急成長の陰で起きた人事課題と解決へのステップ-後編-

2009年の創業以来、事業の多角化と組織の拡大が続き、現在は従業員数約1,400名(2020年9月時点※グループ全体)にまで急成長した株式会社ビズリーチ。前編では、急成長の影で起きていた課題や人事管理システムの導入、そして問題改善までをご紹介しました。中編ではビズリーチが目指す今後の展望や従業員価値の最大化、人材育成についてご紹介しました。後編にあたる本記事では、2020年9月9日(水)にオンラインセミナーでお話しした内容をもとに、HRBP(HRビジネスパートナー)が主導して取り組んだマネージャー育成への取り組みについてご紹介します。

前編はこちら
急成長の陰でおきた人事課題と解決へのステップ-前編-

中編はこちら
急成長の陰でおきた人事課題と解決へのステップ-中編-

プロフィール紹介

企業が抱えていた課題の解決事例を公開

・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化

au コマース&ライフ株式会社、コニカミノルタマーケティングサービス株式会社など、システム活用によりどのような効果が得られたのか分かる7社の事例を公開中
7社分の成功事例を見る

三好加奈子氏

ビジョナル株式会社
執行役員 CHRO

京都大学卒業後、三菱商事株式会社に入社。 化学品分野にてセールス・マーケティング、 事業投資に携わる。MBA留学後、Coach Inc.、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社を経て、ラッセル・レイノルズに入社。 リーダーシップ・アセスメント、幹部人材のサーチに関わる。ファイザー株式会社にて人事企画・医薬開発部門・事業部門等の HRBP、人事オペレーショングループ部長を務めた後、2019年に株式会社ビズリーチに入社し、社長室に配属、2020年2月より執行役員CHROに就任。

津村信太郎

株式会社ビズリーチ
組織戦略室 室長

慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、アー サー・ディ・リトル・ジャパン株式会社入社。 その後、グルーポン・ジャパン株式会社で経 営企画室室長、営業統括部長、業務管理本部長、東アジア(日 韓 台 香)Headof Operations等を務め、2013年に株式会社ビズリーチに入社。社長室室長、新規事業の立ち上げ、カスタマーサービス本部長、事業戦略本部長、管理本部長、人事本部長などを経て、2019年8月に株式会社ビズリーチの事業部人事機能を持つ組織戦略室の新設に伴い室長に就任。

鈴木翔

株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
プロダクト企画部 EXグループ

ソフトバンク株式会社、ワークデイ株式会社を経て、株式会社ビズリーチに入社。
人事企画 、組織開発 、H R I S の マネージャーをつとめた後、HRMOS事業部にてプロダクトマーケティングマネージャーを務める。

1.次期マネージャーの育成という課題に対して、事業部人事(HRBP)が取り組んだこと

事業部人事(HRBP)には、従来の従業員を束ねる仕組みや体制を整え、組織を効率的に運営する人事としての役割に加え、経営目標や事業目標に対するコミットが求められます。事業部門と同様に業績向上を目指した戦略を立案して実行するのがHRBPです。

鈴木:ここからは、株式会社ビズリーチにおける事業部人事、HRBP(HRビジネスパート ナー)の取り組みについて組織戦略室室長の津村さんよりお話しいただきたいと思います。

マネージャー層の不足が最重要課題となっていた

津村:今、私は事業部人事の役割を担っているのですが、今日は人事としてだけではなく、より事業に近い事例をいくつかお話しさせていただければと思います。 株式会社ビズリーチの事業課題の1つとして、どのように営業組織を拡大して営業の機能を強化するかというものがありました。 部署ごと役職ごとの人数を正確に把握して、次期マネージャーをどのようにして育成していくか、マネージャーをどのように評価していくかが、組織成長の過程においては極めて重要でしたが、なかなかそれに取り組むことが難しい状況にありました。そこで次期経営幹部候補の育成計画を策定するために先ほど三好がお伝えした人材管理システム、従業員データベースの活用を行いました。他の成長企業においてもよくある話だと思いますが、組織が急激に成長すると比較的若い方々を採用することが多くなります。結果として、組織の中核となるマネージャー層・課長層が相対的に足りなくなるという状況が発生しておりました。新しく入社してきた方を定着させ戦力化まで導くマネージャーの存在が極めて重要になっていたので、マネージャーをいかにして育成し、強化していくのかが事業運営上の最重要課題でした。

現場と課題認識を共有し、一緒に課題解決に取り組んだことが成功のカギ

津村:現場の課題感をしっかりと把握したうえで 、事業全体でマネージャー層が足りないことが本質的な課題ということを現場にも認識してもらい、現場の部長やマネージャーのコミットも取りつけたうえで、一緒に取り組むことができたということが課題解決にいたった非常に大きい要因と考えております。具体的に行ったことは月次で部長やマネージャーと次期マネージャーや次期リーダーを輩出することを目的として、人材開発に関する議論を行いました。事業部人事は現場との距離が近い立場から、彼らの会話から課題を引き出すことにコミットして関わっています。期初に部署ごとの次期マネージャー・リーダー候補をリストアップし、彼らの人材要件が次期マネージャーやリーダーに当てはまるか、彼らの能力をどのように伸ばしていくのかを 、月次で議論し、進捗をフォローしています。

2年でマネージャー層の増員に成功

津村:事業数字に責任を持っている現場においては、部長・マネージャー間で業績に関する話はよく行われますが、人材開発や次期マネージャー育成を目的とした時間を持つということはなかなか難しいものです。事業部人事主導で時間を設定することに対しては、非常に助かるという意見を現場からももらっています。結果として、この2年ほどでメンバー対マネージャー比率(1人のマネージャーが何人のメンバーを見ているか)が、10名から今では6名弱という適正な水準まで下げることができました。マネージャーを増やすという点については、 これで一段落したかなと考えておりますのでこれからはマネージャーの質向上により注力をして、組織が健全な形で強くなっていくよう取り組みつづけられればと思っています。

課題解決に至った3つの成功要因

この取り組みの大きな成功要因は大きく3つあったと考えています。1つ目が現場に即した本質的な課題を特定し、課題設定できたこと。2つ目が、現場のコミットを引き出して、 事業部人事がそれを維持できるようはたらきかけができたこと。3つ目は、部署ごとに月次のミーティングを開催することを徹底して推進したことです。事業部人事だけでも難しかったと思いますし、現場だけでも難しかったと思います。本質的な課題を抽出したうえで 、現場を巻き込んで推進することで、次期マネージャーの育成と事業成長への貢献を実現することができたのではないかと考えています。

事業部人事(HRBP)の他の取り組み

他にも事業部人事が行っていることをご紹介させていただくと、例えば予算策定です。 予算策定時に事業部人事が従業員データベースから部署ごとや役職ごとの人数を抽出してそれぞれの部署の売上の目標と実績のデータと一緒に見ることで、どれくらいの売上の時にその部署には何人いたのか、目標とする売上を達成するためにはあと何人必要そうかということをより客観的に議論できるようになりました。予算策定時だけではなくて、月次の人員の見通しについても出しています。事業運営において、人的リソース というのは非常に貴重なリソースです。そこに対する見通しが出せることは事業運営上非常に有益であると考えています。

次が異動の検討です。従業員数が増えていくなかで、どのように最適配置を実現していくのかが大きな課題となっていました。まだ試行錯誤の段階ではありますが、過去の実績に基づいて組織長が欲しいデータを異動検討のときに提示するということを行っています。また、今までは基本的には新旧の上長同士で引き継ぎをしてもらうということにしていましたが、事業部人事として従業員に関するさまざまなデータを管理することができるようになったので、本人の情報やパルスサーベイの結果、営業なら過去の売り上げの実績や受賞歴、目標設定や過去の評価情報を一元化して異動先のマネージャーや部長に共有することもできるようになりました。

一連の取り組みを通じて、現場を導くという強い意思のもと、正確なデータを用いることができれば事業部人事は事業成長に貢献できるとあらためて実感しています。

現場のコミットを引き出すための具体的な行動とは

鈴木:続いて、視聴者の方からのご質問にお答えいただけたらと思います 。事業部人事・ HRBPが 現場のコミットメントを引き出すために行った具体的な行動や事業部人事に求められる素養について質問がきています。こちらはいかがでしょうか?

津村:そうですね。もちろん部長やマネージャーの皆さんは多忙なので、状況によってはなかなか人材開発の優先順位を上げられないこともありますが、基本はやはり彼らとの信頼関係を構築することと、彼らの事業のことを知るというところに尽きると思います。どれだけ事業部の皆さんの役に立てるのか、現場が感じている課題を引き出してその組織のマネジメント層と共有し、 目線を合わせるということを意識しています。あとは何か問題が起きたときに、「マネージャーや部長の皆さんに誰々さんからこういうアラートがあがっていますが背景をご存じですか」といった問いかけをするなどの小さな取り組みの積み重ねが大事だと思っています。事業部人事のメンバーのマインドセッ トとして、そういった丁寧なコミュニケーションを積み重ねることができることと、あとは取り扱う情報が非常に機密性の高いものなので、情報の取り扱いを間違えると従業員の信頼を著しく損ねる危険性があるということを理解したうえで、コミュニケーションをできる感覚を持っていることを重視しています。

鈴木: ありがとうございます。やはり従業員同士の関係性をつくる・見つける・深めるといった観点で試行錯誤されているのだろうなという印象を受けました。

今後の現場のメンバーとの関わりについて

鈴木:現場との交流のなかで部長やマネージャーとのコミュニケーションが増えてきていると思うのですが、その先にいる現場のメンバーとの関わりについて今後どのように考えていらっしゃいますか?

津村:本当であれば、従業員と1対1でのコミュニケーションをとりたいと思っています。具体的に言うと、従業員一人ひとりが自分の考えや思っていることを話せる窓口が複線化できればいいなと思っています。もちろん、直属の上長との関係構築ができているという前提ではありますが、私たちのような事業部人事だけでなく全社の人事や以前の上長といった話せる相手が複数いる状態がつくれれば、 どこかとの関係が難しくなったときにも他のところでフォローができます。会社として、従業員からの信頼を勝ち取れるようにしたいなと思っております。それを実現するために、どれだけ誠意を感じてもらえるか、どのようなオペレーションを組んでいくか、あとはやはり事業部人事も人数が限られているので仕組み化して、全体に対して安定した品質でサービス提供するかというバランスがとても重要です。

事業部と目線を一致させるために意識していること

鈴木:登壇の内容や質疑応答のなかで「目線の一致」というフレーズがありましたが、津村さんのなかで事業部と目線を一致させるために意識されていることはありますか。

津村:事業部人事のなかでは、事業成長はもちろん従業員一人ひとりの成長に期待をして、長期にわたって成果を出し続けてもらえるような取り組みをしたいということを、組織目標として掲げております。同じ事象をみたとしても、違う人がみたら違うように解釈するということは往々にしてあります。特に役職者との会話が活発化することが、より一人ひとりの強みや特性を把握して、活躍する可能性を広げることに直結するのかなと思っています。自分とは違う目線を持っている方々や、違う職種の方々とも 、心理的安全性を担保しながら会話ができるような組織になっていければといいですね。

まとめ

外部環境の変化やテクノロジーの進化に伴い、これからの人事に必要とされることも徐々に変化しつつあります。 今後はより一層客観的なデータから課題を導き出し、経営や現場に施策を提案していくということが求められるようになります。そういった背景から事業部人事・HRBPへの期待感もますます高まっていくことが予想されるでしょう。前半と後半を通してご紹介したビズリーチの事例が、HRテックの活用推進や人事と現場の連携に少しでもお役に立てれば幸いです。

※各種データや肩書きはイベント実施時点のものです

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