悩みを抱える社員のために、最適な解決方法を知りたいと考えていませんか。しかし同じ悩みを抱えていても、最適な解決方法は人によって異なります。社員に適した解決方法を見つけたいときは、ナラティブアプローチを実践することがおすすめです。
この記事では、「ナラティブ」の意味からナラティブアプローチの手順や活用法まで、詳しく解説します。ナラティブマーケティングの事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ナラティブとは?
ナラティブとは「物語」「語り」を意味する言葉です。物語というと、主人公の目線で繰り広げられる話をイメージする方が多いかもしれませんが、ナラティブの場合は語り手目線で繰り広げられる話を指します。
語り手目線の物語は、話す人の感情や心情によって内容が変わっていくため、終わりがありません。語り手の感情や心情によって紡がれるため自由度が高く、選択肢も無限にあるのです。
ここでは、ナラティブの語源と、同じく「物語」を意味する「ストーリー」との違いを紹介します。
ナラティブの語源
ナラティブは、ラテン語の「narrate(話す・説明する・物語る)」から派生して生まれた言葉です。1500年ごろに生まれたこの言葉は、1600年ごろから「物語に関する」という意味合いで使われるようになりました。
1960年ごろからは、物語の語りを調べる言葉として、文学研究でも使われています。また、自身に起こった出来事をメインに書いていく文学作品もナラティブと呼ばれています。
ナラティブとストーリーの違い
「物語」という同じ意味合いを持つナラティブとストーリーの違いは以下の通りです。
- 主人公は作品に登場する人物か、語る人自身か
- 作品は完結しているか
ストーリーの主人公は作品に登場する人物、ナラティブの主人公は作品を語る人自身です。また、ストーリーには著者が思い描いた結末が存在します。しかし、ナラティブは語り手がさまざまな分岐ルートをたどり続けるため、結末が存在しません。
同じ意味合いを持つ言葉でも、ニュアンスは大きく異なります。シーン別に使う言葉が変わると考えておきましょう。
・入社手続きの効率化
・1on1 の質の向上
・従業員情報の一元管理
・組織課題の可視化
ビジネスにおけるナラティブの重要度
近年、ビジネスにおけるナラティブの重要度が高まっています。その理由は、語り手に寄り添うことで問題への新たな解決方法を発見できるからです。
社内に悩みを抱える社員がいるときは、ナラティブアプローチで問題の提起と解決方法を模索します。悩みを抱える社員自身が語ることで、抱える問題を客観視し、別の視点から解決方法を探すことが可能です。
また、新規顧客の獲得や既存顧客のリピート率を向上させる際にはナラティブマーケティングを活用できます。消費者が語る声に耳を傾けることで、消費者の求めるものが見えてきます。ユーザーの希望が詰まった商品やサービスの提供によって、多くの人から支持される企業に成長できるでしょう。
ナラティブアプローチとは?
ナラティブアプローチとは、悩みを抱える人の語りから問題提起や解決方法の模索を行っていくものです。会社にはさまざまな社員がいるため、人間関係によるトラブルも珍しくありません。トラブルによって業務に支障が出たり、退職してしまったりするケースもあるでしょう。そのため、何らかの対策を講じる必要があります。
人事部で対応する際は、語る人の声を大切にするナラティブアプローチがおすすめです。ネガティブな思いを抱える社員に、問題解決に向かえるルートを提案することで、トラブルを解消できるかもしれません。
ここでは、ナラティブアプローチのメリットやデメリット、必要なスキル、手順等をご紹介します。
ナラティブアプローチのメリット
ナラティブアプローチによって得られるメリットは以下の通りです。
- 相談者にさまざまな問題解決方法を提案できる
- 人間関係におけるトラブルを減少させる
- 相談する人と相談を受ける人の関係を強くできる
ナラティブアプローチによって、相談の受け手は相談者にさまざまな問題解決方法を提示できます。相談者が複数の方法を把握すれば、問題の解決だけでなく、問題の発生を防ぐことも可能です。
また、ナラティブアプローチは相談者と相談の受け手の関係を強化することが可能です。信頼関係を築けば、些細なことでも相談しやすくなるため、社員がトラブルを抱え込まずに済みます。
ナラティブアプローチのデメリット
ナラティブアプローチで注意したいデメリットは以下の通りです。
- 相談者と相談の受け手の関係性によっては対話が難しい
- 相談者が相談の受け手を尊重しすぎて、自分の意見を言えない
- 相談の受け手は業務の一環であることを認識しないと継続が難しい
相談者と相談の受け手が対等な関係でないと、相談者の潜在的な悩みを聞き出すことはできません。また、相談の受け手が相談者の語りを無視して複数の指摘を行うと、相談者が自分の意見を言えなくなってしまう恐れもあります。
相談者の悩みを聞き、複数の解決方法を提示するには労力が必要である点もデメリットです。プライベートで相談を受けるのではなく、あくまで業務の一環として相談を受けていると認識しましょう。仕事のひとつだと考えれば、負担は多少和らぎます。
ナラティブアプローチに必要なスキル・経験
ナラティブアプローチは語り手の話を聞き、解決策を提案する必要があるため、通常の相談とは異なります。語り手を大切にするために必要なスキル・経験は以下の通りです。
- 傾聴と対話
- 自己開示と心理的安全性の提供
- 人文学や心理学の教養
各スキルの具体的な内容を見ていきましょう。
傾聴と対話
傾聴とは、相手の話をしっかりと聞くことです。相手の話を聞くことがメインになるため、会話内容への評価や意見は行いません。話に共感しつつ、相手が本当に訴えたいことは何かを探ります。
傾聴によって相手の訴えたいことが判明したら、対話を通して解決策を提案します。ここで大切なのは、相手を否定しないことです。相手の話に共感しながら解決策を提案する対話スキルが必要になります。
自己開示と心理的安全性の提供
悩みを抱えていてもなかなか言い出せない人のために、自己開示スキルを身に付けることも大切です。自己開示とは、他者に自身のことを打ち明けることです。自己開示をすると、相手も自身のことを話さなくてはならないと感じるため、悩みを聞き出しやすくなるでしょう。
また、相手の本質的な問題を見つけるためには、心理的安全性を提供することがおすすめです。心理的安全性が担保されていれば、人の目を気にせずに組織内で発言できるでしょう。心理的安全性を提供すれば、抱えている悩みを詳しく話してくれるはずです。
人文学や心理学の教養
人文学や心理学などを学ぶことで、相談者が安心して話せる聞き手になれます。聞き手に求められる経験は、傾聴・判断・論理的思考・言語化の4つです。傾聴は先ほど紹介したため、判断・論理的思考・言語化の特徴を見てみましょう。
- 判断:相談者にとって最適な解決方法を判断する
- 論理的思考:相談者の話をまとめる
- 言語化:相談者が言いにくい感情を言葉に表す
4つを経験することでナラティブアプローチが可能になるため、事前に勉強しておくことが大切です。
ナラティブアプローチの手順
ナラティブアプローチは以下の手順で進めます。
- 相談者のドミナントストーリーを聞く
- 問題を第三者視点から見直す
- 問題に対する具体的な質問をする
- 異なる視点からの結果を提示する
- オルタナティブストーリーを作る
まずは、相談者のドミナントストーリーに耳を傾けましょう。ドミナントストーリーとは、相談者によって語られる物語です。ネガティブな内容ではあるものの、話の途中で質問をしたり、指摘したりしないようにしましょう。
ドミナントストーリーを聞いたうえで、第三者視点から見た、物語に潜む問題を考えます。問題がいくつか浮かび上がれば、それに対する質問が出てくるでしょう。相手を否定しないよう、慎重に言葉を選びながら質問をしてください。
質問への回答を得られたら、異なる視点からの結果を相談者に話します。相談者が納得できる結果であれば、ネガティブな感情からポジティブな感情へと変化するでしょう。ポジティブな結果を踏まえ、オルタナティブストーリー(代替の物語)に書き換えることで、問題の解決策を見つけられます。
ナラティブアプローチの事例
ナラティブアプローチを実施し、成功した事例はいくつもあります。どのような場面で活用されているかを見てみましょう。
事例 | 内容 |
老年患者の生活の変化 | 社会から離れた高齢者にこれまでの人生とこれからの人生を聞いた結果、今までよりも質の高い生活を送れるようになった |
生理への理解 | 女性の多くが悩みを持つ生理について理解を深めるプロジェクトを実施。女性だけでなく、医師やサポーターも参加している |
冷凍食品に対する認識の変化 | 手抜きと認識されやすい冷凍食品の製造過程をコンテンツ化することで「手抜き」から「手間抜き」へと認識を変化させた |
ナラティブアプローチは、多くの人が抱える問題を解決する際にも使われます。実際に成功した事例も数多くあるため、会社に取り入れることをおすすめします。社員が悩みを話しやすい環境を整えれば、業務効率の向上はもちろん、離職率の増加にも歯止めをかけられるでしょう。
ナラティブマーケティングとは?
ナラティブマーケティングとは、消費者が語るエピソードを企業が取り入れ、商品・サービス開発に生かしていくものです。SNSには、消費者の希望が書かれている投稿がいくつもあります。投稿に共感する人が拡散し、話題になることで企業の目にも留まりやすくなります。
話題になった投稿に記載されている希望を満たした商品・サービスを開発することで、多くの人の希望をかなえられます。自社ブランドが幅広く周知されるだけでなく、企業利益も大幅にアップするでしょう。
ここでは、ナラティブマーケティングのメリットやデメリット、実施する手順、成功事例等を紹介します。マーケティングを担当している方は参考にしてください。
ナラティブマーケティングのメリット
ナラティブマーケティングで得られるメリットは以下の通りです。
- 自社ブランドを周知できる
- 消費者からの信頼を獲得できる
- 担当者が商品・サービスの本質を理解できる
ナラティブマーケティングを実施することで、消費者の信頼を獲得するだけでなく、自社ブランドを幅広く周知できます。多くの消費者が共感した投稿をもとに開発された商品は、幅広い層に求められやすくなります。欲しかった商品・サービスを開発してくれた企業への信頼から、ロイヤルティーの向上につながるでしょう。
なお、ナラティブマーケティングで商品・サービスを開発する際は、消費者の声を慎重に見極めることが大切です。投稿からわかる希望、潜在的に求める付加価値などを考えたうえで、開発に生かさなければなりません。慎重に開発を進めたうえで完成するため、担当者は商品・サービスに対して詳しい知識を獲得できるでしょう。
ナラティブマーケティングのデメリット
ナラティブマーケティングで注意したいデメリットは以下の通りです。
- 商品・サービスの開発に多大な労力が必要
- 開発ストーリーが売り上げにつながっているかを把握しにくい
- 開発ストーリーを重視するだけでなく、商品・サービスの品質保持もしなければならない
消費者の声をメインとした商品・サービス開発には多大な労力が必要です。また、商品・サービスの売り上げに消費者の声が関連しているかを把握しにくい点もデメリットでしょう。その理由は、貢献度が測定できないと、次の商品・サービス開発に活かせないからです。開発までの過程を重視するあまり、品質が下がっては意味がありません。リピート率を下げないために、品質保持にも努めましょう。
ナラティブマーケティングの手順
ナラティブマーケティングを進める手順は以下の通りです。
- 消費者が語る場を用意する
- 開発する商品・サービスのターゲット層を定める
- 消費者目線を大切にした企画を立案する
ナラティブマーケティングは、消費者の声を聞くことから始まります。消費者の声を詳しく聞いたうえで、開発する商品・サービスのターゲット層を定め、企画を立案します。その際は、消費者目線からずれないよう意識しなければなりません。
商品・サービス開発後は、新たな消費者の声に耳を傾けましょう。別の消費者から紡がれる声によって、商品・サービス提供の継続可否を判断できます。
ナラティブマーケティングの事例
ナラティブマーケティングを実施して成功している事例はいくつもあります。どのような手法で成功したのかを見てみましょう。
事例 | 内容 |
スバル(自動車) | 消費者の声をもとに短いCMを制作。共感を呼ぶ内容で、ノベライズ化もされた |
パタゴニア(アウトドアメーカー) | 「地球を守ろう」という意思を表明したことで、共感した消費者が新規顧客になった |
ムーニー(育児用品) | 育児に関するユーザーメインのコンテンツを展開。悩みを抱えるユーザーに、同じことで悩んでいたユーザーの声を届ける |
ナラティブマーケティングの主役は消費者の声です。SNSでの投稿やアンケートから消費者の声を聞き、商品・サービス開発に役立てます。そうすることで、多くの方からの支持を集められるでしょう。
人事担当者がナラティブアプローチを活用する方法
求める人材からの応募がない、優秀な社員を迎えても思うように育成できないなどの悩みを持つ人事担当者の方は多いでしょう。悩みを解消する際に活用できるのがナラティブアプローチです。ナラティブアプローチを活用できる場面は以下の通りです。
- 採用面接
- 研修・ワークショップ
- 企業文化の共有
- チーム作り
- キャリア開発
- 採用活動
人事部が担うさまざまな業務でナラティブアプローチが使えるため、スキルを身に付け、積極的に活用しましょう。ここでは、ナラティブアプローチを活用できる場面を詳しく解説します。
採用面接
採用面接を行う際は、応募者が語る声に耳を傾け、適度に質問をしましょう。応募者には、企業に応募するに至るまでの物語があります。話に耳を傾けることで、応募者の考え方や価値観をより深く理解できるでしょう。
話を聞き終えた後に、気になった部分を質問します。回答の仕方から応募者の能力(話を端的にまとめられるか、テンポよく受け答えができるかなど)がわかるため、採用可否の判断材料にもなります。
研修・ワークショップ
研修やワークショップを通して、ほかの人が抱える問題に触れられます。複数人に同じ内容の研修を受けてもらい、どのような問題に直面したかを議論してもらいましょう。問題の内容を話し合うだけでなく、解決方法を模索することが大切です。
解決方法を議論すれば、複数の意見が出ます。自分が考えつかない解決方法に触れることで、社員の成長を促せるでしょう。
企業文化の共有
企業の歴史や成功体験を複数人で学ぶことも大切です。同じ情報を共有しても、考え方やとらえ方はそれぞれで異なります。歴史や成功体験を知り、どのように感じたかを話し合いましょう。
議論によってさまざまな意見に触れるだけでなく、共感も生まれます。対話を重ねれば社員の心理的安全性も確保できるため、企業全体によい影響を与えるでしょう。
チーム作り
複数人でチームを作り、社員間のコミュニケーションを活性化させることも大切です。チームで業務を遂行すれば、社員同士の関係によい影響を与えます。
チームでプロジェクトに参加し、成功した事例をほかの社員に共有することもおすすめです。ほかの人の体験を聞くことで、チームプロジェクトへの意欲が高まるでしょう。
キャリア開発
キャリア開発により、社員の新たな能力を見つけられるかもしれません。仕事に悩んでいる社員に、思い描くキャリアストーリーを書いてもらいましょう。自身が書いた物語を読みながら、これまでの経験を振り返ることで、新たなビジョンが見えてきます。新たなビジョンが見えている場合は、スキルアップや部署異動をサポートすることが大切です。伸び悩んでいた社員が新たな場所で能力を発揮する可能性があるため、人事部でフォローしましょう。
採用活動
新たな人材を採用するために広報を行う際は、社員の体験談を提供することがおすすめです。就職・転職活動を行う人の多くは、企業の詳しい情報を得たいと考えます。基本的な情報だけでは応募をためらう可能性があるため、社員の体験談を含めた物語を共有しましょう。実際に勤めている人の物語を聞くことで、企業をより身近に感じられます。応募者が増えれば企業が求める人材も見つかりやすくなります。
タレントマネジメントシステムの活用
優秀な社員を育成したいと考える方は、タレントマネジメントシステムを使ったナラティブアプローチの活用法を把握しましょう。タレントマネジメントシステムでは、社員の研修・配属先・評価などのデータから、人材配置の最適化や組織の活性化を図れます。
タレントマネジメントシステムのデータをもとに、上司と部下の1on1ミーティングを実施します。1on1は上司が部下を叱責するために行うものではありません。部下にはどのような配属先が合っているか、思い描くキャリアストーリーはあるのかなどを話す場として活用されることが多いです。
1on1の際に活用したいのがナラティブアプローチです。部下の語る声に耳を傾け、システムのデータと照らし合わせることで最適な配属先を検討できます。能力をより発揮できる部署に異動することで、優秀な人材への成長を期待できるでしょう。
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まとめ
「物語」「語り」を意味するナラティブは、医療分野やビジネスシーンで活用されています。相手の声に耳を傾け、本質的な問題の解決方法を提案する手法は、悩みを抱える人に最適です。問題解決をサポートすることによって、相談者と相談の受け手に信頼関係も生まれるでしょう。
ナラティブアプローチは、悩みを抱える人だけでなく、キャリアに悩む人にもおすすめです。思うように能力を発揮できない、今の部署は合っていない気がするなどと悩む方の声に耳を傾けましょう。その声から最適な配属先を判断し、異動を提案することで、社員の成長促進や企業全体の活性化につながります。
社員一人一人に最適な配属先を用意するなら、ナラティブアプローチと「HRMOSタレントマネジメント」の併用がおすすめです。社員一人一人のスキルを数値で可視化するこのシステムは、データに基づき適切な人材配置と納得感のある評価を実現します。ナラティブアプローチによって得た情報をデータと照らし合わせれば、社員に最適な場所を提案できるでしょう。
まずは実際にシステムを活用している事例を見てみましょう。事例を参考にし、ナラティブと併用できそうだと考えた方は、システムの資料請求をすることがおすすめです。