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「ピグマリオン効果」や「ゴーレム効果」といった言葉を耳にしたことはありませんか。これらはいずれも、うまく活用すればビジネスや人材育成などで役立てられるものです。この記事では、ピグマリオン効果とゴーレム効果、ハロー効果、ホーソン効果の心理効果の違いや人材育成への活用例などについて解説します。
ピグマリオン効果とは
ピグマリオン効果とは、周囲から高い期待をかけられると、それに呼応するように成果も上がる傾向を言います。誰かに「期待されている」「応援されている」と感じることが、個人のモチベーションのみならず、パフォーマンスにも影響を与えるという理論です。
ピグマリオン効果はアメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタールが1963〜1964年に提唱した現象で、「ローゼンタール効果」「教育期待効果」とも呼ばれます。
ローゼンタールはまず、1963年にネズミを使った迷路実験を行いました。この実験のポイントは、学生たちに実験用のネズミを手渡すときの声掛けの内容です。
手渡す時点ではネズミに明らかな能力の差がないにもかかわらず、賢いネズミとのろまなネズミに分けて虚偽の説明をします。すると、賢いネズミを任されたと信じたグループと、のろまなネズミを任されたと信じたグループとでは、それぞれネズミの扱い方に差が生じました。後に行われた迷路実験で、丁寧に扱われたネズミはよい成績を上げ、雑に扱われたネズミは悪い成績に終わったことから、ローゼンタールは、学生たちのネズミに対する期待値の差が実験結果に反映したと捉えます。そして、同じことが人間の教師と生徒の間でも成り立つのではないかと考えました。
今度は、ネズミの実験で得られた結果が人間にも当てはまることを確認するために、小学校で教師と生徒を対象に実験を行います。
この実験のポイントは、普通の知能テストを行ったうえで、教師には「数カ月先の成績を予測できる特別なテストである」という虚偽の説明をし、さらにランダムに抽出した生徒を「成績の向上が予測される生徒」として提示する点です。
テストから数カ月間、その言葉を信じた教師は一部生徒に特別な期待をかけ、期待をかけられた生徒がその期待に応えようとします。すると、期待をかけられた生徒の成績は本当にアップしました。ローゼンタールは、この結果について、教師が期待を込めて生徒に接したことにより、生徒もその期待に応えようとしたからであると結論付けたのです。
これらの実験に関しては、再現性のなさを指摘する声や、心理効果ではなく教育現場で指導に当たる者が持つべき心構えに過ぎないとする意見もあります。しかし、周囲からの期待や応援が後押しになって、普段よりも力を発揮できた経験があるという人は相当数存在すると考えられます。また、期待する相手には熱心に指導を行い、そうでない相手にはあまり手をかけないという事態は、指導者も人間である以上、発生する可能性があります。
したがって、成果に直結していなくても、期待や応援がモチベーションに与える影響は大きく、指導者の期待値の差がパフォーマンスに影響を及ぼす可能性が高いと推測されます。学校教育に限らず、スポーツやビジネスなどでも、他者からの期待が成果の向上に寄与すると考えられます。
ピグマリオン効果の由来
ピグマリオン効果という名前の由来であるピグマリオンは、ギリシャ神話に登場する古代キプロス島の王です。彫刻家でもある彼は、現実の女性に失望した末、象牙を彫刻して理想の女性像を造りました。理想通りにできた彫刻はとても美しく、彼は本気で恋をしてしまい、「ガラテア」という名前をつけて毎日愛でていました。
ピグマリオンは、「いつか本物の人間になるはずだ」「そのとき僕は彼女と結婚する」と信じて疑いません。ピグマリオンの一途な思いの深さを知った女神アフロディテは、ある日ガラテアに命を与え、本物の人間にします。ピグマリオンの期待によって命を与えられたガラテアと、期待を持ち続け、彼女と本当に結婚することになったピグマリオン。その構図が似ているという点から、ピグマリオン効果と呼ばれるようになりました。
ハロー効果との違い
ピグマリオン効果に近い心理効果に「ハロー効果」があります。ハロー効果は、人や物の評価をするとき、目立った特徴があるとそこに目が引き付けられ、他の特徴に対する評価がゆがめられてしまうという心理効果です。人や物に対して特定のイメージを持ってしまうと、それが全体の評価であるように錯覚してしまうことを言います。
例えば、「有名大学出身だから仕事ができそう」「関西出身だからおもしろいことを言いそう」などと勝手なイメージを持つことは少なくないでしょう。これらはポジティブなハロー効果の例ですが、実際は有名大学出身でも仕事はあまりできない人はいますし、関西出身者にもおもしろいことを言えない人はいます。
「事務職経験しかないから営業は向いていない」「文系だからITエンジニアにはなれない」というようなネガティブなハロー効果も然りです。過去の経験を問わず、営業の適性がある方もいれば、文系出身でもITエンジニアとして活躍する方もいます。
ピグマリオン効果もハロー効果も、認知に影響を与える「認知バイアス」の一種という点は同じです。しかし、誰の心理に作用するかという点が異なります。
ピグマリオン効果は、評価する側が期待をかけることによって、期待をかけられた側がその期待に応えようとする心理効果です。評価する側の心理が評価される側の心理に影響を与えているので、ピグマリオン効果の作用を受けているのは評価される側といえます。
それに対して、ハロー効果は、評価する側の思い込みです。つまり、心理的な作用を受けているのは評価する側になります。
また、大きく異なるのは心理効果が発生する時間軸です。ピグマリオン効果は効果が出るまで時間がかかります。そのため、心理効果が作用する時間軸は未来です。それに対して、ハロー効果は現時点における事実誤認に当たります。心理効果が作用する時間軸は現在にあるという点も大きな違いです。
ホーソン効果との違い
もう1つピグマリオン効果に近い心理効果として「ホーソン効果」が挙げられます。ホーソン効果は、周りから注目されるとその注目に応えたいという心理が働き、高い成果につながるという心理効果です。
1924年~1932年にかけてウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で実施された生産性向上の要因を調査する4つの実験により導き出された理論のため、ホーソン理論と呼ばれます。
ホーソン実験が行われた当時、生産管理の主流はフレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法でした。ホーソン実験は、科学的管理法をさらに発展させて生産効率を上げる目的で行われていたのです。
4つの実験を通して、生産性は労働環境や労働条件などよりも人間関係や労働者の意識に左右されること、上司や仲間とよい人間関係が築けている方がミスは少ないということがわかりました。そして、友好関係から自発的に生まれるインフォーマル・グループの存在が仕事のモチベーションや生産性の向上に大きな影響を与えているという結論が導かれたのです。
どちらも他人の影響でパフォーマンスが向上し、結果もよくなるという共通点がありますが、向上をもたらす要因が異なります。
ホーソン効果の要因は他人からの注目、ピグマリオン効果の要因は周囲からの期待です。期待をかけるのは、教師や親、上司など目上の人なのに対して、注目は自分以外なら誰でもできます。上司が部下を教育する際に用いるならピグマリオン効果、会社全体の生産性向上を目的にするならホーソン効果が適しているといえるでしょう。
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逆の考えはゴーレム効果
ゴーレム効果は「負のピグマリオン効果」とも呼ばれるピグマリオン効果とは真逆の心理効果です。周囲からの期待が低いと、それに呼応するように成果も低くなる傾向を言います。ピグマリオン効果と同じくローゼンタールが、教師と児童に対して実験を行った結果、同時期に提唱した理論です。ローゼンタールは、仮説を立証するために次のような実験を行いました。
まず、ピグマリオン効果の実験と同様に、小学校で普通の知能テストを行います。今度は知能テストの結果に応じて、「成績のよいクラス」と「成績の悪いクラス」の2つに分けました。
この実験のポイントは、成績のよかったクラスの担任には「このクラスは成績が悪かった。できない生徒が集まっている」と、逆に成績の悪かったクラスの担任には「このクラスは成績がよかった。できる生徒が集まっている」と虚偽の説明をした点です。
数カ月間、教師はその言葉を信じて生徒に接し、指導を続けます。すると、数カ月後には成績のよかったクラスの成績が下がり、成績の悪かったクラスの成績が上がりました。
ローゼンタールは、まず教師が成績の悪いクラスを任されたと信じたことにより、自分が受け持ったクラスに対する期待値が低くなったと指摘しています。そして、教師から期待されていないことを感じ取った生徒たちのモチベーションが下がり、成績も下がったのだと結論付けたのです。
この実験を行ったときには、すでに前年のピグマリオン効果の実験で、高い期待をかけられるとその期待に応えようとする意識が働き、パフォーマンスや成果も向上するという結果が得られていました。そのうえで、逆の効果であるゴーレム効果の実験を行った点に意味があります。まったく期待されない場合も、パフォーマンスや成績が下がってしまうという結果が出たことにより、逆も成り立つと立証されました。
ゴーレム効果の由来
ゴーレム効果の由来となっているゴーレムとは、ヘブライ語で「かたちなき者」という意味の泥人形のことです。ユダヤの伝説に登場するゴーレムは、自らの意思を持たず、主人の思うままに操られます。しかも、額に書かれている文字の一部を消されると、ただの泥に戻ってしまうのです。他人の言葉や態度によって力を発揮できなくなってしまう存在である点がよく似ているということから、ゴーレム効果と呼ばれるようになりました。
絶対的ゴーレム効果と相対的ゴーレム効果
ゴーレム効果には2つの種類があります。1つは絶対的ゴーレム効果、もう1つは相対的ゴーレム効果です。絶対的ゴーレム効果は、否定的な評価を受け、期待をかけられないことで本人のパフォーマンスや成績が低下してしまうことを言います。
チームの下位にいる生徒や部下に対して、教師や上司が低い評価を下すことによって起こりやすい状態です。自己の評価の低さに悲観して、やる気が起こらず、成績を下げてしまう状態と言ってよいでしょう。
それに対して、相対的ゴーレム効果とは、いくら優秀な人でも、評価の低い集団に所属することによって、パフォーマンスや成績が下がってしまう現象を言います。低い評価に甘んじている人は、成果を上げようと自分から行動を起こそうとはしません。そのような人ばかりの中で孤軍奮闘しても集団の評価は上がらないという現実に直面すると、本来のパフォーマンスができなくなり、成果が上がらなくなっていきます。
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ピグマリオン効果とゴーレム効果の違い
ピグマリオン効果とゴーレム効果は密接に関連しています。これらの効果の本質的な違いは、他者に対する期待の有無にあります。
期待することによって成果が上がりやすくなるなら、優秀な人を高く評価してピグマリオン効果を生み出そうと考えがちです。しかし、それだけでは評価されなかった人にゴーレム効果が生まれます。
低く評価しているつもりはなくても、高く評価されなかったことで必然的にゴーレム効果が生まれるのです。ですから、ピグマリオン効果を活用するのであれば、ゴーレム効果を引き起こさないためにはどうしたらよいかということも考える必要があります。
一部の人だけに期待をかけたら、それ以外の人は関心を持たれなかった人になってしまいます。一部に対してのピグマリオン効果を期待して、その何倍ものゴーレム効果を生み出してしまうようでは本末転倒です。
人材育成の場面でピグマリオン効果を用いるのであれば、一人一人に目を向けることが最低限必要になるでしょう。それぞれの状況に応じて、できるだけすべての人に何らかの期待を向けられるようにする工夫が重要です。
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ピグマリオン効果の例
日常生活におけるピグマリオン効果の例をご紹介します。
恋愛
恋愛の場面では、相手の嫌なところや直してほしいことを伝えるのではなく、相手に期待していることを伝えることでピグマリオン効果を発揮できるでしょう。
例えば、服装や化粧などに興味がなく、少しだらしないパートナーに対して「もっとこういう服を着たら?」「寝ぐせのままデートに来ないで」などと否定的な言葉を並べるよりも、「髪型がばっちりきまっていて凄くかわいいね!」「今日のメイク、とても似合っててかわいいよ。こんなに綺麗な人と一緒に居られて幸せだよ」という表現に変えると、ピグマリオン効果が期待できます。
「オシャレに無頓着なことはパートナーも気にしていない」という意識から、「メイクや服装、髪型を綺麗にすればパートナーが喜んでくれる」と変化して、少しずつ相手の期待に応えようとピグマリオン効果が働くようになるでしょう。
子育て
子育てにおいても、「この子は勉強が得意になる」「スポーツでよい結果を残して大物になる」「素直で心のやさしい子に育つ」などと親が信じて伝えることで、ピグマリオン効果が期待できるでしょう。ただ上辺の言葉を並べるだけでなく、具体的な行動や努力の課程を褒めながら、子どもを信じていることをしっかり伝えると効果的です。
反対に、「宿題をやらないとテストの点数も下がるわよ」「また失敗したの」「あなたにはまだ早いわよ」などと、子どもを信じずに「できない」と決めつけてしまうと、ピグマリオン効果ではなくゴーレム効果が発生し子供の成長を妨げることに繋がりかねません。
セルフマネジメント
ピグマリオン効果は、セルフマネジメントの際にも活用が可能です。
自分自身を客観的な第三者と見立てて、「私ならできる」「私はいつもビジネスで大きな成果を出せていて素晴らしい」などと期待の言葉を投げかけます。すると、自分から期待をかけられていることを原動力にして、モチベーションを高めたり、積極的な行動がとれたりするはずです。
自分自身への期待を明確に伝えるためには、ノートに書き起こしたり、書いた言葉を見えるところに貼ったりするのも効果的でしょう。
ピグマリオン効果の人材育成への活用例
ピグマリオン効果を人材育成に活用しましょう。具体的な活用例としては、以下のようなものがあります。
1.期待していることをわかりやすく態度で示す
ピグマリオン効果を発揮させようといくら期待をかけても、部下にその思いが伝わらなければ意味がありません。「仕事を任せる」と言っておきながら、横から手を出してしまったり、できないことを陰で指摘したりするようでは部下を混乱させてしまいます。
下手をするとゴーレム効果に陥るだけなので、任せると決めたらしっかり任せましょう。口に出して「期待している」と言わなくても、部下を信頼して任せていることが伝わるような態度でいれば大丈夫です。
例えば、部下が何かに自主的に取り組んでいるときには、黙って結果が出るまで見守り、答えが出ずに悩んでいるときは、答えにつながるヒントを与えるようにします。そして、機会を見つけてよいところを褒めるようにしましょう。
2.達成しやすい小さな目標を与えクリアさせる
部下が上司から期待されていると感じやすいのは、仕事を与えられたときです。特に自分で考えながら進めなければならない仕事を与えられると期待されていると感じるでしょう。
ただし、いきなり難しい仕事を任せると、かえって自信を失うことになりかねません。自力で何とかクリアできるくらいの難易度に押さえ、任せましょう。少しずつ難易度を上げて自信をつけさせます。
3.裁量を与えて作業をさせる
裁量を与えると、口で「期待している」と言うよりも、上司が期待していることが部下に伝わりやすいかもしれません。
なぜなら、「自分で考えて仕事をしなさい」と言っているのと同じだからです。具体的な時間や金額を示し、その時間内や予算内で作業をさせるとよいでしょう。裁量の範囲をある程度狭めておけば、部下は安心して作業に取り組めます。
4.目標達成のプロセスにも評価の目を向ける
上司が部下を評価する際、どうしても目標を何%クリアできたかという点に目が向きがちです。ピグマリオン効果を用いて育成するのであれば、褒めるポイントを複数作りましょう。
そうすれば、たとえ目標は達成できなかった場合でも、そこに至るまでのプロセスに評価すべき点を見出せるはずです。プロセスを評価することによって、部下は細かいところまで見てもらえている、期待してもらえていると感じます。
そして、次はもっと上の評価を得たいと前向きな気持ちで取り組んでもらえるようになるでしょう。
5.先に進めず苦しんでいるときはヒントを与える
部下が上司の期待に応えようと努力しているにも関わらず、なかなか結果に結び付かないときもあります。そのようなときに、「せっかく期待をかけてやっているのに、なぜ結果を出せないのか」といったプレッシャーをかけてはいけません。
また、期待していることを伝えてプレッシャーを与えるのも逆効果です。部下も上司から期待されていることがわかっていて、必死にそれに応えようとしているのですから、さらに期待していると言われることで委縮してしまいます。
ますます成果を出せなくなってしまうでしょう。先に進めず苦しんでいる様子がうかがえるときには、さりげなくヒントを与えるだけにするのがポイントです。あくまでもヒントであって、上司自ら答えを教えてはいけません。視点を少し変えるだけで前進できる場合があります。
6.評価制度の公平性を確保する
人材育成にピグマリオン効果を活用するためには、公正・公平な評価制度が欠かせません。一部の人がひいきされている、自分は正当な評価を受けていないと感じる人がいると、ピグマリオン効果ではなく、ゴーレム効果が発揮されてしまいます。
期待に応えられるように努力をしたのに、結果として正しく評価されなかったと部下が感じてしまったら、それ以降前向きに仕事に取り組めなくなってしまうでしょう。
逆に、良い評価がもらえなくてもモチベーションが下がらず、情熱を持って次の仕事に向かえるとしたら、それは、評価に納得感があるからに他なりません。部下のやる気を保ち、育成していこうとするなら、評価される側が納得できる評価制度が必要です。ピグマリオン効果が発揮しやすい評価制度の整備を急ぎましょう。
7.適度に褒めてモチベーションを維持させる
部下は上司から叱咤激励されると萎縮してしまう傾向があります。
上司はもうひと頑張りさせようと鼓舞しているつもりでも、余計な緊張感を生むだけで、かえって失敗させる結果になってしまうかもしれません。小さな失敗でも連続するとモチベーションが下がってしまい逆効果です。
「頑張れ」と声を掛けるよりも、できている部分を褒めるようにしましょう。「君ならきっとできるよ」と期待の言葉をかけて励ました方がよい結果につながります。
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ピグマリオン効果を活用する際の欠点と解決策
ピグマリオン効果を用いるためには部下に期待をかけていることを示す必要があります。期待の気持ちを示すために相手を褒めることがありますが、その際、褒めすぎてはいけません。
現状が最大限に評価されていると勘違いさせてしまうと、それ以上の成長が見込めなくなってしまうからです。部下には、自分がまだ発展途上であるという自覚を持たせる必要があります。そのうえで、これから伸びるだろうと期待しながら見守っている上司の気持ちを伝えることが大切です。
同じように褒めているつもりでも、受け取る部下の性格によって褒めすぎになってしまう場合があります。部下の個性をよく見極めて、どの程度褒めるか加減しましょう。成長させるためには、常に評価されている、気を抜くと評価を下げられてしまうという適度な緊張感が必要です。部下に勘違いをさせないように声掛けを工夫しましょう。
失敗を叱るよりも次への期待を伝える
せっかくピグマリオン効果を活用しようとしても、部下の失敗に目くじらを立てて叱りつけたのではそれ以上の成長は見込めなくなってしまいます。
ミスしたことに注意しても、それを次につなげられるようにフォローすることが大切です。どうしてミスが起こったのかを検証させ、学んだことを次に活かせるように声掛けするとプラスになります。
失敗しても切り捨てず、次に期待してもらえたという思いが、ピグマリオン効果を生むことにつながるでしょう。
過剰な期待にならないように注意する
部下によって能力や性格が異なります。ある部下にはちょうどよい期待度でも、別のある部下にとっては期待が重すぎて耐えられないということもあるので注意が必要です。
部下にとって上司から期待をかけられるのは通常嬉しいことですが、過剰な期待をかけられると「自分にはこれほどの期待に応えられる力がない」というマイナスな感情が生じてしまいます。
マイナスの感情が大きくなると、期待に応えたいというプラスの感情よりも、重圧から逃れたいというマイナスの感情が勝ってしまうため、モチベーションが急激に下がることになるでしょう。これではピグマリオン効果は発揮されません。部下の性質や能力、さらには私生活の状況なども考慮して、部下ごとに適したレベルの期待値に修正することも大切です。
個人の特性や状況を考慮する
ピグマリオン効果は、個人ごとの性格やその時々の状況を考慮する必要もあります。例えば、もうひと踏ん張りして目標達成をしてほしい局面で褒めすぎると、かえって気が緩んで目標未達になる可能性もあります。
また、現状を打破するために本音で指摘をしてほしいと望んでいる相手に対して期待や褒め言葉ばかり並べても、意味がない場面もあるでしょう。
必ずしも期待して褒め続けることが正しいとは限らず、相手とのコミュニケーションはあくまでも個人の特性やシチュエーション次第で柔軟に変える意識を持つことが大切です。
ゴーレム効果を生まないようにする
人材育成にピグマリオン効果を活用する際には、ゴーレム効果を生まないようにすることが重要な課題です。
一部の部下だけに大きな期待をかけると、周りに無数のゴーレムを生み出してしまいます。部下一人一人に良いところがあるはずです。それぞれに対する声掛けを工夫して、高いモチベーションを維持できるようにすることで、多くのピグマリオン効果を生み出せるでしょう。
まとめ
ピグマリオン効果は、周囲からの高い期待に応えようと行動する心理効果です。
部下に期待を伝える際は、達成しやすい小さな目標を提示しながら裁量を与えて、相手とシチュエーションにあわせた言葉を投げかけることが重要です。一部の社員に対するピグマリオン効果を意識しすぎるあまりに、周囲にいる従業員にゴーレム効果を生まないよう注意することも大切です。
また、ピグマリオン効果やホーソン効果などを取り入れる前に、ゴーレム効果やハロー効果にも注意しつつ、自社の従業員の特性についてデータ化し、一元管理しておくとよいでしょう。
従業員ごとの特性を把握してピグマリオン効果を活用しよう
ピグマリオン効果など心理効果をビジネスに取り入れる際は、あらかじめ従業員のスキルや経験、特性などを可視化することが不可欠です。従業員にあわせてコミュニケーション方法を柔軟に変えなければ、期待する効果を得られにくいためです。
HRMOSタレントマネジメントは、従業員情報を一元管理して客観的な数値でデータを可視化します。上司の思い込みや属人的なマネジメントを排除して、ピグマリオン効果をうまく取り入れるために、ぜひHRMOSタレントマネジメントをご活用ください。