目次
従業員の離職やモチベーション低下に悩む企業が増えています。
人材の流動化が進む現代では、従来の管理手法だけでは組織の活力を維持することが難しくなりました。
そこで注目されている仕組みが「セルフ・キャリアドック」です。
本記事では、厚生労働省が推進するセルフ・キャリアドックの概要や企業が得られる具体的なメリットとともに、実践手順や運用におけるポイント、導入事例について解説します。
セルフ・キャリアドックとは
セルフ・キャリアドックとは、企業が人材育成ビジョン・方針に基づき、従業員に対して定期的なキャリア研修とキャリアコンサルティングの機会を提供する仕組みです。
年齢や就業年数、役職などの節目で、上司や人事以外の専門家と面談し、従業員が自らのキャリアについて主体的に考えます。
人間ドックのように、定期的にキャリアを診断する意味合いから「セルフ・キャリアドック」と名付けられています。
従来の人材育成では、組織の視点で必要なマインドやスキルの獲得を目指していました。セルフ・キャリアドックでは、組織の視点に加え、従業員個人の視点でのキャリア開発を重視します。
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厚生労働省が推進する目的と背景
国を挙げてセルフ・キャリアドックが推進されている背景には、労働市場の構造変化と「人生100年時代」の到来が挙げられます。
近年では、ITやAIなどの技術革新により産業構造が急速に変化し、企業主導の画一的なキャリア形成だけでは人材育成への対応が困難になりました。
労働者一人一人が主体的にスキルアップし、環境変化に適応していく能力が求められています。
また、人生100年時代により職業寿命が延伸する中で、長期的な視点でキャリアを設計する重要性が高まりました。
厚生労働省は、労働者の「キャリア自律」を促し、生産性向上と円滑な労働移動を実現するため、同制度の導入を推奨しています。個人の成長意欲と企業の生産性向上を両立させることが、制度推進の狙いです。
セルフ・キャリアドックの導入メリット・効果
セルフ・キャリアドックの導入は、単なる福利厚生ではありません。経営戦略の一つとして、企業と従業員の双方に好循環をもたらします。
ここでは、企業と従業員それぞれの立場における導入メリットと効果について解説します。
企業にとってのメリット
企業にとってのメリットとして挙げられるのは、以下の3つです。
- 人材定着と離職防止
- 組織活性化と生産性向上
- コミュニケーション強化と心理的安全性の確保
それぞれのメリットについて解説します。
人材定着と離職防止
経営において、従業員が企業に愛着をもち、長く働き続けたいと思える環境をつくることは重要です。
しかし、業務上の悩みや将来への漠然とした不安が、離職の引き金になるケースは少なくありません。
セルフ・キャリアドックによる定期的な面談は、従業員が抱える潜在的な不安や悩みを早期に発見し、解消する手助けとなります。
「企業が自分のキャリアを真剣に考えてくれている」と感じ、定着率の向上と離職防止につながります。
業務上の悩みだけでなく、自身の将来像と企業の方向性のズレを調整する機会にもなるでしょう。
結果として、優秀な人材に長く活躍してもらえるため、採用コストの削減や社内ノウハウの蓄積につながります。
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組織活性化と生産性向上
従業員一人一人が自分の強みや適性を深く理解し、それを生かせる配置や役割が明確になることは、組織の生産性を高める上で欠かせません。
セルフ・キャリアドックを通じて個人の能力や志向性が可視化されれば、上司は適切なマネジメントを行いやすくなります。
従業員も、自身の強みが発揮できる業務に従事することにより、主体的に仕事に取り組む意欲が湧いてくるでしょう。
適材適所の配置が進み、個人のパフォーマンスが発揮できれば、組織全体も活性化します。結果として、企業の競争力強化と業績向上に貢献するでしょう。
コミュニケーション強化と心理的安全性の確保
キャリアについてオープンに話し合う文化の醸成は、心理的安全性の確保につながります。日々の業務連絡だけでなく、将来の展望や働き方について対話する機会が増えれば、相互理解が深まるでしょう。
上司や同僚がお互いの価値観や目標を知っている状態は、安心して意見を言える土壌をつくります。困ったときに相談しやすくなり、チーム内で協力しやすい雰囲気も生まれるでしょう。
風通しのよい職場環境は、コミュニケーションを活性化させ、新しいアイデアが生まれやすい組織風土を形成するのです。
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従業員にとってのメリット
従業員にとってのメリットとして挙げられるのは、以下の3つです。
- キャリア自律の促進とビジョンの明確化
- 自己理解の深化とモチベーションの向上
- ワークライフバランスの再設計
それぞれのメリットについて解説します。
キャリア自律の促進とビジョンの明確化
変化の激しい現代では、企業主導のキャリア形成から脱却し、主体的なキャリア形成を促すことが重要です。
セルフ・キャリアドックは、従業員が自らの意思で将来のビジョンを描き、その実現に向けて行動するきっかけになります。
企業からの指示を待つのではなく、自身で目標を設定し、必要なスキルを習得しようとすることにより、スキルアップに取り組む姿勢を養います。
スキルアップに取り組む姿勢を養えれば、環境変化に強い人材になるでしょう。
自己理解の深化とモチベーションの向上
自己理解が深まることにより、今後のキャリアの方向性が明確になり、自己成長とモチベーションの向上につながります。
日々の業務に追われていると、自身のスキルや経験を振り返る時間はなかなかつくれません。
セルフ・キャリアドックで専門家との対話を通じてキャリアの棚卸しをすれば、自分では気づかなかった強みや価値観を発見できます。
自分の仕事が将来どう役立つのかを再認識できれば、仕事に取り組む意義を見いだせるようになり、業務に対する意欲も自然と湧いてくるでしょう。
ワークライフバランスの再設計
長く働き続ける上で、プライベートやライフプランとの調和を見据えたキャリア設計を考えることは重要です。
育児や介護、自身の健康など、ライフイベントと仕事の両立は、多くの従業員にとって重要な課題です。ライフステージの変化に伴い、働き方のニーズも変わっていきます。
セルフ・キャリアドックは、仕事だけでなく生活を含めた広い視点で、今後のキャリアプランを再設計する機会になります。
無理なく仕事を続けられる方法を見つけることは、離職を防ぐだけでなく、心身の健康維持にも効果的です。
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セルフ・キャリアドックの具体的な実施方法
セルフ・キャリアドックを導入する際は、計画的なステップを踏む必要があります。
単発のイベントで終わらせず、継続的な仕組みとして定着させるためには、以下のような手順で進めるとよいでしょう。
- 人材育成ビジョンの明確化
- 実施計画の策定と社内周知
- キャリア研修と面談の実施
- フィードバックとフォローアップ
それぞれの具体的な実施方法を解説します。
1.人材育成ビジョンの明確化
「なぜセルフ・キャリアドックを導入するのか」「どのような人材を育てたいのか」という目的が曖昧なままでは、制度は形骸化してしまいます。
そのため、まずは自社が求める人材像や育成方針を明確にしましょう。
経営理念や事業戦略に基づき、求める人物像や解決すべき組織課題を洗い出します。
その上で、経営層と人事が協議し、制度を通じて達成したいゴールを具体的に設定しましょう。制度の目的を定義することが、成功に導く土台となります。
2.実施計画の策定と社内周知
具体的な運用ルールを定め、全社的な実施計画を策定しましょう。対象となる従業員の範囲や実施時期、面談の頻度などを詳細に決定します。
面談を社内リソースだけで対応するのか、外部の専門家を活用するのかといった体制面の検討も必要です。
計画が固まった段階で、説明会や社内報を通じて従業員へ周知を行います。
制度の目的やメリットを丁寧に伝え、理解を得ることが重要です。企業から一方的に伝えるだけでなく、質疑応答の機会も設けるとよいでしょう。
円滑な運営を行うためにも、周到な準備と理解促進に時間をかけることがポイントです。
3.キャリア研修と面談の実施
実施準備が整い次第、対象者に向けてキャリア研修とキャリアコンサルティング面談を実施します。
従業員の意識が高まらない状態で面談をしても、効果的なキャリアは作成できません。
研修で意識を高め、面談で具体的な目標を設定することにより、より実効性の高い行動計画を作成できます。
研修では、年代や階層に応じたワークショップを行い、自身のキャリアについて考えるきっかけを提供しましょう。
キャリアへの意識が高まったタイミングで個別面談を行い、具体的なキャリアプランの作成を支援します。
4.フィードバックとフォローアップ
面談実施後は効果検証を行い、組織運営や次回の施策に反映させます。面談で得た組織全体の傾向や課題などの情報は貴重な経営資源です。
個人のプライバシーに配慮した上で、経営層へ報告しましょう。
従業員の意識変化や現場の課題を分析し、人事制度の見直しや職場環境の改善につなげることが重要です。一度きりの実施で終わらせず、定期的に状況を確認し、継続的な支援を行いましょう。
PDCAサイクルを継続的に回し、組織と個人の成長を支援し続けることが制度定着の鍵となります。
効果的な運用のためのポイントと注意点
効果的な運用のためには、必要な社内体制を構築し、従業員の理解を促すことが欠かせません。ここでは、セルフ・キャリアドックを効果的に運用するポイントと注意点を解説します。
必要な体制と担当者の役割
制度を安定的に運用するためには、強固な実施体制と明確な役割分担が必要です。責任者は、キャリアコンサルタントを統括する役割だけでなく、人材育成に関する責任と権限を与えることが重要です。
人事部門に限定せず、幅広いポストの中から適任者を選定しましょう。
また、制度の要となるのは、キャリアコンサルタントです。そのため、信頼できる専門家の確保が欠かせません。社内養成を行うか、外部委託をするかを慎重に判断した上で選任しましょう。
事務局の負担を考慮し、効率的な運営フローを構築することも大切です。関係者が連携し合い、全社一丸となって制度を支える体制をつくりましょう。
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社内への周知と理解促進
制度の利用率を高めるには、継続的な周知活動と社内の理解促進が不可欠です。セルフ・キャリアドック実施に対するビジョンや実施内容などの規定を就業規則や社内報で明示しましょう。
全社で取り組む姿勢を見せるため、経営層がメッセージを発信し、ポジティブな機会であることを強調することが重要です。
一方的に制度を案内した場合、業務の多忙を理由に反発する従業員が出てくる可能性があるためです。
管理職向けの説明会を行い、部下の参加を推奨する雰囲気をつくったり、質疑応答の機会を設けることも効果的です。
従業員規模が小さい場合は、就業規則や社内報の代わりに直接説明会等で周知するなど柔軟な実施方法を検討してください。
情報を伝えるだけでなく、理解を得られるような取り組みを実施しましょう。
タレントマネジメントの導入
セルフ・キャリアドックの効果を持続させるには、タレントマネジメントシステムの活用が有効です。
面談で得られた本人の希望やキャリアプランは、異動配置や育成計画に反映させてこそ意味があります。
しかし、個人情報や面談内容の取り扱いは慎重に管理しなければなりません。
タレントマネジメントシステムを導入し、面談記録を蓄積することにより、スキルや経験、キャリア志向を安全に一元管理できます。
データを一元管理することにより、点ではなく線でのキャリア支援を行いましょう。
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【事例付き】タレントマネジメントとは?目的、システム導入や比較・活用方法
納得感のある評価を効率的に行うための仕組みを整備し、従業員の育成や定着率の向上に効果的な機能を多数搭載
・360°フィードバック
・1on1レポート/支援
・目標・評価管理
・従業員データベース など
セルフ・キャリアドックの導入事例
他社の取り組みを知ることにより、自社での運用する際のイメージが湧きやすくなります。ここでは、セルフ・キャリアドックの導入事例として、業種や規模の異なる3社の取り組みを紹介します。
それぞれの企業の課題解決プロセスを参考にしましょう。
東急株式会社
東急株式会社は、社員のキャリア形成に対する意識向上を図りたいものの、ミドル層の従業員が研修を受ける機会が少ないという課題を抱えていました。
そこで、ミドル層を対象に今後のキャリア目標を考える機会として、支援センターの講師によるセミナーとキャリアコンサルティングを設定しました。
取り組む際は、キャリア支援施策の方針・目的とともにキャリア支援のテーマを伝え、主体的な参画を呼びかけました。
研修では「ライフラインチャート」や「エゴグラム」の作成などを通してジョブ・カードの内容を充実させた後に上司との1on1面談を設けています。
支援対象者からは「キャリアを考えるきっかけになった」との声が挙がっており、高いモチベーション維持につなげています。
株式会社ユナイテッドアローズ
株式会社ユナイテッドアローズは、試行的にキャリアコンサルティング相談を始めたところ、相談件数が1年で100件を超え、その中でも特に多い相談がキャリアに関するものでした。
そこで、従業員のキャリア支援の施策の検討を目的として、セルフ・キャリアドックを導入しました。相談を寄せる従業員の多くは30代であったものの、入社3年目の従業員の退職が目立っていたため、対象者を彼らに限定しました。
研修では、自分のキャリアプランをつくるだけでなく、グループ内でお互いのキャリアプランを見せ合うプログラムを設けました。それにより、同期が共通の悩みを抱えていることを理解し、連帯感の向上につなげています。
セルフ・キャリアドックの実施により、人事評価基準の明確化や、異なる業務へのチャレンジなどを求めていることが把握でき、キャリア形成支援策の方向を決める参考にもなっています。
株式会社インテージ
株式会社インテージでは、今後のキャリアで悩んでいる従業員が少なくありませんでした。キャリア形成に関する社内制度を設けていたものの、従業員自らが自身のキャリアを見つめなおすための機会は提供できていませんでした。
質の高いキャリアコンサルティングの必要性を感じ、セルフ・キャリアドックの導入を決めました。
対象者は、支援が必要と判断した従業員の中でさらに希望者のみに限定し、集合形式の研修は実施せず、ガイダンス資料を個別配布する形式にしました。
面談を受ける本人と上司に対しては、配慮を徹底し、実施の意図や会社の狙いを説明し、自身のキャリアに向き合う状態をつくりました。
面談実施後のアンケートでは「満足度・有効性・今後の利用意向」はすべて100%で、対象者の上司からも、ほかの部下への実施の要望があるなど、満足度が高い結果となっています。
セルフ・キャリアドックに関するよくある質問
セルフ・キャリアドックをスムーズに導入するために、セルフ・キャリアドックに関するよくある質問をQ&A形式で解説します。
助成金は廃止されましたか?
セルフ・キャリアドック制度の導入そのものを対象とした助成金は、すでに受付が終了しています。
ただし、人材育成を支援する「人材開発支援助成金」の枠組みの中で、キャリアコンサルティングに関連する助成メニューが利用できる場合があります。
制度の名称や要件は年度ごとに変更される可能性があるため、最新情報の確認が必要です。厚生労働省のホームページなどで、現在の支援制度を確認するようにしましょう。
中小企業でも導入できますか?
セルフ・キャリアドックの導入は従業員規模にかかわらず、中小企業でも十分に可能です。
実際に従業員が100人以下の企業がセルフ・キャリアドックを導入し、組織活性化に成功しています。
特に小規模な組織では経営者と従業員の距離が近いため、制度の意図が伝わりやすく、効果を実感しやすいという利点があります。
専任の担当者を置くことが難しい場合は、外部のキャリアコンサルタントと契約したり対象者を限定したりするなど、柔軟な運用体制をとるのも一つの方法です。
規模に合わせた無理のない制度設計が、導入成功のポイントです。
キャリアコンサルタントは必須ですか?
セルフ・キャリアドックを効果的に運用するためには、キャリアコンサルタントの関与が強く推奨されています。上司や人事担当者による面談でも、一定の効果はあるでしょう。
しかし、上司や人事担当者の影響力や従業員との関係性を考えると、心理的安全性が担保できているとはいえません。
従業員視点ではなく、自社視点での助言をしてしまうケースもあるでしょう。
利害関係のない第三者かつ専門家であるキャリアコンサルタントが面談することにより、従業員が本音を話しやすく、客観的な視点から適切な助言を受けられます。
従業員が納得感を得られる質の高い支援を行うためにも、専門家の知見を活用することが重要です。
まとめ
セルフ・キャリアドックは、企業が従業員に対して、定期的なキャリア研修とキャリアコンサルティングの機会を提供する仕組みです。組織の視点に加え、従業員個人の視点でのキャリア開発を重視します。
セルフ・キャリアドックは、企業と従業員の双方にとってメリットがある制度です。継続的な仕組みとして定着させることにより、組織の活性化と人材定着につながります。
本記事で紹介した実施方法やポイント、導入事例を参考に、セルフ・キャリアドックの導入を検討しましょう。
社内版ビズリーチで仕組み化を実現
セルフ・キャリアドックを成功させるには、従業員情報のデータ化と一元管理が欠かせません。
紙や散在しているファイルで管理するのではなく、システムで管理することにより、過去の経緯を踏まえた適切なアドバイスができます。
「社内版ビズリーチ」には、AIによる社内レジュメの自動生成や社内公募、ポジション管理など、制度運用を支える機能が搭載されています。従業員の新たな能力の発見や、オンボーディングの進捗確認も可能です。
タレントマネジメントを戦略的に進めたい企業の担当者は、ぜひ「社内版ビズリーチ」で実現できることをご覧ください。



