益)を提供すること。
2、顧客や消費者に優れた価値(便益など)を提供すること。
3、複製や模倣が容易であってはならない。
著者は、このコンセプトを説明するためにホンダを例にあげています。彼らによれば、ホンダのエンジンとパワートレインにおけるコアコンピタンスは、同社が顧客に優れた利益を提供することを可能にし、自動車、オートバイ、芝刈り機、発電機の各事業において、ホンダに競争上の優位性をもたらしました。当時、ホンダのユニークで強力な能力に匹敵する企業は他にはなかったのです。
個人のコアコンピタンスを開発すべき
また、コアコンピタンスには、集合的学習、技術統合、コミュニケーション、リーダーシップ、組織の境界を越えて働くことへのコミットメントなどが含まれるとも述べています。コアコンピタンスのバリエーションとして、個人に焦点をあてたものが登場していますが、この考え方は、求職者が就職市場で際立つために、個人のコアコンピタンス(特定の能力)を開発すべきだというものです。これらには次のようなものがあります。
- 分析力
- コミュニケーション能力
- デジタルリテラシー
- 問題解決能力
- 意思決定
- 対人関係/人間関係構築能力
- 文化的コンピテンシー
- ビジネスセンス
個人のコアコンピタンスを特定するためには、タレントマネジメントシステムの活用が欠かせません。タレントマネジメントシステムは、社員一人ひとりのスキルや経験、プロフィール情報をデータで一元管理、分析できるため、自社にどのようなコアコンピタンスがあるのか確認する際に役立ちます。
<関連記事>【事例付き】タレントマネジメントとは?目的、システム導入や比較・活用方法」
コアコンピタンスの資源と育成
企業のコアコンピタンスへの貢献は、その企業からもたらされることがあります。具体的には以下のようなものです。
- 人
- 資本
- ブランド・エクイティ
- 資産
- 知的財産
長期的な成長と成功のためには、組織がこれらの要素をすべて開発し、育成することが重要です。組織は、コアコンピタンスに貢献する能力の構築と維持に一貫して資源を投入する必要があります。サウスウエスト航空がオペレーションコストで行ったように、競争優位をもたらす最高の能力を特定し、分離し、それを組織全体の強みに育て上げなければなりません。さらに、サウスウエスト航空が優れたサービスと楽しい職場文化を実現したように、競合他社とは異なる方法でこれらの能力と強みを伸ばし、顧客に高い価値を提供することに、会社の開発戦略は焦点を当てるべきでしょう。コアコンピタンスに資源を集中し、競争力を強化するために、企業は本来の専門性から外れる分野をアウトソーシングしたり、売却したりすることができます。
コアコンピタンスの事例
コアコンピタンス経営に取り組んだ企業事例をご紹介します。
McDonald’s Corp
マクドナルドの最高のコアコンピタンスは、フードサービスとデリバリー・プロセスを標準化する能力です。マクドナルドの商品は地域や店舗に関係なく、味も見た目も全く同じで、地域の味覚や例外を考慮した上で提供されています。ビッグマックやチキンマックナゲットを注文すれば、何が出てくるか常に分かっているため、顧客はこのブランドを信頼するわけです。その信頼が、マクドナルドの成功を支えています。
Apple Inc.
アップルは、iPhone、iMac、iPadなど、消費者の美的感覚と物質的願望に訴える電子機器をデザインし、生産するユニークな能力を持っています。どのような製品も魅力的な視覚的美学と触覚的魅力を誇り、アップルが時価総額で、世界で最も価値のある企業という地位を獲得しているのは周知の事実です。
アップルが長年積み上げた製品力は、容易には言語化やデータ化が困難なほど計算しつくされています。限られた製品群に集中しながら良質なハードウェアを開発し続ける力は、アップルならではのコアコンピタンスと言えるでしょう。
Walmart Inc.
ウォルマートは、最も近い競合他社でさえもかなわない購買力を持っています。同社は巨大なサプライチェーン・オペレーションにより、商品を大量かつ低料金で購入し、競合他社を下回る価格で販売することで、より多くの顧客を引き付け、維持しています。
同社は購買力だけでなく、ICタグの活用のようなオペレーションと効率の改善に着手。また、オリジナルのPBブランドや環境に配慮した製品、ファッション商品など品揃えの多様化も図り、新たなコアコンピタンスを確立しています。
Amazon .com, Inc.
アマゾンについては、2021年の年次報告書の第1部で述べられている、同社のビジネスの本質について紹介します。同社は「地球上で最も顧客中心の企業になる」ことを目指して、次のような事業活動を論じています。
- アマゾンは、その店舗が「何億ものユニークな商品を当社およびサードパーティが販売することを可能にする」ことから、規模の運営というコアコンピタンスを有しています。
- アマゾンは「顧客は、当社のウェブサイト、モバイルアプリ、Alexa、デバイス、ストリーミング、および実店舗への訪問を通じて当社の製品にアクセスできる」ため、高度な技術というコアコンピタンスを有しています。
- アマゾンは「低価格、迅速かつ無料の配送、使いやすい機能、タイムリーなカスタマーサービスをお客様に提供すること」を目指しており、予算重視の選択肢であることをコアコンピタンスとしています。
- アマゾンは、幅広いテクノロジー・サービスを提供しながら「スタートアップ企業、政府機関、学術機関を含むあらゆる規模の開発者や企業」にサービスを提供しており、柔軟性と製品の多様性をコアコンピタンスとしています。
- アマゾンは、独自の出版社(Kindle Direct Publishing, Amazon Publishing)を持ち、独自のストア(Kindle Store)で商品を販売し、独自の物理デバイス(Kindle)で使用する作家にサービスを提供しており、自己信頼性のコアコンピタンスを有しています。
- アマゾンは「当社の商標、サービスマーク、著作権、特許、ドメイン名、トレードドレス、企業秘密、独自技術、および同様の知的財産が当社の成功に不可欠である」と考えており、イノベーションを中核的競争力としています。
すべてのビジネスは、広告や評判管理、マーケティングや人材管理、スポンサーシップや戦略的管理など、業務のあらゆる領域でコアコンピタンスを最大化することを目指さなければなりません。このような総合的なアプローチによって、企業は長期的な成長と成功を追求する力を得ることができるのです。さらに、競争力と市場での独自の地位を維持・向上させるために、複数のコンピテンシーを開発する必要があります。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車のコアコンピタンスの主な特徴は、「トヨタ生産方式」に代表される高効率なカイゼン生産システムです。これには、ジャストインタイム生産や改善活動などが含まれます。また品質管理の徹底、長期的な視点での技術開発、特にハイブリッド技術などの環境技術が挙げられます。さらに、グローバルな生産・販売ネットワークと、それを支える強固なサプライチェーンマネジメントも重要な強みです。
ソニー株式会社
ソニーの強みは優れたminiaturization(小型化)技術と高品質な電子機器製造能力です。これらの技術を活かし、今までウォークマンやPlayStationなど、革新的な製品を生み出してきました。また、画像・音響技術の高度な開発力、エンターテインメントコンテンツの制作・配信能力も強みです。ソニーは「技術戦略コミッティ」というグループ横断の活動に注力しており、異なる技術を融合させ、新たな価値を創造する能力もコアコンピタンスとなっています。
Google LLC
Googleは高度な検索アルゴリズムと効果的なオンライン広告システムが強みです。検索技術では、日々更新される膨大なWeb情報を瞬時に処理し、関連性の高い結果を提供する能力を保有しています。広告事業では、AdWordsやAdSenseに代表される精密なターゲティング広告システムが強みです。
これらを支える大規模データ処理技術、機械学習、そしてユーザーフレンドリーなインターフェース設計能力などがGoogleのコアコンピタンスと言えるでしょう。
コアコンピタンスを見極めるポイント
コアコンピタンスを見極めるために、次の5つの要素と照らし合わせることが有効です。
- 模範可能性
- 移動可能性
- 代替可能性
- 希少性
- 耐久性
それぞれの要素について説明します。
模倣可能性(Imitability)
模範可能性とは、自社が保有している技術力や能力が競合他社に真似されやすいかどうか、という要素です。他社が容易に模倣できてしまう技術力や能力は、コアコンピタンスとは言い難いでしょう。
長年の研究や実績を積み重ねて生み出したノウハウや技術は、簡単に真似することができず、企業のコアコンピタンスとなり得るのです。
移動可能性(Transferability)
移動可能性とは、ある技術や能力が他のサービスや製品、他の分野に応用できるかどうかという視点です。さらなる事業拡大と企業成長のためには、保有する技術や能力の汎用性が重要であり、コアコンピタンスに値するものは別分野に応用がしやすいでしょう。
代替可能性(Substitutability)
代替可能性とは、自社が保有する技術や能力、サービスなどが他のものに簡単に代替えできるかどうかという視点です。簡単に他の製品や技術に置き換えられる場合、その製品や技術、能力はコアコンピタンスとは言い難いでしょう。
コアコンピタンスを特定する際は、対象物のオリジナリティや代替可能性を確認することが大切です。
希少性(Scarcity)
希少性とは、保有する技術や能力の希少価値が高いかどうかという視点です。模範可能性と代替可能性を同時に確認すると、希少性の有無を判断できるでしょう。他社に真似されにくく、他の製品や技術などでは容易に代替できないものは希少性が高く、コアコンピタンスになり得ると考えられます。
耐久性(Durability)
耐久性とは、自社の能力や競争力が中長期的に維持できるかどうかという視点です。どんなに希少性や移動可能性が高かったとしても、それが一時的なものであれば、市場競争で生き抜くことは難しいでしょう。市場変化のスピード感が早い昨今では、自社の保有する技術や能力が近い将来、あまり力を持たなくなる可能性も否めません。コアコンピタンスを見極める際、耐久性の確認は不可欠といえるでしょう。
コアコンピタンスを評価するステップ
コアコンピタンスを評価する際は、「強みの把握」「強みの評価」「強みの絞り込み」の3つのステップで確認をします。各ステップについて解説します。
強みを把握する
はじめのステップでは、企業の強みを洗い出して把握を行います。自社の強みや優位性を把握する際は、SWOT分析やブレインストーミングなどのフレームワークを用いることが有効です。
・SWOT分析:強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの頭文字から名付けられた分析手法。企業の内部環境および外部環境の分析を行うことが可能です。
・ブレインストーミング…会議やミーティングでアイデアを出し合う集団発想法と呼ばれるフレームワークです。
強みを評価する
最初のステップで洗い出した強みや優位性を一覧にまとめて、1つずつ評価を行うステップです。自社の強みに独自性はあるか、希少性は高いかなどを他社と比較しながら、客観的に評価をします。短期間で代替され得ないか、簡単に他社に真似されないかなど、複数の視点で評価を行いましょう。
強みの絞り込みを行う
最後のステップでは、強みを絞り込んでいきます。複数の強みや優位性が出そろった場合、どの要素が企業成長につながるのか、今後の市場変化に適したコアコンピタンスはどれかを慎重に見極めなくてはなりません。経営陣と共に、企業の未来を想像しながら決定を行いましょう。
コアコンピタンスを見極める具体的な方法
企業は、自社が何を最も得意としているかを社内で評価し、競合他社がどのように市場にアプローチしているかを評価する必要があります。そして、自社が業界のリーダーになる可能性が最も高いと思われる分野を評価する必要があるでしょう。これらの分野は現時点では、自社の強みではないかもしれませんが、設備投資やプロセスの変更を行い、時間をかけてコアコンピタンスを開発することが可能です。コアコンピタンスには自然に育つものもあれば、時間をかけて意識的かつ戦略的に形成されなければならないものもあります。設立間もない企業でも、設立後しばらく経っている企業でも、自社のコアコンピタンスが何であるか、あるいは何である可能性があるかを特定する方法を紹介します。
会社のミッション・ステートメント、バリュー・ステートメント、またはスローガンを見直す
企業がブランドを確立するために時間と労力を費やしてきたのであれば、その企業が何をもって知られるようになりたいかを考えることに、すでにある程度の労力を費やしてきた可能性があります。企業のミッション・ステートメント、バリュー・ステートメント、その他のブランド・コンテンツは、その企業がどうありたいか、顧客にどう見られたいかを明らかにするものです。
競合他社と比較する
コアコンピタンスとは、他社が容易に真似できない独自の要素です。したがって、企業は、自社が他の企業とどのように異なるかを考え抜くことによって、自社のコアコンピタンスを特定することができます。これには、製品、プロセス、市場分野、配送方法、価格設定、従業員基盤の違いなどが含まれます。
社内スタッフや主要顧客にインタビューする
企業のさまざまな主要ステークホルダーが、その企業の強み(または弱み)をよく分かっている可能性があります。場合によっては、日々の業務に携わるスタッフが、その企業が得意とする分野について、より良い感覚を持っている可能性もあるでしょう。また、その会社の製品やサービスを実際に最も多く体験している主要な顧客からも、フィードバックが得られるかもしれません。
顧客にどのような利益をもたらすか、ブレインストーミングを行う
コアコンピタンスは、その企業が提供する製品やサービスに関連することが多いです。たとえば、その製品が最も低コストなのか、最も使いやすいのか、あるいは最も高品質なのか。もし顧客がその会社の商品から利益を得ているのであれば(つまり、最低価格を支払っている)、多くの場合、それはコアコンピタンスに活用できるでしょう。
コアコンピタンスのメリットとデメリット
どのようなビジネス活動においてもリスクはあり、コアコンピタンスも例外ではありません。ここでは、コアコンピタンスのメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット
コアコンピタンスは模倣されにくいです。コアコンピタンスを開発するには、長い期間(または多額の資本)が必要な場合が多いため、企業がコアコンピタンスを獲得すれば、市場の競合他社に対して大きな優位性を持つことができます。また、コアコンピタンスは、異なる業界や製品ラインに転用できる可能性があります。たとえば、アップルは非常に革新的な企業であることを基盤として、新しい製品ライン、異なるセクターでさまざまな地域に進出しています。このように、ある企業の強みは、広く応用することができるのです。
そして、コアコンピタンスは当然ながら製品の市場性を向上させます。スピリット航空のコアコンピタンスは平均的に最も安いフライトを提供するというもので、強みであるだけでなく、会社のスローガンにもなっています。このことは、消費者のなかには同社に嫌悪感を抱く人も当然いるでしょうが、スピリットのブランドイメージが明確に定義され、認知されていることを意味するのです。
デメリット
コアコンピタンスを生み出すことが困難であるのと同様に、変化させることも困難なため、ブランドイメージの崩壊や混乱を招く可能性は視野に入れたいところです。たとえば、マクドナルドはかつて屋内遊園地とロナルド・マクドナルドで知られていました。同社はこのような文化から脱却したものの、古くからの消費者は、このブランドと昔のコアコンピタンスをまだ結びつけているかもしれません。また、コアコンピタンスは、当然ながら企業の柔軟性を制限します。たとえば、ウォルマートのような低価格帯の小売業者を考えて見ましょう。そのような低価格帯の小売業では、消費者がその商品と同社を適切に結びつけていないため、同社はより利幅の大きい高級品や高価格帯の商品を発売するのに苦労するかもしれません。
そして、コアコンピタンスの育成に注力しすぎると「木を見て森を見ず」になってしまうこともあります。企業の最終目的はコアコンピタンスを持つことではなく、製品を販売したりサービスを提供したりすることで収益を上げることです。そのため、企業にとって意味のある包括的な戦略がないまま、膨大な時間や資本を費やすことになりかねません。
なぜコアコンピタンスが重要なのか?
コアコンピタンスは、企業が持続的な競争優位性を持っているかどうかを決定するものです。ウォルマートには、サプライチェーンというコアコンピタンスがあり、アディダスやリーボックは、ブランドイメージという独自のコアコンピタンスを持っています。鍵となるのは「持続可能性」です。どのような企業でも、ある時点では複数の競合他社が存在するでしょう。それにもかかわらず、その企業は競争にさらされても生き残っているわけです。その理由は、競争優位をもたらすコアコンピタンスを持っているからに他なりません。
デメリットも理解したうえで、コアコンピタンスを適切に定められれば、このような例を実現することが可能です。そして、優れた製品、顧客の満足度、収益性の向上につながります。企業が販売プロセスの一部を非常にうまく行うことができる場合は、そのコアコンピタンスに対するポジティブな評判が得られるでしょう。この評判は、販売力強化、従業員の満足度、事業運営の改善につながる可能性があります。
まとめ
コアコンピタンスとは、ある企業が競合他社に対して持っている優位性のことです。その企業が得意とするビジネス領域であり、その企業をよりよく知ってもらうためのものでもあります。最高品質の製品を生み出すこと、最高の顧客サービスを提供すること、低コストのプロバイダーであることなど、コアコンピタンスは企業のアイデンティティを定義し、経営戦略の指針となるでしょう。
社員のコアコンピタンスを引き出すならタレントマネジメントシステムの活用を
HRMOSタレントマネジメントは、個人のコアコンピタンスを正確に把握し、適材適所の配置と戦略的な育成を可能にします。タレントマネジメントシステムを活用してコアコンピタンス経営に取り組めば、企業の競争力向上と人材活用が実現できるでしょう。
また、個人の能力を認識し活かすことは、従業員のモチベーション向上にも寄与します。個人と企業のコアコンピタンスを効果的に結びつけ、企業価値を高めていきませんか?
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