目次
ゲインロス効果は、人の印象形成や評価に大きな影響を与える心理現象です。効果の特性を理解することで、ビジネスや恋愛にも応用できます。本記事では、ゲインロス効果の基本概念や具体的な活用方法、注意点を詳しく解説します。
ゲインロス効果とは?
ゲインロス効果は、最初にネガティブな印象を与えた後にポジティブな印象を与えると、ポジティブな印象がより強くなりやすいという現象を指します。この現象は、プラスとマイナスの変化による感情のギャップによるものです。
例えば、最初は冷たい人が後で優しくすると、その優しさがより強く感じられます。逆に、最初は親切だった人が突然冷たくなると、その冷たさがより強く感じられるというものです。
ゲインロス効果は、低評価から高評価に変わる(ゲイン)と、高評価から低評価になる(ロス)の2つの心理を合わせて命名されています。ビジネスや恋愛の場面においてよく見られる現象です。
ゲインロス効果を実証した実験
ゲインロス効果は、以下の実験によって実証されています。
- 実験のサポート役であるAさんと、被験者であるBさん(実はサクラ)に会話をさせる
- その後、Bさんと別の実験者に会話をしてもらい、会話の中でAさんの評価を伝えてもらう
- Aさんに、Bさんと別の実験者の会話を盗み聞きさせる
Bさんが、別の実験者にAさんの評価を伝えるにあたって、次の4つのパターンを設定します。
- 最初から最後まで褒める
- 最初から最後まで悪口を言う
- 最初は褒めて最終的に悪く言う
- 最初は悪口を言って最終的に褒める
この実験を80人の女子学生に実施した結果、評価が高かったのは4→1→2→3の順でした。
つまり、最初は褒めて最終的に悪く言うパターンが、最も印象が悪いという結果が出ています。
ゲインロス効果の発生理由
ゲインロス効果は、印象のギャップによって最初にネガティブな印象を与えた後にポジティブな印象を与えることで、最終的なイメージがよりポジティブになる現象です。逆に、最初にポジティブな印象を与えた後にネガティブな印象を与えると、イメージがよりネガティブに傾くことがあります。人は予想外の変化やギャップに対して強い印象を受けやすいです。そのため、最初に低い期待を持たせた後に良い結果を示すことで、ポジティブな印象が強調されます。
・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化
恋愛においてゲインロス効果を活用する方法
恋愛の場面でゲインロス効果を活用することで、相手により好印象を与えられます。ここでは、具体的な方法を3つ紹介します。
- 初対面では控えめな態度を取る
- 印象とは逆の行動をする
- 厳しさの中に優しい一面見せる
順番に解説します。
初対面では控えめな態度を取る
初対面で控えめな態度を見せることで、相手はあなたを「おとなしい人」と認識します。その後にポジティブな側面を少しずつ見せることで、相手に与える印象を大きく変えることが可能です。
たとえば、初回は話の聞き役に徹し、自分からはあまり話さないようにします。2回目は会話の中でユーモアを交えたり、相手の話に真剣に耳を傾けたりすることで、ポジティブな印象が残るのです。
このように最初の印象が控えめであるほど、その後のポジティブな行動が際立ち、相手に好感を持たれる可能性を高めることができます。
印象とは逆の行動をする
恋愛においてゲインロス効果を最大限に活用するためには、意図的に印象と逆の行動を取ることも有効です。たとえば、いつもはちょっと頼りない印象の人が大きな仕事をしていたり、大事な場面でも物おじしなかったりすることで、相手に強い印象を与えることができます。
このような予想外の行動は、相手にとってポジティブな印象となり、あなたの魅力が引き立つでしょう。
厳しさの中に優しい一面を見せる
普段は厳しい態度を見せつつ、時折優しい一面を見せることも効果的です。たとえば、職場では厳しい印象を持たれている人が、お年寄りや子どもに対して親切に接したり、さりげなく気遣ったりすることで、相手に優しい人という印象を与えます。
このようなギャップが相手にとって新鮮であり、ポジティブな印象が強くなるのです。厳しさと優しさのバランスを取りながら接することで、相手に「この人はただ厳しいだけでなく、優しさがある人だ」と感じさせられます。
ビジネスにおいてゲインロス効果を活用する方法
ビジネスにおいてもゲインロス効果の活用が可能です。具体的な活用例を3つ紹介します。
- 自分の評価を高める
- 商品の魅力を高める
- プレゼンテーションで活用する
自分の評価を高める
ゲインロス効果を利用することで、自分の評価を高めることにつながります。初めは、あえて自分のスキルや知識を隠し、少し控えめな印象を与えることがポイントです。
たとえば、会議の初めのほうでは、他の人の意見をしっかりと聞き理解を示すことで、協調性のある人物だと思われます。その後、徐々に的確な意見を述べたり、課題を指摘したりすることで、ポジティブな印象が際立ち、高く評価されやすいでしょう。
このように、最初は控えめな態度を取り、徐々に実力を示していくことで周囲の期待を上回り、自分の評価が高まりやすいです。
商品の魅力を高める
商品の魅力を高めるために、ゲインロス効果を活用する方法もあります。たとえば、商品のデメリットを先に伝えておき、その後に優れた点を強調するという方法です。
たとえば「この商品は、他社製品と比べて少し重いという弱点がありますが、その分、耐久性に優れ、長くお使いいただけます」こう伝えることで、商品のデメリットが逆に信頼感を生み、他社と比較して弱点となるところがメリットに感じられます。
ただし、欠点を強調しすぎると逆効果になるので、バランスを考えて実践することが大切です。
プレゼンテーションで活用する
プレゼンテーションの場面でも、ゲインロス効果を活用できます。たとえば、提案するアイデアの課題や懸念される点を先に述べ、その後にそれらを解決する方法やメリットを説明するという方法です。
一例として「この案には一時的にコストはかかってしまいますが、長期的に見ると大幅なコスト削減につながります」といった具合に、課題を先に述べます。こうすることでゲインロス効果が働き、後から説明した解決策やメリットに、より強いインパクトを与えることができます。
人事担当者がゲインロス効果に惑わされないようにするポイント
人事担当者がゲインロス効果に惑わされると、人事評価において公平性を損なう恐れがあります。影響を受けずに適正な評価を行うには、以下3つのポイントを押さえておきましょう。
- 評価基準を明確にする
- 透明性のある評価制度を導入する
- 複数で評価する
それぞれ解説します。
評価基準を明確にする
人事担当者がゲインロス効果に惑わされないためには、人事評価の基準を明確にすることが重要です。評価基準が曖昧だと担当者の主観が入りやすくなり、最初の印象が評価に影響を及ぼします。
たとえば、業績評価や能力評価など、評価する項目を具体的に定め、それぞれの項目に対して明確な基準の設定が必要です。こうすることで、評価者全員が同じ基準で評価できるようになり、公平で一貫性のある評価を実現できます。
透明性のある評価制度を導入する
評価制度の透明性を高めることも、ゲインロス効果に惑わされないためのポイントです。評価の根拠や結果について公開することで、社員は評価に対する納得感を高められます。
一例として、評価の際に使用するフォーマットを公開し、何を評価しているのかがわかるように、評価の視点や基準を明らかにするとよいでしょう。また、評価結果について個別にフィードバックすることも必要です。
フィードバックの際に、評価の根拠を具体的に説明することで、評価に対する納得感を得られやすくなります。
複数で評価する
複数の評価者による多面評価も効果的です。単独の評価者による評価では、どうしても主観が入りやすくなります。しかし、複数の評価者が関わることで、各評価者の主観的な偏りがなくなるため公平な評価につながります。
たとえば、評価をマネージャーと部長の2段階で行うことです。上司が評価を行う場合、印象や主観に影響されやすいですが、複数で評価することで公平な評価を行うことができます。また、上司だけでなく同僚や部下から個人を評価できる360度評価というものもあります。多角的に評価ができるため、取り入れる企業が増えています。
タレントマネジメントシステムの活用
ゲインロス効果を避けるためには、印象や主観を排除した明確な評価基準が必要です。しかし、どんなに気をつけても、人の目では主観が入ってしまうことがあります。
このような場合は、タレントマネジメントシステムを活用することで、不公平さの根源となる印象や主観を抑えることが可能です。
まず、社員一人一人のスキルや経験、適性などの情報を集約します。次に、明確な評価基準をシステムに組み込みましょう。たとえば、営業職なら売上目標達成率、企画職ならプロジェクトの完成度などです。こうすることで、主観的な判断を排除した客観的な評価が実現できます。
また、システムで過去の評価結果をすべて蓄積できるため、上司が変わったとしても過去データを参考にしながら評価することができ、印象や主観など属人的な評価になることを避けられます。
タレントマネジメントシステムの活用方法は、こちらの記事で詳しく紹介していますので参考にしてみてください。
【関連記事】
【事例付き】タレントマネジメントとは?目的、システム導入や比較・活用方法
ゲインロス効果の注意点
ゲインロス効果は、使い方を誤ると逆効果になることもあるため、注意が必要です。ここでは、ゲインロス効果を効果的に活用するための注意点を3つ紹介します。
- ネガティブ要素を入れすぎない
- ギャップを大きくしすぎない
- 必要な人にだけ活用する
一つずつ見ていきましょう。
ネガティブ要素を入れすぎない
ゲインロス効果を活用する際は、ネガティブな印象を与えるのは最初の段階だけにすることが重要です。あまりにも長くネガティブな印象を与え続けると、その後もポジティブな印象に変わらない可能性があります。
たとえば、社員に対して評価のフィードバックをする際に、欠点ばかりを何度も強調しすぎると、その後に褒めても評価されたと実感しないでしょう。初期のネガティブ印象が長引くと、モチベーションが低下し、その後の仕事にも悪影響を与えることがあるのです。
したがって、ネガティブな印象は、あくまで「初めの印象」として、少しだけにしましょう。
ギャップを大きくしすぎない
ゲインロス効果は、ネガティブからポジティブ、またはその逆への変化が大きいほど効果的です。しかし、あまりにもギャップを大きくしすぎるのは避けましょう。極端な変化は不自然さや不信感を与える可能性があります。
たとえば、商品の広告で過度に誇張した表現をすると、顧客の期待を裏切り、信頼を失うでしょう。そのため、ゲインロス効果を利用する際は、適度なギャップを意識することが必要です。
必要な人にだけ活用する
ゲインロス効果は、どんな場面でも効果的とは限りません。相手との関係性や状況を見極め、適切なタイミングで活用することが大切です。
たとえば、初対面の人に、いきなりネガティブな印象を与えてしまうとポジティブな印象を与えられないまま終わってしまう可能性があります。ある程度のコミュニケーションが取れ、信頼関係を築いた上でゲインロス効果を活用するようにしましょう。
このように、ゲインロス効果を戦略として使う場合は、活用する場面を見極める必要があります。
ゲインロス効果に類似した心理現象
ゲインロス効果には、他にも似た心理現象があります。いずれも、人の印象や意思決定に影響を与えるという点で共通していますが、メカニズムに違いがあるのが特徴です。代表的な以下の2つの現象について解説します。
- ハロー効果
- 認知的不協和理論
順番に見ていきましょう。
ハロー効果
ハロー効果とは、ある一部の特徴的な印象に引きずられて、全体の評価に影響が出てしまう現象のことを指します。たとえば、容姿がきちんとしている人は、性格もよいと思い込んでしまうことなどです。
ハロー効果には、ポジティブな印象に引きずられる「ポジティブ・ハロー効果」と、ネガティブな印象に引きずられる「ネガティブ・ハロー効果」の2種類があります。ゲインロス効果との共通点は、最初の印象が大きな役割を果たす点です。
ハロー効果が「一部の印象」に引きずられるのに対し、ゲインロス効果は「印象の変化」に影響している点が異なります。また、ハロー効果は単一の印象で全体を評価しますが、ゲインロス効果は、初めのネガティブな印象と後のポジティブな印象のギャップが評価に影響します。
<関連記事>ハロー効果とは?ビジネスで活用されるハロー効果の事例
認知的不協和理論
認知的不協和理論は、矛盾する認知や態度を持つと不快感を抱き、その不快感を解消するために態度や行動を変える現象です。例えば「ダイエットしたい」という目標と「特別な日だから好きなものを食べてもいい」という欲求があった場合、矛盾が生じる認知によってストレスが生じます。
このストレスを軽減するために、好きなものを食べる行為を、自分の都合がよいように一方を正当化してしまうのです。認知的不協和理論は矛盾する認知のうち、どちらかを変更したり、新たな認知を加えたりすることで不協和を解消しようとします。
ゲインロス効果との共通点は、どちらも認知の変化を伴う点です。しかし、認知的不協和理論では「自分の内面の矛盾」が原因であるのに対し、ゲインロス効果は「他者からの評価の変化」に起因します。
まとめ
ゲインロス効果は、マイナス印象を与えた後にプラスの印象を与えると、プラスの印象がより強くなりやすくなる現象です。効果的に使えば、他人の評価や印象をコントロールできます。しかし、過度の活用には注意が必要です。
とくに、ネガティブな要素を入れすぎないことやギャップを大きくしすぎないこと、活用する人を見極めることが重要となります。
また、人事担当者がゲインロス効果に惑わされないようにするためには、評価基準を明確にした透明性のある評価制度を導入し、複数の評価者で評価を行うことが重要です。さらに、タレントマネジメントシステムを活用することで、初期印象に左右されない公正な評価が実現します。社員のモチベーションアップには誰もが納得できる人事評価が欠かせません。
「HRMOSタレントマネジメント」を活用すれば、評価基準の明確化や、透明性のある評価制度、複数による人事評価が実現可能です。蓄積された客観的なデータから分析して評価を行うことで、一部の現象や印象に影響されない公平な人事評価が実現できます。
HRMOSタレントマネジメントの導入事例を見る