目次
近年、人的資本経営の文脈で「ELTV(従業員生涯価値)」という言葉を耳にする機会が増えていますが、その具体的な意味や活用方法については十分に理解されていないケースも少なくありません。
本記事ではELTVの定義や概要をはじめ、人事データやタレントマネジメントシステムとの連動について解説します。
本記事を参考にELTVの定義や概念を学び、自社のELTV最大化を進めましょう。
プロフィール
友部 博教
株式会社ビズリーチ WorkTech研究所 所長
企業が抱えていた課題の解決事例を公開
- 入社手続きの効率化
- 1on1 の質の向上
- 1on1の進め方
- 従業員情報の一元管理
- 組織課題の可視化
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⇒実際の事例・機能を見てみるELTV(従業員生涯価値)とは?
人的資本を定量的に評価する手段の一つとして注目を集めているELTVの定義を解説します。
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ELTVの定義と概念

(画像引用:「ELTV(従業員生涯価値)」の最大化を考えることで人事に何ができるか?)
ELTVとは、「Employee Lifetime Value」の略称で、日本語では「従業員生涯価値」を指します。
ELTVは、従業員が入社してから退社するまでの期間に生み出す成果の総計を表す概念です。
ELTVは「在籍期間」と「アウトプット」から求めることができます。
具体的には、横軸を採用から退職までの「在籍期間」、縦軸を「アウトプット」として、その面積を算出します。
ELTVは、採用直後は低く、入社後から徐々に上昇し、退職とともにゼロになる曲線を描きます。
このELTVから、採用コストや人件費などの「投資コスト」を差し引いた値がプラスであれば、当該従業員は企業に対して経済的な価値をもたらしていると判断できます。
反対に、マイナスであれば損失とみなされます。
ELTVを最大化するには
ELTVを最大化するには大きく2つの方法が考えられます。
- 「在籍期間」を長くする
- 「アウトプット」を増やす

(画像引用:「ELTV(従業員生涯価値)」の最大化を考えることで人事に何ができるか?)
「在籍期間」を長くするためには、エンゲージメントに関する施策が有効で、「アウトプット」を増やすにはパフォーマンスに関する施策が効果的です。
人事の取り組む施策がエンゲージメント、パフォーマンスのどちらに有効かを意識することでELTVの向上につながります。
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ELTVを定量化するには
ELTVを定量的に評価するためには、「在籍期間」と「アウトプット」などの人事データを継続的に蓄積する必要があります。
「アウトプット」は従業員が担っている仕事や企業が求める成果によって異なるため、あらかじめ「アウトプット」の意味を定義しておくことが重要です。
また将来のELTVを定量的に予測することも可能です。「期待在籍期間」と「最大期待役割」に加え、どのようなスピードでアウトプットが増えていくかを示した「成長力」の3つの要素を掛け合わせて算出します。
- 「期待在籍期間」:どれくらいの期間在籍するか
- 「最大期待役割」:将来どれくらいのアウトプットを出せそうか
- 「成長力」:そのようなスピードでアウトプットを増やすか
なぜ今、人事にデータ活用とELTVが求められるのか
経営層から突然、データ活用やELTVの導入を求められ、戸惑う人事担当者も少なくありません。導入が求められている3つの主な理由を解説します。
人事施策の優先順位付けが困難な現状
社会を取り巻く環境の変化や、従業員一人一人の考え方・働き方の多様化により、人事が取り組むべき課題や施策は増加、複雑化しています。
そのような状況で課題・施策の優先順位付けが難しくなっています。
組織では、従業員のパフォーマンスをどのように向上させるか、エンゲージメントを高めるにはどうすればよいかといった議論が盛んに行われています。
人事施策の優先順位や戦略の方向性を見極める上で、ELTVの考え方は有効な指針となります。
企業を取り巻く環境変化の激化
AIをはじめとした技術革新、ビジネスモデルの変化など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
「企業と従業員の関係は対等である」という認識が一般化する中で、キャリア形成の主体も企業から従業員本人へとシフトしています。
この流れを無視してしまい、企業が一方的にキャリアを押し付けるかたちになると、退職やモチベーション低下などにつながる恐れがあります。
そこで、組織と従業員を客観的に把握し、適材適所を実現するためにデータの活用が求められています。
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人的資本経営の注目
日本では2023年3月期以降、有価証券報告書を提出する大手企業約4000社に対して、人的資本の情報開示が義務化されました。
これにより、従業員を「コスト」ではなく「資本」と捉える人的資本経営が広がっています。
人的資本の開示を進めるには、自社の人材データを可視化・分析できる体制整備が不可欠です。そのため、採用・育成・定着といったプロセス全体を定量的に把握する指標が求められています。
この流れの中で注目されているのがELTVです。ELTVを人的資本の運用指標の一つと位置づければ、人事の役割は単なる「管理」ではなく「資本を増やすこと」へとシフトします。
さらに、ダイバーシティやエンゲージメントといった既存の開示項目とELTVを関連付けて説明できれば、目標設定に対して戦略的な裏付けを提供できるようになるでしょう。
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ELTV最大化の鍵:人事データとタレントマネジメントシステム活用術
ELTVの可視化や向上に課題を抱える企業は少なくありません。その解決策として注目されているのが、人事データとタレントマネジメントシステムの活用です。
ここでは、ELTV最大化の鍵となる人事データとタレントマネジメントの活用方法を解説します。
人事データの正確な収集と活用が不可欠
ELTVを最大化するために人事データの正確な収集と活用は欠かせません。
今まで人事の勘や経験で行われてきた人員配置では、従業員の意向とずれが生じやすく、結果としてELTVの向上につながりにくくなります。
企業が求める合理性と、従業員それぞれの意向を尊重する個別最適のバランスをとるためにも、人事データの正確な把握が求められます。
ここでいう人事データとは、氏名や経歴などの基本情報に加え、従業員のスキル・評価・キャリア志向など、多角的な情報を含むものを指します。
こうした人事情報の収集や活用は、タレントマネジメントシステムを用いると効果的です。
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隠れた人材の発掘
人事データとタレントマネジメントシステムを活用することで、組織に埋もれた「隠れた人材」を発掘することが可能になります。
隠れた人材は、評価の偏りや配置の固定化、情報の分散により、本来の能力を十分に発揮できていないケースが少なくありません。
本来の力を発揮できないままでは、従業員のELTVは十分に高まりません。
データを一元化し、組織全体で共有することで適切な役割にアサインできれば、個々のパフォーマンスは最大化されるでしょう。
つまり、隠れた人材の発掘と活躍の場づくりは、結果的にELTV向上に直結する取り組みといえます。
キャリア形成を支援
従業員が長期にわたって能力を発揮できるよう、キャリア形成を支援することは、ELTVを最大化する上で不可欠です。
その基盤となるのが、人事データとタレントマネジメントシステムです。
従業員のキャリアは、企業主導の人員配置から、自ら主体的に描くものへと変化しています。
しかし、従来は「自己申告書」や「上司との面談」といった定性的な情報に偏りがちで、従業員の希望やスキルを正確に把握しにくいのが実情でした。
人事データを活用すれば、知識・スキル・志向を定量的に可視化できます。これらのデータを活用すれば、従業員に合った研修や成長機会を提供し、企業は適材適所の配置を行いやすくなるでしょう。
その結果、従業員の活躍期間が延び、ELTVの向上につながると考えられます。
社内公募をデータドリブンに推進するためには、「社内版ビズリーチ」の導入が有効です。
社内版ビズリーチは、社内のポジションと従業員のスキルを見える化し、ビズリーチのノウハウを用いて双方のマッチングを後押しします。
社内公募制の課題を解決し、従業員の自律的なキャリア形成を後押ししましょう。
ELTV最大化で変わる人事の役割と未来
ELTVの考え方を導入することで、人事の役割や将来像がどう変化するのか、不安を抱く方もいるかもしれません。
ここではELTVを最大化することでどのように人事の役割や未来が変わるかを解説します。
人事の意識変革と戦略的貢献
従来の人事は、人材を管理するだけの「コストセンター」と見なされることが一般的でした。
しかし人的資本経営の広がりにより、従業員を「資本」として捉え、企業価値を高める存在へと変わることが求められています。
ELTVを最大化するためには、従業員の採用・育成・配置・定着を一連の流れとして捉え、長期的に価値を生み出せる仕組みづくりが必要です。
その実現には、データに基づいて戦略的に施策を設計・実行する「攻めの人事」への意識変革が不可欠といえます。
人事が経営戦略と直結し、自社の人的資本を高めることに貢献できれば、従業員の価値を最大化し、結果としてELTVを伸ばすことにつながるでしょう。
ステークホルダーとのコミュニケーション強化
人的資本の情報開示が注目される中で、ELTVは経営を語るための共通言語となり、投資家・従業員・採用候補者などあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションを支えるツールになります。
投資家にとっては企業価値を評価するための材料となり、採用候補者にとっては、管理職に占める女性割合などの定量的指標が企業選びの判断材料になります。
従業員にとっても、自社の人的資本データを確認しリテラシーを高めることで、自律的なキャリア形成や働き方の改善につなげられるでしょう。
ポジティブな数値だけでなくネガティブな指標も含めて、経営がどのように捉え、何を行うのかを明示することが重要です。
人事も、各種施策や制度の効果をELTVと結び付けて示すことで、経営層との対話を円滑にし、戦略的な価値を訴求することが可能になります。
こうした情報開示と対話の積み重ねが、ELTV最大化の基盤となるでしょう。
データと人の感覚の融合
今まで人事や役職者の勘に頼っていた人員配置は、データを活用することで戦略的かつ従業員のキャリアプランに即した形へと進化することが期待されます。
データの活用により、評価者の主観やバイアスに左右されにくくなり、公平な意思決定が可能になります。
その結果、従業員の満足度向上も期待できるでしょう。
一方で、評価者や人事だからこそ持つ視点、従業員一人一人の感情などはデータのみでは推し量れません。
データだけに依存するのではなく、人の感覚と適切に融合させながら、バランスの取れた意思決定を行うことが重要です。
持続的な成長に向けた人事の進化
ELTVの最大化に取り組むことで、人事データやタレントマネジメントシステムをはじめとしたテクノロジーの活用は、今後ますます必要になります。
それらを活用することで、採用の精度向上や早期離職の防止、人材・組織開発などさまざまな人事課題の解決が期待できます。
しかしデータやテクノロジーだけではすべての人事課題を解決できません。各ステークホルダーとのコミュニケーション、データやAIなどのテクノロジーを用いつつ、自らの感覚を信じて意思決定を行うなど、人事として求められるコンピテンシーやスキルは高度になっています。
人事一人一人が進化を遂げることで、組織の持続的な成長が実現し、結果としてELTVの最大化にも寄与するはずです。
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まとめ
人的資本経営が注目される中で、ELTVを理解し、その最大化に取り組むことは人事にとって重要な課題です。
社会や組織を取り巻く環境変化と、今後人事に求められる視点を的確に捉えた上で、データやタレントマネジメントシステムといったテクノロジーを戦略的に活用していく必要があります。
人事の役割そのものも、大きく変化していく可能性があります。ELTV最大化に向けて、あらためて人事の役割を見直し、自社の持続的な成長を実現していきましょう。
HRMOSタレントマネジメントでELTVを最大化しよう
HRMOSタレントマネジメントは、人材データベースを一元管理できるプラットフォームです。
スキルの管理や人事評価、人材データ分析を一つのシステムで行え、ELTV最大化に必要な人事データの収集や定量把握を容易にします。
HRMOSタレントマネジメントを用いて、ELTV最大化に向けた人事データの収集・管理から始めてみてはいかがでしょうか。


