目次
変化の激しい現代において、自らのキャリアをどう描き、どのように実現していくかがこれまで以上に重要になっています。
本記事では、キャリアデザインの基本的な意味とプロセスを整理するとともに、企業が従業員のキャリアをどう支援できるのか、その具体的な役割や施策についても解説していきます。
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キャリアデザインとは
キャリアデザインとは、自分が将来どのように働き、どのような人生を送りたいかを思い描き、その実現に向けて職業人生を設計することを指します。
理想の働き方やなりたい姿のイメージを膨らませて、必要なスキルや経験、環境を見極めながら、自らの意思でキャリアを築いていきます。
変化の激しい時代において、働く人が納得感のある選択をするために重要な考え方であり、企業や行政による支援も進められています。
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キャリアデザインが「意味ない」と言われる理由とその誤解
キャリアデザインは重要である一方、「意味がない」「現実的ではない」といった否定的な声も少なくありません。否定的な見方の背景にある主な理由を説明した上で、キャリアデザインの必要性をお伝えします。
予測不可能な未来への不安
テクノロジーや社会構造の変化が激しい現代において、将来のキャリアを正確に予測することは困難です。そのため「キャリアを計画しても意味がない」と感じる人も一定数存在します。
しかし、キャリアデザインは未来を固定的に捉えるものではなく、自分の価値観や方向性を明確にするための指標です。
変化に備える柔軟性をもつことが、むしろ不確実性の高い時代には重要といえます。
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組織の柔軟性不足による実現困難
理想的なキャリアを描いても、組織の制度や配置が硬直的であれば、実現は困難になります。
年功序列や終身雇用を前提とした従来型の人事制度では、個人の希望と実際のキャリアとの間にギャップが生まれがちです。
近年では、職務ベースでの配置を重視するジョブ型雇用を取り入れた運用が進みつつあり、個人のキャリアデザインを支援する組織の姿勢が、より一層問われるようになっています。
短期的な成果主義との矛盾
多くの企業では、四半期ごとの売上や業績など、短期的な成果が重視される傾向があります。その結果、長期的な視野でキャリアデザインを行うことの優先度が下がりがちです。
しかし、自分の将来像や成長の方向性を明確にすることは、日々の業務への納得感やモチベーション向上につながります。短期と長期は対立するものではなく、補完し合う視点として捉えることが大切です。
キャリアデザインの基本的な考え方とプロセス
キャリアデザインを実践するには、将来を漠然と考えるだけではなく、段階的に自己理解を深め、目標を設定し、計画的に行動することが重要です。
ここでは、キャリアデザインを進めるための基本的なプロセスを4つのステップに分けて解説します。
自己分析を行う
キャリアを考える第一歩は、過去の経験を振り返り、自分自身を深く知ることです。どんな仕事や経験にやりがいを感じたか、どんな場面で力を発揮したかを整理し、自分の強みや課題を言語化していきましょう。
適性検査の活用やキャリアコンサルタントとの対話を通じて、気づかなかった価値観や特性に触れることも有効です。自己理解が進むことで、今後のキャリアの方向性が見えやすくなります。
ありたい姿を描いて目標設定をする
自己理解をもとに、将来どのような自分でありたいかを描き、具体的なキャリアの目標を設定します。仕事だけでなくライフイベントや家族との時間など、ライフプラン全体とキャリアの関係性も意識することが大切です。
「自分らしさ」と「社会との接点」が重なる領域を見つけることで、自分にとって納得感のある目標を設定できます。目標は、実現可能かつ前向きなものであることが望ましいでしょう。
周囲から助言を受けながら行動計画を立てる
目標が定まったら、現状とのギャップを把握し、行動計画を立てます。上司や同僚との1on1や面談でフィードバックを受けることは、自分の視野を広げるうえで有効です。
保有スキルや経験を棚卸しを行い、足りない部分や新たに必要なスキルを洗い出します。どの部署で経験を積むことが目標達成に有効か、実現可能なアクションプランに落とし込むことが求められます。
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実践と定期的な振り返りを行う
計画に沿って行動を開始したら、定期的に振り返りを行うことが重要です。成果や気づきを記録しながら、必要に応じて目標やプランを調整していきましょう。
状況の変化や新たな関心の発見によって、目指す方向が変わることもあります。柔軟に軌道修正しながら進めることで、キャリアデザインは現実に即した、意義のある取り組みとなるでしょう。
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効果的なキャリアデザインのためのポイント
キャリアデザインを実りあるものにするためには、単に将来を計画するだけでなく、変化に対応する姿勢や継続的な学びが欠かせません。ここでは、キャリアデザインを充実させるために意識しておきたいポイントを紹介します。
柔軟性と適応力の重視
キャリアは必ずしも計画通りに進むものではありません。環境の変化や予期せぬ出来事に対応するためには、硬直的な計画よりも柔軟なビジョンをもつことが大切です。
一つの道に固執せず、複数の選択肢を視野に入れて変化をチャンスと捉える姿勢が、長期的なキャリアの安定や成長につながります。
継続的な学習と成長の姿勢
変化の多い時代においては、一度身につけたスキルだけに頼らず、継続的に学び続けることが求められます。
特定の職種に限らない汎用的なスキルの習得に加え、副業・ボランティア・新規プロジェクトなどの経験を通じて、新たな強みや可能性を広げていくことが重要となります。
日常の仕事にとどまらず、自ら学びに出ていく姿勢がキャリアの選択肢を広げてくれるでしょう。
周囲との対話と関係構築
キャリアを一人で考えるのではなく、他者との対話や関係づくりを通じて、視野を広げることも重要です。上司や人事担当者とのキャリア面談を通じて自身の考えを深めることに加え、異なる業界や立場の人との交流は、思いがけない気づきや新たな視点を与えてくれます。
また、同じ志をもつ仲間とのつながりは、情報交換やモチベーションの源にもなるでしょう。多様な働き方や価値観に触れることで、より柔軟で現実的なキャリアの選択肢を描けるようになるでしょう。
キャリアデザイン支援における企業の役割
従業員が主体的にキャリアを描き、実現していくためには、企業による支援体制が不可欠です。ここでは、企業が果たすべき3つの具体的な役割について解説します。
学習機会や経験の場の提供
企業は、従業員が自らのキャリアを考え、実現するための選択肢と機会を提供する役割が求められます。
例えば、社内公募制度やFA制度(フリーエージェント制度)、ジョブローテーションなどを通じて新たな挑戦の場を設けたり、スキル習得に向けた補助制度を整備したりすることで、個々の成長を後押しできます。
多様なキャリアパスの提示は、従業員の自律的なキャリア形成を後押しする第一歩となります。
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上司・メンターによるサポート体制
キャリア支援においては、制度面だけでなく、日常的な対話の積み重ねが重要な役割を果たします。
特に1on1ミーティングは、上司やメンターが定期的にフィードバックを行い、業務の進捗だけでなくキャリアや働き方について相談できる貴重な機会です。
定期的に実施することで、目標の見直しや方向転換も柔軟に行いやすくなり、従業員の納得感やモチベーションの維持に寄与します。
また、より継続的かつ個別に支援を行う手法として、メンタリングプログラムも有効です。メンター制度では、豊富な経験をもつ従業員や外部の専門家が、未経験者や若手従業員、外国籍人材などに対して助言や支援を行います。
メンタリングは単なる指導ではなく、対話や内省を通じて従業員の成長とキャリアの自律を促すものです。1on1との併用により、より多面的で深いキャリア支援が可能となります。
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効果的なキャリアデザイン研修の実施
キャリアデザインに関するスキルや意識を高めるために、企業内での研修も有効です。世代や役職に応じた内容設計、参加型ワークショップの導入、フォローアップ体制の整備などがポイントです。
こうした研修を通じて、従業員は自らのキャリアに対する主体性を高め、目標の明確化や自己成長への意欲を育てることができます。
先進企業に学ぶキャリアデザインの支援事例
キャリアデザイン支援に積極的に取り組む企業の好事例として、3社の取り組みをご紹介します。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
キヤノンマーケティングジャパン株式会社は、若手の早期離職をきっかけに退職理由の分析を行い、キャリア支援施策を本格導入しました。
社内キャリアコンサルタントによる面談や年代別キャリア研修、上司と部下のキャリア面談を軸とした「セルフ・キャリアドック」を構築。
従業員の主体性を引き出す支援を通じて、自律的なキャリア形成と組織の活性化を両立しました。
取り組みの成果として、従業員のキャリアに対する意識の深化や定着率の向上、上司の育成関心度の改善が見られています。
人事制度の見直しや経営層への提言も行い、今後は全社的なキャリア支援体制の確立を目指しています。
株式会社みずほ銀行
みずほ銀行では、「自分を知る」「共に考える」「共に作る」というプロセスを軸に、従業員一人一人のキャリアデザインを支援しています。
キャリア面談や専門アドバイザーとの相談機会、情報提供などに加え、グループ企業内のジョブ公募・ジョブチャレンジ制度や異動制度を通じて、多様な挑戦の機会を提供しています。
公募職種は年間300以上、自主応募も可能で、自分らしいキャリアの実現を後押しするものです。
また、社内兼業制度や世代別研修、部門別説明会などの独自施策も充実しており、個人の成長とグループ全体の活性化を両立しています。
株式会社関西鳶
株式会社関西鳶は、「想いやりから安心で“安全”を」の理念のもと、従業員の自律的なキャリア形成を支援する独自の取り組みを展開しています。
毎月の「未来会議」で経営状況を全従業員と共有し、発言や提案を奨励することで、経営視点と当事者意識の育成を行っています。
また、若手従業員でも早期に職長へ昇進できる実力主義の評価制度や、資格取得支援、キャリア面談などを通じて、多様な働き方や成長の機会を提供しているのが特徴です。
取り組みの結果、障がい者や外国人も含めた公正な登用が進み、従業員の意欲と生産性が大きく向上しました。
こうした支援の積み重ねにより、離職率ゼロを継続し、従業員全員が「会社を動かす一員」としての自覚をもつ風土が形成されています。
キャリアデザインと類似する概念
キャリアに関連する用語の中には、「キャリアデザイン」と混同されやすい概念がいくつかあります。なかでも混同されやすい「キャリアパス」「キャリア開発」「キャリア・アンカー」の3つに焦点を当て、それぞれの定義やキャリアデザインとの違いを解説します。
キャリアパス
キャリアパスとは、従業員が企業や組織内でどのような役職や業務を経て成長していくかという「昇進・成長の道筋」を示すものです。
多くの場合、企業が人材育成や配置計画の一環として整備し、従業員に提示する仕組みです。
一方で、キャリアデザインは、個人が自らの価値観やライフプランをもとに、仕事と人生の両面から将来像を主体的に設計するアプローチです。つまり、キャリアパスは企業視点の「ルート」で、キャリアデザインは個人視点の「設計図」といえるでしょう。
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キャリア開発
キャリア開発とは、個々の働き手が中長期的な視点で自身の能力やスキルを高めていく取り組みです。
企業においては、教育研修や異動、ジョブローテーションなどを通じて、従業員の成長を支援する施策として位置付けられています。
キャリア開発は、企業が従業員の潜在力を引き出し、生産性やエンゲージメントを高めるための重要な戦略でもあります。
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キャリア・アンカー
キャリア・アンカーは、組織心理学者エドガー・H・シャインが提唱した概念で、個人がキャリア選択をする際の「譲れない価値観や欲求(軸)」を指します。
キャリア・アンカーは、自分にとって本当に重要な価値観を見極めるための、自己理解のツールであり、キャリアデザインの土台ともいえる考え方です。
すなわち、キャリアデザインが未来の設計図だとすれば、キャリア・アンカーはその設計を支える「信念」や「指針」のような役割を果たします。
キャリアデザインの今後の展望と課題
社会や働き方の急速な変化に伴い、キャリアデザインのあり方も進化を求められています。
テクノロジーとの共存や多様なキャリアのあり方、働き方と私生活の統合など、個人・企業・社会がともに向き合うべき課題が増えています。
今後のキャリアデザインに求められる変化と乗り越えるべき課題を考察します。
テクノロジーとの共存
AIやテクノロジーの進展は、キャリアの選択肢や求められるスキルに大きな影響を与えつつあります。今後は「どの職業に就くか」だけでなく、「どのようにAIやデジタル技術とともに働くか」を前提としたキャリア設計が必要です。
例えば、医療や法務などの専門職でも、AIによる業務改善が進んでいますが、最終判断や人間らしい対応は人にしかできません。
そのため、専門知識に加え、AIを使いこなすスキルや、AIの限界を理解した上で価値を発揮できる力が問われます。
テクノロジーを脅威と見るのではなく、共存しながら自身をアップデートしていく姿勢とスキルこそが、今後のキャリアデザインにおいて不可欠な要素となるでしょう。
非線形キャリアの一般化
一つの会社で長く働きながら昇進していく「線形キャリアモデル」は、スタンダードとは言えなくなりつつあります。
副業や転職、複業、起業といった多様なキャリアのあり方が社会に浸透し、「非線形キャリア」が新たな常識となり始めています。
こうした変化に対応するには、プロティアン・キャリアのように、環境やライフステージに応じて柔軟に変化できる戦略的思考が必要です。
特定の企業や職種にとらわれず、キャリアを「流動的な資産」として捉える視点は、長寿化や雇用不安が進む中でますます重要になっています。
今後は、キャリアを柔軟に更新・修正していく個人の力と、それを支える社会的な支援体制の双方が不可欠となります。
ワークライフインテグレーションとの関係性
仕事と私生活を切り分けてバランスを取る「ワークライフバランス」から、両者を相互に作用させる「ワークライフインテグレーション」への移行が進んでいます。
特にリモートワークやフレックスタイム制が広がったことで、仕事と家庭の境界が曖昧になり、生活と仕事をどう統合するかという視点が重要になってきました。
キャリアデザインにおいても、職業的な目標だけでなく、健康や家庭、地域活動などライフ全体との調和を前提に設計する必要があります。
インテグレーション型の働き方は、企業や政府による柔軟な制度設計と支援があってこそ機能します。
多様な価値観や人生観を尊重し、それぞれに合ったキャリアを描ける環境を整えることが、企業や社会に求められる時代になってきています。
まとめ
キャリアデザインは、単なる職業選択ではなく、自分らしい人生を主体的に築いていくための設計図です。
自己理解を深め、理想の姿を描き、それに向けて行動するというプロセスは、変化の時代においてますます重要性を増しています。
また、個人だけでなく、企業や社会全体がキャリアデザインを支援することで、従業員の主体性を引き出し、組織の持続的な成長にもつながります。
一人一人が納得のいくキャリアを歩めるよう、個人と組織が協働してキャリア形成を支えていくことが、これからの時代の新しいスタンダードとなるでしょう。
HRMOSタレントマネジメントでキャリアデザインを組織のものに
HRMOSタレントマネジメントは、従業員のスキル・志向・キャリア希望を可視化し、最適な配置や育成を支援するタレントマネジメントシステムです。
1on1支援機能や異動希望管理を活用することで、個人のキャリアデザインを継続的に支援し、組織の成長と両立させる仕組みづくりが可能になります。
キャリアを個人のみに委ねず、組織として伴走する体制をつくることが、これからの人材戦略の鍵となります。