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「100円の商品を買うともう1つ無料」「100円の商品を2つ買うと半額に」。これらは全く同じことを言っていますが、受け手の印象はかなり違います。このように、同じ情報でも伝え方によって、印象や意思決定に影響を与えることをフレーミング効果と呼びます。マーケティングをはじめ、ビジネスシーンでも使われることの多いものです。
今回は、フレーミング効果とは何なのか、日常で使われる具体例や、人事でのフレーミング効果の活用法について解説します。
フレーミング効果とは?
フレーミング効果とは、同じ情報であってもその伝え方や表現によって印象が変化し、それによって人の意思決定も異なってくるという心理現象のことです。フレーミング現象は、枠組みを意味する「フレーム(frame)」が語源です。情報に対するフレームのあて方によって、人の意思決定に影響が出ることからこう呼ばれています。
フレーミング効果は、1981年に権威あるアメリカの学術誌「サイエンス」で発表されました。プリストン大学名誉教授であるダニエル・カーネマンと、心理学者であるエイモス・トヴェルスキーの2人による共同研究です。
たとえば、商品をもらえる射的ゲームで業者側が「10人中9人が的に当てています」と「10人中1人は的に当たりませんでした」という2つの伝え方をしたとします。この場合、利益にフレームがあてられている前者の方が、業者は利益を生みやすくなります。このように心理面や意思決定に影響を与えることから、フレーミング効果はマーケティングで活用されることが多くあります。
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フレーミング効果の実験例
「アジア病問題」は、フレーミング効果を説明する最も有名な実験です。
前述のカーネマンとトヴェルスキーは、実験のために、まず集めた学生たちを2つのグループに分けました。そして、それぞれのグループに対し、以下のように伝えました。
前提の問い:「アメリカでは、アジア病という伝染病の流行への対策が急務である。アジア病が流行することで600人が死亡すると予想されるが、どのような対策が必要か」
- グループα:対策Aは200人が助かる。対策Bは600人が助かる確率が1/3、誰も助からない確率が2/3である。
- グループβ:対策Cは400人が死亡する。対策Dは誰も死亡しない確率が1/3、600人が死亡する確率が2/3である。
この実験で提示されている対策は、すべて同じことを意味しています。しかし、グループαでは対策Aが、グループβでは対策Dが多く選択されました。たとえば、対策Aは「200人が助かる」とポジティブな要素に焦点を置きました。対策Bでは「誰も助からない可能性がある」というネガティブな要素に焦点が置かれています。つまりこの実験では、人は「利益が強調されると損失を回避し、損失が強調されると利益を求める」という心理が働くことがわかります。
フレーミング効果に似た心理現象
フレーミング効果に似た心理現象として、以下のようなものがあります。
損失回避の法則
損失回避の原則とは、人は利益を得る選択よりも損失を避ける選択をしやすい、という心理現象のことです。
たとえば、同程度の利益と損失の2つから選ぶ際、人は利益を得たときのポジティブな状況よりも、損失を被った際のネガティブな状況の方が2倍以上イメージしやすいとされています。なぜなら、人の思考は損失を避けようとする傾向があるためです。
- 確実に利益を得られる場合、利益を逃すリスクを回避したい
- 損失を被る場合、リスクがあっても損失を回避したい
人にはこのような思考の習性があると考えられています。
この損失回避の原則は、フレーミング効果と同じくカーネマンとトヴェルスキーにより提唱されました。
アンカリング効果
アンカリングとは、最初に提示された情報を重視してしまい、それが最終的な結論に影響する心理現象のことです。最初に与えられた情報、つまり錨(アンカー)によって船を港にとどめる(アンカリング)ように、自分の結論が固定されやすくなることを意味します。
アンカリング効果では、最初に提示するアンカーが意味情報よりも数字情報である方が効果は強くなりやすいとされています。たとえば、車の販売の場合、「特別仕様車」「有名人が乗っている・推奨している車」などの意味情報よりも、「最後の1台」「キャンペーンでいまだけ10%割引」のような数字情報を先に提示した方がアンカリング効果は高いとされます。
確証バイアス
確証バイアスとは、自身の信念・期待・先入観などを肯定し、それに沿った情報にのみ注目したり集めてしまったりする心理現象のことです。
確証バイアスは誰にでもあるものです。しかし、確証バイアスが強すぎると自分にとって都合のよい情報ばかり集めてしまい、不都合な情報は無意識にすべて捨ててしまうため、物事を多角的に見ることが難しくなります。
たとえば人事において、「実績ある社員」を優秀と認識すると、公平な評価を行いにくくなります。適切な評価が行われなければ、社員のモチベーション低下や離職率上昇の原因になることでしょう。
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日常においてフレーミング効果が使われている具体例
フレーミング効果は、日常でもごく自然な形で使われています。その具体例をいくつか紹介します。
価格表示
フレーミング効果は、商品の価格表示でもよく使われます。以下で2つの例を紹介します。
- サブスクで「月額3,000円」よりも「1日あたりおよそ100円」
このケースでは「3,000円」という大きな数字ではなく、「およそ100円」という小さな数字で割安感を演出しています。どちらもほぼ同じことですが、ユーザーの購買意欲が刺激されるのは後者であるといえるでしょう。
- 棚にある商品を「全品20円引き」よりも「全品100円」
たとえば、定価120円のおにぎりがあるスーパーでは「全品20円引き」、あるコンビニエンスストアでは「全品100円」で販売されていたとします。どちらも同じことですが、「全品100円」の方が売れやすい傾向にあります。これは、「20円引き」というフレームよりも、「100円」というフレームの方が価格や安さをイメージしやすく、購買意欲を高めやすいからだと考えられます。
危険性の説明
安全性や危険性を説明する場合にも、フレーミング効果は活用されています。
- 95%の安全性
- 5%の危険性
この場合、より安全に感じるのは前者であり、より危険に感じられるのは後者の方です。たとえば一定のリスクはあるものの、安全であることを商品の売りにするのであれば、前者のように利益を強調します。ユーザーは「安全性の高い商品」と認識して購入の判断をしてくれることでしょう。後者は、手術などの危険性を伝える場合に有効です。患者に正しく理解してもらうことと術後のトラブルを避けることを目的に、ネガティブな要素に焦点を置いた伝え方が多く使われています。
目標設定の伝え方
目標設定を伝える場合もフレーミング効果を活用することがあります。たとえば、あるセミナーの紹介や宣伝で以下のように伝えたとします。
- 参加者の90%が、セミナー後にキャリアアップしています。
- 参加者の10%だけが、セミナー後にキャリアアップできませんでした。
これはどちらも同じことを言っています。しかし、前者は利益を強調しているため、ユーザーはポジティブな印象を受けやすくなります。逆に後者の場合はネガティブさが強調され、損失回避のためにユーザーは選択しにくくなります。
人事担当者がフレーミング効果を活用する方法
フレーミング効果は日常的に自然な形で活用されています。もちろん、人事においてもメリットがあります。ここでは、人事担当者がフレーミング効果を活用する方法について解説します。
退職者数の伝え方
退職者数を伝える際もフレーミング効果を活用できます。
たとえば、人事関連の報告書に退職者数を掲載する場合、以下のような記載方法が考えられます。
- 退職者数「全体の10%」
- 定着率90%
退職者数は、どちらかといえばネガティブな情報です。それを前提に考えた場合、前者は「退職者数」を具体的に伝えることで、よりネガティブさが強調されています。一方、後者はネガティブさを抑え、「在職し続けた」というポジティブな面を強調しています。そのため、報告書を確認する経営陣にとっては、後者の方が良い印象になります。退職者数などのネガティブな情報を伝える場合は、フレーミング効果を意識することが大切です。
賃上げ率の提示
従業員にとってうれしい「賃上げ」を伝える際にも、フレーミング効果を活用すればよりよい印象を与えられます。
- 今年の賃上げ率は前年の賃金の2%です。
- 今年は、賃金を前年の2%アップします。
どちらの伝え方も賃金の額は同じですが、どちらかというと後者の方が従業員から好感を持たれやすい傾向にあります。前者は「賃上げ率(データ)」に焦点を当てた表現であるのに対し、後者は「賃金が上がる」ことに焦点を当てているため、従業員がより利益を感じやすいといえます。
人事評価や面談
人事評価や面談においても、フレーミング効果について理解しておくことが大切です。
たとえば、ある新人社員が商談にまでこぎつけ、プレゼンテーションの反応も良かったものの成約に至らなかったとします。この場合、「経験不足せいか、詰めが甘くチャンスが活かせなかった」という評価はネガティブな要素が強く、新人社員は落ち込んでやる気をなくしてしまうかもしれません。しかし、「成約には至らなかったものの、努力が見えて次回への課題点も明確であり、今後に期待できる」というポジティブな評価であれば、モチベーションを高めやすくなります。
このように、フレームを変えて別の視点で人事評価や面談を行えば、社員のモチベーションを高められ、将来の組織力向上につながりやすくなります。
フレーミング効果に惑わされないためのポイント
フレーミング効果は、人間の心理の隙をついた手法であり、マーケティングや人事などさまざまなシーンで活用されています。しかし、判断を妨げる要因にもなり、フレーミング効果に影響されたことで意思決定後に後悔することもあります。ここでは、フレーミング効果に惑わされないためのポイントを解説します。
シンプルに考えてみる
フレーミング効果に惑わされないためには、シンプルに物事を考えることが大切です。たとえば、100円の商品を購入する場合。
- 1つ購入でもう1つ無料
- 2つ買うと半額
この場合、どちらのケースでも商品を100円で2つ手に入れることになります。また、後者の場合は100円で1つだけ購入するということもできます。このように、シンプルに考えて、検討してみましょう。
分析して事実を見極める
事実を分析することもフレーミング効果に惑わされないために大切なことです。
たとえば、部下からある設備投資についての決裁願が上がってきたとします。「この設備投資により、80%の確率で売上がアップします」と説明を受ければ、良いイメージを持つことでしょう。しかしこれは、「設備投資しても20%の確率で売上が伸びない」とも言い換えられます。それがわかれば、「なぜ80%の確率で売上がアップするのか、売上が伸びない20%の確率を減らすにはどうすればいいのか」について検証できます。
このように、言葉をそのまま受け止めるのではなく、フレーム(視点)を変えて物事を見て分析すると、フレーミング効果に惑わされず事実の見極めやさらなる深掘りができるようになります。
タレントマネジメントシステムの活用
確証バイアスに惑わされず、公平で効率的な人事評価を行うならば、タレントマネジメントシステムの活用がおすすめです。
タレントマネジメントシステムとは、従業員の基本情報・スキル・経験などを一元管理して人事業務の効率化や人事データの一元管理ができるシステムのことです。
人材ごとの特性やスキルを生かすためには、適切な評価と育成・配置が大切です。しかし、人事評価が確証バイアスにより認知がゆがんでしまうと、目に見える利益と損失を意識してしまい、適切な評価や育成・配置が難しくなります。
タレントマネジメントシステムを活用すれば、従業員をデータや証拠に基づいて多角的に評価できます。また、思い込みではなく、公平な評価に応じた適切なフィードバックが行えるようになります。
<関連記事>【事例付き】タレントマネジメントとは?目的、システム導入や比較・活用方法
まとめ
今回は、フレーミング効果について解説しました。
フレーミング効果とは、情報の伝え方が人の意思決定に影響を与えるという心理現象のことです。マーケティングと親和性が高く、日常の中で自然な形で活用されています。
フレーミング効果は、焦点をあてられた要素を強調されて人の判断や意思決定が変化するものです。そのため、公平性が重視される人事評価においては、できる限りフレーミング効果に惑わされないことが大切です。また、社員のモチベーションを高めたいならば、人事評価の際にポジティブな要素にも積極的に焦点をあてることが大切です。
本記事を参考に、フレーミング効果について正しく理解して、より良い人事を行いましょう。
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