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働き方改革の推進や感染症対策でのテレワークの浸透により、柔軟な働き方が認められるようになった一方で、コミュニケーションの希薄化が課題として浮き彫りになっています。
また、社会のグローバル化が進み、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が共に働くようになり、従業員同士の相互理解の重要性も高まっています。
このような状況で、注目を集めるコミュニケーション手法の1つが「アサーティブネス」です。
今回は、アサーティブネスの概要や実践方法、職場で実践することのメリットなどについて解説します。
アサーティブネスとは
「Assertiveness(アサーティブネス)」とは、本来「自己主張」を意味する英単語ですが、単なる一方的な主張とは異なります。相手の気持ちも尊重しながら、自分の気持ちや要望を伝えるコミュニケーション手法です。
相手の立場や感情、権利を尊重しながら、自分の気持ちや意見、要望を率直に伝えることが、アサーティブネスの基本です。
なぜなら、アサーティブネスに基づいたコミュニケーションの実践は、相互理解を深め、対人関係を改善するからです。
このような対話を重ねることで信頼関係が深まり、組織全体の生産性向上にもつながります。
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3つのコミュニケーションスタイル
コミュニケーションの方法は、大きく「ノンアサーティブ」「アグレッシブ」「アサーティブ」の3つに分類されます。
ノンアサーティブ:過度な遠慮や同調
アサーティブネスのないノンアサーティブ・コミュニケーションは、相手を尊重するあまり、自分の考えを主張できない受け身の自己表現を行うタイプです。受け身の姿勢であることから、パッシブと呼ばれることもあります。
ノンアサーティブタイプの場合、相手の気持ちを優先しすぎるため、たとえ相手の意見が自分の考えとは異なっていても、自分の考えを主張できません。本心を伝えられないため、相手には同意しているように感じられます。
同調はしても反対の意見は伝えられないために嫌なことを受け入れなければならない機会も多く、ストレスをため込みやすい傾向が見られます。
また、相手との対立を避けたいという意識が強いのもノンアサーティブタイプの特徴です。しかし、はっきりと相手を否定せず、曖昧な表現を用いると、相手に本心が伝わりにくく、かえって混乱させてしまう恐れもあります。
アグレッシブ:攻撃的な自己中心的
アグレッシブタイプは、強く自分の考えを主張するものの、相手の気持ちには配慮できないタイプです。
自分の考えが正しいと思い込む傾向があり、他者の意見を軽んじたり受け入れなかったりするなど、自己中心的な考えを持ちます。
強く自身の考えを主張し、相手の感情を軽視することが多いため、攻撃的な態度と捉えられがちです。
自分の考えの正当性を主張する姿勢は高圧的な態度に表れ、相手を萎縮させてしまうことも少なくありません。
さらに、一方的に自分の意見を主張するため、相手からの信頼を得にくく、良好な関係性は築きにくくなります。自己主張の強さや相手への配慮のなさがきっかけとなり、トラブルにつながる恐れもあります。
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アサーティブ:建設的な自己主張
相手の意見や気持ちに配慮しながら、自分の意見や感情を表現するコミュニケーションスタイルがアサーティブです。
ノンアサーティブのように自己主張を抑えるわけでも、アグレッシブのように一方的に意見を押し通すわけでもありません。
相手の意見や気持ちに配慮しつつ、自分の意見を明確に伝え、相互理解の中で納得解を探る考え方です。
組織においてアサーティブなコミュニケーションスタイルを取り入れることができれば、メンバーが対等な関係性で自由に自分の意見を言い合えるため、よりよい解決策を導くことができます。
また、このような開かれたコミュニケーション文化は、組織全体の心理的安全性を高め、健全な職場環境の土台づくりにもつながるでしょう。
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アサーティブネスがもたらす職場への影響
相手の気持ちも自分の気持ちも大切にするアサーティブネスは、相手に配慮しながらもしっかりと自分の考えを主張するコミュニケーション手法です。
アサーティブネスによって、職場のコミュニケーションが活性化すると、以下のようなメリットが生じます。
生産性の向上とイノベーションの促進
メンバーが相手にも配慮しながら、それぞれの考えや意見を主張すると、互いの考えを理解しやすくなります。
意思の疎通がスムーズになると、誤解によるミスやトラブルが減り、業務効率が改善するため、組織全体の生産性が向上します。
誰かの意見に同調するだけ、上司の主張を受け入れるだけでは、現状維持はできても新しい発想は生まれにくいものです。
しかし、アサーティブネスの実践によって自由な意見交換が促進されると、互いの意見が刺激となって新たな発想が生まれる可能性も高まります。
他者の考えに触れ、理解し、多角的な発想が融合されると、これまでにはない視点が生まれ、イノベーションの創出につながりやすくなるでしょう。
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メンタルヘルスの改善とストレス軽減
アサーティブネスは、職場におけるメンタルヘルスの改善にも有効です。
メンタルヘルスには、職場の人間関係による精神的なストレスが影響するといわれています。
特に、ノンアサーティブタイプな傾向の人は、自分の感情を抑制し、相手の主張を受け入れることで、精神的なストレスが溜まりやすくなります。
アサーティブなコミュニケーションが実現できるようになると、個人の意見や感情が尊重されるため、我慢を強いられるシチュエーションが減り、ストレスが軽減されます。
また、相手の気持ちも尊重するアサーティブネスは、アグレッシブタイプのような自己中心的な主張を抑えられ、ハラスメントの予防にもつながります。
ストレスが少なく、働きやすい職場環境が実現できれば、離職率の低下も期待できるでしょう。
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多様性を生かしたチームワークの醸成
ダイバーシティマネジメントが重視される今、アサーティブネスは多様な個性を尊重し合う職場づくりにおいても効果的です。
年齢や経験、考え方が異なるメンバーが、互いの価値観を尊重し合うためには、相手の感情や考えを尊重し、自分の考えも主張するアサーティブなコミュニケーションが欠かせません。
また、互いの意見が尊重される環境では、心理的安全性も高まり、自分の率直な考えを安心して発言できるようになります。相手の意見にも耳を傾け、建設的なフィードバックを交わすことで、組織内の信頼関係が高まり、チームワークも強化できます。
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アサーティブネスの4つの原則
アサーティブネスを実践し、相手と対等な関係を築くためには、「誠実性」「率直性」「対等性」「自己責任」という4つの原則を理解しておくことが欠かせません。
誠実性
誠実性とは、自分に対しても、相手に対しても正直に向き合おうとする姿勢のことです。
相手の気持ちも考えながら、相手にも自分にも嘘をつかずに、正直な気持ちを伝える誠実な態度は信頼関係を構築する際の第一歩となります。
例えば、本心を隠し、相手の意見に同調することは、誠実な態度とはいえません。相手の考えと自分の意見が異なる場合には、無理に同意したり、攻撃的に反論したりするのではなく、相手の意見をしっかりと受け止めたうえで、自分の考えを述べることが大切です。
誠実な態度で接することが双方向のコミュニケーションを活発化させ、良好な関係性の構築を促進します。
率直性
率直性とは、自分の考えや感情を、包み隠さずストレートに相手に伝えることです。
ノンアサーティブタイプの人は、相手の気持ちに配慮し過ぎる傾向にあるため、率直な意見を伝えることに苦手意識を抱くかもしれません。
しかし、婉曲な表現を用いて意見を述べた場合、相手によって解釈の違いが生まれるため、考えや思いが正しく伝わらない可能性があります。反対にアグレッシブタイプの人は、自分の気持ちをストレートに表現できますが、言葉選びに気をつけないと相手を萎縮させてしまう恐れがあります。
意見を伝えるときには、「私」を主語にして、自分の気持ちを飾ることなく、分かりやすい言葉を用いて表現することが大切です。
さらに相手の気持ちにも配慮しながら、感情的な表現ではなく、冷静に筋道を立てて意見を伝えるようにします。
対等性
アサーティブネスを重視したコミュニケーションを実践するうえでは、相手と対等な立場で意見を交換することも重要なポイントです。
上司と部下、先輩と後輩といった上下関係が成り立つ場合であっても、話し合いの場では、どちらかが優位に立つと、アサーティブネスは成立しません。
相手を萎縮させるような威圧的な態度が見られると、上司や先輩を前に気後れしてしまい、率直な考えを述べることが難しくなります。
反対に、自分の立場を卑下し、相手に遠慮をしてしまう態度も好ましい姿勢ではありません。活発に意見を交換し、誰もが自由に発言できる組織を目指すうえでは、対等な立場で向き合うように互いが意識し合うことも重要です。
自己責任
アサーティブネスは、対等な立場で、相手と自分に誠実に向き合い、率直な意見を伝えることで成立するコミュニケーションですが、自分の言動には責任を持たなければなりません。
発言の内容に責任を持つことはもちろんですが、発言しない場合も、そのことに責任が伴うことを自覚する必要があります。
話し合いの結果、自分の主張とは異なる結論に至ることもあるでしょう。その場合であっても、結果に対する責任をすべて相手に押し付けてはいけません。
どのような結果であっても、自分の発言も考慮されたうえで導かれた結果であると捉え、相手とともに結果に責任を持つことが大切です。
効果的に実践するフレームワーク「DESC法」
アサーティブネスを効果的に実践するための手法に「DESC法」があります。DESC法は、「Describe(描写)」「Express(表現)」「Specify(提案)」「Choose(選択)」の4つのステップで構成されるフレームワークです。
相手と良好な関係性を維持しながら、自分の考えを明確に伝える際に役立つことから、アサーティブネス研修として採用されるケースも多く見られます。
Describe(描写する)
DESC法では、まず目の前にある事実や状況、相手の行動などを客観的に描写します。
自分の感情や推測などは含めず、具体的に事実のみを伝えることが大切です。
第三者の視点で課題や状況を描写すると、相手に正確に伝えられます。
感情や推測が混ざると事実がゆがみ、誤解や不信の原因になります。冷静な語り口で、事実のみを伝える点を重視しましょう。
Express(表現する)
D(Describe)で事実を示したら、E(Express)では自分の感情や考えを率直に表現します。主語を「私」にして、どう感じているかをわかりやすく伝えます。
ただし、相手に威圧感を与えると、アサーティブネスは実現しません。気持ちを伝える際にも感情的になるのではなく、冷静に適切な言葉を選ぶことが重要です。
相手の立場に立ち、相手の感情も尊重することで、その後の対話もスムーズに進みやすくなります。
Specify(提案する)
相手に自分の気持ちを伝えたら、次はS(Specify)=提案です。
このステップでは課題解決に向けた具体的なアイディアを提案します。
相手に対し、受け入れてほしいことや対応してほしいことなどを伝えますが、あくまで提案であり、命令や強制になってはいけません。
一方的に押し付けず、相手が受け入れやすい内容・言い回しに配慮します。同時に、曖昧さを避け、取ってほしい行動や期限・基準などを具体的に示しましょう。
Choose(選択する)
DESC法の最後のステップがC(Choose)=選択です。
相手の反応を確認しながら、提案内容を受け入れた場合と、受け入れなかった場合の結果と選択肢を示します。
Specifyは提案することであり、提案内容を強制するものではありません。そのため、提案を受け入れないという選択がなされることも想定しておく必要があります。
提案が受け入れられなかった場合でも、そのまま話し合いを終わりにするのではなく、課題解決に向けて前向きに意見交換できるよう、代替案を提示する姿勢が重要です。
相手の選択肢を確認しながらコミュニケーションを重ねることで、相手の考えも理解しやすくなり、より強固な信頼関係を構築できるようになります。
アサーティブネス実践のポイント
アサーティブネスを実践することで、相手も自分もストレスを感じることなく、良好な関係での意思の疎通が可能になります。
ここでは、相手の気持ちを尊重しつつ自分の考えを「提案」という形で主張できるアサーティブネスの実践にあたって、気をつけたいポイントを3つご紹介します。
自分を理解する
アサーティブネスは、相手の気持ちに配慮しながら、自分の気持ちを相手に伝える自己表現です。
そのためには、まず自分自身の考えや感情を理解することが欠かせません。感情的にならず適切な言葉で思いを伝えるためにも、自己分析を通じて自分を冷静に把握することが大切です。
「Assertive」には、自己主張のほか「自信に満ち溢れている」といった意味合いも含まれます。自分の意見を主張するためには、自分自身を理解するとともに、自分の考えや主張に自信を持つことも重要です。
ボディランゲージを効果的に使う
アサーティブネスを実践する際には、表情やジェスチャー、声のトーンなど、ボディランゲージも活用すると、より自分の気持ちを相手に伝えやすくなります。
例えば、視線を合わせずに話すよりも、相手の目をしっかり見ながら、解決すべき課題について真剣に伝えた方が、相手にも誠意が伝わるでしょう。
ただし、ボディランゲージには、ネガティブに働く場合もあります。
目を合わせない、腕組みをする、顔をしかめるといったネガティブなボディランゲージは、相手に威圧感や不快感を与える恐れがあります。
アサーティブなコミュニケーションを図る際には、言葉選びだけでなくボディランゲージも上手に活用すると、よりよい関係性を構築できます。
フィードバックの技術を伸ばす
アサーティブネスは、上司から部下へのフィードバックを行う際にも活用できます。
部下が抱える課題を一方的に指摘するだけでは、相手を萎縮させる恐れがあります。さらに、部下のモチベーションを低下させる可能性も否めません。
改善点などネガティブな内容をフィードバックする際にも、主観や感情を含めず、冷静に事実を伝えたうえで、自分の考えやアイディアを伝えると、部下も自身の行動を顧み、提案を受け入れやすくなります。
フィードバックは、相手を批判するために実施するものではなく、改善を促し、よりよい成果を上げるために実施するものです。フィードバック時にもアサーティブネスを取り入れると、部下との信頼関係の強化にもつながります。
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まとめ
アサーティブネスは、自分も相手も大切にするコミュニケーション法です。
自分の意見を率直に伝える行為は、自分と相手に誠実に向き合う態度の表れであり、その態度が双方向のコミュニケーションを活性化させます。
自由に意見を伝えられるようになると、ストレスも軽減し、互いの理解を深められるため、メンタルヘルスの改善や生産性の向上にもつながります。
また、アサーティブネスを実践したフィードバックを行うことで、上司と部下の関係性も改善し、より強い組織の構築が期待できます。
アサーティブネスを実践するためには、まずは自分自身を分析し、自身の感情や考えを把握することが重要です。
そのうえで、相手の気持ちにも配慮しながら、言葉選びや声のトーン、表情などにも気をつけ、相手にとっても受け入れやすい提案を行いましょう。
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スキルや経験、目標達成状況など、従業員の情報を一元管理できる機能は、データに基づいた客観的なフィードバックを可能にします。
また、1on1ミーティングの実施状況を蓄積する機能や、従業員のエンゲージメントを可視化できるサーベイ機能を活用すれば、従業員の考え方や感情の変化も把握でき、相手の気持ちにも配慮したコミュニケーションが図りやすくなります。
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