近年多くの企業が取り入れているマネジメント施策のひとつ、1on1(1on1ミーティング)。業務の複雑化や、離職を防ぐための取り組みとして注目が集まっています。
1on1はただ上司と部下が1対1で面談すれば良いだけではなく、実際は多くのルールや効果を出すためのポイントがあります。前回の記事では、実施の目的や全体を通した実施方法、重要なポイントについてご説明しました。
▼1on1の目的や実施の方法について詳しくは、前回の記事をご覧ください。
1on1を成功させるポイント-実施方法や代表的な11のテーマをご紹介-
1on1を実施する大きな目的は、「成果につなげる」こと。そのためには漫然とミーティングを行うのではなく、1年・半期・四半期などでタームを切って、目標設定から振り返りまでを計画的に実施することが必要です。
設定した目標に向かって日々の業務を進める中で、鍵を握るのはもちろん、最も頻度高く実施される「定例1on1」。この定例1on1の中で、上司が適切なサポートを行い、メンバーが課題に対して「行動」または「学び」を得ることが大切です。
適切なサポートを行うというのは、経験則だけでアドバイスをしたり、一方的にやり方を押し付けたりすることではありません。メンバーが自ら考え、気付き、行動や学びにつながるよう導くことを指します。
この適切なサポートのポイントとなるのは、「話の聞き方」と「質問の仕方」です。今回は定例1on1において重要なこの2点について、詳しい事例をご紹介しながら説明します。
1.定例1on1の3ステージでの質問例
定例1on1には、「傾聴ステージ」「会話ステージ」「まとめステージ」と3つのステージがあります。1回の定例1on1の中でも、この3つのステージそれぞれの時間配分をしっかりと決めて行いましょう。例えば30分の場合、以下のような時間配分にすると進めやすいです。
各ステージでは、主に以下のような内容を実施します。質問例も参考に、1on1を具体的にイメージしてみてください。
1-1.傾聴ステージ
主に関係構築やテーマの把握のための時間です。上司はとにかくメンバーの話を聞き、ニーズを漏らさないように気をつけます。体調への気遣いや雑談から始め、前回のおさらいなどをした上で、今回のテーマを設定しましょう。
質問例
<関係構築>
・最近忙しそうですが、体調は大丈夫ですか?
・昨日は急な対応、ありがとうございました。とても助かりました。
<前回のおさらい>
・前回は○○について行動計画を決めましたね。その後の状況はいかがですか。
・前回は○○についてもっと考えたいというお話で終わっていました。今回までにどんなことを考えましたか。
<今回のテーマ設定>
・今日はどんなことを話してみたいですか。
・1on1が終了するときに、どのような状態であれば良いと考えていますか。
1-2.会話ステージ
初めに聞いた今回のテーマについて話し、必要なサポートについて確認します。一方的な意見やアドバイスではなく、双方が発言し合う対話をすることを意識してください。
質問例
<テーマに関する会話>
・その件について、ここまでの経緯を教えてください。
・一番の障害となっているのは何ですか。
・あなた自身はどうしたいと考えていますか。
・自分が逆の立場だったら、どう思いますか。
・解決するために、あなた自身ができることは何でしょうか。
<必要なサポートの確認>
・今後行動するにあたっての障害は何ですか。
・それを実現するために、何が必要ですか。
・私が手伝えることは、何かありますか。
1-3.まとめステージ
定例1on1のゴールである、「学び」や「行動」について考える時間です。今回の内容をまとめて、次回のアクションプランの設定や相手への鼓舞も行いましょう。このパートが1on1の効果につながります。
質問例
<行動と学習の確認>
・今日ここまでで、疑問点はありますか。
・理解度を確認したいので、今伝えたことを自分で説明してもらえますか。
・今回の学びをどう行動に活かしますか。
・今日話したことで、何に気が付きましたか。(学習の確認)
・次回に向けたアクションプランとして、何を行いますか。(行動の確認)
・1on1の進め方について、私に何かリクエストはありますか。
<承認と勇気づけ>
・あなたはやると決めたことは絶対やりぬく人なので、きっと達成すると信じています。
【参考:傾聴の態度チェックリスト】
「傾聴」とは、相手の言葉を否定せず、相手の立場に立って共感しながら、目・耳・心まで傾けて話を聴くこと。ここでは3ステージのひとつ目が「傾聴ステージ」と表記されているためわかりづらいですが、1on1の全体を通して求められる話の聞き方です。
意識しただけで態度が変われば素晴らしいですが、傾聴を心がけるのはなかなか難しいもの。そのため1on1を実施する際は、以下のチェックリストを参考に、まずは行動から気をつけてみてください。
できれば定期的に1on1を実施しているメンバーにも依頼して、以下のリストにある項目ができているかどうかを評価してもらいましょう。
□適度にアイコンタクトをしている □適度にうなずいて、聞いていることを示している □腕や脚を組まずにリラックスした姿勢で聞いている □体を相手に向けている(向き合って座っている場合) □相手が話している途中で遮らずに聞いている ※遮るとき必要があるときは許可をもらう □相手が話し終わるまでは評価・判断をせずに聞いている □次に何を言おうかを考えずに聞いている □落としどころを考えずに聞いている □Yes, And(イエス・アンド)の姿勢で否定せずに聞いている
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2. 1on1を成果につなげる20の質問事例
テーマについての会話の中で、相手の話をより深掘りしたり、相手に考えることを促したい状況もあると思います。そういった際に、傾聴を意識しながら、適切な質問で話を引き出すことは、1on1を成果につなげる上で重要なポイントです。
ここでは先ほどご紹介したものも含めて、定例1on1でよくある状況における20通りの効果的な質問の仕方をお伝えします。
(1)話を具体化したいとき 話が抽象的で内容が理解できないときや、具体的に説明してもらうことで考えを掘り下げたいときに活用できます。 ・それは具体的にどのようなことですか。 ・もう少し詳しく聞いても良いですか。 (2)話を要約してほしいとき 話が長くなりすぎているときや、言おうとしていることが理解できないときに活用できます。 ・最も伝えたいポイントはどこですか。 ・一言でまとめると、重要なのは何ですか。 (3)価値観を聞きたいとき モチベーションの源泉や、やる気を出すための要素を確認したいときに活用できます。 ・どんなときにやる気になりますか。 ・大切にしたいことは何ですか。 ・現在の夢や目標はなんですか。 (4)理由を確認したいとき 発言の真意を確認したいときや、理由を考えてもらうことで気付きを促したいときに活用できます。 ・なぜそう感じたのですか。 ・そう考える理由を教えてください。 (5)現状を確認したいとき 今置かれている状況をメンバー自身に自覚させる、または上司が確認したいときに活用できます。 ・ここまでの経緯を教えてください。 ・ここまでに取り組んだことは何ですか。 ・達成まで、残り何%ぐらいですか。 (6)目標や理想の状態を明確化したいとき メンバー自身に目標や理想の状態を考えてもらいたいときに活用できます。 ・どうなれば目標を達成したと言えますか。 ・理想的な状態はどのようなものですか。 (7)現在の問題を明確化したいとき 現在何が問題であるかをメンバー自身に考えてもらったり、目標に対する障害を確認したりするときに活用できます。 ・理想的な状態と現在のギャップは何だと思いますか。 ・一番の障害となっているのは何ですか。 ・現在困っていることはありますか。 (8)意思を確認したいとき メンバーの考えや意思を明らかにしたいときに活用できます。 ・あなた自身はどう思いますか。 ・あなた自身はどうしたいと考えていますか。 (9)時間軸を広げて(狭めて)考えてもらいたいとき 目先のことにとらわれすぎている、または目先のことに集中できていないときに活用できます。 ・1年後にどうなっていると理想的ですか。 ・1ヶ月以内にできることは何ですか。 (10)立場を変えて考えてもらいたいとき 自分の立場だけではなく、他者の立場に立って考えてもらいたいいときに活用できます。 ・自分が逆の立場だったら、どう思いますか。 ・自分が上司(同僚・他部署のメンバー)だったら、何をしますか。 ・お客様の立場なら、何を求めると思いますか。 (11)制限を外して考えてもらいたいとき 視野が狭くなっている相手に、思考や行動の幅を広げてもらいたいときに活用できます。 ・もし何の制約もなかったとしたら、何をしてみたいですか。 ・もし何でも選べるとしたら、何を選択しますか。 (12)話の最中に思考や感情の変化が起きたと感じたとき 話している最中にメンバーの内面に起きた変化を、自覚してもらいたいときに活用できます。 ・いま、どう感じていますか。 ・いま、気が付いたことはありますか。 (13)解決策を考えたいとき メンバー自身に解決策を考えてもらうときに活用できます。 ・どうすれば、○○(例:作業量を半分に/スピードを2倍に)できるでしょうか。 ・解決するために、あなた自身ができることは何でしょうか。 (14)今後の行動に対する障害を確認したいとき 今後行動をするために障害となる事柄や、必要なサポートを確認するときに活用できます。 ・今後行動するにあたっての障害は何ですか。 ・何があればもっとスムーズに進みますか。 ・どんなサポートが必要ですか。 (15)疑問点を解消したいとき 疑問点を洗い出し、解消したいときに活用できます。 ・今日ここまでで、疑問点はありますか。 ・これですべての疑問は解消できましたか。 (16)理解度を確認したいとき 伝えたことの理解度を確かめたり、認識のズレを確認したりするときに活用できます。 ・理解度を確認したいので、今伝えたことを自分で説明してもらえますか。 ・では○○のケースのときは、どのような対応が良いと思いますか。 (17)可能性や選択肢を検討したいとき メンバー自身に、やりたいことや行動の選択肢を考えてもらうときに活用できます。 ・これからやってみたいことは何ですか。 ・やろうと思ってできていないことは、何かありますか。 ・さらにもうひとつ挙げるとすれば、何がありますか。 (18)学習を促したいとき 対話や経験を通じて学んだことを振り返り、学習を促したいときに活用できます。 ・今日話した中で、最も印象に残っていることは何ですか。 ・今日話したことで、学んだことや気付いたことは何ですか。 (19)行動を促したいとき 実行する行動を具体的に考え、選択してもらうときに活用できます。 ・今回の学びをどう行動に活かしますか。 ・どんなことをやってみたい(やめたい/変えたい)と思いましたか。 ・次回に向けたアクションプランとして、何をしますか。 (20)1on1の効果性を高めたいとき 1on1の進め方がニーズにマッチしているか確認したり、改善したいときに活用できます。 ・今日ここまでで、話したいことを話せていますか。 ・1on1の進め方について、私に何かリクエストはありますか。
3.最後に
1on1の大きな目的は、「成果につなげる」ことです。そのためには1on1を部下任せの進捗報告の場や、上司からの一方的な指示を伝える場にしたりせず、互いに意味のある時間にすることが大前提です。
そこでポイントになるのが、上司の「傾聴」の姿勢と、それに基づいた効果的な質問です。相手を否定せずに寄り添う姿勢で、適切に話を引き出す会話を心がけることが最重要です。
今回はさまざまなシーンに合わせて、適切な質問の例をご紹介しました。しかしここでご紹介した質問にとらわれては、上司側も成長できません。傾聴の姿勢を意識して、自分の言葉で1on1を進められるよう、日々トレーニングしてみてください。
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