認知的不協和とは?具体例や解消法と、マーケティングや人事施策への活用術を解説

「認知的不協和」という言葉を何となく聞いたことがあっても、その正確な意味は知らないという人も多いのではないでしょうか。認知的不協和は心理学で確立された理論です。日常や仕事など数々の場面で陥りがちな心理状態ではありますが、正しく知っておくことで適切に対処しつつ、さまざまな場面で活用することができます。

この記事では、日常生活やビジネスシーンにおける認知的不協和の事例について、身近でイメージしやすいことを用いて紹介します。あわせて認知的不協和の解消法や、マーケティング、人事施策、自己成長などにおいて認知的不協和理論を活用する方法をわかりやすくご紹介します。

認知的不協和とは

認知的不協和理論とは、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された理論です。

認知的不協和とはどのような概念か

認知的不協和とは、個人の持つある認知と、他の認知との間に不協和(不一致や矛盾)が生じた状態のことを指します。人は矛盾に遭遇したとき不快感を覚えるため、何とかして解消しようと考え、認知の定義変更や過小評価を行うことで行動の正当化を図ったり、認知と異なる現実を変えるための行動を起こしたりします。

認知的不協和は、日常生活やビジネスシーンなどさまざまな場面で起こり得ます。

レオン・フェスティンガーによる認知的不協和理論

認知的不協和理論を提唱したレオン・フェスティンガーは、矛盾した2つの認知がある場合、人はその不協和を解消するために比較的変えやすい方の認知を変えようとすると述べています。

フェスティンガーは、A と Bの2 つのグループに分けた学生に共通の課題を与えました。

A:学生に単調でつまらない作業を行わせる

B:次に同じ作業をする別の学生にその作業の楽しさを伝えさせる

さらに、Aの学生グループには高額な報酬を払い、Bの学生グループには低額な報酬を支払いました。

実際には単調でつまらない作業であるにもかかわらず、楽しいと語らなければならないため、認知的不協和が起こります。

その結果、報酬が少ないBの方が報酬が高いAに比べ、楽しさを強調する度合いが高いという結果になりました。どちらのグループの学生にも認知的不協和は起こりましたが、割に合わない報酬を得たBの方が「本当は楽しいのかもしれない」と認知に修正を加えることで、不協和を解消しようとする心理が強く働いたと考えられるということです。

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日常生活における認知的不協和の具体例

喫煙、買い物、恋愛など日常生活の場面で認知的不協和は起こり得ます。具体的な例を紹介します。

喫煙者が抱える典型的な認知的不協和

認知的不協和の代表例のひとつが、喫煙者の心理状態です。

喫煙者の中には、タバコは身体に悪いと知りつつも、なかなかやめられないという人も多いでしょう。タバコは害があるという知識と、実際にはタバコを吸っているという事実は矛盾するため、認知的不協和を抱えている状態です。

タバコを吸うことをやめられれば不協和は解消しますが、禁煙するのは簡単ではありません。すると、人は変えやすい方の認知を変えようとします。

例えば「タバコを吸っていても長生きしている人もいる」という新たな認知を付け加えたり、「タバコを吸うことでストレス解消になり健康によい」など認知を変化させたりすることで、矛盾を軽減しようとします。

衝動買いした後の後悔と正当化

買い物も認知的不協和が見られやすい場面です。

衝動買いをして後悔した経験は誰しもあるでしょう。このとき「買う必要がなかった」という認知と「すでに買ってしまった」という認知の間に不協和が起きています。

「すでに買ってしまった」という事実は変えることができないため、人は買って良かった理由を探すことで「買う必要がなかった」という認知を修正し、購入を正当化しようとします。

恋人と別れることができない

恋愛においても認知的不協和が起こり得ます。

浮気をしたり暴力をふるったりする恋人と別れた方がよいと思いつつも、なかなか別れられないというケースなどです。この場合、幸せになりたくて恋人と付き合っているが、その恋人に傷つけられて幸せではない、という矛盾が生じています。

恋人と別れることができればその矛盾は解消されますが、「別れようと言うと何をされるかわからない」「別れたら不幸になる」などの理由から別れる決断ができない場合は、「恋人にも優しいところがある」「それでも恋人を愛している(だから私は幸せ)」と認知を変えることで不協和を解消しようとします。

ビジネスシーンにおける認知的不協和の具体例

ビジネスシーンでも認知的不協和が見られます。具体例を紹介します。

低賃金でも働き続けるやりがい搾取の罠

ずっと夢だった仕事に就いた人や、苦労して入社した会社で働いている人などが、給料が安いことに不満を抱きながらも、なかなかその仕事をやめられないというケースがあります。

このとき「やりたい仕事をしている」と「給料に不満があり会社をやめたい」という相反する状況下で、認知的不協和が起きています。

そうした気持ちを解消するために「世の中には好きな仕事ができない人もいるから、給与が安くても我慢しなくては」「やりがいがある仕事は待遇面が悪くても仕方がない」といった認知に変えることで、低賃金に甘んじてしまうのです。

こうした労働者の心理につけこんだ「やりがい搾取」は、近年社会問題となっています。

年下の部下が昇進した際の複雑な感情

近頃では年功序列という言葉が時代遅れになりつつありますが、それでもやはり年下の部下が自分より早く昇進したときに、複雑な感情を抱く人は多いでしょう。

これは「年下である」ことと「自分より早く出世している」ことに矛盾を感じ、認知的不協和が起こっている状態です。このようなときは「あいつは上司に気に入られているからではないか」などと思い込むことで、自分を納得させようとします。

キャリア選択と現実のミスマッチ

自分の意志で選んだ仕事が、実際にやってみると思っていたほど楽しくなかったり、自分に合っていないと感じたりした場合も、認知的不協和が起こります。

これを解消するためには、転職するなどして「自分がやりたいと思って選んだ」という1つ目の認知を変えようと行動するか、「今は楽しくないけれど、続けていけばきっと楽しくなる」と考えることで2つ目の認知を修正するか、いずれかの方法をとることになります。

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認知的不協和の解消法

人は、認知的不協和が起きるとストレスを感じるため、解消しようとします。具体的な認知的不協和の解消法をご紹介します。

脱価値化

認知的不協和とその解消行動として有名なのは、イソップ童話の「すっぱいブドウ」でしょう。

主人公のキツネがブドウを見つけますが、高い場所にあり手が届きません。「ブドウを食べたい」という気持ちと「ブドウが食べられない」という事実に折り合いをつけるため、「あのブドウはきっとすっぱくて不味いに違いない」と認知を修正し、「ブドウを食べたい」という気持ちを抑えることで認知的不協和を解消しようとする話です。

手に入らなかったものの価値を低めるアプローチで不協和の解消を図るこうした方法は、「脱価値化」と呼ばれます。

価値の付与</h3>

「すっぱいブドウ」とよく対比されるのが「甘いレモン」です。「すっぱいブドウ」とは逆で、実際の価値よりも高い価値があると思い込むことで、自分の考えを正当化するアプローチです。

「甘い果物が食べたい」という気持ちと「手元にはレモンしかない」という事実があったとき、人は認知的不協和に陥ります。そこで、「レモンはすっぱい果物だけど、このレモンは甘いに違いない」と思い込むことで2つ目の認知に価値を付与し、不協和を解消しようとするのです。

リフレーミング

リフレーミングとは、ある状況を別の枠組み(フレーム)から捉え直す思考法です。コップに入った半分の水を「もう半分しかない」と捉えるか、「まだ半分ある」と捉えるかによって、同じ水の量でも感じ方が異なります。

不協和を感じた際にリフレーミングの技術を用いてその状況を捉え直し、ネガティブな見方をポジティブな見方に変えることができれば、精神的なストレスを軽減させることができます。

行動を起こす

考え方を修正することで認知的不協和を解消する方法をいくつかご紹介しましたが、矛盾した状態を本質的に解消するためには、行動を起こすことが重要です。

喫煙者の例でいえば、禁煙外来に通うなどしてタバコをやめることです。タバコをやめさえすれば、身体に悪いと知りながらもタバコを吸っている、という矛盾に苦しむ必要もなくなります。

マーケティングに活用される認知的不協和の具体例

認知的不協和理論をマーケティングに活用する事例も多くあります。具体例を紹介します。

矛盾を含むキャッチコピーの効果

広告のキャッチコピーや書籍のタイトルなどに一見矛盾した内容を盛り込むことで、受け手に興味を引かせるマーケティング手法があります。

例えば「好きなだけ食べて痩せる」というタイトルは、「好きなだけ食べたい」と「痩せるためには食事制限をしなければならない」という矛盾する認知を持つ人にとって、その矛盾の解消に役立つ期待を感じさせます。このようにして消費者に製品やサービスの購入を促しているのです。

アフターフォローによる購買後の不安解消

新車の購入者の中に、購入した後に熱心にその車の広告を読んでいる人が多くいるという調査結果があります。これは「すでに商品を購入した」「自分の判断が正しかったのか不安がある」という、2つの認知の間で起こる不協和を解消しようとするための行動であると考えられます。

こうした消費者の不安を解消するために、アフターフォローを充実させることが有効であるとされています。

例えば、購入後にお礼メールを送る、使い方を紹介する、クーポンを付与するなどの施策によって、消費者に「買ってよかった」と思ってもらい、顧客満足度を高めるとともにリピート購入につなげることができます。

購入する必要性を示して購買意欲を正当化する

ある商品の購入を迷っている顧客がいるとします。その人は商品が欲しいという気持ちと、価格が高いため買うべきではないという考えとの間で不協和を抱えています。そんなときに「高くても買う理由」を伝えることができれば、その人は購入を決断することができるでしょう。

「値段が高い方が効果が高いはずだ」と考える消費者心理が働く分、安価なものよりも高価なものの方がよく見えるという効果もあります。こうした効果を活用して、高額な商品を販売するビジネスもあります。

人事領域における認知的不協和の事例と対応

人事領域においても認知的不協和が起こりやすい場面があります。適切に対処することでポジティブな効果を生み出すことができます。具体例を紹介します。

採用活動での候補者の不安解消

採用候補者は「新しい環境でチャレンジしたい」という思いと、新しい環境への適応や能力不足への懸念、給与や待遇への不安などを同時に抱えた不協和状態にあります。

具体的な情報提供をすることで不安を解消し、前向きなチャレンジを後押しすることができれば、採用候補者本人にとっても企業にとっても望ましいことです。

また入社後に理想と現実のミスマッチにより認知的不協和が起こった場合、それを解消する手段として退職を選んでしまうことが考えられます。退職率を下げるためには、採用活動段階で具体的な情報提供をしっかり行い、ギャップを生まないことが大切です。

従業員のモチベーション管理

組織の目標と個人の価値観との間にギャップがあると、認知的不協和が生じます。この不協和を軽減するためには、組織の目標をわかりやすい言葉で伝えることはもちろん、個人の価値観を紐解き、組織目標との接点を見つける作業が必要になります。上司やリーダーが1on1などで、メンバーとしっかりコミュニケーションをとることが大切です。

さらに、組織の目標と個人の価値観の整合性がとれる、具体的なキャリアパスを提供することも上司の役割です。

メンバーの認知的不協和が起きていないかに気を配り、退職などのネガティブな行動で不協和を解消することを阻止し、ポジティブに認知を変えることで解消できるようなサポートをしましょう。

<関連記事>「1on1とは」「モチベーション理論

組織変革時の抵抗感への対処

ビジネスの推進にあたり、戦略に基づいた組織変革は避けて通れません。しかし人は基本的に保守的なので「変わりたくない」という思いを持っています。メンバーからすれば「変わりたくない」にもかかわらず「変わることが求められる」状況になってしまうので、ここに認知的不協和が生まれます。

不協和を解消するために、こうした従業員心理をきちんと認識したうえで、変革の必要性を明確に伝えましょう。変革を通じて組織や個人にどんなメリットがもたらされるのか、現状維持が組織にとってどんなデメリットをもたらすのか、具体的に伝えることで、変革へのレディネス(準備状態)を醸成することができます。

変革の意思決定にメンバーを参加させることも効果的です。このような取り組みにより、「変わりたくない」という認知を「変わりたい」へと修正していくことができるでしょう。

社内での認知的不協和の軽減にタレントマネジメントシステムを

タレントマネジメントシステムを活用することで、社内で起きうるさまざまな認知的不協和を軽減することができます。

例えば、ポジションに求められるスキル要件と個人が持つスキルの可視化により、採用ミスマッチの軽減や効果的な人材育成が可能になります。個人の強みや希望を生かした目標設定やキャリアパスの提示も可能になるため、従業員はモチベーション高く働くことができるでしょう。

また、評価基準や昇進プロセスの明確化により透明性が向上することで、納得感の高い人事が可能となります。

<関連記事>タレントマネジメントとは?

認知的不協和を生かした自己成長の方法

認知的不協和を自己成長の機会と捉え、活用することもできます。

客観的な自己分析

自己の認知に矛盾が生じていると、何となくモヤモヤとした気持ちになるでしょう。

そんなときは自身の価値観や信念を見つめ直すチャンスです。今自分は何を望んでいて、どんな状況にあるのか。何に矛盾を感じているのかに目を向けることで、自分自身を知るヒントになるでしょう。

不快感をモチベーションに変える

認知的不協和が起きると、人はその不快感を解消しようとします。この現象を逆手にとり、行動を起こすモチベーションにつなげることができます。

例えば、自分が希望するポジションに就くためのスキルが達していない場合に、そのギャップを埋めるための勉強をすること。望んだ仕事と異なる仕事を与えられた場合に、その仕事に新たな価値を付加して前向きに取り組むことなどで、結果的に自己成長へとつながっていくでしょう。

【まとめ】 認知的不協和理論を活用して組織開発につなげよう

認知的不協和とは、個人の持つある認知と、他の認知との間に矛盾が生じた状態のことです。日常生活やビジネスシーンなどさまざまな場面で起こり得ます。不協和状態が長く続くとストレスの原因になりますが、起こりやすい場面やメカニズムを知っておくことで適切に対処することができます。

また、この現象を逆手にとってポジティブに活用することもできます。特に、マーケティングや組織開発の分野においては認知的不協和理論を活用した施策が多く実施されています。

認知的不協和の解消にはタレントマネジメントシステムの活用を

HRMOSタレントマネジメントでは、評価管理機能や組織・個人サーベイ機能などにより認知的不協和が起きている状況を可視化できます。さらに人材データベース機能を活用して、従業員のスキルや志向性に合った人材配置をすることで、認知的不協和の解消に役立てることができます。

組織や個人の認知的不協和を解消し、組織パフォーマンスを向上させたいと考えているなら、ぜひタレントマネジメントシステムをご検討ください。

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