研修も評価制度も生かす──人事が成果を出す人的資本経営

研修も評価制度も生かす──人事が成果を出す人的資本経営

「研修をしたのに効果が見えない」「せっかく評価制度を導入しても現場が動かない」

多くの人事担当者が直面するこの悩みの裏には、「人材をコストと見るか、資産と見るか」という根本的な考え方の違いがあります。

実は、人的資本に投資している企業ほど、長期的に生産性と収益を伸ばしている傾向があります。では、人への投資を成果につなげるにはどうすればよいのでしょうか。

今回は、マクロ経済学の視点から企業の生産性を研究する学習院大学経済学部 教授・滝澤美帆氏に、人材投資の本質や、現場に浸透させるためのヒントを伺いました。

滝澤 美帆

プロフィール

滝澤 美帆

学習院大学教授 博士(経済学 一橋大学)

日本学術振興会特別研究員(PD)、東洋大学、ハーバード大学国際問題研究所日米関係プログラム研究員などを経て、2019年より学習院大学准教授。2020年より現職。現在は、産業構造審議会、中小企業政策審議会、財政制度等審議会、国土審議会など中央省庁における複数の委員、東京大学エコノミックコンサルティング株式会社のアドバイザー、企業の社外取締役を務めている。主な著書に『グラフィック マクロ経済学 第2版』(新世社、宮川努氏と共著)などがある。

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なぜ今、人的資本経営が求められるのか?

──そもそも「人的資本」とは、何を指すのでしょうか?

人的資本とは、従業員が持つ知識やスキル、経験、さらには健康状態までを「未来の成果を生み出す資産」として捉える考え方です。

日本の企業社会では長らく、人材は「コスト」として扱われてきました。

それに対して経済学の世界では、1960年代からすでに、人材は工場や機械と同じように「投資すれば成長を生み出す資産」だと考えられてきました。

教育研修やキャリア支援、健康管理に投資すれば、従業員は力を伸ばし、企業は長期的に成果を得られます。人的資本経営とは、人を消耗品のように扱うのではなく、「価値を生み出す資産」として育てる経営なのです。

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──なぜ今、「人的資本経営」が重視されているのでしょうか?

背景には、日本が人への投資を長く後回しにしてきた歴史があります。バブル崩壊後の1990年代、多くの企業は金融危機や不況に直面し、生き残りを優先してコスト削減に走りました。その結果、社員向けの教育研修費も削減の対象となり、縮小されていきました。

さらに、日本には「先輩の背中を見て学ぶ」といったOJT文化が強く、もともと体系的な研修に十分な投資をしてこなかったという文化的背景もあります。その結果、社員のスキルやキャリア形成に計画的に投資する発想が育ちにくかったと考えられます。

国際的に見ると、日本の1人あたりの人的資本の物的資本比率は1.6。これは、主要国の中でも低水準です。

アメリカは人材の流動性が高いにもかかわらず教育投資に積極的で、その規模は日本の倍以上です。イギリスやドイツ、フランスと比べても、日本は明らかに後れを取っています。

だからこそ、今求められているのは、投資への発想転換です。長期的な視点で人に投資し、経営戦略に組み込むことが欠かせません。


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人への投資が利益を生む──企業を強くする仕組み

──実際に「人への投資」が企業の生産性を高めた事例はあるのでしょうか?

世界中の研究や企業の事例が示しているように、人材への投資は長い目で見れば生産性や収益性を高めます。大切なのは、ひとつの施策に偏らず複数の取り組みを組み合わせることです。

たとえば、リスキリング(学び直し)の機会を提供した企業では新規事業の創出や業務効率化が進み、研究データでも利益率が高い水準にあることが示されています。

柔軟な働き方を導入した企業では、従業員の満足度が高まり、生産性の改善に直結しています。さらに、健康維持に注力した企業では離職率が低下し、優秀な人材の定着が実現しました。

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──逆に、人的資本投資の失敗例もあるのでしょうか?

ある企業では360度評価を導入しました。ところが、制度の目的や背景が従業員に十分に伝わらず、行動は変わりませんでした。結果的に「手間だけ増えて成果は出ない」という状態に陥ってしまったのです。

人的資本投資は、制度を作ることがゴールではありません。

従業員が理解し、納得して動けるようになることが大切です。そのためには、データや現場の声を踏まえつつ、経営層のビジョンと現場の取り組みをつなげることが求められます。

制度導入だけでは成果が出ない──人的資本投資が失敗する理由

──「制度を導入したのに成果が出ない」という声も耳にします。それはなぜでしょうか?

要因は2つ考えられます。

1つは、制度を導入して満足してしまい、目的や背景を従業員に十分に伝えられていないことです。理解や納得がなければ行動は変わりません。

もう1つは、人への投資は長期的な性質を持ち、短期では成果が見えにくいことです。

教育やキャリア支援の効果は1年、2年かけて現れるものですが、経営層や株主は四半期ごとの成果を求めるため、効果がないと判断されやすいのでしょう。

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──では、どうすれば改善につながるのでしょうか?

中間指標を設定しましょう。

従業員エンゲージメントの改善やスキル習得数、アンケートやヒアリングで得られた声など、短期的に測定できるデータを指標にするのがおすすめです。

数値で可視化することで、「まだ利益には直結していないが、改善は着実に進んでいる」と経営層や株主に説明できます。

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──中間指標はどのような役割を果たすのですか?

中間指標は、人的資本投資の長期的な成果と、四半期ごとに求められる短期成果とのギャップを埋めるものです。実際、エンゲージメントなどの指標は半年ほどで改善が見られることもあります。

人的資本経営は、単発の施策では効果が出にくいため、継続的な投資と指標管理が前提です。

中間指標を可視化することで「今は改善の途中であり、将来の利益につながる」と説得力を高め、投資の意義を理解してもらえます。

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小さな投資が大きなリターンを生む人的資本経営

──最近注目されている「人的資本の情報開示」には、どのような意味があるのでしょうか?

人的資本の情報開示は、自社の信頼性や成長力を対外的に示す機会です。

投資家には、短期的な利益だけでなく「人材という基盤に投資している」と明確に伝えられ、企業価値を高める要素になります。

採用では、「従業員を大切にしている」という姿勢を示すことで、優秀な人材にも魅力をアピールできるでしょう。

教育・研修やキャリア育成への投資、柔軟な働き方と多様性への対応などを公開することで「人への投資を本気で考えている企業」というメッセージが強く伝わり、採用市場での信頼感や企業ブランディングの向上につながります。

社内にとってもメリットがあります。制度や数値で、教育・研修への投資などの項目が明らかになると、従業員は「大切にされている」と実感しやすくなり、エンゲージメントやスキルアップへの意欲向上につながります。

──企業規模を問わず、取り組みの一歩としてできることはありますか?

人材などの無形資産への投資なら、小規模から始められます。

具体的には、従業員満足度や離職率を社内アンケートなどで調べ、データで現状を可視化しましょう。あるいは、自社に合った形で他社の成功事例を取り入れてみましょう。小さな工夫でも十分に効果があります。

研究でも、人的資本投資は少額からでもリターンが高いことが示されており、「小さく始める」ことが成長の基盤づくりにつながります。

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──最後に、これから人的資本経営に取り組もうとする企業に向けて、メッセージをお願いします。

人的資本経営とは、人を資本と捉え、投資し、将来のリターンを得る取り組みです。

大がかりな制度から始める必要はありません。「従業員をどう成長させたいか」という視点を持ち、積み重ねることが大切です。

残念ながら、日本は主要国と比較しても人的資本投資が低水準で、近年さらに減少しています。このままでは企業だけでなく経済全体の成長が停滞しかねません。だからこそ、いまが投資を加速させるタイミングです。

10年、20年先を見据え、まずはできることから始めれば、未来を変えていけます。

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