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近年、企業における人事評価の重要性が高まる中、評価の公平性と透明性を確保するためのキャリブレーションが注目を集めています。本記事では、人事評価におけるキャリブレーションの意義から具体的な実施方法、さらには組織への効果まで、詳しく解説していきます。
キャリブレーションとは
キャリブレーションとは目盛りを意味する言葉で、具体的には標準器を用いて計測器が正しい値になるよう調整する作業を示す言葉です。
人事評価の文脈では、評価者間での評価基準の調整や統一を図るプロセスを指します。キャリブレーションは、組織全体で一貫性のある評価を実現し、公平で透明性の高い評価システムを構築するために重要な工程です。
人材の能力を最大限に引き出し、自社の中で活躍し続ける状態をつくることが企業経営、特に人事戦略にとっての要となります。
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人事評価におけるキャリブレーションの役割
人事評価制度の信頼性と効果を高めるうえで、キャリブレーションは不可欠な要素となっています。人事評価におけるキャリブレーションの役割を説明します。
評価の公平性と透明性の向上
キャリブレーションは、評価基準を明確化して組織全体の評価プロセスの透明性を大きく向上させる役割があります。キャリブレーションを行うことで、評価者のスキルや経験によって評価にばらつきが出ることを防ぎ、客観的な評価指標に基づいた公平な評価を実現することが可能となります。
特に、評価の根拠となるデータや基準を明示することで、従業員は自身の評価結果をより深く理解できるようになります。また、評価プロセスの透明性確保は、従業員の評価制度への信頼感を高め、自己啓発やキャリア開発への意欲向上も期待できるでしょう。
評価者バイアスの軽減
評価者それぞれの価値観や経験が異なるため、人事評価にはバイアスが発生しやすいです。評価の最終段階で行うキャリブレーションには、評価者バイアスを軽減する役割もあります。
例えば、評価期間の直前にパフォーマンスが一時的によかった従業員を過大評価する「近接効果」や、自分と似たようなタイプの従業員を高評価にしてしまう「類似性バイアス」など、さまざまなバイアスが人事評価に影響を与える可能性があります。
キャリブレーションプロセスでは、複数の評価者による綿密な議論と検証を通じて、こうした主観的バイアスの影響を最小限に抑えることが期待されています。
組織全体の評価基準の統一
キャリブレーションは、組織全体の評価基準を統一する役割も担います。全社で人事評価を統一したいと考えていても、部門や職種が違えば評価基準にばらつきが生じるものです。各部門が好き勝手に評価を実施してしまうと、組織全体の基準が曖昧になり、従業員の納得感を得られにくくなるでしょう。
キャリブレーションを通じて組織全体の基準を明確にすることで、一貫した人材育成方針を示すことができ、効果的な人材活用が可能になると考えられます。
キャリブレーションのプロセスと実施方法
キャリブレーションを効果的に実施するためには、適切な評価基準の設定とツールの活用が重要です。以下では、具体的なプロセスと実施方法について説明します。
評価基準の設定と共有
キャリブレーションの最初のステップは、土台となる評価基準の設定と組織全体での共有です。評価基準には、定量的な業績指標だけでなく、行動評価や期待される成果なども含める必要があります。
特に重要なのは、各職位や役割に応じて求められるコンピテンシーを具体的に定義することです。例えば、リーダーシップ、イノベーション力、チームワークなどの要素について、それぞれどのようなレベルが求められるのかを明確にします。
これらの基準は、評価者と被評価者の双方が明確に理解できる形で文書化し、定期的な研修やワークショップを通じて浸透を図ることが重要です。
<関連記事>コンピテンシーとは?面接評価や目標管理への使い方をわかりやすく解説
評価者間のディスカッション
評価の質を高めるうえで不可欠なのが、評価者間での活発なディスカッションです。複数の評価者でディスカッションの場を設けて、評価者間で目線あわせを行いましょう。
現場で評価を担う評価者(マネージャー陣など)をはじめ、人事担当者、担当執行役員なども同席することで、客観性や透明性を持たせることが可能です。各評価者がどのような視点や基準で評価を行ったのか、従業員に何を期待しているのかなど、具体的な事例や観察結果を共有しながら議論を深めます。
このプロセスでは、評価の根拠となる事実や、評価者の判断基準の違いを丁寧に擦り合わせていくことで、より客観的で公平な評価が可能となります。
評価結果の調整と確定
評価者間のディスカッションを終えたら、メンバー評価の最終確定へと進みます。例えば「HRMOSタレントマネジメント」の目標・評価管理では、メンバー評価を一覧で閲覧しながら評価調整ができるため、キャリブレーションの最終調整をスムーズに行うことが出来ます。
一覧画面から直接評価を入力することで、全体のバランスを見ながら甘辛調整がしやすく、メンバーや部門間での評価傾向の違いを是正しながら組織全体での公平性を担保します。
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キャリブレーションがもたらす組織への効果
適切なキャリブレーションの実施は、組織にポジティブな影響をもたらします。ここでは、キャリブレーションによって期待される効果を3つご紹介します。
人事評価制度に対する信頼性の向上
キャリブレーションを通じて実現される公平で透明性の高い評価プロセスは、従業員の評価制度に対する信頼感を向上させます。評価基準が明確で、自分に期待されていることを理解できれば、従業員は自身の評価結果をより前向きに受け止めることができるでしょう。
組織全体のパフォーマンスの最適化
キャリブレーションで組織全体の基準を明確にすることで、組織全体のパフォーマンス向上にも大きく貢献します。評価者間のディスカッションを通して、各従業員の強みと課題を正確に把握することができ、個々の能力を最大限に生かせるポジションへの配置もしやすくなるでしょう。
また、評価結果に基づく効果的な育成プログラムを提供すれば、組織全体のさらなるレベルアップも期待できます。
従業員エンゲージメントと定着率の向上
公平な人事評価と適切なフィードバックの提供は、従業員のモチベーション向上に直接的な影響を与えます。
商工中金の『中小企業の従業員エンゲージメントに関する調査』によると、中小・中堅企業の従業員エンゲージメント向上にむけた各施策の取り組み状況では、人事評価制度に「現在取り組み中」「取り組んでいないが必要性を感じる」の回答をあわせ事ると58.5%となり、「取り組み済みで効果あり」の回答数とあわせると70.1%となりました。
また、従業員エンゲージメントは定着率に影響するといわれており、エンゲージメントスコアが高いほど離職率が下がる傾向となっています。すなわち、キャリブレーションを通して人事評価制度の透明性を高めることで、従業員エンゲージメントや定着率によい影響を与えられると考えられます。
参考:商工中金「中小企業の従業員エンゲージメントに関する調査((2023年8月 商工中金景況調査 トピックス調査分))」
効果的なキャリブレーションを実施するためのポイント
人事評価においてキャリブレーションを効果的に実施するためのポイントをご紹介します。
古い評価基準・制度の見直し
組織の成長や事業環境の変化に応じて、評価制度も進化させていく必要があります。新規事業を開始したタイミングや、社内で新しいポジションを創設したときはもちろんのこと、社会の価値観の変化にあわせて適宜制度を見直す必要があるでしょう。例えば、コロナ禍のように、一時的に全社をテレワークに切り替えた際に、評価制度の刷新に踏み込んだ企業も見られました。
透明性高く、客観的な評価制度の運用とキャリブレーションを継続していくためには、適切なタイミングで評価制度の見直しを実施しましょう。
適切な評価指標(項目)の設定
キャリブレーションの効果を高めるには、評価指標(項目)を適切に設定することが重要です。定量的な指標と定性的な指標をバランスよく設定することが求められます。例えば、定量的な指標の例としては、売上や生産性などの数値目標を掲げて、定性的な指標としてはチーム貢献度やリーダーシップなどの行動特性を設定しましょう。
また、一般的な評価項目には業績評価、能力評価、情意評価があります。それぞれを適切に設定することで、キャリブレーション実施がスムーズになるでしょう。
フィードバックの充実化
キャリブレーションの効果を高めるには、評価結果を単なる数値として伝えるのではなく、具体的な成果や課題、期待される行動について、丁寧なフィードバックを提供することが重要です。
また、評価者同士のフィードバックも非常に重要です。キャリブレーションの場で評価者同士が「なぜこの従業員にこの評価をつけたのか」「他の人がどう評価しているのか」を伝え合うことで、評価者自身のレベルアップも期待できます。
人事評価の方法を体系的に学ぶ機会は一般的に少ないと考えられますが、キャリブレーションでのフィードバックを充実化することで、人事評価の理解度やスキルを高めていくこともできるでしょう。
タレントマネジメントの活用
キャリブレーションに取り組む際は、タレントマネジメントの活用も有効です。客観的な人事データをもとに評価を行うことで、キャリブレーションの効率化と精度向上が期待できます。
また、評価データをタレントマネジメントに一元管理することで、部門間での評価のばらつきに気付いたり、経年変化を容易に把握したりすることが可能となります。人事評価そのものの作業負担を軽減できるので、より本質的なキャリブレーションのディスカッションに注力できるでしょう。
<関連記事>【事例付き】タレントマネジメントとは?目的、システム導入や比較・活用方法
キャリブレーションの課題と対策
最後に、キャリブレーションを導入する際の課題と対策について解説します。
リソース配分の最適化
キャリブレーションの実施には、評価会議の設定や調整作業など、相応の時間と労力が必要となります。特に規模の大きな組織では、評価者の人数が多く、キャリブレーションの会議に終日を費やすことも想定されます。
人事業務は評価以外にも多岐にわたることや、評価者は日ごろ業務で追われていることを考えると、リソースを効率的に配分する工夫が必要です。例えばオンラインツールを活用した事前準備や、階層的なキャリブレーション会議の実施などの対策が考えられます。
評価者バイアスへの対策
キャリブレーションを実施する際は、評価者のバイアスが生じていないか確認が必要です。複数名で評価の調整を行っていても、多数派同調バイアスによって評価が偏る可能性もあります。キャリブレーションにおけるバイアスを防ぐためには、評価基準の明確化や評価者トレーニング(バイアスをテーマとした研修など)をはじめ、タレントマネジメントの活用もおすすめです。
人事業務で生じやすいバイアスについて、以下の記事でも詳しく解説しています。
<関連記事>バイアスとは?意味と使い方、種類を一覧でわかりやすく解説
組織規模に応じた運用設計
キャリブレーションだけでなく、人事評価制度は組織規模や特性に応じて、正しく運用設計をすることが不可欠です。人事評価制度にもトレンドがありますが、他社が成功した評価制度が必ずしも自社にフィットするとは限りません。
対策としては、同規模・同業種の人事評価制度の構築を得意とする専門家に協力を仰いだり、客観的なデータに基づいた制度立案をしたりする方法が挙げられます。また、組織の特性の変化に気付くためにも、継続的にタレントマネジメントを活用して、組織状態をデータで可視化することをおすすめします。
まとめ
キャリブレーションは、組織の公平で効果的な人事評価を実現するための重要な取り組みです。キャリブレーションで評価者バイアスを軽減し、従業員に適切な評価のフィードバックを行う仕組みを作ることで、従業員エンゲージメントの向上や組織力強化につながります。
評価の客観性を保ち、変化し続ける組織に適応するには、タレントマネジメントの活用が欠かせません。キャリブレーションとタレントマネジメントを取り入れて、組織全体で一貫した評価基準を構築していきましょう。
タレントマネジメントの活用で公平な人事評価を実現
従業員一人一人のスキルを数値化し、客観的な評価を可能にするHRMOSタレントマネジメント。評価の甘辛調整機能により、部門間での評価の偏りを是正し、従業員の納得感を高めることができます。HRMOSタレントマネジメントを通して公平な人事評価を実現し、従業員のモチベーション向上と、組織全体の成長をめざしましょう。