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企業の経営者や人事担当者、マネジメント層にとって、従業員への評価は重要な業務であり課題でもあります。正当な評価が不可欠であるため、その制度の在り方に頭を悩ませる人事担当者やマネジメント層も少なくないでしょう。取り入れる企業が増えてきている人事評価手法に「360度評価」があります。本記事では、この360度評価のテンプレート作成に活用できる項目例、メリットやデメリット、目的、導入の際のポイントなどを整理し解説します。
360度評価とは?
360度評価の導入には、この評価手法の理解が必要です。ここでは、360度評価の定義と注目されている理由をまとめます。
360度評価の定義
360度評価とは、評価対象者を多角的に、さまざまな立場から評価することから「多面評価」とも呼ばれます。評価する人の数が増えるとともに、これまで一方的に評価される側だった従業員が、評価する役割も任される点が360度評価の特徴です。上司の判断だけに頼らないため評価に偏りがなく、多面的な立場からの意見を取り入れることで、より公平な評価が可能となります。
この評価方法は、従業員の強みや弱み、潜在能力などをさまざまな角度から把握できることが最大の特徴です。このように360度評価は評価者の範囲が広く、評価の視点が多様であるため、客観的で公平な評価を実現できる評価方法として多くの企業で導入が進められています。
従来の評価方法との違い
従来の評価制度では、主に上司や人事部門が評価を行っていました。この方法では、評価者の主観や偏見が反映されやすく、必ずしも公平な評価になるとは限りません。一方、360度評価では、多様な視点から評価が行われるため、より客観的な評価が可能です。また、従来の評価方法では、業績や成果に重点が置かれることがほとんどでしたが、360度評価では、行動や能力、コミュニケーションスキルなど、幅広い観点から評価が行われます。これにより、改善点や活かしきれていない能力に気付きやすくなる点がメリットです。
360度評価が注目されている理由
生活スタイルの変化や価値観の多様化などを含む時代の流れにより、評価制度を改めようとする企業が増えています。従業員の能力に重点を置いた経営手法である人的資本経営が注目されていることとも無関係ではありません。こうした従業員の価値を重視し高める動きが活発化している流れと、従来の一方向による評価制度がマッチしないと判断する企業が増加傾向にあります。
360度評価は、適切に導入・運用されることで正当かつ公平な評価が実現でき、それが従業員自身のモチベーションアップにも寄与するでしょう。結果的に企業へのエンゲージメントも上がり、従業員ごとの能力の開発や適切な人事配置などにもつながります。こうした効果を狙い、360度評価を積極的に取り入れる企業や注目している企業が増えています。
また、労働人口の減少による影響も少なくありません。すでに人材確保に苦心する企業も多く出てきています。今後はさらにその傾向が加速するとみられており、人材確保には従業員の能力や満足度の向上が欠かせず、そのためには正当かつ公平な評価制度の導入が避けられません。そこで注目されているのが360度評価です。多角的な評価により従業員の魅力や課題を引き出せれば、自社に最大限貢献してもらえる人材の育成にもつながります。企業が成長していくための術の一つとして360度評価が注目され、実際に選ばれているともいえます。
・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化
360度評価の目的
多くの企業が注目し取り入れているからという理由のみで自社の評価制度を刷新するのは、あまりよい考えとはいえません。まずは、360度評価の目的を把握し、自社に本当に必要かどうか見極める必要があります。ここでは、360度評価を導入する主な目的を解説していきます。
1.評価の公平性や正当性を保つ
360度評価の最大の目的は、評価の公平性や正当性の構築と維持です。従来のように上司が部下を一方的に評価する手法は、上司の主観による評価となっている可能性が拭えませんでした。主観や印象に任せた評価となっていた可能性も否定はできません。上司本人にその自覚がなかったとしても、実際に主観や印象による評価となっていれば、それに公平性や正当性があるとはいえません。
360度評価には、そうした単独評価による不公平性のリスクを極力下げ、公平に評価する目的があります。立場や役職に関係なく対象者を評価することで公平性が担保でき、360度評価の浸透した企業では、その公平性と正当性の維持が実現可能です。
2.人材育成へとつなげる
企業にとって、人材育成は重要な課題です。労働人口の減少に伴い、今後はさらに大きな課題となっていくでしょう。人材を適切に育成するためには、正しい評価が不可欠です。評価の基準が曖昧であったり、正当な評価が行われなかったりすれば、能力を秘めた従業員がいたとしても、それを十分に活用することは難しいでしょう。
360度評価の多くは複数の項目を用意し、具体的な成果に加え抽象的になりがちな能力や意欲といったものも含め多角的に評価する手法です。これにより個々の従業員の能力やポテンシャル、適性の発見・発掘へとつながります。それらをもとに個々の従業員にマッチした育成が行われれば、自社に必要な人材を効率的に育てることが可能です。
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3.従業員満足度を上げる
従業員が企業へと不満を抱くとき、そこにはさまざまな理由があります。評価制度に対する不満を持つ従業員も少なくありません。
特に、成果や能力、努力に見合った評価がされていないと捉える従業員は、その企業で働くことに対する満足度が下がりがちです。一方で、正当な評価を受けられていると実感できれば、満足度は上がります。そのような効果を狙って360度評価を導入する企業も増えてきています。従業員満足度の向上のための施策は、個々の業務遂行に対するモチベーションや企業に対するエンゲージメントを上げるためにも重要です。生産性や業務の効率化、離職率や定着率などにも大きな影響を与えます。
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4.行動規範の見直し
360度評価は、多くの項目が用意され、各項目ごとに評価を行うのが一般的です。それらの項目には従業員の態度や振る舞いなどが含まれることが多いです。こうした項目を盛り込むことで、従業員全体の行動規範の見直しへとつながります。
360度評価により多くの従業員に当てはまる課題が発見されれば、それを行動規範の見直しによって解決できるケースも出てきます。このように、組織の秩序を守る目的で360度評価を導入することも可能です。ただ、行動規範の見直しの程度によっては従業員を萎縮させる可能性もあるため注意しなければいけません。あくまでも、業務の効率化や生産性の向上などを果たすための見直しであると強く意識する必要があります。
5.組織文化の改善
360度評価によって従業員同士が互いの仕事ぶりを評価し合うことで、日頃からお互いの業務に関心を持つようになり、部署や階層を超えた対話が生まれやすくなります。これにより、組織内のコミュニケーションが活性化され、より開かれた雰囲気になるでしょう。
上司以外も評価に関わることによって、透明性のあるオープンな企業文化となり、従業員同士の信頼関係も強化される傾向があります。また、360度評価を通じて会社が重視する行動や能力が把握できるため、従業員全員が企業理念やビジョンに沿った行動をするようになります。
360度評価のメリット
目的を明確に定めたうえで適切な360度評価の導入が実現できれば、さまざまなメリットが得られます。360度評価の導入による主なメリットを紹介します。
1.客観的評価が担保できる
360度評価の最大のメリットは、評価において客観性が保てることです。公正・公平な評価を行うためには、客観性が欠かせません。一人による評価ではこの客観性が担保できるとは言い切れないでしょう。立場や役職、関係性の異なる複数の評価者が評価することで、客観性の向上が期待できます。評価者の主観や印象の排除にもつながり、対象者一人一人の評価精度の向上につながります。
特に、上司と部下、先輩と後輩の間で評価が割れるような従業員を評価する際には、このメリットの有効性が高まります。どちらが正しいかは従業員や環境、業務内容等によって変わるものの、少なくとも対象者を客観視でき、さまざまな角度から改めて評価し直すことへとつながります。そうした作業ができる点は、360度評価導入の大きなメリットです。
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2.評価の妥当性を主張できる
人事担当者やマネジメント層にとって、従業員に対する評価の妥当性の主張は重要な課題です。妥当性が主張できなければ、評価制度や手法に欠陥があると捉えられかねません。360度評価に用いる項目や評価体制、評価者の選定などが正しく行われることで、人事担当者やマネジメント層は従業員に対し評価の妥当性を主張できます。
また、そうした主張ができる体制や環境の構築も重要です。評価制度について従業員にも十分に認知されていれば、より評価の妥当性に関しても理解してもらえるでしょう。人事担当者やマネジメント層と従業員との間に意識の違いや誤解が生じにくくなり、結果的に、スムーズな組織運営が可能となります。
3.従業員も評価に納得できる
評価の客観性が担保され、妥当性も主張できれば、従業員も自身に下された評価に納得できるでしょう。360度評価では、多くの従業員も評価する側となります。自身も他者を評価しているため、自身は他者に下された評価を基本的には受け入れざるを得ません。期待していたような評価が得られなかったとしても、それを受け入れ、モチベーションへと変えられる従業員も出てくる可能性が高まります。
従来の単独評価の制度では一方的な評価にとどまるため、納得できなければ企業への不信感にもつながりかねませんでした。そうした感情を抑えられる点において、360度評価は企業・従業員双方にとって非常にメリットの大きな評価手法といえます。
4.特性や強みを把握できる
自身の能力を正確に把握していない従業員は少なくありません。特に、自信を持てないタイプの人は、その能力を十分に発揮できないままである可能性があります。360度評価は、さまざまな役職や立場の人に客観的かつ総合的に評価をしてもらえる手法です。
自分自身では気付けなかった特性や強み、あるいは直属の上司でも気付けなかったよい部分の把握にも役立ちます。特性や強みの把握は、自信や業務への積極的な取り組み姿勢を生み出します。また、上司もその特性や強みを活かした仕事を与えることができ、育成や配置転換の際にもその評価の有効活用が可能です。
5.課題や改善点に気付きやすくなる
特性や強みが把握できる一方で、課題や改善点にも気付きやすくなるメリットがあります。順調な成長や人材育成の実現には、課題や欠点にも目を向けなければいけません。強みなどと同様に、客観的な視点により自身や直属の上司でも気付けなかった課題や欠点が把握できれば、改善点も見出しやすくなります。多くの従業員に当てはまる課題であれば、それをもとに研修やセミナーなどの計画や見直しも行えます。全社的に改善へ向けて取り組むことにより、従業員全体の能力や業務の質の底上げも図れます。
6.評価の基準や視点を増やせる
360度評価では、あらかじめ評価の基準や項目を明確化しておきます。それにより、評価の視点を増やせるメリットが生まれます。人事評価に必要な要素は、決して少なくありません。定量的な評価に加え、数字では表現できない定性面の評価も必要です。そうした、さまざまな評価基準を持ち込み、個々の従業員について良い点も悪い点も広く評価できるのが360度評価のメリットです。
評価の基準や視点を増やすことは、これまでは注目されてこなかった、あるいは対象外だった部分の評価にもつながります。各従業員への理解が深められ、より育成や能力開発、配置転換を効果的に実施できます。
7.人間関係の把握や構築へとつながる
従業員のモチベーションやエンゲージメント、離職率や定着率などは、人間関係により左右されるケースは少なくありません。良い人間関係が図れる環境の構築は、企業にとって非常に重要です。360度評価により、現状の人間関係が把握できる可能性が高まります。
結果的に、いじめやパワーハラスメントなどの実態が浮き彫りとなるケースもあるでしょう。しかし、それらも企業が健全な運営を実現するためには必要不可欠な情報です。あるいは、360度評価導入により従業員同士のコミュニケーションが活性化すれば、より良い人間関係の構築にもつなげられます。いずれにしても従業員のエンゲージメント向上や離職率低下へとつながる人間関係の把握や構築、改善に360度評価の活用が可能です。
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8.人材のデータベース化を強化できる
360度評価により、個々の従業員の能力やモチベーション、勤務態度、成果などが把握できれば、それをもとに人材のデータベース化が可能です。すでにデータベース化している企業では、さらに強化できるでしょう。人材のデータベースは、人材配置の最適化に活用できます。部署やチームを超えて横断的にデータベースを共有し活用することで、組織全体の活性化にもつながります。タレントマネジメントなどの人事戦略にも活かしやすくなり、企業にとってより必要かつ重要な人材の育成も可能です。
360度評価のデメリット
360度評価の適切な導入と運用は、多くのメリットをもたらします。一方で、間違った取り入れ方や企業文化、従業員の特性などによっては、デメリットが生じる可能性もあります。ここでは、360度評価の導入によりもたらされる可能性のあるデメリットについて解説していきます。
1.時間と労力が負担となる可能性がある
360度評価は、従来よりも多くの人が評価に関わる手法です。評価する側の従業員は通常の業務に加えて、他者の評価をする必要が生じます。さらなる時間や労力が必要となるだけではなく、他者を評価するという精神的な負担も生じかねません。また、評価者の増加により、人事担当者やマネジメント層も、増加分の評価を回収・分析する作業に費やす時間や労力が増えます。
それ以前に、360度評価の項目選びやテンプレシートの作成など、導入の際にも多くの手間がかかるでしょう。一部は一度作成することで次回以降も再度活用が可能です。従業員の負担も、慣れれば徐々に解消していきます。しかし、導入コストの大きさは一時的とはいえ不満や不信を招く原因となる恐れもあるため、その点も考慮しながらの評価制度の構築と導入が必要です。
2.主観による評価の可能性を排除できない
360度評価は、一部の評価者の主観の排除も目的の一つとして取り入れられる手法です。しかし、制度設計や導入方法などを間違えると、従来の手法と変わらず主観による評価となってしまう恐れがあります。結局は、人による評価となるためです。
同じ組織内での人間関係により、他者に対する評価を客観的かつ公正に行えない可能性は十分にあるでしょう。遠慮や忖度などが優先されれば、正当な評価にはつながりません。同じ対象者に対し、まったく異なる評価が集まる可能性もあります。評価にばらつきがあり、正反対の評価も含まれるのであれば、どれを重視し対象者を評価すればよいのかの判断も困難です。360度評価のメリットがまったく得られない可能性もあるため、主観による評価を可能な限り取り除く制度設計が求められます。
3.教育や指導が適切に行われない可能性が生じる
360度評価は、部下が上司を、後輩が先輩を評価する制度でもあります。そのため、部下や後輩からの評価を気にし、教育や指導が適切に行われない可能性を秘めています。教育や指導の方法や方針は、企業やリーダーごとに異なります。しかし、評価を気にして厳しい指摘や再三に及ぶ改善の促進などが行われなければ、人材育成にも悪影響を及ぼしかねません。役職や立場を超えたコミュニケーションは組織の活性化のためには不可欠です。
360度評価の導入をきっかけにコミュニケーションの消極化や馴れ合いの関係性が促されてしまえば、それらは企業の弱体化を招きかねません。一方で、自身にとって有利な評価となるよう、役職や立場を利用して働きかける人が出てくる可能性もあります。このような状況が生じてしまうと、適切な教育や指導を行うことが困難となりえます。
4.評価内容により関係性が悪化する可能性がある
制度設計にもよりますが、誰がどのような評価を下したのかがわかるようであれば、それをきっかけに関係性が悪化する可能性があります。低い評価が正当なものであったとしても、それに対して不満が募れば関係性が悪くなる可能性があります。あるいは、離職率が高まるリスクも生じます。評価を下した人が特定できないシステムであったとしても、自己評価よりも低くなれば、同じ組織で働く人たちに対して不信感を抱きかねません。評価を過剰に気にし萎縮することで、思い切った行動や新しいアイデアなどが生まれにくくなる可能性もあります。従業員同士の関係性の悪化は企業に大きな損失をもたらすため注意が必要です。
5.評価の一貫性が保たれない可能性がある
同じ対象者に対して、複数の評価者がまったく異なる評価を下すだけではなく、同じ評価者が下す評価に一貫性がみられないケースも生じかねません。評価に一貫性がなければ、実施のたびに評価が大きく変化する可能性が出てきます。同じ業務を同じようにこなし、同じような成果を上げているにもかかわらず評価が上下すれば、この評価制度の信憑性が崩れてしまいます。これは、他者への評価に慣れていない、360度評価の導入初期によくみられる現象です。360度評価を深く理解せず、イメージ等で曖昧に評価する従業員が多いと、正当な評価とはならない可能性があるため注意しなければいけません。
360度評価の項目例
360度評価は分野ごとに複数の設問を用意し、それを各従業員に対象者ごとに回答してもらう形で実施します。ここでは、テンプレートを作成する際に参考になる代表的な360度評価の項目例を8個紹介します。
1.目標達成志向や問題解決力
目標達成へと向けた意欲や計画立案などの能力を問う項目です。目標達成志向に関しては「目標の達成のために努力をし、あらゆる方法を模索している」や「目標達成に必要な計画を立て、進捗の管理も行っている」などの設問があります。また「目標達成に必要な情報を積極的に収集している」や「目標達成に向けてメンバーとの協力関係を築いている、あるいは、その努力をしている」なども設問に採用できます。
問題解決力に関しては「解決すべき問題や課題の設定が的確である」や「困難な問題や課題に対しても向き合い、必要な手順での解決を目指している」などがあります。「より効率的な問題解決へとつながる方法やアイデアの創出に努めている」や「問題や課題の解決に必要な状況把握や分析力がある」なども設問例となります。
2.コミュニケーション
コミュニケーション能力こそ、360度評価により可視化される重要な素質です。「役職や立場に関係なく、敬意を持って接することができる」「相手の言葉の意図を理解しようとし、自分の意見を丁寧に伝えようと努めている」などの設問があります。「業務に関する情報や知識を多くの人と共有しようしている」「私情を挟まずにコミュニケーションが図れている」なども重要な設問となります。
3.リーダーシップ
役職に就いている人だけではなく、年齢の若い従業員や在籍歴の浅い従業員のリーダーシップも、360度評価により把握可能です。「現状を理解したうえで改善へと努め、得た情報や知識などを他者にも広げようとしている」といった設問があります。「周囲からの信頼度が高く、よき相談相手として選ばれている」や「多くの人の意見をまとめることに長けている」などもよいでしょう。「業務の振り分けやフィードバックなどが適切である」なども、リーダーシップの把握のための定番の設問です。
4.勤務態度
すべての従業員を対象に問えるのが、勤務態度です。「個々の業務に対し、いつも懸命に取り組んでいる」「他者に責任を問うのではなく、自身の責任のもとに業務を遂行している」などの設問があります。「時間や期限を守り、メリハリのある働き方を心がけている」「相手によって態度を変えることなく、公平性や協調性を重視している」などもあるでしょう。勤務態度は、ともに過ごす人によって変わるケースが少なくありません。360度評価によりそれを可視化できれば、行動規範の見直しなどにも活用可能です。
5.人材育成能力
人材育成能力は、特にマネジメント層に求められる能力を問う項目です。ただ、大半の企業では多くの従業員に後輩や部下がいるため、特定の役職に就いていなくても、360度評価により人材育成能力を有しているかどうかの把握が可能です。「部下や後輩に対する目標設定が適切かつ公平である」「フォローが適切に行われており、ともに問題や課題の解決へと取り組めている」などの設問があります。「部下や後輩の主体性に任せた指示が出せている」「他者を褒めることができる」なども、人材育成能力を問うものとして含めることができます。
6.企業文化の理解
従業員が企業文化や理念をどの程度理解し、実践しているかを評価する項目です。この項目は、組織の一体感や方向性の統一を図るうえで重要です。具体的な項目として「会社の経営理念を理解している」「会社の戦略や経営ビジョンに共感している」などがあります。また、「部下が理念に沿った行動を取れているか確認している」なども入れると、企業の目指す方向性や一体感にもつながります。企業文化の理解が深まることにより、チームワークや協力体制が強化され、組織内での信頼関係も向上します。
7.創意工夫
創意工夫の項目は、業務改善や効率化を行うための思考力と実行力を評価します。こうした能力は、組織の競争力向上や業務効率化に直結するため、多くの企業で重視されています。具体的には「改善提案ができるか」「業務改善につながる新しい技術やツールの導入を積極的に行っているか」などです。柔軟な発想で新しいアイデアを生み出し、業務にどのように貢献しているかを評価します。ただし、解決策を提案するだけでなく、それを実行に移す実行力も評価の対象です。
8.その他の項目
360度評価の項目は、それぞれの企業や部署などにマッチしたものを採用する必要があります。上記以外にも、たとえば「組織づくり」や「モチベーション」「チームワーク」などを問うことも可能です。「企画力」なども、企業や部署によっては重要な項目となります。
360度評価の評価項目作成のポイント
評価項目は、従業員の成長や企業全体の発展に直接的な影響を与えるため、組織の目標や課題に合わせて慎重に設定することが重要です。以下では、適切な評価項目作成の際に重要なポイントについて解説します。
評価の目的に応じた項目設定
360度評価の評価項目を設定する際は、組織の目標や課題に合わせて重視すべき項目を選択することが重要です。たとえば、モチベーションが課題である場合は、「目標達成の度合い」や「自己啓発に取り組んでいるか」などの項目を重点的に設定します。
評価項目の数にも注意が必要です。多すぎると一つ一つの設問を深く考えずに回答してしまう可能性があります。一般的に、10分〜15分で回答できることが望ましいです。そのためには全体で30問程度にするとよいでしょう。適切な量にすることで評価者の負担も軽減できます。さらに、評価項目は定期的に見直し、組織の変化や新たな課題に対応できるようにすることが大切です。一例として、近年ではリモートワークが増えているため、「オンラインでのコミュニケーション能力」なども項目に加えるのもよいでしょう。
具体的で観察可能な行動の記述
評価の公平性と客観性を高めるためには、具体的で観察可能な行動を評価項目として設定することが大切です。抽象的な表現では評価者によって解釈が異なり、評価の一貫性が失われる可能性があります。
「コミュニケーション力が高いか」といった抽象的な表現は、評価者によって受け取り方が異なり、解釈に差が出る可能性があるため適切ではありません。コミュニケーション力を項目にする場合は「会議で自分の意見をはっきりと述べ、周囲の意見にも耳を傾けているか」などと表現すると具体的になります。このように具体的な行動に焦点を当てることで、公平で信頼性のある評価になりえます。
評価者の立場に合わせた表現の工夫
360度評価では、上司や同僚、部下といったさまざまな立場の評価者が関与します。そのため、評価項目は評価者ごとの視点に合わせた内容にする必要があります。
たとえば、上司が評価する場合と、部下や同僚が評価する場合では、着目する行動や評価の基準が異なるため、それぞれの立場に合わせた理解しやすい表現を使うことが求められます。リーダーシップを例にすると、以下のように表現を変えるとよいでしょう。
- 上司を評価する場合 :部下の能力を引き出し、チームの成果を高めているか
- 同僚を評価する場合 :周囲の意見を尊重しながら、正しい方向性を示しているか
- 部下を評価する場合 :積極的なコミュニケーションで、必要なサポートをしているか
このように、評価者が意図を誤解しないよう、わかりやすく具体的な言葉で表現することでより正確な評価になります。
効果的な360度評価の導入ステップ
360度評価を効果的に導入するためには、計画的かつ段階的なアプローチが重要です。以下に、具体的なフローを解説します。
導入の目的を明確にする
360度評価の導入に際しては、まず組織としての目的を明確にすることが重要です。この評価制度を導入することで、何を達成したいのかを組織全体で共有しましょう。たとえば、従業員の能力開発、組織文化の改善、あるいは公平な評価の構築といった具体的な目標です。また、どの部門やどこまでの範囲の従業員が対象となるかなども明確に定め、その目的に基づいて、評価項目や実施方法を決定します。
目的がはっきりしないまま評価を行うと、単なる形式的な作業になってしまう可能性があるため、慎重に検討する必要があります。
評価項目の設計をする
目的が明確になったら、次に評価項目の設計です。360度評価は上司や同僚、部下といった立場の異なる評価者が評価するため、一定の基準が必要となります。したがって、リーダーシップやコミュニケーション力など具体的な項目を設けて、見るべきところを統一することが不可欠です。項目はあまり細かくしすぎないようにしましょう。また、評価者の立場に応じた表現の工夫も必要です。
評価者の選定とトレーニング
360度評価では、上司、同僚、部下など、さまざまな立場の人が評価者となります。評価の信頼性を高めるためには、適切な評価者の選定とトレーニングが不可欠です。まず、評価者には評価の目的や項目の意味、評価基準などを十分に理解してもらう必要があります。よくわからないまま評価を行っても正しい評価ができません。初めて評価者になる人には主旨から説明する必要があるでしょう。また、評価者は公平で客観的な視点での評価が求められるため、評価バイアスを避けるための方法なども指導する必要があります。
結果のフィードバック方法
360度評価の結果を伝える際は、効果的なフィードバックにすることが重要です。単なる結果の通知ではなく、被評価者が自己改善につなげられる内容にしなければ効果が得られません。そのため、評価の結果をもとに強みや改善点を明確にし、今後の行動目標を設定するよう促しましょう。
中には結果を聞いてネガティブになってしまう人もいます。そのため、批判的なフィードバックを避け、建設的な対話で改善のためのアドバイスを心がけるよう指導する必要があります。あくまでも、指摘ではなく自己評価とのギャップに気付き、そのギャップを埋めるための機会だと認識してもらうことが大切です。
フォローアップと改善計画の策定
360度評価を一度実施しただけでは、効果は限定的です。評価結果を受けた後のフォローアップと改善計画の策定をしっかり行いましょう。フォローアップでは、被評価者が評価をもとにどのような行動を取るべきかを指導し、定期的に進捗を確認し必要に応じてアドバイスやサポートを行う必要があります。
評価の結果をもとに、組織全体の目標に合わせて個人の改善計画を策定することも重要です。評価そのものは行動の必要性に気付くきっかけにすぎません。具体的な改善策を提示することにより、従業員は自分がどう動けばよいかがイメージしやすくなるでしょう。その結果、フィードバックが活かされ、具体的な改善行動につながります。
360度評価を成功させるためのポイント
360度評価を効果的に実施し、組織の成長と個人の能力開発につなげるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、360度評価を成功に導くための主要な3つのポイントについて詳しく見ていきましょう。
評価の目的と活用方法の明確化
360度評価の特徴は自分が評価する側とされる側、両方の立場になることです。そのため、全員が評価制度を十分理解しておく必要があります。主旨が理解できていなければ、評価の意義を見出せず、「やっても意味がない」となりがちです。したがって、360度評価を導入する目的や活用方法に対する理解を深めておく必要があります。事前研修などを行うと効果的です。
評価者・被評価者への十分な説明
評価を円滑に進めるために、どのような視点で評価を行うべきかや、評価のスケジュールについて十分に説明する必要があります。一方で、評価される側に対しては、フィードバックの受け取り方や今後の成長にどうつなげるかを伝えることも必要です。説明不足のまま評価を進めると、誤解や反発が生じやすくなるため、十分な時間をかけて説明する必要があります。中には「評価することに不安」や「評価することで人間関係が悪くなるのではないか」と心配する人もいるでしょう。360度評価を導入することが、不安やストレスになってしまっては本末転倒です。しっかりと説明を行い、このような不安を事前に解消しておく必要があります。
評価結果の適切な活用と継続的な改善
360度評価の成功には、評価結果の適切な活用と継続的な改善が欠かせません。
評価を導入しても成果が見えるまでには時間がかかり、ときには数年かかることも珍しくありません。そのため、導入後も定期的に以下のような改善を行うことが大切です。
- 評価結果を分析し、評価項目や運用ルールの改善点を洗い出す
- 評価後のフィードバックで意見を聞き、評価プロセスを改善する
- 改善効果を測定しながら少しずつ改善を進めていく(長い目でみる)
継続的な評価を行い、その都度改善していくことで、徐々に組織全体が変化していきます。
360度評価システムの導入
360度評価を効果的に実施するためには、専用のシステムを導入することが有効です。以下では、システム導入のメリットとその具体的な活用方法について解説します。
システム導入のメリット
360度評価システムを導入することで、評価データの収集と集計が自動化されます。これにより、膨大な時間がかかっていた集計作業が大幅に短縮されるのが大きなメリットです。また、評価の透明性が確保され、評価の正確性が向上します。評価結果の分析が容易なため、被評価者へのフィードバックも迅速に行え、評価に関わる業務がスムーズに進むでしょう。さらに、評価の信頼性が向上することでフィードバックに納得しやすくなるメリットもあります。
タレントマネジメントシステムの活用
近年、多くのタレントマネジメントシステムに360度評価機能が組み込まれています。これらのシステムを活用することで、360度評価をより包括的な人材管理の一環として位置づけることができます。
たとえば「HRMOSタレントマネジメント」では、360度評価機能のオプションが利用可能です。このオプションを使用することで、アンケートの依頼と回収、結果の集計が効率化されます。
さらに、タレントマネジメントシステムの他の機能と連携することで、360度評価の結果を人材育成や配置、キャリアプランの作成などに活用することも可能です。例えば、リーダーシップスキルが高く評価された従業員をプロジェクトリーダーに抜擢したり、コミュニケーション能力に課題がある従業員に対して研修を提案したりするなど、より戦略的な人材活用が可能となります。
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360度評価の成功事例
360度評価を効果的に導入し、成功を収めている企業の事例を3つ紹介します。これらの事例から、実践的な活用方法や成功のポイントを学ぶことができます。
株式会社クレディセゾン
株式会社クレディセゾンは1990年代後半から360度評価を導入しており、「夢中力アセスメントプログラム」と呼ばれる独自の制度を運用しています。自分の夢中力がどの程度なのかを360度評価する仕組みです。夢中力は「夢中になれば人は進化する」という考えに基づいており、仕事で活躍するためには目前の仕事に夢中になるか、夢中になれることを仕事にするかの2つしかないという理念を反映しています。
評価項目は全28項目で、行動特性から7つのタイプが設定されており、従業員はいずれかのタイプとして評価されます。評価後は観察者の回答の比較が数値とグラフで示されるのが特徴的です。また部門長には部門単位の結果もフィードバックされ、社内報でも公開されます。導入によって、全社員が共通の話題でコミュニケーションできるようになるなど、組織風土が大きく変わっています。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、人事部門に「People & Culture(ピープル・アンド・カルチャー)」という組織名を採用し、従業員を「リソース」ではなく「人」として尊重しています。この取り組みは、企業価値や企業文化の浸透を重視し、一人一人への権限委譲とモチベーション向上を目指すものです。
また、2018年1月から「無制限昇給制度」を導入し、現在の実力に基づいて昇給を決定する仕組みを取り入れました。さらに、今後は、これまでの採用に注力せざるを得なかった状況から、育成重視へのシフトを計画しています。このプロセスの一環として、360度評価のデータを活用し一人一人のニーズに合わせた育成に取り組んでいます。
360度評価の今後の展望
360度評価は、テクノロジーの進化により、さらに包括的な多面的評価として発展していくと考えられています。具体的には、勤怠管理や目標管理、研修管理、熱意(エンゲージメント)などさまざまな情報源からのデータとの統合です。AIの技術も組み込まれ、より客観的な予測も可能になるでしょう。
今後グローバル化が進むにつれて、柔軟に対応できる評価システムの構築も進むことが予想できます。こうした変化により、360度評価は単なる評価ツールから、スキルアップ、モチベーション向上、健康管理など、より広範な人事戦略の一部として活用されるようになると考えられます。
360度評価で従業員の評価を正当・公平に行うことが可能
多面評価とも呼ばれ、上司だけではなく同じ組織に属する同僚や部下など複数の従業員が対象者を評価する「360度評価」。適切に運用されれば、直属の上司による単独評価と比較して主観や偏見を排除し、正当かつ公平な評価が行えます。一方で、場合によっては人間関係が悪化するなどのリスクもあります。メリットや効果を最大化するには、評価項目の作成の際に、内容に細心の注意を払い、必要に応じた検証と改善が不可欠です。
360度評価はHRMOSタレントマネジメントがおすすめ
HRMOSタレントマネジメントは、360度評価の実施から結果の分析、フィードバックまでを一元管理できるシステムです。カスタマイズ性が高く、5段階回答や自由記述回答など、多様な質問形式も設定できます。より効果的な人材マネジメントを実現できます。詳細な機能や導入事例をご確認ください。