人的資本の情報開示とは|ガイドラインで開示が求められる7分野19項目や開示のポイントなどを解説

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人的資本とは、人材を”付加価値を創造する資本”として捉える考え方です。人的資本の取り組みが優れている企業ほど成長が見込めることから、投資家たちから人的資本の情報開示を求める動きが広がってきました。そこでこの記事では、人的資本とは何か、人的資本の情報開示を巡る国内外の動向、情報開示が求められる背景、「人的資本可視化指針」に定められた7分野19項目の情報開示、可視化のポイントや進め方などを解説します。

そもそも人的資本とは

人的資本とは、企業に所属する人材を、付加価値を創造する資本と捉えた用語であり考え方です。資本とは、経済学では、商売・事業の元手となるお金で、新たな生産のために投入される過去の生産活動により生み出された生産物のストックのことと捉える考え方もあります。同じように人材を資本のように考えるのが、人的資本です。人材は人材育成の施策や日々の業務などのなかで成長していきます。成長した人材は、過去の人材よりも大きな利益を生み出すようになるでしょう。このため人的資本の考え方では、従業員の持っている知識や技術、人間的な魅力・個性、将来性・ポテンシャルなどの無形の価値も資本であると考えます。
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人的資本と人的資源の違い

人的資本と似た言葉として、人的資源という用語があります。人的資源とは、企業に所属する人材をコストとして捉える考え方です。人材には給与、報酬という形で人件費がかかります。また、福利厚生や労働災害の補償などによっても費用が必要です。これらのコストを抑えながら利益を出すという経営の考え方に立つときに、人的資源という概念が役立ちます。しかし、人的資源という考え方は、現在の人材のコストに着目するため、将来的に人材が生み出す価値については考慮されません。したがって、人材資源という考え方では、例えば将来の企業価値創造のために人材育成に投資するというようなアクションを起こしにくい面があります。

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を資本と捉えて、その人材が能力を最大限発揮できる環境を整えることで、中長期的な事業の成長につなげる経営手法です。例えば、昇進における男女の不公平を是正して女性社員の活躍を促進することで、組織としての生産性を高めようとする施策は、人的資本経営の一環として考えられます。人的資本経営で重要なのは、人材への投資を効果的に行えば、中長期的に利益につながるという考え方です。そのため、業務効率が下がったり研修費用がかかったりするなどの短期的なデメリットが生ずると予測されていても、中長期的な視点に立って人材マネジメントの戦略を進めます。

人的資本の情報開示とは

人的資本の情報開示とは、自社の人材育成方法や労働環境の整備状況などの人的資本に関する情報を、財務情報と同じように、投資家・顧客・社員などのステークホルダーに公開することです。従来の情報公開では、企業価値や競争力の源となっている人的資本についての情報が不足している傾向がありました。多くの投資家が、人材戦略に対する経営者からの説明を期待している現状があります。そこで、企業・経営者とステークホルダーの相互理解を深めるために、人的資本の情報開示をしようとする動きが広がってきたのです。人的資本の情報開示は欧米を中心に推進されるようになり、日本でも一部の企業に義務化されています。
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人的資本の情報開示に関係する国内外の動向

先述したとおり、人的資本の情報開示の動きは世界的な潮流となっており、企業としても対応が必要な状況です。ここでは企業の経営陣や経理部門などが知っておきたい国内外の主要な動向を紹介します。

国際的なガイドライン「ISO30414」の発表|2018年12月

ISO30414とは、スイス・ジュネーブを本拠地とする国際標準化機構(ISO)が2018年12月に発表した、人的資本の情報開示についての国際的なガイドラインです。ISO30414では、人的資本の情報開示の目的について、企業の人材戦略を定性的・定量的にステークホルダーに公開するものと定義されています。ISO30414で求められているのは、次の11領域での情報開示です。

  • 1.コンプライアンスと倫理
  • 2.コスト
  • 3.ダイバーシティ
  • 4.リーダーシップ
  • 5.組織文化
  • 6.組織の健康・安全・福祉
  • 7.生産性
  • 8.採用・異動・離職
  • 9.スキルと能力
  • 10.後継者育成
  • 11.労働者確保

ISO30414への準拠は、国際的に事業を展開している企業にとって特に重要です。しかし、各領域で公表する内容は、後ほど解説する日本版ガイドラインである「人的資本可視化指針」とおおむね同じですので、そちらで詳しく解説します。

人材版伊藤レポートの発表|2020年9月~

経済産業省は2020年9月に「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」を公表しました。このレポートは通称「伊藤レポート」と呼ばれており、人的資本の情報開示に関する基準や指標が書かれています。伊藤レポートのなかではコロナ禍における経営状況の変化や第4次産業革命による産業構造の変化などに触れながら、経営陣・取締役会が果たすべき役割・アクション、人材戦略に求められる視点・共通要素などがレポートされています。

また、2022年5月には伊藤レポート2.0が発表されました。伊藤レポート2.0は、持続的な企業価値の向上のために、経営戦略と連動した人材戦略をどのように実践していくかについてまとめたレポートです。また、2022年8月には、サステナブルな企業価値創造のための、長期経営・長期投資に資する対話研究会の議論をまとめた伊藤レポート3.0が発表されています。

金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告|2022年6月

金融庁の審議会の一つである金融審議会は、産学官民の有識者らによって、企業情報の開示のあり方について2021年より合計9回の検討・審議を行ってきました。この検討・審議を踏まえてまとめられたのが、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告です。報告書では、サステナビリティに関する企業の取り組みとして人的資本、多様性に関する開示のあり方が取り上げられています。

内閣官房「人的資本可視化指針」が公表された|2022年8月

内閣官房は2022年8月に、企業が人的資本を可視化する際の指針となる「人的資本可視化指針」を策定し公表しました。内容の一端を紹介すると次のとおりです。

  • 情報開示の背景と指針の役割
  • 可視化において企業・経営者に期待されること
  • 開示の方法(フレームワークを活用したストーリーの構築、含むべき要素など)
  • 開示事項の類型、開示方法
  • 可視化に向けた準備
  • 有価証券報告書における対応
  • 任意開示の戦略的活用

人的資本可視化指針は既存の基準やガイドラインを日本企業向けに包括的に整理したものです。企業が情報開示に取り組む際の手引書の役割を果たします。

企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)施行|2023年1月

金融庁は2023年1月に、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)の改正を行いました。この改正は、先に紹介した金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告で提言された、サステナビリティに関する企業の取り組みの開示や、コーポレートガバナンスに関する開示について制度整備を踏まえたものです。この開示府令によって、上場企業は、有価証券報告書においてサステナビリティ情報や人的資本・多様性に関する開示が求められるようになりました。開示府令による企業への影響については、後ほど解説します。

人的資本の情報開示が求められるようになった背景とは

人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインや国内の指針などが相次いで設けられているのはなぜなのでしょうか。大きな要因としては、ビジネス環境の変化によって人的資本が生み出す無形価値の割合が大きくなったことと、人的資本の情報がESG投資の評価項目に含まれたことが挙げられます。それぞれの要因について詳しくみていきましょう。

人的資本が生み出す無形価値の割合が大きくなった

企業が行う投資は有形資産投資と、無形資産投資に分けられます。有形資産投資とは、例えば生産能力の高い工場や、性能のよいITツールを導入したりすることです。一方、無形資産投資とは、人材育成への投資や研究活動の支援などであり、成果を計測、可視化するのが難しい面があります。しかし、現在のビジネス環境では有形資産投資よりも無形資産投資のほうが、ビジネスの成功に与える影響が大きい傾向が明らかです。

この傾向の理由は一概にはいえませんが、例えば経済のグローバル化やロボット技術の発達などもあって、商品・サービスの生産・提供は協力企業に任せられる部分が増えました。その一方、イノベーションが求められる企業の頭脳部分の人材が、事業の成功を大きく左右するようになっているのです。そのため、無形資産である人材をどのように扱っているかが、企業の成長を予測するうえで重要な要素となります。結果として、人的資本の情報を求めるステークホルダーが増えたことから、人情報開示が強く求められるようになってきたのです。

ESG投資の評価に人的資本に関する情報が含まれたため

ESG投資とは、以下の3つの要素に注目した投資方法です。

  • 環境(Environment):地球環境に配慮しているか、持続可能な事業を行っているかなど
  • 社会(Social):地域社会に貢献しているか、ダイバーシティ・女性活躍・ワークライフ・バランスを推進しているかなど
  • ガバナンス(Governance):ステークホルダーへの責任を果たしているか、企業倫理が維持されているかなど

このうち人的資本の情報開示は社会(Social)に含まれます。もしも人的資本の情報開示のなかに、ダイバーシティや女性活躍などを推進する施策やその成果が記述されていれば、投資先として高く評価されるでしょう。なぜなら、こうした普遍的な価値は国民や社会からも高く評価される可能性が高く、企業価値が高いと判断されるからです。したがって、ESG投資を呼び込むためにも積極的な人的資本のアクションを起こし、情報開示する企業が増えています。
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人的資本可視化指針に定められた7分野19項目の情報開示

内閣官房が策定した人的資本可視化指針には、人的資本の望ましい開示項目として以下の7分野19項目が示されています。

  • 1.人材育成:リーダーシップ、育成、スキル・経験
  • 2.従業員エンゲージメント:従業員満足度
  • 3.流動性:採用、維持、サクセッション
  • 4.ダイバーシティ:ダイバーシティ、非差別、育児休業
  • 5.健康・安全:精神的健康、身体的健康、安全
  • 6.労働慣行:労働慣行、児童労働・強制労働、賃金の公正性、福利厚生、組合との関係
  • 7.コンプライアンス/倫理

分野ごとに詳しく解説します。

1.人材育成

人材育成の分野では、「リーダーシップ」「育成」「スキル・経験」の項目が設けられています。

  • 育成:研修時間・費用、複数分野の研修受講率など
  • リーダーシップ:リーダーシップの育成
  • スキル・経験:スキル向上プログラムの種類・対象など

有価証券報告書においては、人材育成方針と社内環境整備方針について、客観的で測定可能な指標による目標や進捗状況の報告が義務付けられています。また、人材育成の時間や費用などの人的資本への投資は、経営戦略・経営課題との整合性が重要です。経営戦略・経営課題との一貫性がないと、充実した人材育成をしていてもステークホルダーに対する説得力を持てません。
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2.従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントは愛社精神や企業への愛着心などと訳される用語です。従業員が自発的に会社に貢献したいか思っている度合ともいえます。この従業員エンゲージメントに大きな影響を与える要素が、業務内容や職場環境、上司・同僚などに対する満足度である「従業員満足度」が開示項目です。したがって、従業員の心身の健康を増進する施策や職場環境の整備などの情報を開示します。また、「仕事にやりがいを持てるか」「社会貢献意識を満たせるか」というような精神的な満足度に対する施策を実施している企業もあるでしょう、これらも従業員エンゲージメントの開示情報に含まれる内容です。

経済的な安定を支援するフィナンシャル・ウェルネスを開示する企業もあります。フィナンシャル・ウェルネスとは、日本で従来からある企業年金、財形貯蓄、従業員持株会などと比べて、より多様な経済的支援策のことです。例えば、一部の企業は働き方の多様化に対応するため、独自の出産・育児支援や住宅融資、健康のための補助制度などを取り入れています。こうした先進的な取り組みを行っている企業は、従業員エンゲージメントの項目に情報開示することで、ステークホルダーにアピールできるでしょう。
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3.流動性

流動性の分野では、「採用」「維持」「サクセッション」が項目になっています。具体的には以下のような内容です。

  • 採用:新規雇用の総数・比率、採用コスト、人材確保の取り組み、求人ポジションの採用充足に必要な期間など
  • 維持:離職数、離職率、定着率、人材定着の取り組みなど
  • サクセッション:後継者有効率・カバー率・準備率

流動性の分野では、主に人事部がデータや進捗状況を管理する割合が高くなるでしょう。適切な情報開示に備えて情報を管理しておく必要があります。
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4.ダイバーシティ

ダイバーシティとは、直訳すると「多様性」で、さまざまな人種・性別・年齢・価値観・能力などを持つ人たちが、互いに尊重されながら集まっている状態です。例えば、外国人労働者や障がい者が同じ職場で働いていたり、子育て・介護中の人がテレワークで働いていたりするのはダイバーシティが進んだ企業といえるでしょう。ダイバーシティの分野では、「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」の項目があります。

5.健康・安全

健康・安全の分野では、「精神的健康」「身体的健康」「安全」の項目があります。一例を挙げると次のような内容です。

  • 精神的健康、身体的健康:医療・ヘルスケアサービスの適用範囲と利用状況、安全衛生マネジメントシステムの導入施策など
  • 安全:労働災害の発生数、割合、死亡数など

また、健康・安全の情報開示では、労働災害による損失時間やインシデントによる損害額など、企業への影響も開示します。

6.労働慣行

労働慣行の分野では、「労働慣行」「児童労働・強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」の項目が設けられています。

  • 労働慣行:通常の労働時間、時間外労働時間など
  • 児童労働・強制労働:強制労働や人身取引、および児童労働などを禁止するための取り組みなど
  • 賃金の公正性:平均時給、最低賃金、地域・事業所別の時給差など
  • 福利厚生:福利厚生の種類・内容など
  • 組合:結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明など

労働慣行の多くは、法律を遵守していれば大きな問題は起きません。しかし、それを証明するには従業員の労働時間・時間外労働時間などの定量的なデータが必要になる場合もあります。負担が大きい場合は、データを一元化するシステムを導入するなど、開示業務の効率化も検討することになるでしょう。

7.コンプライアンス/倫理

コンプライアンスとは法令遵守を指します。また、倫理とは社会的な規範・倫理観に即して活動していることを証明する内容です。具体的には以下のような内容が挙げられます。

  • コンプライアンス:苦情の件数、コンプライアンス研修を受けた従業員の割合、懲戒処分の件数と種類など
  • 倫理:深刻な人権問題・差別事例などの件数、対応措置

現在のビジネス環境においては、ハラスメントに対する意識も高まっているため、適切なガバナンスできているとアピールするためにも必要な開示項目です。

人的資本の情報開示は義務化されている

企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)によって、上場企業すべてが人的資本の情報開示義務の対象となりました。この義務は2023年3月期決算から適応されます。

情報開示すべき内容

上場企業は有価証券報告書に記述する従業員の概況で、女性活躍推進法等の規定に基づいて以下の項目の記載が追加されます。

  • 男女間賃金格差
  • 女性管理職比率
  • 男性の育児休暇取得率

また、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目が追加され、以下の内容が必須となっています。

  • 「ガバナンス」と「リスク管理」の項目
  • 戦略の項目のうち、「人材の育成に関する方針」と「社内環境整備に関する方針」
  • 指標及び目標の項目のうち「指標及び目標の各方針に関する指標の内容」「当該指標を用いた目標および実績」

これら以外の内容は、重要な内容を記載するように求められています。

人的資産の可視化を進めるためのポイント

人的資産および人的資産に対する取り組みは、設備投資のように定量化しにくい面があります。そのため、単に情報開示するだけではステークホルダーに効果的にアピールできない可能性が高くなるでしょう。ここでは人的資産の可視化のために求められるポイントを3つ解説します。

開示情報にストーリー性を持たせる

人的資本の開示情報にストーリー性を持たせると、具体性と説得力が出せます。ストーリー性を出すには、経営理念や戦略を実現する一環として人的資本への施策を実行し、成果が出ている構図にするのが効果的です。例えば、研修やスキル向上のためのプログラムを単体で説明してデータを開示しても、あまり説得力が出ません。人材育成の施策は多くの投資家が注目する内容ですが、求める人物像は事業や戦略によって変わるからです。

そこで自社固有の経営戦略・人事戦略と結びつけながら、研修やスキル向上のためのプログラムを説明します。例えば、「不動産業界では男性偏重の文化が根強い→業界のリーダーである自社が率先して女性の幹部候補生を育成する→現在、業界の現状を打開する成果が出始めている」といったストーリーで説明すると効果的です。

データで見える化して説得力を高める

人的資本に関係する施策に取り組んだ場合には、目標や結果を数値化するのが有効です。例えば、デジタル人材を育成する施策においては、目指す姿や研修内容だけでなく、社員一人当たりの研修時間や外部研修にかかった費用などの定量情報も記載します。継続的な施策ならば、時系列での変化や累積も表示すると、より説得力を増せるでしょう。この際注意が必要なのは、全社・連結でデータを平均化したり、目的が違う研修データをひとまとめにしたりするような処理です。

全体像を示すのは大切ですが、過度に行ってしまうと各セグメントの特性に応じたきめ細かな取り組みや成果がみえにくくなってしまいます。例えば、休業者数を出す際は、全社データに加えて、地域別、自社グループ・協力会社別などでもデータを開示するとよいでしょう。

積極的な任意開示に取り組む

人的資本の情報開示を法的な義務を果たすためのものと考えるだけでは、他社に後れを取ってしまいかねません。ポジティブな内容の積極的な情報開示は、ステークホルダーへのアピールとしても利用できるからです。実際、上場企業のほとんどは義務開示媒体の有価証券報告書だけでなく、コーポレートページやPRサイトなどで、自社の人的資本の施策や成果をアピールしています。

例えば、女性活躍に関する女性管理職比率や男性の育児休業取得率などにおいて、他社より優れた結果が出ているとしましょう。この場合、コーポレートページで情報開示するページを作れば、企業ブランディングの一環となります。ただし、人的資本可視化指針では、独自性を持った情報開示と他社と比較可能な情報開示とのバランスを確保するように述べられているため、過度に成果をアピールするような情報開示は避けましょう。

人的資産の可視化のステップ・サイクル

はじめから人的資産の可視化を高いレベルで実施するのは不可能です。情報開示では迅速性も重要ですので、十分なデータが集まるまで開示しなかったり、完璧性を期すあまり開示項目が減ったりしては意味がありません。つまり、人的資産の可視化は、できるところか徐々に広げていくスタンスが重要です。人的資本可視化指針によると、おおまかに以下の流れで可視化を進めていくとよいとされています。

  • 1.自社の人的資産と人材戦略の把握、目標・KPIの設定
  • 2.法律やガイドラインに沿って人的資産と人材戦略をできるところから開示する(※開示義務項目以外)
  • 3.開示へのフィードバックを受け止める
  • 4.フィードバックを踏まえて人材戦略を見直す
  • 5.見直した人材戦略を元に人材資本への投資を実行する
  • 6.目標・指標を定量的に把握し分析して改善につなげる(※1に戻る)

フィードバックとは、主に投資家からの、開示内容や取り組みに対する質問・指摘です。人的資本可視化指針では、企業価値の向上や持続的成長には投資家の意見が欠かせないと述べられており、投資家に対してフィードバックする役割を求めています。 

まとめ

人的資本の情報開示は自社の成長にとって大きなメリットがある

企業における人的資本の価値が高まったり、ESG投資が増えたりしたことから、人的資本の情報開示の動きが活発になっています。社会に対して自社の企業価値を示すためにも、人的資本の情報開示は重要な施策といえるでしょう。ただし、質の高い人的資本の情報開示は一朝一夕にはできません。人員やデータ収集の体制を整えながら情報開示に取り組んでいきましょう。

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