目次
従業員の入退社時にはさまざまな手続きや対応が必要になり、社会保険関係など申請期限が決まっている手続きもあります。
入退社手続きが遅れてトラブルにならないように、人事労務担当者は必要な手続きの種類や期限を理解しておく必要があります。
本記事では、入退社手続きとは何か、概要や手続きの流れを解説するとともに、手続きの種類を一覧にしてチェックリスト形式でわかりやすく紹介します。
入退社手続きとは
入退社手続きとは、従業員が企業に入社または退社(退職)する際に必要になる手続き全般を指します。
雇用契約の締結や入館証・パソコンなどの貸与・返却、社内システムのアカウントの開設・削除など、従業員の入退社時にはさまざまな手続きが必要です。
入退社手続きが遅れると会社の業務に影響が出たり、従業員に迷惑がかかったりするため、必要な手続きをスムーズに完了させることが人事・労務担当者に求められます。
管理系部門の人数が少ない中小企業では、入退社の手続きを一人または少数の従業員が担当することが一般的です。
一方で大企業では、雇用契約は人事労務担当者が、備品関係は総務担当者が担当するなど、各部署が分担して入退社手続きに対応するケースもあります。
なお、「退社」という場合、仕事を終えて会社を出ることを指す場合と、会社を辞める「退職」を指す場合がありますが、本記事では「退職」の意味で用います。
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なぜ入退社手続きが重要なのか
入退社手続きの遅れは、社内業務への支障やトラブルに直結します。
人事労務担当者は、迅速な対応が不可欠であることを再認識しておきましょう。
手続きミスや遅れが企業に与える影響
入社手続きが遅れて従業員の入社時期が遅れれば、必要な人材を確保できず業務が滞る可能性があります。
入社手続きは終えたものの、入社後にパソコンの貸与や社内システムへのアクセス権限の付与が遅れた場合も同様です。手続きミスがあると新入社員の業務開始に支障が出ることがあります。
従業員の退社時も、企業担当者は必要な対応を漏れなく行うことが重要です。セキュリティカードやパソコンが未返却で社外に持ち出された場合や、退職後も社内システムにアクセスできる場合、情報漏洩のリスクがあります。
会社のメールアドレスの使用権限の停止や名刺の回収をしていないと、退職後に従業員になりすまされて不正を招くリスクがある点にも注意が必要です。
手続きミスが起きると従業員信頼を失い、情報漏洩などの不祥事が起きれば企業としての信頼を失うことになりかねません。
法定期限と罰則について
従業員の入退社時には、健康保険・厚生年金保険をはじめとした社会保険の手続きを行う必要があります。
法定期限を過ぎると会社が罰則を科される可能性があるので、手続きは期限までに終えるようにしてください。
手続きが遅れると、「国民健康保険・国民年金」と「健康保険・厚生年金保険」の切り替えが遅れて、従業員に迷惑をかける可能性もあります。
また、入退社時には税金に関する手続きも必要です。住民税の特別徴収に関する届出など、期限が決まっている手続きもあるので、従業員の入退社に伴う手続きは速やかに行うことが大切です。
参考:ハーモス労務給与
入社手続きの流れ
従業員を新たに採用して入社手続きをする場合、下記の3ステップの対応が必要です。
- 入社前の準備
- 入社日当日の対応
- 入社後のフォローアップ
入社手続きをスムーズに進められるように、必要な手続きや準備すべき書類の種類を確認しておきましょう。
1.入社前の準備
従業員が入社するまでの間に、貸与品を準備するなど社内の受け入れ体制を整えるとともに、入社する従業員に提出してもらう書類の作成を依頼します。
社内の受入体制の整備
パソコンや机、ロッカー、セキュリティカード(入館証・従業員社員証)、名刺などを準備して、従業員が業務を始められるように社内の受け入れ体制を整えましょう。
貸与品に予備の在庫があるか確認し、無い場合には新規に発注して入社日までに届くように手配します。従業員の増加に伴い、必要に応じて座席の配置を見直すなどのレイアウト変更も行います。
従業員用のメールアドレスの作成や社内ツールへのアクセス権限の付与なども事前に終えておくと、従業員がスムーズに業務を開始できます。
従業員への連絡・書類作成の依頼
入社日以降すぐに提出してもらう必要がある書類や申請が必要な事項は、事前に従業員に伝えて書類の準備や申請内容の確認をしてもらいましょう。
従業員の入社に伴い、人事労務担当者が確認する事項や回収する書類は主に以下のとおりです。
| マイナンバー(個人番号)が確認できる書類住民票記載事項証明書(住民票)基礎年金番号(年金手帳・基礎年金番号通知書)給与振込先の口座情報健康診断書(入社後に健康診断を実施する場合は不要)誓約書給与所得者の扶養控除等(異動)申告書源泉徴収票(前職がある場合)雇用保険被保険者証(前職がある場合) |
また、入社日の流れをあらかじめ入社予定者に連絡しましょう。入館証が交付されておらず当日の朝に事務所に入れない場合は、どこに来てもらうのか、待ち合わせの場所や時間を決めて伝えます。
入社前は、入社予定者はわからないことが多く不安を感じることも多いです。人事労務担当者や配属予定の部署の担当者が適宜連絡を取ってフォローすることが重要です。
2.入社日当日の対応
入社日当日に従業員が出社したら人事労務担当者が職場に案内します。
職場での自己紹介や貸与品の支給、入社に伴い提出が必要な書類への記入、事前に準備を依頼していた書類の回収などを行います。
従業員証やパソコン、ロッカー・机の鍵など、貸与品は前日までに一式を揃えておくと入社日当日の受け渡しがスムーズです。当日は、業務開始に向けた準備としてパソコンの初期設定などを行い、社内の案内などを行います。
勤怠システムの入力方法や交通費精算の手順など、入社直後に使う社内システムの操作は早めに説明しましょう。
また、従業員は支店や営業所に配属され、人事労務担当者は本店に勤務していて当日に対応できない場合は、配属される部署の担当者が一連の対応を行います。
3.入社後のフォローアップ
入社したばかりの従業員はわからないことが多く、入社直後は戸惑うことも少なくありません。
業務の進め方や社内システムの使い方、社内制度など、わからないことがあれば質問してもらうとともに、周囲の従業員が適宜声をかけてフォローすることが大切です。
早く業務に慣れてもらうためのサポートは、本人の成長を促すだけでなく、組織全体の生産性向上にも寄与します。
入社した従業員の孤立を防ぐためには、メンターを事前に決めておくとよいでしょう。
メンター制度を活用すれば、入社した従業員の指導・サポート・面接をメンターが行うため、新入従業員の入社後の状況や困り事を把握できるようになります。
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入社手続きのチェックリスト
従業員の入社時に必要になる主な手続きは次の4つです。
- 社会保険関連の手続き
- 雇用契約書・誓約書など入社に伴う書類の回収・交付
- 給与・税金関連の手続き
- 貸与品の準備と管理
以下では、それぞれの手続きの具体的な内容を見ていきます。チェックリストを確認しながら、必要な対応を漏れなく行うようにしてください。
社会保険関連の手続き
入社する従業員が健康保険や厚生年金保険、雇用保険の加入条件を満たす場合、加入の手続きを行います。
| 【社会保険関連の手続き】健康保険・厚生年金保険の加入手続き雇用保険の加入手続き労働保険の成立手続き(従業員を初めて雇う場合) |
健康保険・厚生年金保険の手続き
健康保険・厚生年金保険の加入対象になるのは、「フルタイム労働者」と「短時間労働者のうち労働時間・労働日数がフルタイム労働者の4分の3以上の者」です。
ただし、従業員数が51人以上の企業では、4分の3未満であっても、「週の勤務時間が20時間以上」など一定の要件を満たす短時間労働者も加入対象になります。
年金事務所(健康保険組合)に「被保険者資格取得届」を提出する期限は入社から5日以内です。従業員に家族がいる場合は「被扶養者(異動)届」を提出し、配偶者が第3号被保険者に該当する場合は「国民年金第3号被保険者該当届」を提出します。
「被保険者資格取得届」を作成する際、基礎年金番号は、従業員から提出された年金手帳や基礎年金番号通知書で確認できます。住所欄は住民票記載事項証明書(住民票)を確認して記入します。ただし、基礎年金番号ではなくマイナンバーを記入して届出をすることも可能です。
従業員がマイナンバー保険証を持っておらず、資格確認書が発行されて会社宛に届いた場合は、届き次第従業員に交付します。
参考:日本年金機構|就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き
雇用保険の手続き
雇用保険の加入対象になるのは、従業員の雇用見込みが31日以上で、1週間の所定労働時間が20時間以上の場合です。
入社した翌月10日までにハローワークに「被保険者資格取得届」を提出します。
従業員に前職があり、過去に雇用保険に加入していた場合は、被保険者番号が既に割り振られています。その場合は、従業員から「雇用保険被保険者証」を提出してもらい、被保険者番号を確認して届出書に記入してください。
労働保険の成立手続き
従業員を初めて雇って労働保険(雇用保険・労災保険)の加入義務が生じた場合、「保険関係成立届」や「労働保険概算保険料申告書」の提出が必要です。
従業員を雇用してから10日以内に「保険関係成立届」を、50日以内に「労働保険概算保険料申告書」を、労働基準監督署へ提出します。
雇用契約書・誓約書など入社に伴う書類の回収・交付
入社に際して従業員とやり取りする書類や人事労務担当者が社内資料として作成する書類は以下のとおりです。
| 【従業員とやり取りする書類】採用通知書(内定通知書)の交付労働条件通知書の交付、雇用契約書の取り交わし入社承諾書・誓約書の回収住民票記載事項証明書(住民票)の回収マイナンバー(個人番号)がわかる書類の回収健康診断書の回収(入社後に健康診断を実施する場合は不要)【社内で作成する書類(法定三帳簿)】労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の作成 |
採用通知書・労働条件通知書等の交付
「採用通知書(内定通知書)」は法的に作成が義務付けられたものではありませんが、作成して内定者に交付するほうがよいでしょう。文書化して従業員に交付すれば、会社と内定者との間で認識の相違が起きることを防げます。
「労働条件通知書」は、労働基準法で作成が義務付けられている書類です。賃金や労働時間など、法定の事項を記載して労働条件を内定者に通知します。
雇用契約は口頭で意思表示しただけでも法的には成立しますが、書面がないと後からトラブルになりかねません。そのため、一般的には「雇用契約書」を2通作成して会社と従業員が署名押印し、それぞれ1通を保管します。2つの書類を兼用して「労働条件通知書兼雇用契約書」として作成することも可能です。
入社承諾書・誓約書等の回収
従業員に入社の意思があることを確認するため「入社承諾書」に記入してもらい、就業規則や秘密保持義務などを遵守させるため「誓約書」に記入してもらいます。
また、住所を確認するために住民票記載事項証明書(住民票)を提出してもらい、マイナンバーがわかる書類も提出してもらいます。社会保険の手続きなどをする際、従業員の住所やマイナンバーを記入する箇所が届出書にあるためです。
法定三帳簿の作成
労働基準法の規定に従い、法定三帳簿と呼ばれる「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の作成も必要です。
労働者名簿と賃金台帳には法定の項目を記載します。出勤簿に決まった書式はありませんが、従業員の勤怠状況を把握できるように、出勤日や出勤日ごとの始業時間・終業時間・休憩時間などを記載します。
各帳簿に記載する事項や保存期間、雛形は労働基準監督署や厚生労働省のサイトで確認できます。以下のサイトを参考にしてください。
参考:労働基準監督署|~労働関係法令上の帳簿等の種類と保存期間について(簡易版)~
参考:厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)
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従業員名簿(労働者名簿)とは?作成方法、記載項目、書き方、注意点を解説
給与・税金関連の手続き
従業員に給与を支払い、税金(所得税・住民税)を給与から天引きするため、以下の書類のやり取りや帳簿の作成、手続きが必要になります。
| 【給与・税金関連の手続き】給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の回収給与振込先の口座情報、通勤経路の確認源泉徴収簿の作成源泉徴収票の回収(前職がある場合)住民税の特別徴収に関する手続き |
給与支払に必要な書類や情報の回収・確認
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、税金を計算する際に各種控除を受けるために提出してもらう書類です。扶養家族がいない人でも提出する必要があります。
提出期限は、入社後最初の給料日の前日までです。扶養親族等の数によって給与から天引きする所得税の金額が変わり、天引きした所得税は翌月10日までに会社が国に納付します。
給与を振り込むにあたっては、振込先の銀行口座情報の確認が必要です。給料日に通勤交通費も一緒に振り込むケースが多いため、通勤経路や通勤交通費の金額も確認します。
源泉徴収簿の作成
「源泉徴収簿」は法律で作成が義務付けられた書類ではありませんが、作成することが一般的です。
各月にいくら源泉徴収したのか金額を帳簿付けしておくことで、年末調整の手続きがスムーズになるためです。
従業員に前職があってその年に他の企業で源泉徴収された額がある場合は、前職の源泉徴収票を提出してもらい、年末調整の際に前職分も合算して処理を行います。
住民税の手続き
従業員の住民税は、企業が給与を支払う際に天引きして、翌月10日までに従業員が住んでいる自治体に納付します。
今まで給与天引きではなく、従業員自身が自分で住民税を支払う「普通徴収」だった場合は、「特別徴収への切替申請書」を自治体に提出します。
従業員に前職があり、住民税を天引きする企業を前職の企業から自社へ切り替える場合は、「特別徴収にかかる給与所得者異動届出書」を提出します。
ただし、入社した従業員に前年の所得がない場合、住民税はかからないため給与からの天引きは不要です。
貸与品の準備と管理
従業員の入社時に貸与するものには以下のようなものが挙げられます。
| セキュリティカード(従業員証、入館証)パソコン従業員用スマホ名刺ロッカー制服 など |
従業員に貸し出す貸与品は企業ごとにさまざまです。制服だけでなく作業現場で使う工具などを貸し出すケースや営業担当者に社用車を貸し出すケースもあります。
自社の状況にあわせて貸与品のチェックリストや管理簿を作成し、使用者が貸与品を紛失していないか定期的に確認するなど適切に管理しましょう。
退社手続きの流れ
従業員が退社する場合、「①退社意思・退職日の確認」「②退職に向けた各種手続き」「③退職後の対応」の3ステップの対応が必要です。以下では、従業員の退職に伴って人事労務担当者が行う手続きや対応の内容を見ていきます。
1.退社意思・退職日の確認
従業員が退職する場合、業務の引継ぎや代替要員の確保が必要になるなど、さまざまな影響が会社や所属部署に生じます。
本当に退社するつもりなのか、従業員本人に退社意思をしっかりと確認することが重要です。
退職日は本人の希望を踏まえて決定します。ただし、業務の引継ぎにかかる期間などを考慮するほうがよいので、可能であれば会社と本人が相談して退職日を調整しましょう。
また、退職日の直前に有給(年次有給休暇)を取得して出社しない期間がある場合は、有給消化を開始する前の実質的な最終出社日がいつになるのかも確認します。貸与品の返却や業務の引継ぎなどの対応は最終出社日までに終える必要があるためです。
2.退職に向けた各種手続き
退職に向けて必要になる主な手続きや対応は以下のとおりです。
| 退職届の受理、誓約書の回収離職票の交付希望の有無の確認(59歳以上は交付必須)最後の給料日に天引きする税金や社会保険料などの金額の計算退職金の計算(退職金がある場合)貸与品の返却 |
従業員が退職すると連絡が取りにくくなる可能性もあるため、書類の回収などは退職日までに確実に終えるようにします。
具体的な手続きの内容は後述しますが、人事労務担当者は必要な手続きや対応を退職日までに漏れなく行うことが大切です。退職に向けてどのような手続きをいつ行うのか、従業員の退職が決まったら速やかに案内しましょう。
3.退職後の対応
従業員の退職後に必要になる主な対応は以下のとおりです。
| 社会保険の資格喪失手続き離職票や健康保険被保険者資格喪失証明書の交付源泉徴収票の交付雇用保険被保険者証の返却(企業が保管している場合)社内システムのアクセス権限や社内メールアドレスの利用停止・削除 |
社会保険や税金に関する手続き、セキュリティ関係の対応など、従業員の退職後にも多くの手続きや対応をすることになります。
源泉徴収票を退職後1カ月以内に交付するなど、手続きのなかには期限が決まっているものもあるため注意が必要です。
また、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿は、従業員が退職した後でも原則3年間は保存する必要があります。
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退社手続きのチェックリスト
従業員の退社時に必要になる主な手続きは次の6つです。
- 退職届や退職証明書など退職に伴う書類の回収・交付
- 最終給与・退職金の計算と支払い
- 資格確認書の回収と社会保険の資格喪失手続き
- 離職票や被保険者資格喪失証明書の交付
- 所得税・住民税関連の手続き
- 貸与品の回収
以下では、それぞれの手続きの具体的な内容を見ていきます。チェックリストを確認しながら、必要な対応を漏れなく行うようにしてください。
退職届や退職証明書など退職に伴う書類の回収・交付
従業員が退職するまでの間に、一般的に人事労務担当者は以下の書類の回収や交付を行います。
| 退職届の受理誓約書の回収退職証明書の交付 |
従業員に退職意思があることを明確にするため退職届を提出してもらいます。従業員が退職後に企業機密情報を漏らさないように、守秘義務などを定めた誓約書の回収も必要です。
退職証明書は、従業員が退職したことを証明するものとして企業が作成・発行する書類です。従業員が退職証明書の発行を希望した場合は、企業は退職証明書を発行する必要があります(労働基準法第22条)。
最終給与・退職金の計算と支払い
退職前の最後の給料日は、通常の給料日とは異なる点が生じることがあります。主なポイントは以下のとおりです。
| 月給額の日割計算(給与締日と退職日が異なる場合)社会保険料の天引き額の確認税金(所得税・住民税)の天引き額の確認通勤定期券代の精算 |
月給制の従業員が月の途中に退社する場合、その月の出勤日数をもとに月給額を日割計算して支給額を計算します。また、最後の給料から天引きする金額を間違えないように注意が必要です。
たとえば、当月分の社会保険料を翌月給与から天引きしている企業の場合、退職月の翌月には既に従業員は会社を辞めていて給与の支払いがなく天引きができません。そのため、最後の給料日に2カ月分の社会保険料を天引きします。
退職月が1~4月の場合は、退職以降5月分までの住民税の税額を一括徴収します。退職金規定がある企業では退職金の計算や支給、所得税の源泉徴収も行います。通勤定期券代を前払いで既に従業員に支払っている場合は、退職後の期間に対応する金額の精算・返金手続きが必要になることもあります。
なお、労働者から請求があった場合、最後の給料の支払いは退職から7日以内に行わなければいけません(労働基準法第23条)。
資格確認書の回収と社会保険の資格喪失手続き
従業員が会社を辞めると健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入対象ではなくなるため、以下の手続きを行います。
| 健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続き雇用保険の資格喪失手続き |
健康保険・厚生年金保険の脱退手続きでは、「被保険者資格喪失届」を年金事務所(健康保険組合)に提出します。
手続き期限は退職から5日以内です。健康保険の資格確認書が従業員に交付されている場合は、退職する従業員から資格確認書を回収して資格喪失届とともに送付・返却します。
雇用保険の脱退手続きでは、「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」をハローワークに提出します。手続き期限は退職日の翌々日から10日以内です。
参考:日本年金機構|従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き
離職票や被保険者資格喪失証明書の交付
従業員が退職した後、本人の希望に応じて以下の書類を発行します。
| 離職票の交付健康保険の被保険者資格喪失証明書の交付 |
従業員が退職後にハローワークで再就職活動をする場合、離職票が必要です。離職票は、会社が雇用保険の資格喪失手続きをするとハローワークから発行されます。
離職票の交付を希望するか本人にあらかじめ確認しておき、希望する場合は従業員の退職後に離職票を郵送します。
ただし、従業員が59歳以上の場合は、本人の希望の有無にかかわらず離職票を交付しなければいけません。
健康保険の被保険者資格喪失証明書は、従業員が退職後に健康保険の切り替え手続きをする際などに使う書類です。
全国健康保険協会など、従業員が加入していた健康保険に申請すれば発行できます。一般的には、社会保険の資格喪失手続きなどを行う際に企業担当者が被保険者資格喪失証明書の発行手続きも一緒に行います。
所得税・住民税関連の手続き
従業員の退社時には、税金に関する手続きとして以下の対応が必要になります。
| 源泉徴収票の交付(退職後1カ月以内)退職所得の受給に関する申告書の回収(退職金を支給する場合)給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書の提出 |
その年の1月1日から退職日までの給与額などを記載した源泉徴収票は、退職日から1カ月以内に退職者に交付しなければいけません。
退職金を支給した場合は、「退職所得の受給に関する申告書」に記入してもらって提出してもらいます。
従業員の退職に伴って住民税の特別徴収を中止する場合は、「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を自治体に提出します。提出期限は一般的に翌月10日です。ただし、自治体によっては取り扱いが異なる場合があるため、各自治体HPなどで確認するようにしてください。
貸与品の回収
パソコンや机・ロッカーの鍵、制服、従業員証など、貸与品は最終出社日まで使うことが多いため、貸与品の返却・回収の多くは最終出社日に行います。
人事労務担当者は最終出社日に貸与品を漏れなく確実に回収する必要があります。返却してもらう備品を一覧にして、手元にチェックリストを用意しておくとよいでしょう。
入退社手続きの効率化
従業員の勤怠管理や給与計算など、普段の業務に加えて入退社手続きも対応すると負担が増えることになります。
入社人数が多ければ人為的ミスが起きる可能性もあるので、入退社手続きは効率化して負担を減らしたいところです。以下では、入退社手続きを効率化する方法を3つ紹介します。
デジタル化・システム導入
労務管理システムのなかには、入退社時に必要な書類の雛形をダウンロードできるものや、画面上で入力して書類を作成できるものがあります。
書類のフォーマットを作成したり手書きしたりする手間がかからずに済めば、人事労務担当者の負担を軽減できるでしょう。
また、現在は社会保険手続きも電子申請が可能なため、役所に書類を提出しに行ったり郵送したりする工数を削減できます。
システムを導入して入退社時に必要な手続きを一元管理すれば、対応済みの手続きと対応前の手続きが明確になり、漏れやミスを防ぐことができます。
チェックリストのカスタマイズと運用
手続きミスをしないためにも、必要な手続きの種類や期限などを一覧にしておきましょう。
従業員の入退社時に必要な対応をチェックリスト形式でまとめておけば、急な入退社でも迅速に対応できて慌てずに済むので安心です。
さらに、よくあるミスや注意点も記載しておくと同じミスを繰り返さずに済みます。入退社に伴う対応は企業ごとに異なる点も多いので、自社独自の項目を追加して誰が担当者なのか整理するなど、チェックリストを自社用にカスタマイズして運用するとよいでしょう。
アウトソーシングの活用
人事労務担当者の負担を減らしたい場合は、入退社手続きをアウトソーシングすることも選択肢のひとつです。
人事労務の専門家である社会保険労務士に手続きを依頼すれば、自社で手続きをする手間や時間はかからず、人事労務担当者の負担を軽減できます。
社労士事務所に依頼すると費用はかかりますが、専門家に任せることで必要な手続きをスムーズに進められる点がメリットです。人手が足りていない場合や人事労務担当者が繁忙期の時期に、入退社手続きなど一部の業務だけでも外部委託すれば負担が軽くなります。
また、個別の手続きのみ依頼するスポット契約ではなく、社労士事務所と顧問契約を結んで入退社手続きや給与計算などをまとめて依頼する方法もあります。料金の体系や金額は社労士事務所がHPで公開している場合があるので確認してみるとよいでしょう。
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注意すべき特殊な入退社手続き
入退社手続きは、ケースによっては一般的な入退社手続きでは行わない特殊な手続きが必要になる場合があります。
入退社する従業員が外国人・パート・アルバイト・役員の場合には、以下で解説するポイントに注意しながら手続きを進めるようにしてください。
外国人従業員の入退社
外国人を採用する場合、就労可能な在留資格を入社までに得ている必要があります。外国人を雇用して不法就労させることがないように、在留カードで在留資格の確認が必要です。
永住者や日本人の配偶者など、就労制限がない在留資格もあれば、特定の職種でしか就労できない在留資格もあります。既に国内で働いている外国人が転職して入社する場合でも、業務内容によっては入社日までに在留資格の変更手続きが必要になる場合があります。
社会保険の加入手続きや税金関係の手続きが必要になる点は、日本人を採用する場合と基本的に変わりません。ただし、雇用保険の被保険者資格取得届には外国人を採用した場合に記入する欄があるので、国籍や在留資格などを記入します。「外国人雇用状況届」の提出も必要です。
また、外国人従業員が退職する場合も、日本人従業員と同様に社会保険などの手続きを行います。外国人が仕事に就く際や辞める際には「契約機関に関する届出」を提出する必要があるので、入退社から14日以内に提出する旨を従業員本人に伝えましょう。
パート・アルバイトの手続き
フルタイム労働者よりも勤務時間が短いパート・アルバイトを雇用する場合、社会保険の加入条件を満たすかどうか確認する必要があります。
従業員数が51人以上かどうかによって、社会保険の加入条件が変わる点に注意が必要です。
まず大企業でも中小企業でも、「フルタイム労働者」と「労働時間・労働日数がフルタイム労働者の4分の3以上の労働者」が健康保険・厚生年金保険の加入対象になる点は変わりません。
しかし、従業員数51人以上の企業の場合は、4分の3未満の労働者であっても、以下の要件を満たすと社会保険の加入対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上
- 2カ月を超える雇用見込みがある
- 学生ではない
また、31日以上の雇用見込みがあって週所定労働時間が20時間以上の場合には雇用保険にも加入します。ただし、2028年10月からは法改正により、加入条件が「20時間以上」ではなく「10時間以上」に変更される予定です。
役員の入退社
役員の入退社では株主総会の決議を経る必要があるなど、一般従業員のケースとは手続きの流れや種類が異なる点に注意が必要です。取締役が変更になる場合、役員の就任・退任から2週間以内に役員変更登記を行う必要があります。
法務局で登記の手続きをする際、就任承諾書や辞任届などが必要になるので、手続きに必要な書類は事前に法務局のサイトなどで確認してください。役員変更登記にかかる登録免許税は資本金の額が1億円を超える場合は3万円、1億円以下の場合は1万円になります。
よくあるトラブル事例と対応策
入退社手続きでは、従業員と人事労務担当者がやり取りするなかでトラブルが起きて、人事労務担当者が対応に悩むケースもあります。
以下では、よくあるトラブル事例と対応策を紹介します。
急な退職への対応
従業員から急な退職の申し出があると、業務に支障が出るケースがありますが、まずは退職したい理由を確認し、退職届を受理するかどうか判断します。
民法627条では、正社員など無期雇用労働者の場合、退職予定日の2週間前までに労働者が申し出れば退職が可能と定められています。。即日退職のような急すぎる退職希望に企業が応じる必要はありませんが、2週間前までに退職希望を従業員が伝えてきた場合には認める必要があります。
急な退職の場合、退職日までの期間が短くなります。書類の回収漏れなどが起きないように、従業員への退職手続きの案内などをすぐに対応するようにしてください。
本人との連絡が取れなくなった場合
入社直後の従業員と連絡が取れなくなる場合や、突然従業員が出社しなくなって連絡が取れなくなる場合があります。
このようなケースでも、すぐに無断欠勤と判断して解雇したり自己都合退職扱いしたりせず、従業員と連絡を取る努力をすることが重要です。
従業員の解雇は簡単にできるわけではありません。勝手に解雇や退職手続きを取ると従業員との間でトラブルになり、企業側の行為が違法になる可能性もあります。急な入院で連絡できない状態にある可能性もあるので、状況を確認するようにしましょう。
まずは電話や自宅訪問、家族への連絡などによって従業員の状況を確認します。また後々にトラブルになった場合に備え、本人に通知を送る際は内容証明郵便を活用するなど、会社として従業員の状況確認を行った証拠を残しておきましょう。
書類の不備や記入ミスへの対応
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書など、従業員に記入してもらう書類は記入ミスがあることが少なくありません。
入退社時に提出された書類は人事労務担当者がすぐに記入内容を確認して、ミスがあった場合は従業員に早急に連絡して訂正してもらいましょう。
不備や記入漏れがある状態で書類を公的機関に提出してしまうと、訂正の届出が必要になる場合や一旦返却されて再提出が必要になる場合があります。
訂正が必要な箇所について従業員に確認したり書類を再提出したりする手間がかかり、手続きが遅れる原因になります。
社会保険の手続きなど、人事労務担当者が行う手続きでミスが起きて従業員に迷惑がかかる場合は、謝罪したうえで届出書の再提出など必要な対応を行います。
退職時の給与計算を間違えて追加の給与振込が必要になるようなケースでも、従業員への連絡や再計算などの対応を速やかに行うことが大切です。
まとめ
社会保険や税金など、従業員の入退社ではさまざまな手続きが必要です。
手続き漏れやミスをしないように、入退社予定の従業員には、手続きの内容や提出してもらう書類の種類を早めに案内しましょう。
入退社手続きのなかには、法律で申請期限が決まっているものがあります。入退社手続きを一覧にしてチェックリストを作成しておくと、必要な対応をスムーズに漏れなく進めることができて便利です。
給与計算など、人事労務担当者が普段から行っている業務に加えて入退社手続きまで行うと、業務負担が増えてミスが起きる可能性があります。社内担当者の負担を軽減するためにも、労務管理システムの導入や業務マニュアルの整備、アウトソーシングの活用などを検討してみてください。
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さまざまな手続きが必要になる従業員の入退社では、多くの書類のやり取りが必要になります。
人事労務担当者・従業員の双方にとって手間がかかり負担になるため、手続きはできるかぎり効率化して負担を減らしたいところです。
入退社手続きを一元管理して効率化するなら、「ハーモス労務給与」や「HRMOSタレントマネジメント」の活用がおすすめです。
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