目次
日常生活において、パラダイムシフトという言葉を見聞きする場面は少なくありません。本記事ではパラダイムシフトの意味や、ビジネスや人事領域に与える影響、対応策について解説します。
パラダイムシフトとは
私たちの生活や社会の常識を大きく変えるパラダイムシフトの詳しい意味や、使い方について解説します。
パラダイムシフトの意味
パラダイムシフトのパラダイム(paradigm)とは、特定の時代を支配している考え方、規範という意味です。人口減少や新興ビジネスの誕生などをきっかけに、その時代まで当たり前だった価値観や考え方が大きく変化し、次の時代へとシフトすることをパラダイムシフトといいます。
パラダイムシフトとは、アメリカの科学史家トーマス・クーンが1962年に著書『科学革命の構造』で提唱した科学論における概念です。当初は科学分野での革新的な発見や理論の転換を指す言葉でしたが、現在では社会やビジネスにおける大きな変革を表す言葉としても広く使用されています。
パラダイムシフトの使い方
ビジネスの文脈では、市場や産業構造の根本的な変化を説明する際によく使用されます。例えば「情報社会によるパラダイムシフト」や「働き方のパラダイムシフト」といった使われ方をします。また、組織の変革や新規事業の立ち上げなど、従来の常識や慣習からの脱却を図る際にも用いられます。近年では、省エネやカーボンニュートラルなどの環境問題や、社会課題に関する意識の変化を表現する際にも頻繁に使用されています。
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パラダイムシフトが加速する現代
デジタル技術の急速な進歩やグローバル化の進展により、私たちを取り巻く環境は急速に変化しています。パラダイムシフトが起きる可能性が高い現代の特徴について解説します。
テクノロジーの進化
パラダイムシフトが加速する背景の1つに、テクノロジーの急激な進化が挙げられます。AIやIoT、ブロックチェーンなどの革新的技術の発展により、産業構造や仕事の在り方が大きく変化しています。
特にAIの発展は、「AIによって将来なくなる仕事は?」という議論が世間をざわつかせているように、人間の知的労働を代替・拡張する可能性を秘めています。民間企業の生成AI活用への関心度も高く、従来の仕事の概念を根本から覆す可能性があるでしょう。
グローバル化
インターネットの普及により、世界中の情報がリアルタイムで共有されるようになり、グローバル化が進んだこともパラダイムシフトの要因と言えます。個人のインターネット利用率は8割を超え、SNSを通じて世界各国との交流も盛んになりました。いまや、グローバルでは約47億人がSNSを利用しており、異文化理解や異なる言語の人同士の協働がより求められる時代が到来しています。
今後もグローバル化が続く限り、パラダイムシフトが起きる可能性が高いでしょう。
社会構造の変化
少子高齢化やデジタル化の進展により、従来の社会システムや経済構造が大きく変化していることも、パラダイムシフトの要因の1つです。労働人口は減少し続け、独立行政法人労働政策研究・研修機構の『2023年度版 労働力需給の推計(速報)』によると、日本の労働力人口は2022年の6,902万人から2030年には6,556万人、2040年には6,002万人まで減少するといわれています。
労働力人口の減少に歯止めが利かない今、働き方改革や企業DXの推進、社会保障制度や税制度の改定など、新たな仕組みの構築や従来の概念の見直しが求められています。
価値観の変化
環境問題への意識の高まりやSDGsの浸透により、企業や個人の行動様式が大きく変化してきたことも、パラダイムシフトの背景となっています。サステナビリティを重視した経営やESG投資の拡大によって、投資家へ情報開示する項目が変化したり、エシカル消費の普及によってエコバッグを持つ人やプラスチック製品の削減を意識する人が増加したりするなど、人々の行動変容とともに価値観にも変化が起きています。
歴史上のパラダイムシフトの例
歴史を振り返ると、人類は幾度となく大きな変革期を経験してきました。過去の歴史を振り返り、人々がどのようなパラダイムシフトを経験してきたのか確認してみましょう。
地動説
コペルニクスによって提唱された地動説は、それまでの天動説を覆し、人類の宇宙観を根本から変えました。天動説では地球を中心で不動のものとし、その周辺を太陽や惑星が回っていると考えられていましたが、地動説は地球が自転をしながら太陽の周りを回っていることを主張しました。地動説は、既存の価値観や信念が新しい科学的発見によって覆される典型的な例としても知られています。
相対性理論
アインシュタインの相対性理論は、ニュートン力学に基づく従来の物理学の概念にパラダイムシフトを起こした事例です。相対性理論とは、静止している観測者側から見ると光速移動している物体は止まって見えることを示した理論で、時間と空間の関係性に関する新しい概念となりました。相対性理論は、現代の生活に欠かせない地図アプリやカーナビのGPSにも採用されています。
GPSは、複数の衛星電波を観測することで位置を割り出す仕組みとなっており、地球の重力や自転、衛星との距離などから生じる「ずれ」を補正するために相対性理論が活用されています。このように、相対性理論は私たちの日常生活にもパラダイムシフトをもたらしています。
産業革命
18世紀末に起きた水力や蒸気機関による工場の機械化を第一次産業革命と呼びます。その後、電力を用いた大量生産を軸とした第二次産業革命、電子工学や情報技術を用いた第三次産業革命に続き、IoTやビッグデータ、AI技術が台頭する第四次産業革命が起きました。
また、2021年に欧州委員会が第五次産業革命を提唱し、「人間中心」「持続可能性」「回復力」をキーコンセプトとした革命が進んでいます。このように、産業革命はその都度、人々の生活様式を大きく変革し、パラダイムシフトの要因となっているのです。
インターネットの普及と情報革命
1990年代以降のインターネットの普及は、情報伝達や通信の形態を劇的に変化させ、パラダイムシフトを加速させました。特に2000年代になると、インターネットを活用したEC事業の拡大やSNS経由の購買促進により、人々の消費行動も変化しました。インターネットの普及は、ビジネスモデルや人々のコミュニケーション方法に革新的なパラダイムシフトをもたらしています。
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ビジネスにおけるパラダイムシフトの重要性
官民ともに注力しているDXの推進をはじめ、新型コロナウイルスの影響や自然災害などにより、ビジネス環境は日々、パラダイムシフトの可能性を秘めています。企業が持続的な成長を実現するためには、パラダイムシフトへの対応方法を理解し、適応していく力が不可欠です。企業がパラダイムシフトを重要視すべき理由について解説します。
市場構造の変化
パラダイムシフトは市場構造の変化をもたらす可能性が高く、ある日突然企業の優位性が失われてしまうリスクもあるでしょう。例えば、個人や企業が所有する場所・モノ・スキルをインターネットのプラットフォーム上で売買するシェアリングエコノミーは、新型コロナウイルスの影響が大きかった2020年に過去最大の経済規模を記録しました。
企業がコントロールできない外部要因によってパラダイムシフトが起きると、今まで注目されていなかった市場が拡大し、将来安泰といわれていたビジネスニーズが急降下する場面が多々あります。パラダイムシフトによって、従来のビジネスモデルを大きくピボットさせる必要性を念頭に置き、いつでも柔軟に適応できる準備をしておかなくてはなりません。
顧客ニーズの変化
例えばサブスクリプションモデルの普及は、モノを所有することから、定額制で必要なときに必要な分だけ利用して、不要になったら解約する消費行動へと変化しました。企業が新たにサブスクモデルに着手する場合は、商品購買の一時的な利益確保から、中長期にわたりコストを回収する仕組みへの切り替えが必要です。
顧客ニーズがパラダイムシフトの影響で変化する中で、他社と同様に流行りに乗るべきか、それとも別の手法でビジネス展開を行うのか、企業にはその都度慎重な判断が必要とされるでしょう。
組織文化や働き方の改革
働き方改革による長時間労働の是正や、個人の働き方ニーズの多様化により、企業の組織文化の在り方やワークスタイルも変革の真っただ中です。長時間労働を是正するために労働基準法も改正が続き、法原理の変化によって、従来よりも厳格な労働時間管理が求められるようになりました。また、ライフワークバランスやウェルビーイングを重要視する風潮の中でリモートワークや副業・転職が広がり、場合によっては人事制度を変革するなど時代に合わせた対応が必要となります。
オフィス環境に関しても、一時は感染症予防の観点で多くの企業が一斉にテレワークに移行しました。パラダイムシフトによって、企業は組織の在り方や従業員に提供する価値を見直さなくてはならないでしょう。
企業がパラダイムシフトに対応するための戦略
激変する経営環境において、企業が持続的な成長を実現するためには、変化に対してスピーディーかつ柔軟に対応できる体制作りが不可欠です。パラダイムシフトに対応するための方法を3つご紹介します。
柔軟な組織体制
企業がパラダイムシフトに対応するためには、柔軟にメンバーや役割を変化させられる組織体制が必要です。例えば、短いスパンで仮説と実行、検証をチームで取り組んでいくアジャイル組織であれば、短期間での意思決定やアクションが可能です。また、部門横断でプロジェクトチームを発足させてボトムアップ型組織に切り替えることで、市場変化をいち早く感じ取り、対応しやすくなるでしょう。
イノベーション創出の仕組み作り
パラダイムシフトに対応するためには、企業内にオープンイノベーション室を置いたり、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)というファンドを立ち上げてスタートアップと協業したりすることで固定観念を打ち破り、イノベーションを創出できる環境を整える方法もあります。
例えば、大手企業は社内外にオープンイノベーションを目的とした施設やコミュニティーを運用しています。また、大手企業がファンドを立ち上げて新興企業に投資する事例も見られます。常に新しい価値観を取り入れ、変化を恐れない価値観を醸成することが期待できるでしょう。
人材育成と評価制度
パラダイムシフトの中でも企業が競争力を維持するためには、タレントマネジメントの導入が欠かせません。企業の人的資産をシステムで可視化して、従業員のスキルや経験に基づいた人材育成や評価制度の構築を行うことで、組織の成長を促せるでしょう。また、不測の事態に立ち向かっていくには、多様な人材の能力や知恵が必要となります。さまざまなバックグラウンドを持った人材を管理する視点でも、タレントマネジメントは必須のツールといえるでしょう。
タレントマネジメントについては以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:タレントマネジメントとは?導入の目的やメリット、活用方法を紹介
パラダイムシフトに対応する人材になるために
企業がパラダイムシフトに対応することも重要ですが、働き手の個人もパラダイムシフトを意識して、変化に適応できる人材を目指す必要があるでしょう。個人がパラダイムシフトに対応するときのポイントを解説します。
固定観念にとらわれない思考力の養成
パラダイムシフトが起きても、慌てずに変化に順応していくためには、固定観念にとらわれず、物事の本質を見極める思考力の強化が重要です。日々対峙する大小さまざまな問題解決において、バイアスを捨て、多角的な視点から検討する習慣を身につける意識を持つとよいでしょう。
また、ブレインストーミングやマインドマップで物事を掘り下げる訓練をすれば、論理的思考力や本質的な論点を見出すスキルを養えるでしょう。書籍やWebコンテンツ、セミナーなどで広く情報収集して、自己研鑽に努めることをおすすめします。
多様な経験とスキルの獲得
パラダイムシフトが起きて、従来のやり方がまったく通用しなくなるリスクを考えると、可能な限り多様な経験を積んで、ビジネスの基礎的なスキルを習得する必要があるでしょう。
例えば、安定といわれていた大企業では、年功序列制度に基づいて徐々に経験を積んでいく仕組みとなっていました。しかし、長年かけてスキルを身につけていく方法では市場変化のスピードに追い付かないため、より早い段階で成長機会を得なければなりません。
社内公募のプロジェクトに飛び込んでみたり、社外の副業経験で新たなスキルをインプットしたりするなど、主体的な行動が重要となるでしょう。
継続的な学習と自己投資
政府はリスキリングや学び直しに積極投資する方針を示しており、デジタル人材の育成は国家としても喫緊のテーマです。一度スキルを身につけたら終わりとは考えず、学び続ける姿勢を保つことが重要でしょう。
特に、第五次産業革命への移行を議論している昨今においては、AIやビッグデータ、クラウドシステムを扱うデジタルスキルや、海外とのビジネスチャンスをものにするための語学力、コミュニケーション力、異文化理解力などがリスキリングのテーマとして注目されています。先々のビジネスで必要となるジョブを見出し、継続的なリスキリングに取り組んでいきましょう。
人事領域におけるパラダイムシフトへの対応
デジタル技術の進化やワークスタイルの多様化により、人事部門は大きな転換期を迎えています。従来の人材管理手法や評価制度が現代のビジネス環境に適合しなくなる中、新たなアプローチが求められています。ここでは、採用・人材育成・人材評価の3つの視点で、人事領域に必要なパラダイムシフトについて解説します。
採用手法のパラダイムシフト
労働人口減によるパラダイムシフトの影響で、採用現場では変化が多数起きています。例えば、従業員が定年まで1社に在籍し続ける終身雇用制度が崩壊し、「就社」の概念が古いものとなっています。転職や副業、出戻り採用も多く見られるようになり、雇用の流動化を推進するために、大手企業の中途採用比率の公開も義務化されています。今まで新卒採用に重きを置いていた大企業も、中途採用に取り組む必要性が増してきました。
また、属人的で手間がかかる採用業務はシステムに置き換えられ、面接でのAI判定や、転職サービスにおけるAIマッチング機能も増加傾向です。さらに、国内の外国人労働者数は200万人を突破し、定年後の雇用継続支援に関する法整備も進みました。今後も国籍や年齢を問わず、多様な人材を確保する動きは続く見込みで、採用活動の在り方を根本から見直す局面に立たされているでしょう。
人材育成のパラダイムシフト
人材育成においては、学び直しを大前提とした教育プログラムの提供や、超長寿社会を生き抜くために必要な視点やスキルを磨くような育成が重要となります。従来の日本では、新卒一括採用をした後、画一的かつ企業からの一方的な教育プログラムを提供するスタイルを続けてきましたが、今後は個の自律的な学びと選択が求められます。
個人のキャリア志向や学習スタイルに合わせたカスタマイズ型の育成を行うため、e-learningやLMSシステム(Lerning Management System:学習管理システム)を利活用し、効果的な人材開発に取り組まなくてはなりません。
システム活用に加えて、個のキャリアをサポートするためにキャリアコンサルティングサービスを活用したり、社内外のメンター制度を設けたりする事例も見られます。従業員の自律的なキャリア支援のため、積極的にアプローチしていきましょう。
評価制度の再構築
パラダイムシフトの影響で、人事評価制度の再構築を行う企業も少なくありません。従来の人事評価は、年功序列や単純な業績評価に依存しており、急速に変化するビジネス環境には見合わないケースが多々あります。従業員の転職理由ランキングの上位に「十分な評価を得られなかった」と、人事評価に対する不満を示す声も多く、パラダイムシフトにあわせた制度刷新が急務といえるでしょう。
例えば、年功序列の考えから独自のジョブ型制度と評価制度を構築したり、タレントマネジメントを導入してデータに基づく客観的な評価に取り組んだりする企業も見られます。特に、人材データの活用は定着率向上・離職防止にも寄与するため、積極的に活用するとよいでしょう。
関連記事:人材データとは?その種類と活用方法
まとめ
パラダイムシフトとは、今まで当たり前だった価値観や商慣習、生活様式が大きく変化するさまを意味する言葉です。社会情勢の変化や人口減少、技術の発展により、企業や個人はさまざまなパラダイムシフトを経験していくでしょう。特に人事領域においては、パラダイムシフトに適応できるように採用や人事マネジメントの在り方を見直し、いつでも柔軟に変革できる準備を進めなくてはなりません。
パラダイムシフトに対応するために、デジタル技術の活用は不可欠であり、中でも人事データを用いた採用、人材配置、人事評価は早急に取り組むべきテーマといえるでしょう。
従業員のポテンシャルを可視化し、パラダイムシフトに対応する組織へ
激変するビジネス環境において、企業の競争力の源泉は人材です。従業員一人一人の持つスキルやポテンシャルを正確に把握し、戦略的な人材配置を実現することが、パラダイムシフトへの対応力を高める鍵となります。
タレントマネジメントシステムの導入は、企業の従業員情報の一元管理やスキルの可視化、客観的な評価を実現します。データに基づく公平な評価と効果的な人材配置により、従業員の成長と組織の変革を加速させたい企業様は、ぜひHRMOSタレントマネジメントをご活用ください。