ユニリーバCHROが描く人事戦略 これまでの10年とこれからの10年-前編-

2020年8月28日(金)に第9回のHR SUCCESS Online「ユニリーバCHROが描く人事戦略 これまでの10年とこれからの10年」が開催されました。HR SUCCESS Onlineは、HR領域において先進的な取り組みをされている企業の経営者や人事担当者をゲストにお迎えし、「人材開発」・「組織開発」における課題解決に役立つ情報をお届けしています。

第9回は、「人事戦略のこれまでとこれから」をテーマにユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社のCHRO島田氏をお招きし、HR先進企業である同社のこれまでの取り組みとこれからの10年を見据えた人事戦略についてお話しいただきました。今回は前編として、ユニリーバの人事制度「WAA」の導入に至った背景や、新制度実現に必要なこと、日本の人事制度の変化や期待についてまとめたものをお送りします。

島田由香氏

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社
取締役 人事総務本部長

1996年慶應義塾大学卒業後、株式会社パソナ入社。2002年米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。
学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。高校二年生の息子を持つ一児の母親。日本の人事部「HRアワード2016」個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP(R)トレーナー。

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茂野明彦

株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部 部長

大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。

WAA(Work from Anywhere and Anytime)の実現に至った背景

茂野:やはり、ユニリーバ様といえば「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」ですよね。この施策はご存じの方も多いと思うのですが、簡単にご説明いただいてもよいでしょうか?

島田:はい。WAAというのはその名の通り「どこで働いてもいい、いつ働いてもいい」という制度です。オフィス・自宅以外の場所でも働くことができ、平日5時から22時の間で自由に勤務時間、休憩時間を決められます。その根底にあるのは、結果やアウトプットをしっかり出すのが大切です、という考え方です。アウトプットを出すのは、私たち一人ひとりです。どういう状態で、何をしたら最高のパフォーマンスを発揮できて、より良いアウトプットが出せるのかということは自分が一番よく知っているはずなので、従業員を信頼して働く時間や場所を自由に決めてもらうことにしました。ユニリーバ・ジャパンが2016年7月1日からスタートした制度で、非常にうまくいっています。コロナ禍においても「WAA」があったことで工場を除く全社員がスムーズに在宅勤務に移行でき、仕事に対する考え方ややり方を変えることなく対応することができました。今後も続けていくつもりです。

茂野:2016年というと「働き方改革」という言葉が使われはじめた時期ではありますが、そこまでまだ積極的に推進されていた時期ではなかったと認識しています。そのようなタイミングで「WAA」導入に踏み切った背景について教えてください。

島田:実は、2014年の11月には全社員に「WAA」という制度を導入しますという宣言をしていました。本当はもっと早くスタートできたのではないかと思っていたのですが、「働き方改革」という言葉が使われはじめた時期にようやく実現したと感じています。私は社会人になったときからずっと「なぜもっと自由な働き方にならないのだろう?」「なぜみんな毎朝満員電車に乗って会社に行くのに耐えられるのだろう?」「どれほどのエネルギーを通勤で無駄にしているのだろう?」「にもかかわらず、なぜみんな会社に着いた瞬間、生産性を上げようとするのだろう?」「そもそも、なぜ朝9時に会社に行くのが当たり前なのだろう?」といった思いをずっと抱いていました。このような思いもあって、「WAA」という名前をつけてこの新しい働き方を実現したいという話をしたところ、当時の社長が「やろう」と言ってくれたことが、実現に至ったきっかけです。

ルールを変えるうえでの一番の障壁は「障壁があるのではないかという自分自身の思い込み」

茂野:そういった柔軟な働き方を求める方は多い一方で、大きな組織の中でルールを変えるというのは大変なことだと思います。「WAA」を推進するうえで、障壁になったこと、もしくは実現するまでに大変だったことはありましたか?

島田:皆さん、「WAA」導入について苦労した話についてよく聞いてくださいます。客観的には苦労や障壁にみえたかもしれないのですが、私はそのように思ったことはありませんでした。どうやって従業員が自由な働き方を選べるようになるかということだけを常に考え、この方法でだめだったら別の方法、それもだめだったらまた別の方法、というふうに進めてきました。ですので、その質問にお答えするとすれば、障壁はなかったですね。

あえて言うとすれば、そういった私たち自身の思い込みが一番の障壁です。やはり、「このような取り組みをします」ということを社員に伝えた際に、社員からも不安の声があがりました。「オフィスにみんなが来なくなったらチームワークはどうなってしまうのだろう」「サボる人が出たらどうするのか」などですね。ただ、そういった質問の一つひとつが私にとっては気づきを与えてくれるものでした。そう考えるとやはり障壁はなかったですね。

新しいことの実現に必要なのは「本気度」

茂野:ありがとうございます。では、今「WAA」のような自由な働き方ではない企業の人事の方が「WAAを導入したい」と思った際にどのようなステップで進めていけばいいか、アドバイスをいただけますか?

島田:ポジティブに言い換えてくださいましたね。この言い換えるスキルというのは、「リフレーミング」といい、こういう癖をつけておくことは、人事を担う皆さんにはとても大切なことだと思います。というのも、社員から不安や不満が出てくるのは、それだけ興味を持ってくれている、無関心ではないということの裏返しでもあるのです。何か満たされないニーズがあるから不安や不満が出てくる。ご意見をくださる方々の心の中にあるものを知っていくと、そこには大変大きな気づきがあります。それはとてもありがたいことだと思っています。否定や批判といった一見ネガティブなご意見も、エネルギーを向けてくださっていると捉え直してみると、そこまで大変なこと、難しいことではないと感じられるのではと思います。「WAA」導入に向けたステップも、実はそこまで大変ではありませんでした。ただ、実現に向けた要素として、絶対外せない条件が1つだけありました。それは何だと思いますか?

茂野:強い意志や、経営者のコミットなどでしょうか?

島田:前者が近いですね。後者は、経営者かどうかはあまり関係なくて、それをやりたいと思う自分は本気なのかどうかということが一番大事です。パッションという言い方もできますし、「絶対やりたいと思っている」といった本気度とも呼べるかもしれません。ルールを変えたい、新しいことをやりたいと思っている人が、燃えている状態であるということが絶対条件です。それがないと、否定や批判を向けられたときに「ああ、やっぱりだめなのか」と諦めてしまいます。ですが、本気でやりたいことは諦められません。ですので、自分が本気でやりたいと思う気持ちは絶対に必要な条件ですね。

そして、この気持ちがあることで、必ずそれを応援してくれる人が現れます。応援してくれる人が現れると、自分は1人ではないことがわかりますし、大変なことがあってもサポートしてくれる仲間がいると思えます。何かを本気で成しとげようとする姿に感動する人が現れると、そこにリーダーシップが生まれ、少しずつ物事が前に進むようになります。

茂野:ありがとうございます。本気度の大きさがありたい姿を実現できる成功率に比例する、そして本気の人には仲間が集まってくる、これが絶対条件ということですね。

島田:はい、私はそう言えると思います。やろうとしていることが誰かのためになる、世の中のためになる、社会のためになるとその人が信じていて、本気であれば何があっても実現できると思います。

日本における人事組織の役割の変化と期待

茂野:これまでの10年の振り返りとして、次は人事組織の役割の変化について伺いたいと思います。日本の人事はどちらかというと管理部門の中から派生し、最近ではかなり分業が進んでいます。その中でも、近年「HRBP(HRビジネスパートナー)」や「CHRO(人事最高責任者)」という役割が生まれるなど、人事への注目が集まるような時代の変化があると思います。島田さんが人事の仕事をされてきたなかで、日本の人事に期待される役割や必要な要件の変化を感じている部分はありますか?

島田:正直なところ、多少の変化はあれど、期待される役割が大きく変わってきているという実感はありません。例えば「メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ」といった言葉が新聞の見出しになったり、そういった言葉をよく耳にするようになったりと、人事の中の興味・関心は少しずつ変化しているのかもしれず、それが喜ばしい方向に進んでいるのではないかということは感じています。

ただ、劇的な変化にはまだなっておらず、私たち人事一人ひとりにできることがまだあるのではないかと思っています。内に秘めているものが本当はあるのに、まだそれを出しきれていないような気がしています。私自身は、これ以上に面白い仕事はないと断言できるぐらい人事を最高の仕事だと思っていて、とても楽しく働くことができているので、もっと同志を増やしていきたいと思っています。人事が元気かどうかによってその組織が元気かどうか決まる、と思いながらずっと人事の仕事をやってきて、日本中の人事が元気になることを今でも願ってやまないので、理想とする姿にはまだまだ近づけていないのかなと感じています。

HRBPという役割や、その存在への期待によって企業の仕組みが少しずつ変わってきていることはプラスだと思っているので、その変化や変遷を遂げようとしている組織に対して、サポートできることや知見をシェアできる機会があれば喜んでお伝えしていきたいと思っています。

茂野:ありがとうございます。HRBPになるために必要な条件や期待される役割について教えてください。

島田:HRBPはその名の通り「パートナー」なので、ビジネスのトップに対しても上下の関係ではなく「対等」であるということが言えます。みている組織の大きさの違いはありますが、自分が担当する企業や組織、チームを率いるリーダーのパートナーとして、リーダーが売上や利益といった事業成長に注力できるように、私たち人事は人や組織、もしくはカルチャーをつくりあげなければいけません。人事の専門家として最高のパフォーマンスを発揮することで、リーダーが最高のパフォーマンスを発揮する状態をつくることがHRBPのミッションです。対等であるがゆえ、衝突することもありますし、親身になって相談に乗ることもあります。社員の採用から退職までのすべての側面にかかわって、組織にいる一人ひとりの声を聞き、その組織で起こっている事象や雰囲気、社員一人ひとりのコンディションを客観的な立場で感じながら、自分なりの意見や考えをその組織に提言していく役割です。なので、素養としては、ものすごく感性が必要な仕事だと思っています。知識以上に「感じる力」が必要で、ちょっとした違和感を大事にできる人、違和感に気づいたらそれを適切に表現できる人、そして何より人が好きで人に対する興味が持てる人であることが大前提だと思います。

セミナーレポート後半ではより詳細に、

  • 人事の採用要件に人事経験は必須か
  • 経営と人事の関係性はどうあるべきか
  • メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への変化について
  • これからの人事担当者に求められること

などについてお伝えします。

※各種データや肩書はイベント実施時点のものです

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ユニリーバCHROが描く人事戦略 これまでの10年とこれからの10年-後編-

【事例紹介】ラクスルのHRBPの事例はこちら
ラクスル社の事例から紐解く、HRBPの役割とは-前編-

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